フェイトは中学最後の冬休みを、母と2人で満喫していた。三が日が過ぎたある晩、警察官につれられて、フェイトにそっくりな子供がハラオウン家を尋ねてきた。その子は、母親の名前がプレシアで、姉の名前がアリシアだという。突然現れた妹との交流をへて、一歩踏み出すフェイトの物語。

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モラトリアム

フェイトは、こたつに入って、テレビを眺めていた。

今は、学校は冬休みだ。

フェイトはまじめな質なので、宿題は計画的に行っていた。

冬休みがあと3日になった、今日には、すでに宿題は残っていないのだ。

冬休みの宿題というのは、夏休みの宿題に比べたら、簡単なものだ。

それは、たぶん、家庭での行事の多さを考慮してのことだと思う。

年末は、大掃除をしてお正月の準備をしなければならないし、年始は親戚で集まらなくてはならない。

その点、ハラオウン家は親戚一同がミッドチルダにいるため、お正月になると、フェイトは暇なのだ。

でも、母さんが変に日本かぶれなところがあるから、年末の大掃除と、お節料理は用意するのだ。

だから、年があけると、お節料理をつつきながら、テレビを眺めてるという、怠惰でちょっと幸せな日々が続くことになる。

 

現在、ハラオウン家においては、リンディーとクロノ、エイミー、アルフが管理局勤め、フェイトは中学生兼管理局員だ。

そして、現在、フェイトは執務官試験に2回落ちている。

お正月は暇なので是非とも試験勉強に当てたいと思っていた。

しかしながら、母さんから「まった」がかかった。

曰く、お正月くらいのんびりしたらいいじゃない、と。

そして、母さんは、29日から6日まで休暇を取っている。

ついでに、フェイトの分の休暇申請まで出されていた。

聞いた話によると、28日には1人で仕事納めをして、帰ってきたらしい。

たぶん、7日に出勤したら1人で仕事始めをするんだろう。

その辺は、ものすごくマイペースな人だ。

ちなみに、クロノとエイミー、アルフはというと、船に揺られている。

母さんは、もちろん全員分の休暇申請を出そうとしたらしい。

でも、警邏行動中ということで、受理されなかったという。

すこしばかり残念だ。

 

画面には、お笑い芸人が数人映し出されていて、とくいの一発芸を披露している。

フェイトは、こたつの上に積まれたみかんを1個取った。

そして、皮を剥き、白い部分まで取ってから口に入れた。

「こうして、昼間からこたつでみかんを食べながら、テレビを眺めているのも、なんだか幸せなことね」

母さんが独り言のようにつぶやいた。

フェイトは、確かにと思うのだ。

色々な偶然が重なって、フェイトはハラオウン家の一員としてここにいる。

でも、少し間違えていれば、次元断層に落ちていたかもしれないし、牢屋の中にいたかもしれない、もしかしたら、生まれてすらなかったかもしれない。

「私は、今、幸せ。だから、少しずつ手を広げていって、自分の周りにも、幸せを増やしていきたい」

私はそう言ってから、なんだか気恥ずかしくなった。

もしかしたら、顔が赤いかもしれない。

「あなたは、自慢の娘だわ」

母さんは、そういうことを恥ずかしがることなく言える人なのだ。

 

 

4日になると、おせち料理も底をついている。

ハラオウン家では、三が日、朝はお雑煮、夜はお節と決まっている。

だから、4日になると、なにか他の物が食べたくなる頃なのだ。

「お夕飯は、ピザをとろうと思うのだけど、どう?」

「うん、でも宅配は高いかな。買ってくる?」

「でも、外は寒いわよ、良いじゃない。たまには贅沢して頼みましょう」

そう言って、母さんは、宅配ピザのメニューを出してきた。

「どれがいい?きっと、2個頼むと多いでしょうから、2人で分けましょう」

フェイトはこういうとき、選ぶのを後込みしてしまう性格だ。

だって、私が選んだものと、母さんの食べたい物は違うかもしれない。

でも、母さんは、そう言う遠慮を嫌うのだ。

だから、こう言うときは、相手に対する考慮を最小限にするようにしている。

要するに、自分の食べたい物を選べばよいのだ。

 

宅配ピザを待つ間、やっぱりやることがなくて、テレビを見ていた。

みかんも食べあきた。

でも、おなかが空いて、お煎餅をかじることにした。

袋を開ける前に、軽くたたく。

砕けないで、きれいに4個に割れて、ちょっとだけいい気分になった。

そうしているうちに、インターホンが鳴った。

どうやらピザが来たらしい。

「はーい、いまでますよー」

そう言いながら、母さんはパタパタとスリッパをならしながら、受話器を上げに行った。

こういうところは、お茶目な人だなと思う。

クロノだったら、ちょっと苦い顔をするだろうけど、フェイトはそう言うところが好きだった。

「はい、どちら様でしょうか」

「え、はい、そうですが」

なんだか、様子がおかしい、ピザじゃなかったみたいだ。

フェイトはこたつから出て、母さんのそばに寄った。

「わかりました、今出ますから、少しお待ちください」

母さんは、困惑した表情で受話器を置いた。

「どうしたの?」

「警察のかたが来たの。ちょっと出てくるわ」

そう言って、母さんは玄関へ向かった。

 

