ある日。オラリオの路地裏で、完全に目が死んでいる金髪の少女に出会った。
だが、目が死んでいるくせに内側では炎が沸き立っているようで、強さを求めて徘徊していたらしい。なんで徘徊かは知らんがな。
で、そんな埃と土と垢にまみれた少女を引っ張ってきて風呂に放り込み、ちょいと世話をして色々と話を聞いてみたんだが……予想通りと言うかなんと言うか、この少女は孤児だった。
両親は冒険者だったらしいがある日から帰ってこなくなり、復讐だかなんだかはよくわからんが力を求めているらしい。
……だが、こんな少女を入れようとする純粋な戦闘系ファミリアは非常に珍しく、大概の場合は叩き出されてきたらしい。叩き出されなかったこともあるようだが、どうにも空気がよくなかったから逃げてきたらしい。
まあ、こいつは運が悪かったが勘は良かったらしいな。犯罪系だったり、新入りを色々と使い潰したり、恩恵すら与えず所有物にしたりする所もあると聞くし、そういったところに引っ掛からなくて良かった。
まあ、そういった類いのファミリアはアストライアの所のファミリアが主体となって狩って回っているようだし、アストライアの所には俺も薬やらマジックアイテムやらを融通しているのでなかなか良い仲だったりする。
……で、この娘はどうするかな。孤児だし俺の庇護下に置くのは問題ないんだが、こいつの目的は強くなることらしいしな。どうするか。
「……強くなりたいんだったらまあ鍛えてやってもいいが、どの程度全力でやる? 力以外のあらゆる物を捨ててでも力が欲しいか?」
「……うん。欲しい」
よしよし、だったらくれてやろうか。命も時間も美しさも感情も人としての幸福も、全てを失うことになるかもしれんが、本人の希望ならば仕方がないな。ちょっと死ぬかもしれない程度のものから始めてやろう。見たところ気力と血縁以外は一般的なヒューマンの少女と変わらないようだし、いきなりメディアにやったようなのをやらせたら強くなる前に死ぬだろう。そこで死なないようなするのが俺の役割なんだが。
それに、この娘を放置しておくのもあまり良くはなさそうだ。このままダンジョンに挑んで勝手に死ぬだけならまだしも、ダンジョンに呑まれて魔人となったら色々面倒だし、そうなったら真っ先に俺が狙われるだろうしな。
手っ取り早く、重力を増した空間で筋トレ兼歩法の特訓だな。体力作りと歩法による重心移動、加えて負荷をかけながらでも身体を動かす根性と正確に動かそうとする集中力を一度に鍛えられるから、よほど魔術特化でもない限りはまずこれからやらせている。魔術特化だったら魔力を運用しながらのランニングからだ。前衛だろうが後衛だろうが体力は必須だからな。
じゃあ鍛練場にそれなりの機材を用意しておこうか。俺がいないと鍛練できないのは効率が悪いし、ついでに鍛えたがり共も使えるしな。あいつらが欲する重力になるかは俺の知ったことじゃないが。
まあ、基本はあの娘に合ったものになるだろう。そこからどれだけの早さで強くなっていくかはあいつ次第。心の底から強くなることを望んでいれば、スキルの一つや二つは勝手に生えてくるだろう。かつてのメディアのように。
問題は死なないかどうか。この一点に限るな。死んだらそれまでだが、必死になって食らいついてくれば良い買い物と言うことになるだろう。『買って嬉しい花一匁』だ。俺からすれば出費らしい出費がないまま優秀な人間一人と人生の大半を得ることができる可能性があるわけだし、まあ単勝馬券でも買った気分でな。
……本当に『ありとあらゆる力をつけさせる』なら女としての魅力やその使い方も学ばせた方がいいのかもしれないが、今学ばせたところで使い道を見つけられなさそうだし良いとしよう。実際にはあまりよくないが、もう良いとする。
ちなみにそういったことを学ばせるならイシュタルかアフロディテ、フレイヤ辺りに頼むのが良いのだろうが、神と言うのはどいつもこいつも享楽主義者の集まりだ。まともな教育など望めないだろう。機会があったら俺が……無理だな。諦めるか。