新学期を目前に控えた三月下旬。
家に教師を名乗る人が来た。

それは黄色いタコだった。
当然、家には入れず追い返す僕に、タコは縋り付いた。

「話だけでも! お話だけでも!!」




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働いたら負けだと思ってる

「ぬるふふふふ。こんばんは」

 

「…………あ、もしもし警察ですか?」

 

「ふやあああああああああ!!???????」

 

黄色の異形生命体が窓に張り付いていた。

迷わず手にする携帯電話。即座にコールする110番。

 

異形は泡を食ったように慌てていた。

窓の向こうで右往左往している。

 

「ちょちょちょちょ、これどうすればどうすれば」

 

「ええ。はい。不審者が。はい。窓に張り付いていて。はい。住所は――――」

 

「ストーーーーーーーーーーーップ!!!!」

 

気が付いたら手の中の電話は消えていた。

後ろを振り向くと先ほどまでと細部の異なる異形生命体。

 

「オホホッホ。ごめんあそばせ。うちの子がとんだご迷惑を。ええ。ええ。ええ、そうなんですの。もうこんなことがないようしっかり叱りつけておきますので。ええ。ええ。はい。お世話様でした」

 

会話が一段落し、ふうと一息つく。

触手の一つが汗を拭うような動作を取った。

 

「なんてことするんですか! 先生もう少しで逮捕されるところでしたよ!」

 

「自覚がおありの様で。前科つけるなら今ですね。どーれ家電家電」

 

「ノオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」

 

固定電話を求め一階へと走り出す。

黄色い物体がゴキブリもかくやの走法で天井を移動していた。

 

拮抗していたレースは階段で勝敗が決まり、一階に辿り着くころには子機が消え、本体は電話線から遠ざけられていた。

 

「まったく隙も油断もあったもんじゃないですね!」

 

「麦茶でも飲みます?」

 

「いただきます!」

 

台所で麦茶を淹れる。

途中、いつだか貰って放置していたBB弾の入ったケースを見つけた。

ジャラジャラと振りつつ、どうしたものかと悩む。

 

悩んだ末に、茶菓子に用意していたクッキーの横に流し込み、ケースはこれ見よがしにお盆の上に置いておくことにした。

 

茶菓子、麦茶、BB弾を黄色いタコのいる居間へと運ぶ。

 

「どうぞ」

 

「ありがとうございます」

 

黄色は一息に半分飲み干した。

よほど喉が渇いていたと見える。

 

コップに麦茶を注ぎ足しつつ、クッキーを勧めてみることにした。

 

「こっちもどうぞ。こないだ先生から頂いたやつです」

 

「おや、口に合いませんでしたか?」

 

「まだ食べてません。毒味ついでに食べてください」

 

「信用有りませんねえ」

 

BB弾を避けてぼりぼりと頬張る黄色。

顔色で緑の丸を作る芸当を見せてくれた。

 

一口齧る。

チョコの風味が口に広がった。

 

「チョコが……」

 

「チョコお好きでしょう? 外見からでは分からない物を選んでみました」

 

「ええ。まあ」

 

ぬるふふふと笑う黄色いタコは、悪戯が成功したみたいな笑顔だった。

これの何が悪戯なのかはようとして知れない。

 

しかし、その顔が妙に小憎たらしくて、僕は顔を逸らしてクッキーを頬張る。

クッキーは美味しい。

 

「今日はテスト返却の日でした」

 

「そうですか」

 

「順位を知りたいですか?」

 

「一位以外にあるんですか?」

 

「正確には同着一位ですがねえ」

 

受け取った解答用紙はそのまま資源ごみに。

見る価値は余りない。タコは無念そうに解答の生末を見送っていた。

やがて、気を取り直したように咳払いをする。

 

「さて、もう何度目か分かりませんが、しかし何度でも繰り返しましょう。学校に来ませんか?」

 

「もう何度お答えしたか分かりませんが、何度でもお答えしましょう。今は行く気ありません」

 

「これまた何度目の問いかけか。なぜです?」

 

「はたらきたくないでござる」

 

一口麦茶を飲む。

 

「と言うのはまあ半分冗談です」

 

「先生は君の将来が不安で仕方がないです」

 

「究極的に生か死かの二択です。しかも、どう転がっても先生より早く死ぬことはありません。先生の気にすることじゃないですよ」

 

麦茶のおかわりは?

