私、高町なのはは彼の何を知っているのだろう。
目の前に広がる彼の顔は涙で歪んでいるけどいつも通り微笑んでいる事は簡単にわかった。
「次は高町の番」
彼の声はやけに落ち着いていてそれが私には悲しかった。
置いていかれたようで少しだけ出合った頃の私を思い出したから。
私から見た七峰紅助という人物はどこにでもいる男の子とは違って特別な人だった。
なんでそう思ったのかはずっと昔で覚えていない。
だけど彼と見た色々なものが綺羅々々と輝いていたのは一つ残らず覚えている。
魔法もその一つ。
ユーノ君に連れられて、コウ君に教えられた世界は私にとって世界が裏返しになったくらい私の衝撃と感動を与えてくれた。
私にも何かができるんだって教えてくれたものでそしてその方法でもあった魔法が私はとても好きだった。
これで、私は彼に恩返しをできる。
今までコウ君に貰ってきたものの分だけ私もコウ君にあげることが出来る。
そう考えていた。
だって、ずっと不安だったんだから。
なんでコウ君は私の傍にいてくれるのか。ずっとわからない疑問だった。
私は自分に自信がなかったからそんな疑問がずっと晴れないまま胸の中を駆け回っている。
私はたぶん疑っていたんだ。
何も無い私でなく、
コウ君を。
だから、
こんなことに、なってしまったのだろう。
彼が両腕を失ったのは私のせいなのだろう。そう思うのは理由がある。
勿論、私を庇ったからという理由もあるが最も大きいのは私がコウ君の近くにいたからだなんて私は思っている。
私がコウ君の、高町なのはが七峰紅助の足かせとなっていたのだろう。
何も無い私だ、コウ君が有り余るだけの何かを持っていたとしてもその私を背負っているならばいつかはそれが尽き始める。
それが今回だった。
私は彼を壊していったのだ。
少しずつ少しずつ、長い時間をかけて。
そしてコウ君は両腕を失った。
機械仕掛けの両腕を見て私は言葉を失った。
あれが私の残した結果なのか。今までコウ君と共にいて多くのものを貰った結果があれなのか。
胸の苦しみに殺されるのではないか、そう思った。
でも殺されるならこの苦しみからは逃げられるのか、そう思ってしまった。
どうしようもない。
なんでコウ君は私を護ったのだろう。
もう、あの掌で私を撫でてくれることもない。
もう、あの腕で私を抱きしめてくれることもない。
こんなことなら護られたくなかった。
でも、それが私の彼へ残したものだ。
全て私が、
なのに、なのに、なのに、
それでも私は優しい彼に甘えてしまった。
私は最初から壊れていたのかもしれない。
もう、泣けばいいのか笑えばいいのかわからなかった。
どうして私はこうなんだろう?
それでもなんでコウ君は優しいの?
※
「わ、たしはっ」
口から出た声は情け無いほど震えていて、それでもコウ君は優しく笑って聞いてくれた。
やめて、笑いかけないで。
「コウ、君にっ、なにかっ、なにかをしてあげたくて……」
涙を流して情けなく言葉を吐き出す。酷くみっともない。
「コウ君は十分私を幸せにしてくれてるよ、次は私のはずって思ってた。私にはアリサちゃんみたいに頭はよくないし、すずかちゃんみたいに体を動かすのが得意じゃない。だから私が出来るのは魔法だけでっ、でもっ」
みっともない私にコウ君は頭を撫でてくれる。
嬉しい。
落ち着く。
幸せ。
でも冷たい。
涙を拭ってコウ君を見た。
少し困ったような瞳。
私の気持ちなんて考えないって言ったのに。
コウ君は声が体と逆だ。
そういうところはアリサちゃんと似ている。
優しいところはすずかちゃん。
かっこいいところはフェイトちゃん。
おもしろいところははやてちゃん。
どこにでもいるようで私だけの彼。
奥歯を噛み締める。
私が私だけが彼に出来ることなんて、一つもない。
むしろコウ君には迷惑をかけてばかりで、私は駄目な、駄目で……
「…………コウ君は何で私の傍にいてくれるの」
私の口から言葉が零れた。
小さい、とても小さい、私を作り上げた問い。
コウ君は少しだけ驚いて瞳を揺らした。
ほらまたコウ君が困ってるよ。
でも、しようがない。だって私は高町なのはなんだから。
高町なのはは七峰紅助を駄目にする。そういうものだ。
だけどコウ君は笑った。
「俺は、お前といると駄目になる」
「あっ」
告げられた言葉は心と繋がって私を引き裂いた。
「いつもこうだ……自分が自分でわからなくなって、恐かった」
私も恐かった。コウ君がわからなくて。
「だから逃げてたよ。楽な方へ楽な方へって。そしたらまたわからなくなってさ」
告げられる言葉は痛くて、辛くて。
何でコウ君が笑っているのかわからなかった。
「高町と出合った頃のことは今でも覚えているけれどなんで声をかけたかを、ずっと忘れてた」
目を見開く。
どうしても知りたかった事だ。
私と彼の始まった時の始めての疑問。
「一緒にいたかったから、お前に認めてほしかった、俺がこの体で、この記憶を、この世界に、いていいんだって、そう言ってほしかった」
言っている意味はわからない。だけどコウ君の目は真っ直ぐわたしを見つめてくれているから不安は無かった。
「でも、今は違うよ……」
私はあんなにコウ君を傷つけたのに、それでも笑顔を見れば胸がはじけるように踊りだして瞳からは溢れるように涙が零れる。
理由はわかっていた。
だってずっと付き合ってきた疑問なんだから。
私にとってのコウ君。
コウ君にとっての私がそうだといいなって何度も夢を見た。
桃色の光が辺りを照らす。
出来るような気がした。
だって私は貴方を、
求めて、欲して、手を伸ばした。
泣いて、叫んで、声を飛ばした。
知りたかったんだ、貴方だけの私を、私だけの貴方を。
そのためなら何でもできた、戦うことも、護ることも、空を飛ぶことだって。
それは当たり前で、そうするために私がいるような気さえした。
その先のことなんて考えていなかった。
あの両腕は私の罪の証だ。
前を見ずに後ろばかりに気をとられていた馬鹿な私の消えない罪だ。
忘れることは難しい、目を逸らすことなんて出来ない。
でも大丈夫。私は知ってしまったから。
忘れられないなら覚えてあげる。
目を逸らせないなら見つめてあげる。
もう前は見えてしまったから。
※
知っていますか?
私は貴方に多くの物を貰らいました。
知っていますか?
私は貴方に多くの事をしてもらいました。
知っていますか?
私は貴方に多くの言葉をかけてもらいました。
知っていますか?
私は貴方に、貴方に、貴方に、
ありがとう。
うれしかったよ。
たのしかったよ。
貴方はどうでしたか?
私の手は届きましたか?
私の声は届きましたか?
私の心は届きましたか?
大丈夫だよ。
だって私は――――
※
「俺は、お前が――――」
私は、貴方が――――
「好きだ」
好きだから。
唇で感じる彼の体温は熱く、焼けるようだった。
私は彼の私でいたいようだ。