こんな、正月明け早々に、何だろう。

母さんは、フェイトに出るなとは言わなかったけれど、なんだか、出て行ってはいけないような気がした。

でも、気になった。

だから、玄関とリビングを隔てるドアの前にたって、様子をうかがった。

少しだけ、会話が漏れ聞こえてくる。

「お宅の娘さんにそっくりなので、もしかしてという方がいらっしゃったので」

「ご存じないですか?」

「あいにく、わかりかねますが、確かにに似てるわね」

なんだろう、私が話題に出されている。

そう思って、フェイトはドアを開けた。

玄関のたたきには、紺の制服を身にまとった、お巡りさんが2人いた。

そして、廊下側には母さん。

そして、廊下からでは下駄箱の陰になっていて見えなかったけれど、そこには髪の長い子供がいた。

わたしが、玄関の方へ出て行くと、お巡りさんがこちらに気がついて、私を見た。

そして、彼らはすぐに、少女に視線を移した。

フェイトと、その少女はそっくりだった。

 

 

「失礼ですが、ご親戚のかたとか、心当たり、ありませんか」

お巡りさんはフェイトと母さんを交互にみた。

たぶん、この人たち、私たちに血縁がないことに気が付いている。

警察官というのは、人を見る職業だから、そういうことに鋭いのかもしれない。

「いえ、申し訳ないんですが、ないです」

その少女は、ずっとうつむいていた。

けれど、フェイトの言葉を聞いて、はっとしたように顔を見た。

「お姉ちゃん、名前はアリシア?」

驚くことに、声もそっくりだ。

「えっと、アリシアは私のお姉さんと同じ名前だね。私は、フェイト」

努めて優しく語りかけたつもりだったけれど、少女はがっくりとうなだれて、目の端に涙を浮かべていた。

「名前は、なんて言うの?」

「シンシア、シンシア・テスタロッサ」

 

たしかに、無関係ではないのはわかります。

ですがね、関係を証明できる物がないと、お預けすることができないんです。

母さんはお巡りさんに説得にかかっていた。

そもそも、私たちはこの世界で身分が怪しい。

そう簡単に見破られるような偽装ではないだろうけど、それはやはりつくりものだ。

「シンシア、お母さんの名前はなんて言うの?」

「プレシア」

「そっか、プレシアか」

フェイトと、シンシアと名乗る少女は、リビングのソファーで座っていた。

母さんは、お巡りさんとちょっとお話があるから、と言って私とシンシアを下がらせた。

たしかに、あの剣幕で話していたら、シンシアは泣き出しちゃったかもしれない。

「ウチね、お父さんがいないの。でもね、お姉ちゃんとお母さんがいるの」

「そう、お姉ちゃんとお母さんは優しい?」

「うん、お姉ちゃんとはたまにケンカする。でもね、普段はやさしい。お母さんはたまにおこるけど、やさしいよ」

そう言うシンシアは、笑顔で、さっきまで泣きそうだったのをつい忘れてしまう。

「そっか、早く帰れるといいね」

フェイトのその言葉に、シンシアは急に迷子の表情を浮かべて、小さく返事した。

「うん」

やがて、母さんはリビングに戻ってきた。

「シンシアちゃん、今日は、ここで、一緒にお夕飯を食べましょう」

「え、そうなの?」

「ええ、お巡りさんも、OKだって」

「お姉ちゃんも一緒?」

そう言って、ちょっと心配そうにフェイトをみた。

「うん、一緒に食べよう」

フェイトの言葉に、はにかみながらシンシアは頷いた。

 

 

始業式の日の朝、霜が降りて、バケツの表面には薄い氷のはる、寒い朝だった。

吐く息は、白かった。

ここ2日間、シンシアを一時的にあづかることになった児童相談所へ通った。

シンシアはどうみてもフェイトと血縁関係があると思われる外見を有していた。

それに、フェイトはシンシアの言うことが気になって仕方がなかった。

お母さんと、姉、妹の3人による幸せな家族。

それは、フェイトが望みながらも得られなかったもの。

 

前日、バイバイを言うとき、フェイトは明日から学校が始まって、シンシアに会いに来れる時間が減ってしまうことを伝えた。

そうしたら、玄関で、大泣きされてしまった。

フェイトも言葉を尽くして、10分くらい玄関でねばってはみたものの、シンシアは泣きやまなかった。

仕方なく、フェイトはそのまま家へ帰ることになってしまった。

幸い、始業式のある今日は、学校は昼までだ。

だから、学校が終わったら、児童相談所へ行くつもりだ。

 

 

フェイトが教室にはいると、なのはとはやてがフェイトの机の前で待ちかまえていた。

はやては、フェイトの席の椅子に座っていて、なのは、そのそばに姿勢良く立っていた。

はやては、足を組んで座っているものだから、はやてとなのはが上司と部下のように見えて、朝から、笑いがこみ上げてきた。

「おはよう、はやてもなのはもどうしたの?」

「おはよう、どうしたのじゃないやろ」

「そうだよ、フェイトちゃん」

 

管理局の分析によると、シンシアはおそらく並行世界から来たのではないかということだった。

並行世界というのは、地球やミッドチルダを含む次元世界と時間軸の異なる世界のことだ。

理論の上では、次元世界に幾多の世界があるように、並行世界も存在していると考えられている。

次元世界のおいては、世界の間を次元航行船によって行き来可能である。

それは、同じ時間軸を有しているからである。

一方、並行世界へは行き来するすべがない。

ただし、古くから、並行世界からやってきたと思われる人物や物があったと言われる。

それは、半ばおとぎ話のようなことではあったが。

また、並行世界からの往来があったと思われる時期の前には、長周期の特殊な次元震が観測されていると言われている。

シンシアが保護された日の昼間、次元世界では、長周期の特殊な次元震が観測された。

並行世界には、この次元世界の映し世のような世界があって、シンシアはそこからやってきたのではないかと言うことだ。

 

