俺は彼女を壊したようだ。   作:枝切り包丁

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「なんだか、寝不足みたいだね?」

 

フェイトちゃんと話していたとき、そんな言葉を投げられた。

 

「まあ、うん」

 

自覚はある。最近、夢見が悪いというかなんというか。

眠るたびに夢を見てあのコウ君もどきと会話することになる。

そのたびに何か眠った感じにならず最近寝不足で。

 

「なにかあったの?」

 

そう心配そうにこちらを見るフェイトちゃんに軽く笑みを返す。

 

「夢をみるの」

 

別に話しても良いか、そう胸の中で呟く。

恥ずかしいことでもないだろう。ただ変な夢ってだけ。

 

「こう、夢にコウ君じゃないコウ君が出てきて。お話をするんだよ」

 

何を言ってるんだか。

口にしておいて自分でもそう思った。

 

が、

 

「ああ、そうなんだ」

 

そんな事か、と言う風にフェイトちゃんは頷いて見せた。

 

「そういうのってあるよね。なんていうか相手の事を考えすぎて自分の中で産まれちゃうの」

 

「え、えぇー」

 

あるあると頷く彼女に私は驚く、と言うかなんと言うか。

自分から言っておいてなんだが……

 

なに言ってるの、フェイトちゃん?

 

産まれちゃうとか、無いよ。絶対無い。

もしあったとしても私ならもっとまともなコウ君を産むよ。

 

…………コウ君を産む、か。

 

なんだか、えっ…………い、いや、こんなことを考えている場合じゃない。

と、ともかく私はあんな出来損ないが私の妄想だか何だかで産んでしまったなんて認めたくない。

 

「なのははどんなコースケを見たの?」

 

そうにこりと笑顔を向けるのは良いけど、なんだか私があのコウ君もどきを産んだ前提で話が進んでいるのが尺だ。

 

「なんていうか、生意気、すごく生意気、かなぁ」

 

「ふふっ」

 

「な、何かおかしいこといったかなぁ?」

 

「ううん、生意気なコースケって言うのが可笑しくて」

 

確かに、話を聞くだけならば可笑しいものだ。

だけど実際に見るとただイラッとするだけで。

 

上手くは言えないけれど、気持ちが悪い。

 

「変な顔してる」

 

「うぅ」

 

むにむにと頬をつつかれむず痒さに目を瞑る。

もしかして私、遊ばれてるのか?やけに余裕そうなフェイトちゃんの顔。

 

「フェイトちゃんはさ、当たり前そうに言うけど。フェイトちゃんもあるの、こういうの?」

 

「うん?」

 

「こう、誰かの夢を見たりするの」

 

その問にフェイトちゃんの目が一瞬だけ見開かれた。

それを見て少しだけ驚いた。ああ、あるんだ、と。

 

「そうだね。わたしにもあったよ、なのはと同じような事」

 

ほら、やっぱり。

 

「まあ、私の場合は殆ど思ってた相手の変わりは無かったけど」

 

「むっ」

 

また私の言ったコウ君を思い浮かべたのか、くすくすとちいさな笑い声が響く。

 

「わ、私のは違うの! そういうのじゃなくてっ」

 

思わず言い返した言葉、それに対し違うよ、と首が横に振られる。

 

「なのははコースケに満足してるんだなって」

 

「満足?」

 

「うん、なのははもう持ってるんじゃないかなって。欲しいコースケが」

 

「欲しいコウ君が? でも」

 

「なのはには、もっと大事な所にコースケがあるんじゃない? だから必要ないとか」

 

夢の中まで、だったりか。

確かにコウ君はさ、手を伸ばせば届く距離に、何時だって傍にいてくれる。

だとしてもあれは無い。もっとまともな夢を見たって良いんじゃないだろうか。

 

それに、私は、

 

「別に私はコウ君に満足しているわけじゃないんだよ」

 

「え?」

 

「私が夢に見るコウ君は生意気で子供っぽくて、全然私の知っているコウ君じゃないよ」

 

でも、ね。

 

「嫌いじゃないんだ」

 

あのコウ君もどきを見るとイラッとするし勿論、好きじゃない。

 

だけど、嫌いじゃない。嫌いにはなれない。

 

だから気持ち悪い。

 

「……今から私が言うことはコウ君に教えないでね」

 

恥ずかしいし、なんだか申し訳ないから。

静かに頷いたフェイトちゃんを見て小さく息を吐く。

別にそこまで意気込まなければならないことじゃない。

ただ私は、

 

 

「私は、コウ君に困って欲しいんだ」

 

 