もう結構です

 

「今の生活に満足してます。授業を受けずにテストで一位を取る優越感は止められません」

 

「君が家でどういう生活をしているのかは知っています。しかし、独学での勉強は効率が悪い。学校に来れば先生が手とり足取り教えますし、余った時間を有効に使うことができます」

 

「まあ、働かなくてもいいだけの財産があると言うのは幸運でしたね。不幸中の幸いですが」

 

タコは、何と言っていいやら分からぬと沈黙した。

にょろにょろと動く触手。口も波打つように蠢いていて、言いたいことはあるけど言おうかどうか迷っていると見える。

相変わらず分かりやすい人だった。

 

「先生。この後お暇なら一局どうです?」

 

部屋の隅に置いてある足つきの碁盤を指して尋ねる。

タコは碁盤を見やって快い返事をくれた。

 

「お相手しましょう。今日は暇なんです」

 

 

 

 

ぱちりと碁石が木に置かれる音が部屋に響く。

中指と人差し指の間から離れた碁石の色は黒。

先番は僕だ。

 

対するタコは白い碁石を器用に触手一つでつまんで置いていた。

当初、一手指すのに十分以上かけていたと言うのに、そのごろはその面影は影も形もない。

 

僕が黒でタコが白。

握るのが面倒くさかったため、置き石とコミのない定戦でやっている。

 

定石どおりに互いの暫定陣地を増やす序盤は既に終え、今は互いに相手の陣地を荒らす中盤に突入。

早々に、僕は打って出る。

 

「先生」

 

「はい?」

 

「この間、赤羽君からメールを貰いまして」

 

「はい」

 

「先生下着泥だったんですね」

 

びしりと強めに置かれた碁石。

顔を上げると、タコは汗が凄かった。

 

「せ、先生は生まれてこの方下着泥棒なんて一度もやったことないです!」

 

「写真が……」

 

「にゅやあああああああああああ!!??」

 

携帯の画面に映る、下着を物色する先生の写真と女装している先生の写真。

この二つを合わせてみれば、このタコは下着泥で女装趣味の変態としか考えられない。

 

懸命に携帯を奪おうと触手を伸ばす先生に、出来る限り腕を伸ばして抵抗しながら、僕は言った。

 

「……変態め」

 

「!?」

 

ショックで蹲るタコ。威厳が、尊厳がと嘆くタコ。

例えこの写真が作り物だったとしても、この醜態を見ればそんなものないと言わざるを得ない。

 

「嘘なんです違うんですこれは赤羽君の策謀で策略で罠なんですそもそも先生がこんなことすると思いますか!!」

 

「思います」

 

――――岡田君とどっこいどっこいのエロ魔人だと言う事実はすでに割れてるんですよ。

 

止めの言葉。

 

突きつけられた言葉に、タコは音もなく碁盤に縋り付く。

パラパラと零れる碁石。

 

当然のことながら、対局は僕の勝ちだった。

 

 

 

 

 

「先生。もう外も暗いですが、ご飯は食べていかれるのですか?」

 

「――――」

 

「先生?」

 

「――――あー。もうこんな時間ですか。いや、失礼。先生ぼうっとしてました」

 

「顔色がないですよ、先生」

 

白く白く。

なんだか影を背負ってしまったタコは、碁盤の前で正座しながら般若心経を諳んじていた。

 

色欲を根絶したいという気持ちは確かに伝わってくるが、しかしそれを失くしてしまうと、このタコは死にかねないのではないかと言う疑いがぬぐえない。

 

「先生。僕としては色欲の一つや二つあった方が人間味あると思いますよ」

 

「そうですか?」

 

「はい。多少エロくてもいいじゃないですか。むしろ男らしいのでは?」

 

「…………そうですよね! 多少性欲に溢れていようとそれこそが人間! 他人にとやかく言われる筋合いは――――」

 

「でも机の中にエロ本隠すのはどうかと思います」

 