「なるほど、それじゃ、シンシアはフェイトちゃんの家族ってことになるんやな」

フェイトの説明が下手だったのか、なのはもはやても、なんだか難しい顔をしていた。

「うん、プレシア母さんの娘で、アリシア姉さんの妹。だから、並行世界での私なのかもしれないね」

はやては、これで年齢がおなじなら、ドッペルゲンガーみたいになるな、とかつぶやいている。

「と言うことは、見た目はフェイトちゃんそっくりなの?」

「そうなの、だから、最初、お巡りさんと一緒にうちに、来たんだよ」

「シンシアちゃん、まだ5歳なんだよね」

「そう、妹ができたみたいで、かわいいよ」

フェイトはそれにちょっとした幸せを感じていた。

フェイトがお気楽な調子だから、はやてもフェイトも、そうじゃなくてと、少し苦笑した。

「この世界では、存在を証明できないんじゃない?そうすると、困るよね」

「そういえば、ハラオウン一家の日本での戸籍とかはどうなってるんやろな」

「そこは、母さんが上手くやったみたいだよ」

そもそも、管理局は、管理外世界に自然にとけ込むだけのノウハウを、途方もない量を保持しているように思える。

「なのはとはやての心配も、私はわかってるつもり。でも、私はシンシアに一番必要なのは、包み込んで守ってあげる優しさだと思う。だから、もし引き離される結果になっても、私はシンシアを見捨てない。だって、血のつながった姉妹だから」

もちろん、シンシアの社会的な存在の証明は、私との血縁という点をうまくすれば何とかなる見通しがあるのだ。

 

 

フェイトがシンシアに会いに行くと、シンシアは絵本を片手に、「よんでー」とやってきた。

そして、座布団に腰を下ろしたフェイトの膝に乗って、一緒に本を読もうとする。

フェイトが、「読みにくいから」というと、シンシアは「お姉ちゃんはこれで読んでくれた」と頬を膨らまして、ふてくされた。

「フェイトお姉ちゃんは、これ嫌?」

ふてくされながらも、そうやって聞いてくるところがかわいいなとフェイトは思うのだ。

「ううん、これで読もう」

フェイトはあきらめて、シンシアを膝に乗せる。

「やった」

そう言うと、シンシアはフェイトの膝の上に座って、絵本を開いた。

「ここの絵本はね、シンシアには読めないの」

シンシアはそう言って、下からフェイトの顔をのぞき込んだ。

「シンシア、もう字が読めるの?」

「うん、お母さんも、お姉ちゃんも教えてくれるから」

「そうなんだ、すごいね」

そう言って、ほめると、シンシアは自慢げながらも、少し照れていた。

フェイトは、ぼんやりと、字の読み方って家族から習う物なんだ、と考えていた。

日本の住人になって、はや5年、すでにひらがなカタカナ、漢字と日常生活で困らない程度には読める。

だから、他のことを考えながらでも、絵本を読むことは簡単なことだった。

 

「フェイトお姉ちゃん、学校って、どんなとこ?」

絵本を読んだ後、積み木で学校を作りながら尋ねた。

「お友達と一緒に、勉強するところだよ」

「お姉ちゃんも学校に行くよ」

ふと、フェイトは疑問を感じた。

「シンシア、アリシア姉さんが学校に行っている間は、どうしているの?」

フェイトの質問に、シンシアは、不思議そうな顔で、フェイトをみた。

「お母さんは、おうちに居るよ。でも仕事してるから、わたしはおりこうにしてるの」

「そうなんだ」

そっか、あっちのプレシア母さんは子供との時間を取ったんだ。

フェイトが知っているプレシア母さんは、アリシアが小さい頃、アリシアを保育所に預けて、フルタイムの仕事をしていたはずだ。

なんか、同じようだけれど、少しずつ違っていること、シンシアとの会話の中でフェイトは感じていた。

そして、そんな母さんだったらきっと違っていたんじゃないないかと考えてしまって、そのたびに、それを考えてしまったことを少しずつ後悔するのだ。

「9時から5時までは、仕事のじかんなの。だから、じゃましちゃだめ。でも、3時になるとお姉ちゃんが帰ってくるよ」

「そっか。良い、家族だね」

そう言ったフェイトは、胸のあたりに、少し冷たいもやもやを感じた。

「うん」

シンシアの笑顔は暖かだった。

それが、フェイトのココロを少しずつ冷やしていくようだった。

 

 

「ただいま」

「フェイトちゃんおかえりー」

エイミーがリビングから顔をのぞかせて、フェイトを迎えた。

「エイミー帰ってたの?あ、そうだ」

フェイトは姿勢を正して、深々とお辞儀した。

「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」

「あけましておめでとう。こちらこそ、よろしくだね」

エイミーは少し照れた表情で、返した。

「フェイトちゃん、すっかり日本人だね」

「それ、アリサにも言われるの。どの辺が?って聞くと、全体的とか、なんかはぐらかされるんだけど」

本当にわからないという顔をしているフェイトをみて、エイミーは微笑んだ。

「母さんは、本局かな?」

「たぶんね、私が帰ってきたときには、入れ違いだったみたいで、もう居なかったよ」

エイミーはそう言いながら、お茶の準備を始めている。

以前は、勝手知ったるだったけれど、去年からそれは変わったのだ。

「フェイトちゃん、お茶にするからね」

「うん、ちょっと待ってて」

フェイトは、制服から着替えるために、いったん部屋を出た。

「以外と大丈夫なのかな?でも、油断ならないかな」

エイミーは、フェイトの後ろ姿をみながら、ひとりつぶやいた。

 

