俺は彼女を壊したようだ。   作:枝切り包丁

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28.Mine

私にとってヴィヴィオという存在は正直にいうと、コウ君に近づくための道具か何かとしか認識していなかった。

 

その事については私自身、人として良い事ではないとわかっている。

しかし愛想のない子供に好意を向けられるほど自分は人間出来ていないし何よりあの子の姿が気に食わなかった。

ヴィヴィオの過去に何があったかは私は知らない。

彼女の身体が人造魔導師であることは聞いていた。そして彼女に繋がれていたレリック。

ヴィヴィオが今後、私達六課の進む道と交わる可能性が少なからずあることは理解している。

ヴィヴィオが何らかの為に造られそれがレリックと関係している。

ヴィヴィオ自体に危険はなくとも彼女について回る危険が確かに存在する。

そんな事はわかっている。

わかっているからこそ、どうでもいい。

 

私があの子の事を気に食わないと感じている理由。

 

それはあの子が過去の私と同じだからだ。

 

人造魔導師として、本来両親というものが存在しないあの子が頼れる者として選んだのがコウ君だった。

そんなの、まるで私じゃないか。

ヴィヴィオのその気持ちが胸の中の空虚感からくるものなのかは確かではない。

 

でも確かにあの子は私がそうだったように周りには誰もいない。

小さい自分じゃなにも出来なくて、のばされた手にしがみつくことしかあの子には無かったのだろう。

どれもこれも私と同じだ。

 

私はコウ君の後ろについて回るヴィヴィオと幼かった自身を重ねてしまう。

 

だから私はヴィヴィオを好きになれない。

 

そんな私は駄目な人間だ。わかっている。

最初はヴィヴィオを利用してコウ君と離れていた距離を元に戻そうとした。

だけどあの子を見て、過去の私を見て、コウ君が心配になった。

あの子は私だ。

私はまたコウ君を壊してしまうかもしれない。

それだけは駄目だ。

またあれを繰り返すのだけは嫌だ。

せっかく再会したのにもう別れたくない。

自分勝手な我が儘だけど私は二度とコウ君を忘れたくない、忘れようとしたくない。

 

だから私はヴィヴィオが怖くて、嫌いだ。

 

 

なのに、

 

 

 

 

 

 

珍しく、私とヴィヴィオの周りには誰もいない。

 

つまりコウ君も。

 

だからかお互いがあまり良い顔をしておらず静かな時間だけが流れていた。

なんでこんな事になったのか、それは私が少しの間、ヴィヴィオから離れることになったからだ。

公開意見陳述会、一、二年の間隔で行われる地上本部の運用を議論するその会議。

数日後に行われるそれに私や六課のメンバーは警備の為に前日からここを離れることになっている。

もとより外部協力者であるコウ君は参加せず私達が離れる六課本部の警備となるわけだが、私がヴィヴィオから数日程離れる事を知った彼は「そろそろちゃんと仲良くならないと忘れられるぞ」なんて言って私をヴィヴィオと二人で部屋に押し込めた。

たかが数日、と私はぼやいたがちっちゃい子にとっての数日がどうとかで説教までされてだ。

そのせいか一応仲良くなるため、ヴィヴィオが気に入りそうな人形まで買ってきて準備なんかをしていたのだが。

何をするでなく、何を話すでもなくただ時間が流れていく。

 

もう、憂鬱で仕方ない。

 

私は別にこの子と仲良くなる必要は無いと思っていた、どうせ引き取る人物が現れるまでの関係だとも。

しかしここでヴィヴィオと二人になる直前、コウ君が言った。

 

「ヴィヴィオは俺が引き取る、つもり」

 

少し尻下がりなその言葉、だけど確かにコウ君の言葉だった。

私は彼がヴィヴィオに向けている気持ちを知っているわけではない。

聖王協会へ向かった日だってそうだ。

彼はヴィヴィオ、あの子が気になるからと言って私たちに同行してきた。

何故、彼はヴィヴィオを気にしているのか。

ただ保護をしただけの子供になぜそこまで?

疑問は尽きない。だから私も少しくらい仲をよくしておこうなんて思ったわけだけど。

 

…………どうしたものか。

 

相手のヴィヴィオはと言うと、気に食わない顔をしているくせに何故か私の懐に収まり絵本を広げている。

ヴィヴィオも私の事を好いていないようだがなんでこう近づいてくるのだろう?

 

「ねぇヴィヴィオ」

 

「う?」

 

ふと声をかけるとヴィヴィオがこちらを見上げる。

相変わらずあまりいい表情ではないが。

 

「ヴィヴィオは私の事、好き?」

 

「きらい」

 

…………正直な子供だ。

子供だから正直なのか?

しかし嬉しくはない正直さだ。

 

「じゃ、じゃあなんで私にくっ付いてくるの?」

 

「……こーのにおいがするから」

 

「あっ、そ、そう、なんだ……」

 

不服と言った表情で告げられたらそれ。

少し、恥ずかしい。

思わずすんすんと自分の匂いを確認するがコウ君の匂いがついているのかなんてわからない。

 

「ヴィヴィオは、さ。なんでコウ君がパパなの?」

 

恐る恐る口にした言葉にヴィヴィオはポカンと口を開けて当たり前のように言う。

 

「こーがパパだから」

 

「え、っと?」

 

「こーはパパだから、ヴィヴィオはえらんだ」

 

「…………?」

 

首を傾げる私に対してヴィヴィオはムッと顔を強ばらせる。

 

「こーはヴィヴィオのにおいがするし、ヴィヴィオはこーのにおいがするの!」

 

う、ん?

子供なりの感覚なのだろうか?