「ぬわあああああああああんんでええええええ!!???」

 

絶叫のバリエーションが豊富だ。

ちなみに、情報源はこれまた赤羽君である。

 

「まあ、教育者として節度を保ちましょうってことですよ、先生」

 

「……はい」

 

「机にエロ本どころか、岡田君のエロ本トラップに引っかかるのは節度を持ってないってことですよ?」

 

「はい。マッタクソノトオリデス」

 

「ですから、ほどほどにしてくださいね?」

 

「はい。ガンバリマス」

 

ようやく一段落した会話。

もう一度、さっきの問いを尋ねる。

 

「それで、ご飯は食べて行きますか? 食べるんだったら作りますけど」

 

「いえいえ、お気遣いだけ十分です。私はこれから行きつけの飲み屋にでも行ってですね――――」

 

「そうですか。じゃあ今日は一人寂しく食卓囲みますね。…………さみしいなあ」

 

「ぜひご相伴に預からせてください!」

 

そんなわけで、タコと仲良く食卓を囲むことになった。

なのでこれから料理を作る訳なのだけど、折角タコもいることだし、作った事のない料理を作ってみることにした。

もちろん、タコにも手伝ってもらう。

 

「これ切っておいてください」

「お任せあれ!」

 

「先生、卵取って下さい」

「はいはい。どうぞ」

 

「あ、塩ないや……。先生?」

「いってきます!」

 

「ただいま戻りました!」

「おかえりなさい。はい先生、あーん」

「あむ。……いい塩加減ですねえ。あれ? 塩」

「ああ、あの容器砂糖でした」

 

「先生、これ火加減が」

「このくらいですかねえ」

 

「先生の触手って食べれるんですか?」

「食べれません。……食べれませんよ? ちょっ、包丁!?」

 

そんな料理風景。

タコは音速越えて動けるので、アシスタントとして中々優秀なのだ。

加えて料理の知識も豊富ときている。

 

異形生命体の癖に、どうしてこうも頼りがいがあるのだろう。

 

「美味しくできましたねえ」

 

「美味しいですね」

 

自分で作った料理に舌鼓を打ちながら食べる。

居間では、スプーンやフォークが食器と触れ合う音以外にも、ニュースキャスターの無駄に爽やかな声が聞えている。

 

遠くで、大きな火事があったらしい。

 

「――――先生。飲み屋に行かれるんですか」

 

「ええ。小さいながら趣のあるお店でして、気に入っているんですよ。その店の女将さんの娘さんが渚くんに似ていると言うのも理由の一つですねえ」

 

渚くん。

同じクラスの女の子っぽい男子。

よく中村さんに弄られている。

彼に似ているということは、きっと可愛い子なのだろう。

 

「お酒飲むんですね」

 

「私も大人ですから、付き合いで飲むこともあります。大人の付き合いと言うやつですねえ」

 

「お付き合いの相手は暗殺者ですか」

 

「そうです。よくおわかりで」

 

アルコールを摂取して酩酊するのか非常に興味のある話だった。

多分容易く分解してしまうのだろうけど。

 

「料理酒ならありますけど、飲みますか?」

 

「生徒の前で飲酒など――――」

 

「まあ細かいことは気にせずにぐいっと」

 

「ちょ、まずいですって――あ、何か浮いてる!?」

 

対タコ用に用意した料理酒。

料理にも入っているのだが、大して効いていないようなので、手っ取り早く飲ませてしまうことにした。

タコは大きく抵抗したが、生徒の酌に嫌とは言わせぬと強引に飲ませる。

 

数分後、すっかり出来上がり顔を赤く上気させたタコ。

その様はまるで茹蛸のようだ。

 

茹でタコはゆらゆらと情けなく触手に揺らしながら、テーブルに突っ伏してしまっている。

 

これならやれるかと試しにナイフで斬りかかってみたが、残念ながら全て躱されてしまった。

気分が悪くなるから攻撃しないでとしがみ付かれなければいけたかもしれなかったが。

 

「先生ってお酒に弱いんですね。気分はどうですか?」

 

「ううん……。申し訳ないですが、凄く悪いです」

 

