サイタマは敗北者だった。
負けてばかりの人生だった。
だが、面接に落とされた帰り道に遭遇したカニの怪人との出会いが、彼をヒーローとして生きる切っ掛けを作った。
怪人から子供を守るために戦い、傷を負いながらも勝利したサイタマ。
彼は怪人との命懸けの戦闘において、怪人を倒すために体を鍛え上げる必要性があることを悟り……自己流のトレーニングを始める。
そして月日が流れた。
A市にて人型の怪人が出現、街を蹂躙する。
すぐさまヒーローたちが怪人を討伐すべく駆けつけるも、返り討ちに遭う。
怪人は半壊した街をゆったりとした速度で進みながら掌から光球を放ち、それが建物や地面に接触すると大爆発を引き起こす。
そんな怪人の前に一人のヒーローが立ち塞がる。
それは身の丈が2メートルを越すスキンヘッドの大男。
眼光は猛禽類の如く鋭く、絶対王者が醸し出す覇気を漂わせる。
身に纏うは黄色のヒーロースーツ、背には純白のマント。
腕に填めた手袋が赤いのは今までに葬ってきた敵の鮮血を吸ったせいだろうか…?
ヒーロースーツの上からでもハッキリとわかるシックスパックに割れた腹筋と、細身の女性の胴体ほどはある分厚い四肢を持ち……その姿、佇まいから古代の拳闘士を彷彿させる。
そのヒーローが出す雰囲気に呑まれたのか、怪人はその歩みを止めて視線を合わせる。
(先程の雑魚とは違う、明らかな強者! こいつが人間どもの代表者か…!?)
「私は人間どもが環境汚染を繰り返すことによって生まれた “ ワクチンマン ” だ。……戦う前にキサマの名を聞いておこう…」
ワクチンマンはそのヒーローを指差すとそう告げた。
「趣味でヒーローをやっている者で名は “ サイタマ ” だ」
見た目通りに低く厳かな声でそのヒーロー、サイタマは答えた。
彼は怪人と戦うために体を鍛えた結果、筋骨隆々の逞しい肉体を手に入れたのだ。
「私は人間どもと、それが生み出した害悪文明を抹消するため地球の意思によって生み出されたのだ。当然、その中にはサイタマ、キサマも入っている!」
ワクチンマンが両手を左右に広げると、自分の周囲に十数個ほどの光球が出現。
それらが全て一斉にサイタマへと飛んでいき、接触、強い閃光を放ってからドーム状の爆発を幾重にも起こす。
「これで終わりか…?」
しかし、閃光と爆発が収まった後には……ヒーロースーツが破れ、上半身を露にした無傷のサイタマがそこに立っていた。
そのサイタマの姿に目を点にして驚くワクチンマン。
「いや、まだだ!」
軋む音を立てさせながら肉体を膨張、変化させ……人型から爪と牙を生やした巨大な怪獣の姿へと変貌を遂げる。
しかし…
サイタマが軽く振った剛腕の一撃で粉砕。
断末魔を残しながら、無数の肉塊となって辺りに散らばり絶命した。
「災害レベル「竜」の怪人をいとも簡単に……噂通り、いや噂以上の実力だな」
数名のヒーローを連れた黒服の男が静かに立っていた。
「私はヒーロー協会のシッチという者だ」
「ヒーロー協会…? 何だそれは?」
「……は? まさか君はヒーロー協会を知らないのか?」
「今、初めて知ったが…?」
シッチは絶句して、言葉が出ない。
今のご時世にヒーロー協会の存在を知らない人間がいるとは思わなかったからだ。
それでも気を取り直して…
「それじゃあ、本部に来ないか? そこでヒーロー協会について説明をしよう。替えの服を用意するし、食事も出そう」
「よし、行こう」
サイタマは二つ返事で同意し、シッチの後をついていった。
彼がこのあとヒーロー名簿に登録したのは言うまでもない。
(´・ω・)にゃもし。
サイタマは言いました「過酷なトレーニングをした」と……ならばボディビルダーのようなムキムキになっても、おかしくはあるまいて……