俺は彼女を壊したようだ。   作:枝切り包丁

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25.子供

 

ぼんやりと、少女を眺めていた。

 

その少女は目の前の花壇に植えられたら花々を不思議そうに見つめている。

時には匂いを嗅ぐため鼻を近づけたり、または感触を確かめるよう恐る恐るといった様子で触れてみたり。

どこか微笑ましく、どこか不思議なその様子をただ見つめながら、俺は思考を続けていた。

 

目の前の少女、ヴィヴィオと思われる彼女を保護してから既に多くの時間が過ぎている。

あの後、ガジェットとその他敵勢力が逃走し少女は鎖に繋がっていたレリックとの関連性、少女自身の身元確認などの為、一度聖王教会に預ける事になった。

それを追うようにして六課隊長陣が聖王教会へと呼び出されたのだが。

俺はそれに便乗するように聖王教会へと足を運んだ。

勿論目的は保護した少女だ。

出会った時点で気に掛かる事が幾つかあった。

俺を呼んだ声。少女がいた場所へ導いた、と言うべきなのだろう、その声の正体。

何故それは俺に届いたのか、そしてあの声を聞いた時、俺はその声を俺自身の声と認識していた。

だがしかし、今になって考えてみるとあの声は目の前の少女のものだったとも思えるし別の誰かの声だったとも思える。

記憶の劣化でもなく、確かにそう感じる。

これは何なのか。

わからない。

わからない。

 

次。

 

少女との接触後の俺の精神的変化、と言えばいいのか。

俺は少女を目にするあの瞬間まで、正直に話すとおかしくなっていた。

狂っていた、とまではいかないがどこか破綻した物を俺は内包していたような、そんな感じがする。

自分が自分なのか、誰が誰なのか、思考の中に思考が溶けていくような、そんな繰り返しをいつからから続けていた。

それが今はまるで白紙に戻したようにどこか清々しさすら感じている。

この変化は何によるものなのか。

少女、ヴィヴィオしか、ないのだろう。

俺と彼女の中に何らかの繋がりがある、のだろうか?

 

そう言えばもう一つ、

 

先日から感じていた腕の痛みが無くなっている。

 

一瞬、頭の中に浮かんだは先生、スカリエッティの顔だった。

 

 

 

 

 

「だぁれ?」

 

 

気が付くと、先程まで花に夢中だった少女が目の前まで近づいてきていた。

考え込んでいたこちらを不思議そうに、子供らしく大きく丸い目が見つめている。

そんな少女に思わず頬がゆるんだ。

 

「紅助、七峰紅助」

 

「こー?」

 

「俺の名前。まあ、好きに呼ぶといい」

 

「こー!」

 

何が嬉しかったのか、そう俺の名前らしき物を口にするとこちらに向かって走り出した。

とてとてとどこか覚束ない足取りで近づき両手を大きく広げ、まるで何かを捕まえるように俺を抱きしめる。

いや、抱きしめると言うよりもこちらの事を確かめている、とでも言うべきか。

大きく広げた両手はペタペタとこちらの身体を叩き、すぴすぴと鳴らす鼻はこちらの匂いを嗅いでいるのだろう。

どちらしろ、邪魔だな。

幼女に身体を弄られて喜ぶような趣味は残念ながら持ち合わせていないし匂いを嗅がれるのは普通に不快だ。

仕方ない、と当たりを見渡し丁度良さそうな物を見つけるとまだペタペタしているこいつを抱き上げてその場に向かった。

 

たどりついたのは白い花が咲き誇る白詰草、ぽい何かの花畑。

そこにゆっくりと下ろしてやると俺はその花に手を伸ばした。

少しの時間の後、俺の手の中で出来上がったそれを少女の頭に被せてやる。

 

花の冠。

 

小さい頃、なのはとフェイト、二人に覚えさせられた遊びだったか。

当時は二人のために作らされていたが、今もこんな小さな子の為に作っているなんて。

結局、やっていることが変わんないのな。

自嘲気味に苦笑を浮かべる。

そんな俺に対し少女は不思議そうに自身の頭に掛かった冠に手をのばしている。

 

と、そう言えば。

 

「名前……」

 

「う?」

 

名前を聞いてなかった。

こちらとしてはこの子をヴィヴィオだと認識していて確かにそうだと思っているのだが。

 

ふむ。

 

「お前の名前」

 

「なまえ?」

 

「ヴィヴィオっていうだろ?」

 

悪戯心に頬を緩めた俺に少女は目と口を大きく開けて驚いた。

 

「なんで?なんでヴィヴィオの名前知ってるの?」

 

なんでなんでと繰り返ししきりに首を傾げている少女、改めてヴィヴィオを見てその可笑しな様子に思わず笑みが零れた。

 

「なんで?ねぇ、なんで?」

 

「さあ、どうしてだろうな」

 

はぐらかす俺にヴィヴィオを一度頬を膨らませて怒りを表すが少しして、はっと何かに気が付いたようにそれを萎ませた。

 

「ん?どうした」

 

「あ……うぅ」

 

何に気が付いたのか?

それを口に出さないヴィヴィオはこちらを見たり地面に目を向けたり、顔の上下を繰り返す。

彼女の心を言葉にすれば恐らくこうなるのだろう。

間違いかもしれない、でもあっているかもしれない。

どこか恥ずかしげに顔を右往左往させるヴィヴィオに可愛さを感じていると、どうやら決心が付いたのか恐る恐る、口を開いた。

 

「こ、こー」

 

「うん?」

 

こちらの名前を呼んでいるのかどうなのか、わかりにくいのはご愛嬌。

小さく揺れながら、それでもこちらを見る瞳を見つめ返す。

 

 

「こーね。もしかしたら……もしかしたら」

 

 

勿体ぶるように、念を押すヴィヴィオをぎゅっと目を瞑りそれを口にした。

 

 

「こー、は……ヴィヴィオの、パパ?」

 

 

結局、小さく呟かれるようにヴィヴィオの口から吐き出されたそれは確かめたいと言うより、どこかそうだったらいいな、なんていう気持ちが込められているようで。

 

不覚にも、顔が熱くなった。

 

卑怯だ。そう思う。

親が子供を可愛く思う気持ちを多少なり理解しつつ俺はヴィヴィオの頭を撫でる。

 

確か、朧気な記憶だがヴィヴィオは両親、母親だったかを探しているのだったか。

その理由は学習のため、だっただろうか?

さて、どう答えるか。

 

少しだけ考える。

 

 

「……どうなんだろうね」

 

 

結局、はぐらかす事にした。

そして、

 

「でも」

 

ヴィヴィオの後方を指差す。

 

「ヴィヴィオのママなら」

 

その先、

 

「あんなのだろうな」

 

こちらを見つけたなのはが手を振っていた。

 

 

……………………

 

…………

 

結果的に言えば、全て彼女に投げつけた事になる、のかな?

 

 

少し、悪い事をしてしまったようだ。

 

 

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