「そうですか。トイレはあっちですよ。

 ――――あと、飲ませておいてすみませんが泊まるのは無しにしてください。身の危険を感じるので」

 

「わかってます。生徒の家に泊まることはしませんよ」

 

言いきってトイレに向かうタコ。

足止めして困らせて見たくもあるが、吐かれては面倒なのでしないことにする。

 

『おぼろろろろ』

 

聞える音に、耳を塞ぐ。

テレビの前に体育座りして、少しでも聞くまいと頑張ってみる。

 

ニュースは、いつの間にか終わっていた。

 

 

 

「家まで送っていきましょうか?」

 

「いえ気持ちだけで。もう遅いですし、少々遠いので」

 

少し気分が良くなったらしいタコは、トイレを出て早々「帰ります」と言って玄関に直行した。

今や青くなった顔色を見ながら、今日は色々な色が見えたなと思う。

 

「ああ、忘れるところでした」

 

帰ろうと玄関から身を乗り出したタコはそう言って振り返る。

何かなと首を傾げると、放たれた言葉は数時間前に言われたのと同義のものだった。

 

「明日、学校に来ませんか? みなさん、あなたが登校するのを待ち遠しく思ってます」

 

僕はちょっとだけ考える。

そしてタコの眼を見ながら答える。

 

「明日のことは、明日考えます」

 

その答えに、先生はちょっとだけ微笑んで「お邪魔様でした」と去って行った。

一瞬でいなくなったタコを見送った僕は、居間に戻ってソファに寝転がる。

 

指折り数えて必要な物を考えていた。

教科書と筆記用具と、あとは……。

 

「ああ、帽子どこだっけ」

 

前に被ったのは一週間前だった。

テスト最終日に被ったのが最後だ。

帰ってきて、脱いで、どこにやったっけ?

 

まあ、いいや。

明日の支度は明日しよう。

 

そう思って、眼を閉じた。

 

 

 

 

 

 

「お、さとりちゃんじゃん」

 

聞えた声は、相変わらず人を小ばかにするような調子のものだった。

 

「赤羽君……。そのニックネームはやめてって言ったよね」

 

「なんで? 可愛いじゃん。さとりちゃん」

 

「仏教徒に失礼だからだよ」

 

僕の答えに、赤羽君はくすくすと笑う。

僕は彼の手にあるいちご煮オレが気になって仕方がない。味が想像できない。

 

「ふーん。今日は学校来たんだ」

 

「タコ――おっと。先生に来てくださいって懇願されちゃってね」

 

「はは。殺せんせーのやりそうなことだねえ」

 

校舎までの坂道を歩く僕ら。

山の中にあるぼろ校舎に行くには舗装のされていないこの坂道を登るしかない。

軽い運動には持って来いである。

 

けれど、僕は普段運動しなかったり色々あるので、すぐに赤羽君の速度に付いていけなくなった。

赤羽君は横目に僕をちらと見て、少し速度を落としてくれた。

 

「やっさしい」

 

「いやいや、俺は基本優しいよ。弱い子にはとくにね」

 

「へえ。初耳だねえ」

 

右手の腕時計に目をやる。この調子で歩くとどう考えても遅刻だった。

 

「合法的な遅刻だね。どこか寄ってく?」

 

そう問うて見れば、赤羽君は考えるように右上の方に視線を逸らした。

こんな山道でどこに寄ろうというのか。

考えるまでもなく冗談だ。

 

赤羽君はニヤッと笑って。

 

「男とふたりっきりでどこ寄ろうってんだい?」

 

予想していた回答は何故か背後から聞こえてきた。

どんっと軽く押されて振り返ってみると、そこには同じクラスの中村さんがいた。

彼女はラッキーと額に汗を浮かべて笑っている。

 

「いやー、ここでさとりと会えて良かったよ。これで遅刻せずに済むってもん」

 

「お役に立ててい嬉しいよ」

 

僕は帽子を脱いで額の汗を拭う。

今日は日差しが強く、けれど風は余り吹いていない。

これぞ夏って感じの天気だった。

 

