やはり俺が界境防衛機関で働くのはまちがっていない。   作:貴葱

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大変お待たせして申し訳ありません。

アニメが始まるダンロンの復習をしていたら、思った以上に熱中してしまいました……。

前回、次話で奉仕部入部騒動が落ち着きを見せる、と言ったのですが、内容を大きく変更したため上下または上中下とさせていただきます。

それでは、どうかお楽しみください。


つまり平塚静は滑稽な道化師である。上

俺こと比企谷八幡、そして後輩であり部下でもある一色いろはは現在、生徒指導室で先生たちと顔を合わせて座っている。

 

……そう、“先生たち”とだ。

 

俺と右隣の一色に相対するように向かいの席に腰を下ろしているのは、俺たちを呼び出した張本人である平塚女史、そしてその左隣、つまり俺の正面には紳士然とした髭を蓄えた初老の男性、この総武高校の学校長その人が座している。

 

昼休みに訪れた突然の呼び出し。要件も告げられていない一方的な要求。当然無視することも考えたが、あの教師は今回無視してもあの手この手で絡んでくるのは目に見えている。だったらここで鼻っ柱をへし折っとこう、と意気込んで乗り込んだ生徒指導室には、厄介な似非熱血教師にプラスして校長まで登場していた。どうやら平塚先生が話を有利に進めるために招き入れたようだが……これ完全に悪手だろう。

 

「―――。そして彼らは昨日、教師である私や2学年主席の雪ノ下雪乃に対して暴言を浴びせました。これは由々しき問題です!」

 

先ほどから平塚先生は、俺や一色が如何に問題のある生徒なのかを校長に向かって力説している。その内容は、確かに昨日の俺や一色の行動だ。だが、そこに至るまでのプロセスを完全無視して、自身の都合のいいように話をつなぎ合わせている。全容を知っている者からすると、親に問い詰められて嘘を塗り固める小学生の薄っぺらい言い訳にしか聞こえない。

 

昨日の出来事で平塚女史に目を付けられるのは、ある程度予想ができた。というか、昨日の口ぶりからしてそのうち絡んでくるのは明白だった。だったらその時に二度と絡みたくなくなるよう叩き潰せばいいと踏んでいた。

 

しかしこの状況は完全に予想外、というか、するわけがないと考えていた。万が一この校長も人の話を聞かずに人を貶すような輩だった場合は、自主退学も視野に入れなければならない。だが、巻き込んでしまったのが俺である以上、一色に被害が行くのはなんとしても回避せねばなるまい……まぁ、さすがに学校を任されている身である校長がそんな人だとは思っていない。この教師は、自分で自分の首を絞めていることに全く気が付いていないのだ。ここまでくると怒りを通り越して哀れみすら覚える。

 

「しかも彼らは、私の指導から狂言を使って逃げ出し、さらには私や雪ノ下雪乃に対して“性格破綻者”とまで言ってのけました。このまま彼らを放置するのは、我が総武高校の品位を下げる要因となりえます!」

 

なおも平塚先生による俺たちへのネガティブキャンペーンは続いている。ヒステリックに騒ぎ立てている様子は、とても教師とは思えない滑稽な姿だ。隣の一色も最初は先生を睨みつけていたが、呆れたように溜息を吐いている。

 

「よって私は、今回のペナルティとして彼らを私の管理する部活動に参加させ、指導を行っていきたいと考えています!」

 

漸く、熱血(笑)による一方的な扱き下ろしが終わった。正直欠伸が出そうなほど退屈な話だったな。

 

さて、ここからどう校長が動くか、それによって俺や一色のとる行動も変わってくる。もし仮に、万が一、億が一校長が平塚先生側の場合俺はどう動くか、と思考を回転させていると、腕を組み目を瞑って平塚先生の話を聞いていた校長が、静かに目を開きゆっくり平塚先生に問うた。

 