「困っ、て?」

 

不思議そうな表情を、私に向けるフェイトちゃん。

そりゃあ、可笑しいよね。好きな人に困って欲しいなんて。

 

「夢の中のコウ君が言ってた。子供っぽいのは私がコウ君に頼られたいからって」

 

そうだよ。

 

だから私はコウ君を困らせたい。

 

「コウ君が頼るのは私であってほしいんだ」

 

私がそうであるように。コウ君もそうであって欲しい。

コウ君が伸ばした手を握るのもコウ君が流す涙を掬うのもその涙の理由を変えてあげるのも私でありたい。

 

彼がそうしてくれたように。

 

 

「私はね、コウ君になりたいの」

 

 

…………恥ずか、しい。

何を言ってるんだ、本当に何を。

それにこんな事を言ってやってる事がコウ君に甘えているって言うのがすくえない。

だって私にはどうすればコウ君が困ってくれるかなんてわからない。

だから甘えてる、いっぱい甘えて私はコウ君の足枷になっている。

私がやりたいのはこういうことじゃないってわかってるけれど私が知っているのはこんなことだけだし。

なによりそれでも幸せを感じてしまっている。そんな事が一番恥ずかしい。

 

真っ赤になりそうな顔を隠そうとすると、声がこちらに投げられた。

 

「ごめん」

 

「え?」

 

突然頭を下げたフェイトちゃんに驚き顔に溜まった熱が四散した。

 

「ごめんね、なんだか。偉そうな事をいっちゃったなって」

 

「そ、そんな」

 

「なのはの言葉を聞いて、やっぱりなのはは私と違うんだって思った」

 

顔を上げた彼女の顔は笑顔でどこかすっきりとしている様。

 

「なのははなのはの形があるんだね。それにそれはコースケの形をしたコースケを求めていたわけじゃないんだ」

 

困らせたいかぁ、そう小さく呟く彼女は何故か嬉しそうで。

やっぱり私は恥ずかしくなる。

 

「わ、私はただ、まだコウ君の隣までたどり着いてないって思うだけで」

 

「なのはが欲しいのはコースケじゃなくて自分なんだね」

 

「そんなんじゃっ、ない、よ」

 

本当に、そんなんじゃないんだ。

ただ私は好きな人に恩返しがしたいだけ。

 

 

ただそれだけなんだけど、なぁ。

 

 

 

 

 

 

 

「って言う話をしました」

 

「それって僕に話す意味あるの?」

 

いつもの夢の中、空に浮かぶ小島で私は子供っぽい大人なコウ君と話をしている。

この夢を見るのはこれで何度目だったか。

いつもくだらない事や意味の無い言い合いを繰り返して過ごすだけ。

それに慣れつつある自分になにか思うものもあるけれど、よく考えてみたら気軽に話をするのにこれほど良い相手はいないだろう。

まあ、だから私はフェイトちゃんとの会話なんかを話題に持ち出したのだけれど。

 

「もう何度目になるかわからないけど、一応言っておくよ。僕は君の事なら何でも知っている。だって僕も君の一部だからだ。だからその話は僕だって聞いていたんだ。別に話す意味なんて無いよね?」

 

「そういうのじゃなくて。ただ私が口にして噛み砕いておきたかったっていうか……」

 

「もう、だったら壁にでも話してようよ。それならきっと向こうの僕が心配してくれるだろ?」

 

「そ、そういうのでもないの!!」

 

まったくなんなんだ、これの生意気さだけはこれっぽっちも納得できない。

これが私から産まれただとか私の一部だとかっていうのはまだ我慢できるがそれがコウ君っぽい姿をしているのは駄目だ。

なんだか申し訳無いだとか悲しいだとか、そんな夢が壊れるような気分で胸がいっぱいになる。

 

「だいたい私の一部っていうのならもっと私のためになる事を発言してくれたっていいじゃない」

 

「君って足のつま先から髪の毛の毛先まで自分を愛してるって思ってるの? もし思ってるならとんだナルシストだよね」

 

「それっ、せめてそういうのをやめてよ!」

 

はあ、とため息を吐くそれに思わず詰め寄る。

が、向こうの容姿が大人なためにまるでじゃれ付く様に見え、それがまた腹立たしい。

 

「つまり僕はね、君の事を好きではないんだよ」

 

「わ、私のくせに?」

 

「そう、君なのに」

 

やっぱり生意気、そう口にしようとした時。

目の前で指が一本上げられ、視界を裂かれた。

 

「だ、け、ど」

 

にやり、三日月のように頬を引き裂く口。

コウ君が絶対にしないような笑い方。

 