「あれ。それジャイアンツの帽子じゃん。さとり、前阪神の帽子被ってなかったっけ?」

 

「両方持ってるよ。いつか両方の帽子を被って野球場に行くのが夢でね」

 

「うわあ……。殺されるよ? ご愁傷さま」

 

「その時は赤羽君が守ってくれるよ。ね」

 

「うん? いいよべつに。小遣い稼ぎには持って来いだ」

 

「取り分は3:7で」

 

「1:9。さとりちゃん何もやってないのに欲張りすぎでしょ」

 

そんな風に他愛のない会話をしながら校舎へ向かう。

ようやくたどり着いたときには登校時間を大きく過ぎていて、すでに1時限目が始まっている時間だった。

 

「1時間目は?」

 

「英語。ビッチ先生だ」

 

「ああ、なら適当に職員室で時間潰そうかなあ」

 

「何言ってんの功労者。あんたはとっとと教室行きなさいよ。みんな待ってるんだから」

 

中村さんの言葉に、僕は訝しんだ。

 

「僕何かしたっけ?」

 

「詳しい話は教室で」

 

ぐいぐい押す中村さん。

全身から喜色が滲み出ている辺り、ドッキリとかではないようだ。

困惑して赤羽君に視線を送るも、彼は肩をすくめるだけ。

 

本当に、特に喜ばれることをした覚えのない僕としては当惑が大きく出てしまう。

昨日、タコは何か言っていただろうか。

 

いくら思い出そうとしても痴態と醜態しか思い出せない。

多分、あのタコ今日は二日酔いになっているんじゃないだろうか。

 

その予感は、勢いよく開かれた職員室の扉。

その先で机に突っ伏していたタコを見て、当たったのだと知ることが出来た。

 

「ああ……、中村さん、赤羽君。それに佐藤さん。来てくれたんですね」

 

青白い顔色に掠れた声。

どうやらこのタコは、二日酔いが重いタイプらしい。

 

「殺せんせー、どったの?」

 

「元気ないねえ殺先生。元気出してあげよっか?」

 

ナイフで切りかかる赤羽君は、タコの悲鳴を聞いて愉悦の表情を深めた。

しばらく自由に切りかからせた後、頃合いを見て中村さんが止める。

 

「それでどうしたの? 具合でも悪いん?」

 

「いやあ、ただの二日酔いです。お気になさらず」

 

それを聞いて、ニヤリと笑った二人。

今日一日、タコは苦しむことになるだろう。

 

「先生。どうやら僕が何か貢献したようなんですが、何か知っていますか?」

 

「ええ。知っていますよ」

 

ニヤリと笑ったタコは触手をくねくねと動かして説明を始めた。

とは言っても話は簡単だ。

 

『テストで教科ごとに一位を取った人には、触手を一本破壊するご褒美が!』

 

と言う事らしい。

昨日一本破壊してしまったのだが、それはノーカウントでいいのだろうか。

 

「はー。話は分かりました。僕も何か一位を取った教科があるんですか?」

 

「佐藤さんは数学と英語ですね。ええ、おかげで触手9本です」

 

「はあ……。そうですか」

 

返事をしてから少し考えて。

 

「あ、いやちょっと待ってください。ご褒美ってことは僕が破壊しなきゃダメなんですか?」

 

「ええ。それはもちろん」

 

「その褒美を誰かに渡すとかは――――」

 

「もちろん駄目です」

 

ぐっと息を詰まらせる。

そして辞退しようと口を開きかけたとき、両肩に重みを感じた。

 

「ま、さ、か。いらないなんて言わないよねえ?」

 

「そんなこと言わないわよお。ねえ、さとりい?」

 

悪魔の様な二人がそこにいた。

元々悪魔みたいなものだったけど、ここ半年で余計に悪魔っぽくなっていた。

頭の上に角が見える。スペード型のあれが。

 

僕は二人の圧力を直に受けて、やがて諦めたように息を吐いた。

観念した僕を、二人と一匹は微笑ましく見ていた。

 

せめてもの苦し紛れに、僕は呟く。

 

「働きたくない」

 

呟いてみて、虚しすぎる言葉だと気付き、余計に気が重くなった。

 


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