制服から着替えて、手を洗って、うがいをして、フェイトは、テーブルに着いた。

そのときには、ちょうどエイミーがカップに紅茶を注ぐところだった。

「久しぶりにね、翠屋に行ってきたの。新年のご挨拶もかねて」

「そうなんだ。そう言えば、最近はあまり行ってないな」

「みんな元気そうだったよ。あと、 恭也さんと忍さんも帰ってきててね。どちらかと言えば、そっちがメインだったかな」

エイミーはなぜだか、忍さんと仲がよいのだ。

住んでいる場所と、仕事の関係から、あえることは少ないのだそうだけれど、メールやら電話やらで、結構頻繁に連絡を取っているらしい。

人生の先輩だし、旦那の人柄が似ていることもあって、色々と相談することのこと。

「ところで、シンシアちゃんだっけ、フェイトちゃんにそっくりな」

「うん、今日も会ってきたよ」

「並行世界からって話だったけど、事実上帰れないこと確定ってことだよね」

エイミーは、昨日の天気を話すように、さらっと言った。

「そうだね」

フェイトは、言葉少なに、エイミーの言葉をかみしめるように目をつむった。

「そう意味では、すぐにフェイトちゃんに出会えたシンシアちゃんは、結構な強運の持ち主かもね」

「うん、シンシアがそう思ってくれるように、私はありたいと思う」

さすがフェイトちゃん、そう言って、エイミーは笑った。

 

ケーキと紅茶で、30分くらいお茶をしてから、エイミーは夕食の支度を始めた。

エイミーによると、今日は母さんとクロノ、アルフも夕飯までには帰ってくるらしい。

「今日はね、お祝いだから、エイミーさんはりきっちゃうよ」

何のそれだか、フェイトには教えてくれなかったが、お祝いだと言う。

エイミーは料理が上手なので、夕飯が楽しみだった。

 

 

エイミーが夕食を作っているあいだに、アルフが帰ってきた。

「フェイト、ただいまー」

そう言って、アルフはフェイトに抱きつく。

「アルフ、おかえり」

フェイトは、抱きしめ返す。

これは、フェイトとアルフがハラオウン家の一員になってから、なぜか習慣化した、フェイトとアルフの挨拶。

学校があるために、フェイトは長期の任務につけないけれど、反対にアルフは長期の任務が多く、フェイトとアルフはあまり一緒にいれないのだ。

それもあってか、アルフは帰ってくると、こうやってフェイトを抱きしめる。

最初のうちは、フェイトが小さかったから、アルフに包まれているようだったけれど、最近はそうでもない。

一時期、フェイトがまた大きくなったが、アルフの口癖になっていたけれど、最近、ようやくそれがなくなったようだ。

私だって、包まれて守られているばかりではいられないと、フェイトはそう思うのだった。

 

 

「遅れてごめん」

クロノはかえって来るなり、エイミーにそう言った。

「良いって、良いって、それより、帰投の処理は済んだ?」

抜かりなく、クロノはそう言って、椅子を引いて、食卓についた。

「あ、クロノ君、手洗ってないぞ」

しまった、と言う顔をして、席を立った。

「ありがとな」

 

「あれはね、私たちの約束なの」

クロノが手を洗いに、洗面所へ行っている間に、エイミーが教えてくれた。

「親しい間だと、ついつい感謝とか、そういうの忘れがちでしょ、だからね、意識的に、ごめんなさいとありがとうを言うようにしようって」

フェイトは、ただただ、へぇと感心するばかりだった。

元来、クロノは寡黙を良しとするところがあった。

それが、ああやって、変わるもんなんだなとフェイトはすこし驚いた。

 

「いただきます」

「今日は、なんだか豪華ね」

母さんが、にこにこしながら、エイミーに言った。

「そりゃ、お祝いですから」

「お祝い?」

母さんばかりか、クロノも頭にハテナを浮かべるように、はてなんだたかという表情を浮かべた。

アルフは、訳を知っているようでニヤニヤしている。

フェイトは、このやりとりは2回目だったから、すましていた。

そうしたら、母さんとクロノはフェイトが知っているのかと思ったらしく、フェイトの顔を見た。

「フェイトは、何か知っているのか?」

「ううん。知らない」

そして、2人に加えて、フェイトはアルフの顔を見た。

「本人に聞くように」

アルフはニヤニヤしたままそう言った。

そして、母さんとクロノ、フェイト、加えてアルフの視線が、エイミーに集まる。

「ちょっと事情が変わっちゃって、誤解なきようにという感じだけれど、昔からあこがれてた言葉だから、そのまま言います」

エイミーはそう宣言した。

「家族が、増えることに、なりました」

優しい笑顔で、エイミーは言った。

 

それを聞くやいなや、母さんは立ち上がって、エイミーの手を取った。

「おめでとう、これから、大変なこともあるだろうけれど、がんばるのよ」

「ありがとう、ございます」

クロノは、茶碗を左手に、箸を右手に固まっていた。

「ほら、なにかあるでしょ」

そんなクロノをフェイトは、横からつついた。

「あ、ああ。うん、なんと言ったらいいのか、ありがとう?」

エイミーはちょっと苦笑い。

でも、それは、想定通りと言った感じだった。

母さんは、それを見て、懐かしそうに笑みを浮かべた。

「やっぱり、親子は似るのかしらね。クロノのそれ、クライドとそっくりだわ」

フェイトとエイミーは、何のことだか、少しはかりかねところがあって、笑うべきなのか、迷っていると、母さんはそれに気が付いて補足した。

「私も、クロノを身ごもったことがわかったとき、同じようにクライドに言ったのよ。そのときの反応が、もう、そっくり」

そう言って、思い出したように、母さんは声を出して、笑い始めた。

ちょっとした、笑いのツボにはいったらしく、しばらく笑っていた。

「そんなに笑うことないじゃないか」

クロノは、ふてくされたように、そう言った。

 