 

「僕は僕が大々々好きだ!」

 

 

「はぁ?」

 

突然の告白に間の抜けた声が漏れる。

いや、だって、今さっき私の事をナルシストとか言ってくれたくせに。

 

「テスタロッサとの話はさ、簡単に言ってしまえばこういうことなんだろうね」

 

「え、何で今、フェイトちゃんの話?」

 

ぽかんと口を開ける私をソイツは軽く笑う。

 

「君はさ、自己愛が足りない。君のそういう所が僕は嫌いなんだ」

 

「自己愛……?」

 

「極端に言えば、君はもっとナルシストになるべきだ。君は言ったよね、テスタロッサが言うような自分ではないと」

 

「言った、けど」

 

うん。フェイトちゃんはまるで私の事を凄い人物のように言う。

でも私はそうじゃないって、

 

「でもね、テスタロッサにとって君はそうなんだ。凄い、強い、そういう人物なんだ」

 

「ち、違うよ、私はっ」

 

否定する私に対し彼はそれこそ違う、とこちらをみつめる。

 

「凄いとか、強いとかって言うのは自分が決めるものじゃない。周りの人たちが決めるもの。そしてそのテスタロッサにとって君はそういう人間なんだ」

 

「でも、それは」

 

「またそうやって。例えば僕は君だ。でも僕と君の意見は違ってる、それはなんでだろう」

 

「わからない。なんで、違うの?」

 

少し前から私を否定ばかりして、なんで?

私の一部なのに、私の夢なのに。

 

「答えは簡単、それは人間だから」

 

「人間だから?」

 

「そう、人間って言うのは頭のいい生物だよね。頭で考えて生きてる。そんな頭でっかちな生き物だから、好きな自分と嫌いな自分なんてわけちゃうんだろうね」

 

「つまり、私と君?」

 

「そう、僕は僕が、つまりは君が大好きな僕。君は君が嫌いな根暗君」

 

「そこまで嫌いじゃないっ。それに、それがどうだっていうの?」

 

「ああ。ただね、人間って自分の中にも分かり合えないものを持ってるって知って欲しかっただけ」

 

分かり合えないもの?

そりゃあ、こいつのことはまったくわからない。

何が言いたいのか。何でこんな話をしているのか。

私のくせに、わたしのくせに? ああ、確かに私は私が好きではないかも、なんて。

 

「だから、自分の中でさえ分かり合えないのに他人と分かり合うなんて難しいことなんじゃないかな?」

 

「そう、だよ。だからフェイトちゃんも」

 

「僕が思うに、人間は芸術。いや、芸術は人間だ」

 

なに、いきなり。

 

「個性があり、偏りがあり、輝き、そして陰りがある。でも、それは万人が理解するものじゃない。好きな絵があるように好きな人がいて、心地良い曲があるように心地のいい人だっている」

 

とてもすばらしいことだ。

なんて突然歌うようにいって見せる。

 

「その反対に嫌いな絵や何でそれが凄いのかわからない物だってあるだろう。君とテスタロッサの関係はそれだ」

 

「えっと……」

 

「簡単にわかり合えないけど、テスタロッサにとって君や僕は凄いし強いんだ。そう思わせるだけのものは確かに持っているんだ」

 

「そう、なの……?」

 

「うん。まあ、君である僕が認めたところで馬鹿らしい話ではあるけど。君の事が好きなテスタロッサのために胸くらいは張ろうって思えれば良いね」

 

「…………」

 

「僕と君が違うようにテスタロッサは自分に無いものを僕達の中に見たんだろう。君が向こうの、本当の僕にそれを見たように」

 

「あっ……」

 

「だから、君は胸を張るべきなんだ。テスタロッサや僕のためにね」

 

「……うん」

 

頷いてみて胸がすっとするのを感じた。

傍から見たらただの一人相撲なんだろうけど。

 

「なんだかわかった気がする。コウ君もね、私が褒めるといつも否定してるもん」

 

「だね、似てるんじゃない?」

 

「だといいんだけどな」

 

外から見た私、か。

 

嬉しくて、少しだけ恥ずかしい。

 

でも、やっぱり私とコウ君は隣同士じゃないと思うんだ。

 

私はコウ君の全てを知っておきたい、なんて思ってしまうし逆に私の全てを知って欲しいとも思う。

 

それは私がまだコウ君のことを知らなくて、私にも言えないことがあるんだって事。

 

やっぱり、愛したいし愛されたいもの。

 

だから、彼に貰ったものはちゃんと返してあげたいんだ。

 

 

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