匂いと言うのはよくわからないがそれがヴィヴィオの好き嫌いに関係あるとすれば。

 

「私もコウ君の匂いがするのに」

 

ぼそりとこぼした言葉にヴィヴィオはこちらをキッと睨む。

 

「ヴィヴィオのこと、きらいだから」

 

「嫌い?」

 

「だから、ヴィヴィオもきらい」

 

……なるほど。

簡単なことだった。確かに私はヴィヴィオの事を好いていない。

確かに私だって私の事を嫌いな人を好きにはなれない。

コウ君に言われて、ヴィヴィオに好かれようと考えていたけれど……

 

私がヴィヴィオを好きになる、か。

 

「私は、ね。今からずっと昔にコウ君と出会ったの」

 

「こー、と?」

 

「そう。ちょうど私がヴィヴィオくらいの時だったかな」

 

その時は私だってヴィヴィオのようにコウ君の事を特別な人だと思っていたし特別だから頼っても大丈夫だって思っていた。

 

「でもね、コウ君も普通の人だった」

 

特別なんかじゃなく、ただ周りより少し大人びていただけの男の子。

私はそれを勘違いして、たくさん頼って、たくさん助けられて、

 

「コウ君を潰した、私が」

 

小さい子に、何を言っているのだろう。

でもヴィヴィオは真剣にコウ君や私を見ている。

だからだろう、私も真剣に、ヴィヴィオと付き合おうと思ったのは。

 

「ヴィヴィオはその私に似てる、だから」

 

コウ君を壊さないで。

 

願うように言ったその言葉をヴィヴィオがしっかりと聞いていたかはわからない。

ヴィヴィオは手に持った絵本を開く。

よく見ればその古びた絵本には見覚えがある。

小さい頃コウ君の家で見つけた唯一の子供用の絵本。

開くと絵が飛び出すように出来ている立体絵本だ。

 

題名は『白雪姫』

 

「ヴィヴィオはこれ」

 

そう言って指を指したのは毒林檎を食べ眠ってしまった白雪姫。

 

「こーはこれ」

 

次に指されたのは白雪姫を目覚めさせた王子様。

 

「だからヴィヴィオはこーが好き」

 

助けてくれた、ということだろうか。

確かに、信じられる人が誰もいない暗い世界は眠っているようなものか。

 

「でも」

 

言葉を続けるヴィヴィオはニッとこちらに得意げな笑顔を見せる。

 

「こーもヴィヴィオが好きだからこーがねむっちゃったら、ヴィヴィオがおーじさまになれるよ」

 

どうだと胸をはるヴィヴィオ。

好きと想われるから王子様にだってなれちやうのか。

 

羨ましい。

 

私にもそれくらいの自信があれば、なんて。

でも、

 

「それなら、コウ君は大丈夫かな」

 

ヴィヴィオは私とは違うようだ。

相手を好いていて相手に好かれていると胸をはれる自信と強さをもっている。

私には無かったものだ。

 

「ヴィヴィオ。私はね、コウ君が全て。だからヴィヴィオがコウ君の重荷にならないか心配だった」

 

それにヴィヴィオは私とよく似ていたから、だからきっと同じになると思っていた。

 

「でも、やっぱり私は馬鹿だなぁ」

 

いつだって間違えるのは私だ。

コウ君の腕も、コウ君と別れた時だって。

その度に誰かに助けられ、誰かに救われて。

 

「ヴィヴィオは強いね。私よりずっと」

 

今はこの小さい子を見習おう。

小さいのに、力強い勇気を持つこの子を。

 

「私も自分を信じてみる。私が信じるコウ君のことも」

 

きっと彼なら大丈夫。

彼だけじゃ、一人じゃ無理なら今度は私が助けよう。

大丈夫、私だって小さい頃の私じゃない。

 

「ありがとう、ヴィヴィオ。大切な事を教えてくれて」

 

ゆっくりとヴィヴィオの頭を撫でるとヴィヴィオは少しむず痒そうに表情を緩めた。

 

「ヴィヴィオと話せてよかった」

 

笑顔をこぼした私をヴィヴィオが不思議そうな顔で覗きこんでくる。

 

「今の私ならヴィヴィオを好きになれそう。そうだ」

 

懐にしまっていた紙袋を取り出す。

 

「プレゼントだよ、どうぞ」

 

「ヴィヴィオ、に?」

 

「うん」

 

紙袋を受け取ったヴィヴィオはその中を覗き込みそして目を輝かせた。

 

「ウサギ!」

 

取り出したのはウサギの人形だ。

元々この子にわたす為に持ってきたものだちょうどいいだろう。

ヴィヴィオは人形を抱きしめて笑う。

子供らしいその姿につられこちらまで笑顔がこぼれる。

やっぱり、もっと単純に考えればよかった。

ヴィヴィオには、私が見るヴィヴィオにコウ君は関係ない。

もっと単純に、今私はこの子を可愛いと思っていて好いている。

結局人から人への想いなんてそんな簡単なものだ。

見方を変えればこんなに簡単に人を受け入れられる。

 

 

「ねぇ、ヴィヴィオ」

 

「う?」

 

私が渡した人形とコウ君が渡した絵本を抱きしめるヴィヴィオの姿にどこか愛しさすら覚える。

やっぱり、この子なら私と彼を繋いでくれる気がする。

でも、それ以前に私は、

 

 

「ヴィヴィオの事、好きになっちゃった。一番はコウ君だけどね」

 

 

笑う私にヴィヴィオも表情を崩した。

 

 

「ヴィヴィオもすきになれるかも、ママのこと。パパの次だけど」

 

 

だぶん、この時確かに私はヴィヴィオと繋がれていた。

そしてその先にいるコウ君とも。

 

だからきっとこの先は大丈夫。

 

私はコウ君を助けられる。

 

そう思う事にした。

 

だってそのほうが、

 

未来は明るいようだから。

 

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