 

「そう言えば、エイミーのこと、アルフは知ってたの?」

布団に入って、電気を消すまでの間、そういえばと思って、フェイトはアルフに聞いた。

「ああ、あれ?うん、知ってた。本当は隠しておくつもりだったみたいだけど、会話の中でぽろっとね。ほら、長期任務だと、女同士の会話って、あるでしょ?」

なるほど、うれしさが余って、ついつい言っちゃったということか、フェイトは納得した。

今回は女性が少なかったからねと、アルフがぼやくように言った。

 

 

電気を消して、布団に入る。

フェイトは寝つきがそれほど良い方ではない。

ベッドに寝転がり、暗い天井を眺めていた。

ふと、今日、帰り際に言われたことが気になってきた。

『あなたも、あまり無理をしないようにね。』

あれは、どんな意味だったんだろう。

フェイトは、ほぼ毎日シンシアに会いに行っているけれど、それは無理をしているわけではない。

むしろ、自ら望んでしていることだ。

それに、自分の妹に会いに行くことが、無理をすることだなんて、そんな訳ないではないか。

 

 

夢を見ているとき、夢をみているという感覚を覚える時って、ありませんか?

私にはそれがあります。

いつでもそうという訳ではないですが、そう言う夢を、一年に数回見ることがあります。

そう言うときって、なにか突拍子もないことができたりします。

たとえば、嫌みな先生を殴ってみたり、気になるクラスメイトにキスしてみたり。

そういう、普段できないような、大胆な、後先省みないこともできたりするんです。

 

 

フェイトは、遊んでいるシンシアを見ていた。

これは、昼間の続きだ。

シンシアは、一人で積み木を積んでいて、学校とか、会社とか、お家を作ったりしている。

そして、積み木を積みながら、色々と、フェイトに教えてくれるのだ。

お母さんの得意料理は、シチューだとか、誕生日にはケーキを買ってきて、お祝いするとか。

そして、シンシアは、フェイトに問いかける。

『フェイトお姉ちゃんのお母さんは、どうだった?』

そこで、フェイトは、返答に詰まる。

 

シンシアは、積み木遊びをやめて、おままごとを始める。

そして、おままごとをしながら、色々とフェイトに教えてくれるのだ。

お母さんは寝る前に、本を読んでくれるとか、お姉ちゃんと一緒にお使いに行くと、ほめてくれるとか。

そして、シンシアは、フェイトに問いかける。

『フェイトお姉ちゃんのお母さんは、どうだった?』

シンシアの笑顔が、醜く歪む。

 

シンシアは、おままごとをやめて、お絵かきを始める。

そして、お絵かきをしながら、色々とフェイトに教えてくれるのだ。

お母さんのお誕生日にプレゼントをしたら、とても喜んでいたとか、お夕飯の準備のとき、お姉ちゃんとシンシアで手伝うと、お母さんはとても喜ぶとか。

そして、シンシアは、床に座っているフェイトの前に、立った。

そして、シンシアは、フェイトに問いかける。

『フェイトお姉ちゃんのお母さんは、どうだった?』

シンシアの顔が、嘲笑に変わる。

 

思わず、右手が動いた。

そして、シンシアの顔は、フェイトの右手の動きによって、左にブレる。

『かわいそうな、フェイトお姉ちゃん。お母さんに愛されずに、捨てられて』

シンシアは、平手で叩かれたのに泣きもせず、フェイトを追いつめる。

『フェイトお姉ちゃん。シンシアのことがうらやましいんでしょ?だから、私を叩くんでしょ?』

そう言って、笑う。

フェイトは頭に血が上るのを感じた。

フェイトは、普段、あまり怒りを感じることが少ない。

どちらかと言えば、怒るより、しょうがないなあと感じる方だ。

頭に血が上ると、喉がチリチリと痛くなり、顔が熱くなるというのを知った。

そして、今度は意識的に、右手を動かして。

 

 

ドアが閉まる音がして、エイミーは目を覚ました。

カーテンの向こうはまだ暗い。

目覚まし時計を確認したら、まだ2時。

エイミーは眠りが浅い方だ。

これはたぶん職業病なんだろうと思っている。

次元航行中は何が起きるかわからない。

オペレーターとしては、気の休まることはない。

逆にクロノやアルフは眠りが深い。

これも、たぶん職業病なんだろう。

前に、眠れるときにはしっかり寝ておかないと、とクロノが言っていたのを思い出す。

そんな事を考えていたら、目がさえてきた。

エイミーは布団から起きて、部屋を出た。

 

トイレに誰か入っているようだった。

フェイトちゃんの部屋のドアが薄く開いているのが見える。

そして、トイレの中から、えずく音が聞こえた。

「フェイトちゃん、大丈夫?」

エイミーは声を抑えて言った。

「エイミー?うん、ちょっと」

そうこまで言うと途切れて、もどしている音が聞こえる。

エイミーはリビングの食器棚からコップを取り、台所へ行き水を注いだ。

しばらく待っていると、フェイトは出てきた。

エイミーがコップを差し出すと、受け取った。

フェイトの顔色は青白く、良くない。

そして、そのまま、洗面台へ行って、うがいをしているようだった。

エイミーはリビングのソファーに腰掛けた。

 