「ふむ……平塚先生。さっきおっしゃっていた比企谷くん、一色くんの狂言とはどういったものですか?」

 

それは当然の疑問だと思う。なぜなら先生はバイト云々の話を一切出していない。平塚先生は自分に都合のいいように、そしてなるべく俺たちに悪印象を与えられるように昨日の出来事の至る所を端折っている。要するに『俺たちがバイトをしている』と言うのを嘘として簡略化し、俺たちの“問題になりそうな発言”のみを抽出して話しているのだ。しかも狂言と言うのは完全に先生の決めつけで、実際に俺と一色はボーダーで働いている。

 

問われた先生は若干苦々しい顔を覗かせながら答える。

「それは……バイトをしているというものです。さらに一色はその嘘を真実にするかのように幇助しました」

 

その発言を聞いて一色が体を乗り出しかけるのを手で制する。

 

「……それを狂言だと決めつける根拠は何です? 理由もなしの決めつけではありませんのでしょう?」

 

先生はさらに苦々しく顔を歪めながら告げる。

「彼のような性根の腐った者を雇うことなどあり得ません。それに彼らはバイト先についてまったく口に出しておらず、この2点が2人の話に信用性がないことを示しています」

 

2点目については確かにそう思わなくもない俺だが、1点目は完全にあんたの主観だろう。頭の螺子がぶっ飛んでんじゃなかろうか、このクソ教師は。

 

「ふむ、そうですか……」

 

それきり校長はしばらくの間口を噤んだ。顎に手を当てたり、斜め上の虚空を見つめたりと、何かを考えている様子に、俺を含めた3人は口を開かない。生徒指導室には一時の静寂が訪れる。

 

漸く校長が口を開いたとき、掛けられている壁掛け時計は昼休憩終了5分前を示していた。

 

「平塚先生、昨日の出来事の当事者が1人足りないようです。雪ノ下くんのことも呼んできていただけますか?」

 

「……承知いたしました」

平塚先生は少々の困惑を顔に張り付けながら答えた。

 

「それとここにいる両名、そして雪ノ下くんの次の授業担当者に欠席するとも伝えてもらえますか?」

 

「……分かりました」

 

そう言って平塚先生は教室を出て行った。

 

「ふむ……どうも平塚先生は君たちを悪者にしたいように感じられますね」

 

平塚先生が出て行ってすぐのその発言に俺と一色は息を呑む。

 

「先ほどの平塚先生の話には、至る所に穴が開いているように感じました。はっきり言って説明になっていません。まるで小学生の言い訳です。ですので、君たちの口から昨日の出来事を話してもらえますか? 僅かな時間ですが人払いもできましたしね」

 

校長は、紳士然とした見た目とは裏腹の茶目っ気を感じさせる雰囲気でこちらに問いかけてくる。

 

“まるで小学生の言い訳です”

その一言は、俺が即座に校長を信用するにたりえる言葉だった。この人は決め付けや感情で判断する人ではない。聡明だ。そしてどこか俺と似たような思考をしている。一色も似たような感情を覚えたのか、平塚先生に向けていた呆れ顔から一変して真剣な眼差しを校長先生に向けている。

 

「あぁ、授業については安心してください。こちらの都合で出席できなくなってしまうので公欠扱いにしますし、必要なら補講も行いますよ。君たちなら公欠にするのもさほど難しくありませんし」

 

最後の発言には少々引っかかるところはあったが、それでもありがたい申し出である。特に気にせず話をさせてもらおう。

 

「ありがとうございます。それじゃあ校長先生、おr……私から話させてもらいます」

 

「俺、で構いませんよ、ボーダー本部A級5位 比企谷隊 隊長の比企谷八幡くん」

 

「……はぇ?」




元々の予定では、最初から雪ノ下も同席している予定だったのですが、そうなると話し合いにならなかったので、雪ノ下は非参加という形を取らせていただきました。

それでは、次話でまた。

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