戻ってきたフェイトの顔色はやっぱり悪いままだった。

「フェイトちゃん、大丈夫?もしかして、夕食が良くなかったかな」

フェイトはうつむいたまま首を横に振った。

「そうじゃないの。なんか、変な夢、見ちゃって」

フェイトはエイミーの横に腰を下ろした。

「変な夢?」

「うん、延々と家族の話をしているシンシアを、私が叩く夢」

フェイトは左手で右手を抑えた。

エイミーはなんと声をかけたらいいか、わからなかった。

「今日、シンシアとあって、いろんな話をして、確かにちょっと感じてたのかもしれない。この子は、私が得たくても得られなかった、そして永遠に失われてしまったたくさんの物を持っているんだって。それが、憎らしいって」

フェイトは頭を抱えた。

「私、シンシアに会うのが怖い。本当にシンシアを叩いてしまいそうで」

エイミーは、フェイトの肩を抱き寄せた。

「大丈夫だって。夢と現実は違うよ。現実だったら、そんなフェイトちゃんを私が守ってあげられる。リンディーさんだって、守ってくれる」

「だから、大丈夫だよ」

エイミーの腕の中で、フェイトは静かに泣いていた。

 

 

明くる朝、フェイトは30分くらい寝坊した。

でも、もともと、余裕を持った時間に起きていたので、30分の寝坊は問題なかった。

寝間着から着替える前に、リビングへ顔を出した。

母さんは台所で朝食の準備をしていた。

「おはよう」

「あら、おはよう。今日はちょっと遅いわね」

「うん、夢見が悪くて」

フェイトは、伏せてあったコップを取り、水をくんだ。

「もうじき、ご飯ができるから、みんなを起こしてきて」

母さんはトーストをトースターに入れながらフェイトに言った。

「はーい」

 

クロノとエイミーは半分寝ぼけながら起きてきて、食卓に着いた。

アルフは完全に眠っているように見えるけど、なんとか座っていた。

そして、母さんも席に着き、朝食をとる。

「そういえば、さっき夢見が悪かったとか言っていたけど、大丈夫?」

母さんが、フェイトにそれを聞いたとき、エイミーもそれとなく様子をうかがっていた。

「うん、ちょっと寝不足だけど、大丈夫」

そう言って、微笑んだ。

上手く笑顔が作れたかは、自信がなかったけれど。

母さんは「そう」と言っただけで、誤魔化せたか、あまり自信がもてなかった。

「そういえば、フェイトちゃん、今日もシンシアちゃんのところに行くの?」

エイミーが特に気負う様子もなく尋ねた。

「行くつもりだよ」

少し迷う気持ちもあったけれど、朝になったら気持ちはだいぶ落ち着いていた。

たぶん大丈夫。

「そしたら、私たちもご一緒して良いかな」

「達って、クロノも?」

「そうだな、フェイトの妹なんだから、会っておいた方がいいな」

そう言うと、3人ははフェイトの方に視線を向けた。

「私は、構わないよ。今日は学校だから、それが終わってからだけど」

アルフは?とフェイトが視線を向けると、アルフは悔しそうにしている。

「あたしも行きたいけど、本局に呼び出しが、エイミー、写真撮ってきて」

アルフは、エイミーに絶対だからねと付け加えた。

「わかった、わかった。それじゃあ、学校が終わったら、連絡ちょうだいね。そろって行くから」

 

 

「行ってきまーす」

「フェイト、ちょっと待って」

フェイトが玄関を出ようとしたとき、母さんが、エプロンをしたままリビングから出てきた。

「一つ言っておくことがあったの、わすれてたわ。シンシアちゃんのことだけれど、書類とかはなんとかなりそうよ。あとは、あなたに任せようと思うの」

フェイトは、何を任せられるのか分からなくて、言葉に詰まっていた。

「今のところ、あの子はあなたの妹だわ。それを、ウチの家族にするかどうか。考えておいてね」

「うん」

たぶん、昨日までだったら、考えるまでもなく、答えが出ていただろう。

でも、どうしても、昨日の夢が引っかかっていた。

 

 

フェイトは学校へ行き、クロノは本局へ行った。

アルフは寝たりないらしく、お昼寝だ。

リンディーさんは掃除機をかけている。

エイミーは、洗濯を任されている。

でも、洗濯って、スイッチを押して、洗剤をいれたらそれっきりだ。

リンディーさんに掃除の手伝いを申し出てみたものの、今日は掃除機をかける以外にする予定もなく、それに、妊婦さんを働かせるわけにはいかないと言われ、あえなく撃沈した次第。

仕方なくて、ソファーに座って、チラシを見ながら、洗濯が終わるのを待っていた。

今日は、あそこのスーパーの卵がやすいとか、ここのキャベツはやすいけど、以前買ったとき、鮮度がいまいちだったとか。

そんなことを考えながら、日本に来てからの年月の長さを実感した。

小学3年生だったフェイトが、中学を卒業するくらいの年月がたっている。

それだけ居れば、たとえ、年に帰ってくる日が、3分の1以下だと言っても、スーパーマーケットの善し悪しくらい覚えてしまうものだ。

そんなことを考えていたら、洗濯が終わったようだ。

 

「お茶にしましょう」

一通り、掃除機をかけ終えたらしいリンディーさんが、洗濯物を干し終えたエイミーを誘った。

「はい。緑茶にします?それとも紅茶?」

「今日は、紅茶にしましょうか」

「了解です」

エイミーは食器棚にある、ティーポットと紅茶の葉を取り、支度する。

「そう言えば、フェイトちゃん、昨日やな夢みたみたいですね」

「そうみたいね。今朝、起きてきたとき夢見が悪かったとか言ってたわ」

エイミーは少し考えてから、リンディーさんには話しておくことにした。

「シンシアちゃんを叩いた夢を見たって。フェイトちゃんが夜中起きたときに、ちょうど私も起きてて、フェイトちゃんショックだったみたいで、トイレで吐いてた」

リンディーさんは、神妙にエイミーの言葉を聞いていた。

「あの子は、負った傷をたまにそうやって、なぞって思い出すような生き方をするのね。きっと、私たちにその傷を埋めるようなことはできないんだわ」

そこまで言って、リンディーさんは少し明るく表情を変えた。

「でも、それはあの子が望んだことだから。たぶんそれが、あの子の優しさの元になっているのだと思うわ。それに、そうやって落ち込んだって、1人じゃないからきっと大丈夫。包んで守ってくれる人だって、支えてくれる人だって居るじゃない」

そう言って、リンディーさんは、エイミーの手を取った。

「ありがとう、あなたは良い姉だわ。そうよね、あと一年も経たないうちにお母さんになるんですもの」

そう言って、リンディーは微笑んだ。

エイミーはちょっと照れくさい気分だった。

 

 

昼が過ぎて、3時を回った頃、アルフが出かけたのと入れ違いで、本局からクロノが帰ってきた。

かえって来るなり、クロノはエイミーに言った。

「エイミー、休みを申請してきた」

「へー、長期任務だったから、今回は1週間くらいかな?」

「いや、4年分」

「はい?」

それを聞いていたリンディーさんは、あらあらと言いながら笑っていた。

「子供が産まれて、3歳になるまで、基本的に休みだ」

「ちょっと待ってよクロノ君、そんないきなり」

そんないきなり明日から4年も休みだと言われても、何をすればいいと言うのか。

ただでさえ、つわりもなくて、妊婦としての自覚も薄いというのに。

「まあ、良いじゃないの。せっかく取れたんだから、それを楽しまない手はないわ。それに、これから4年なんてあっという間よ」

エイミーはなにか釈然としない物を感じていた。

 

それからしばらくして、フェイトから連絡が入った。

曰わく、学校が終わったので、合流しましょうと。

クロノとエイミーは連れ立って、家を出た。

道すがら、あまり会話が弾まない。

それはひとえにエイミーに原因があった。

「エイミー、僕一人で勝手に決めてきてしまったのは、悪かったと思ってる。でも、それくらい大切にしたいと思ってるんだよ」

クロノは、こう言うとき、余り意地を張ることをしない。

どちらかと言えば、エイミーの方が意地っ張りだ。

ある意味、クロノに甘えているとも言えるわけだが。

「別に怒ってるわけじゃないよ」

そう言いながらも、その表情、仕草、しゃべり方、全てで不満を表明していた。

「ちょっと、未来のことを話そうか」

たぶん、二人に必要なのは、これからどうやって生きていくか、どんな家庭を築いていくか、そんなことを話し合う時間が必要なんだろうとクロノは思った。

「幸いに、時間はたっぷりある。ちなみに、僕も1ヶ月の休暇を申請してきたんだ」

その言葉に、エイミーは目を見開いて驚いている。

「そんなに、どうやって取ったの?」

2人とも基本的に仕事人間でやってきた。

休暇も取らずに仕事をし続けるのは、エイミーもクロノも基本的には変わらない。

だから、ちょっとずつ変わっていこうと、クロノは思ったのだ。

仕事も、家族も大切にできるように。

 

 

話には聞いていたけれど、そっくりだった。

「ほんとにそっくりだね、出会った頃のフェイトちゃんのさらに5年くらい前、みたいな感じ」

シンシアは、フェイトの後ろに隠れてエイミーとクロノの様子を伺っていた。

「シンシア、そんなに隠れてないで、ね?」

フェイトは、膝立ちになってシンシアの両脇を捕まえて、フェイトの前に立たせた。

「この人たちはね、私のお兄さんと、お姉さんなの」

シンシアは、上目遣いで、二人を見上げる。

エイミーはしゃがんで、目線をシンシアに合わせた。

「私はエイミー・ハラオウン。よろしくね」

エイミーが手を出すと、シンシアは恐る恐る手を出して、握手した。

「ほら、クロノ君も」

「あ、ああ、僕はクロノ・ハラオウン」

「私は、シンシア。シンシア・テスタロッサ」

「そうか、よろしく」

そう言って、クロノも右手を出す。

するとシンシアは、不安げにフェイトの顔を見た。

フェイトは、そんなシンシアに大丈夫と頷く。

そして、シンシアは、クロノとも握手した。

 

 

クロノとエイミーは、今日は朝から本局へ行っている。

2人とも休暇を申請したものの、役職のある身であり、申請翌日からぱっと休むことはできないらしい。

なにしろ、エイミーはこれから4年間の休職だ。

仕事の始末の他にも挨拶やら色々あるのだろう

そういうことで、今日は母さんと2人で夕飯を食べている。

フェイトはいつになく食卓が静かだと感じている。

たぶん、いつもと比べてそんなに違いはないんだろうけど、フェイトはそう感じていた。

フェイトは母さんの様子を伺いながら、いつ話題にしようか、考えていた。

そして、また、母さんの方をみる。

ふと、目があった。

「どうしたの?なにか、話したいことがあるの?」

母さんは、箸を止めて、フェイトの顔をみた。

「そわそわして、そういうところは、クロノとそっくりね。わたしは、いつでも良いわよ」

「うん、夕飯が終わってからにする。頭の整理をしてから」

「そう、わかったわ」

そう言って母さんは箸をとった。

 

食べ終わって、食卓をいったんきれいにしてから、緑茶を入れた。

母さんは相変わらず緑茶に砂糖を入れる。

前より量は減っているけれど。

理由を聞いたら、紅茶には入れるわよね、珈琲にも入れるし、だから緑茶にもとか言ってたっけ。

でも。フェイトは緑茶に砂糖は入れない。

「もうわかってると思うけど、話したかったのは、シンシアのこと」

フェイトの言葉に、母さんは、黙って頷いた。

「シンシアをうちの家族にしてほしいの。あの子には、現実的には帰れる家はないし、頼れる人もいない。だから、わたしがあの子の家族になってあげたい」

「わかったわ。わたしも、それが良いと思うの。でも、ひとつだけ、あなたに隠してたことがあるの。それだけ聞いてから、最後の決断をしてほしいの」

フェイトは、わかったと頷いた。

母さんは神妙な顔で、言葉を続けた。

「シンシアとあなたの血縁を証明するために、DNAの調査をするってことは、いっていたわね。その検査の結果が出たの」

そう言って、母さんは、一呼吸おいた。

まさか、血縁関係がないなんてことは無いだろうとフェイトは思った。

「結果はね、完全に一致」

「完全に一致?それって、え?」

フェイトは、混乱して、言葉を失うしかなかった。

だって、アリシア姉さんの妹だったら、そんなはずは。

「これを知っているのは、管理局でもごく一部。それ以外には、原因不明の次元振によって、並行世界から飛ばされてきたと、そう言うことになっているわ」

でも、だからどうしたというのか、シンシアが私の妹であることの前には、そんなこと、何の意味もなさないことだ。

「でも、それって、シンシアが私の妹だと言うことに、何の影響も及ぼさないし、それに」

そうだ、そういう理由であの子が私の前に現れたというのなら、誰かの意図が働いているはずだ。

「さすがは、執務官、勘が良いわね。でも、ここでは家族の話をして、仕事の話はとりあえず置いておきましょう。今は、シンシアがあなたの妹、そのことがあなたの中で揺らがないのであれば、それで十分」

そう言って、母さんはお茶を手にした。

そして、表情を和らげた

「そうそう、シンシアを迎えるのならば、いろいろ用意しなきゃだめだわ。そうすると、このマンションも手狭になるわね。いっそのこと、一軒家に引っ越す?」

「良いかも。クロノもエイミーも、子供が産まれて小さいうちは鳴海でって言ってたし」

「にぎやかになるわね。家族が増えるのは、大変なことだけれど、やっぱり嬉しいことだわ」

それから、フェイトは母さんと、少し先の未来のことを話し合った。

 

 

3月になったとはいえ、朝はまだ冷える。

数日前に、春一番が吹いたといっていたけれど、今日は冷えて、手袋が必要だ。

今日、フェイトは高校を卒業する。

小学3年で、初めて学校に通うようになってからを、指折り数えてみると、両手を使っても残り1本。

映画のせりふじゃないけれど、ずいぶん遠いところまできたなと、感じた。

 

なのはとはやては、フェイトより一足先に、中学を卒業すると、管理局勤めを始めた。

フェイトも、もとはそうする予定だった。

でも、考えてみたら、これから40年は働くのだから、そんなにあわてることもないんじゃないかと思うようになって、高校に入学することになった。

もちろん、そう言う風に考えるようになったのは、妹の存在が大きかった。

今日は、帰ったら一家総出でフェイトの卒業パーティーをしてくれるらしい。

特にシンシアが張り切っていた。

昨日の夜は、クロノとエイミーの子である、カレルとリエラにパーティーでの祝い方を教えていた。

シンシアの指導のもと、2人は絵を描いてプレゼントしてくれるらしい。

今日は1人で翠屋に行って、桃子さんにケーキの作り方を教わって、おいしいのを作ってくると、息巻いていた。

 

高校の卒業式は、中学の時のそれとは違って、なんだかさっぱりしていた。

フェイト自身も、中学のときは別れを強く意識したけれど、今はそうでもない。

確かに別れだけど、会う気になれば、すぐにでも会える気がする。

それだけ大人になったってことなのかなと、クロノに話していたら、彼は、まだまだ若いなとぼやいていた。

曰く、会う気になる、そして実際に会うというのが、大人になると結構難しいことだと。

それも、何となくわかるような気がして、それを考えると、鼻の奥がツンとする感じもしたりする。

 

校舎を出たところに、母さんが待っていた。

「お友達とは、いいの?」

「うん、明日にはまた会う約束をしているから」

友達は、皆、大学や専門学校へ進学する。

進学準備はあるらしいけれど、高校の卒業式は早いから、まだ遊んでいる余裕があるのだ。

「そう、じゃあ、帰りましょうか」

そうして、2人で家へと歩く。

校門を出た頃には、人もまばらで、今が平日の昼間なんだなと言うことを時間させる。

「2人で歩くのも、久しぶりだね」

「そうね、でも、これからはもっとそういうふうになるわよ」

母さんはちょっと寂しそうに言った。

4月が来たら、フェイトは時空管理局で本格的に働くために、ミッドチルダに移り住むことになっている。

母さんやシンシアは鳴海に残り、フェイトは一人暮らしを始めるのだ。

「鳴海には、母さんもシンシアもいるから、ちょくちょく帰ってくるよ」

フェイトは、自分でそう言ってから、卒業式では感じなかったものがこみ上げてくるのを感じた。

「あなたは、これから大きく羽ばたくけれど、私はいつでもここにいるわ。だから、いつでも帰ってきていいのよ」

「ありがとう。母さんがそう言ってくれるから、私は頑張れる。私は、母さんや、クロノ、エイミーそれからアルフ、みんなからたくさんの幸せをもらった。今度は、わたしがまだ見ぬ誰かが、幸せになる助けになってあげられるように、がんばる。」

「あなたは、自慢の娘だわ」

フェイトの顔にも、母さんの顔にも、一筋の涙がこぼれた。

でも、それは決して悲しい涙ではなく、暖かい涙だった。

 


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