艦隊これくしょんの初期艦の一人である電ちゃん。
彼女はどうやら、ずっとずっと愛に飢えているようです。
カッコカリでは満足できないのかな?

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阿武隈ショック!


勢いのある電ちゃん

 暁型4番艦、電は提督に恋をしている。

 

 姿形こそ幼子のそれであったとして、彼女が身を引く理由足りえるわけがない。その身に抱く恋慕や情愛は成熟しきったそれであり、提督という男性の体と心が繋がることを、その魂の底から渇望している。

 提督を愛したい。提督の愛をその身に受けたい。いつでもどこでも触れ合って、その優しげな声と体に身を委ねていたい。肉欲にも似た渇望は常に彼女の心を濡らし、唇を潤わせる。見上げた視線はいつも熱っぽくて、普段の皆に見せる姿よりもよほど女らしい姿である。

 

 その願いが通じたのか、電は左手薬指に銀色に輝く輪を賜ることとなる。

 他の艦娘は嫉妬したが、すぐさま提督の判断を尊重し、多少の悔しさを舌の付け根まで飲み込んで祝福する。それらを受けた電は気恥ずかしく、そして申し訳無さがあったが、それ以上に自分ただ一人を選んでくれた提督へいっぱいの愛情を爆発させた。

 

 思えば、そのケッコン式場カッコカリでの騒動が始まりだったのだろう。

 提督に向かって飛び込んだ電は、大胆にも提督の唇を()()奪い返したのだ。

 深く、ねっとりと、普段の彼女が見せない情欲と愛を込めた濃厚なそれに、他の艦娘は顔を赤くしてその光景を見つめていた。しかし、誰もが止めるなどということは出来なかった。

 

 電は、彼女は長い長いキスから開放した提督と顔を離して、そこでようやく自分のしでかした事に顔を真赤になりながら縮こまったのだ。

 なんだ、いつもの電じゃないか。あれは嬉しさが爆発しすぎたんだ。貯めこむ娘だったんだ。……口々に艦娘は言う。だから、これが始まりであることを見逃していた。

 

 駆逐艦、電は提督を愛していたのだ。

 仮初の婚約程度では満足出来ず、かと言って未成熟な身体では、肉体で繋がれない不満をそのうちにずっと抑え続けるしか無い。形こそ正しく見えて、その実溜まりに溜まった彼女の欲望はケッコンカッコカリを境に少しずつ……あふれ始めていた。

 

 提督を電の色に染め上げるよう、少しずつ、ゆっくりと。

 侵食し、同化するように。呼吸をするように、遅々とした歩みで。

 

 

 

 

「司令官さぁん」

「電……い、今は執務中だ」

「えへへ」

 

 司令官の膝に乗っかって、その胸板にスリスリと頭を擦り付けて。

 電はとても幸せなのです。

 司令官さんも拒まない。駆逐艦、電はとても幸せなのです。

 

 執務室に甘えた少女の声がとろけるように響きあって、困ったような男性の声が上乗せされる。傍目不釣り合いな二人は、しかし幸せ絶頂といった具合にいちゃついていた。それはもう、見るだけで胸の奥が突き上げるような疼きを覚えるほどに。

 

 暁型4番艦の電。この鎮守府の提督がケッコンカッコカリの相手に選んだ艦娘で、この鎮守府で唯一、薬指に愛の証を煌かせることが許された少女。戦いの中ではその銀の煌めきを魅せつけるように光らせ、なぜか動きが止まる深海棲艦を破竹の勢いで倒していく活躍が増えてきていた。

 かつての相手も助けたい、と言った甘い感情は、提督だけの甘い愛情にすり替わったのだろうか。他の艦娘たちがそんな噂をするほどに、電という少女は強くなり、しかし艦娘たちにとって何一つ変わっていない女の子だった。

 

 はぁ、と電の吐息が提督の頬にかかる。

 熱い息は僅かに頬を湿らせて、それからまた電は目をつむる。全身を提督に預けながら、彼の中に流れる鼓動を感じる。

 提督は、そんな電に少しばかり浮かび上がる情欲を、しかし首を振ることで霧散させる。

 

 この少女はまだまだカッコカリ。いつかは自分よりも相応しい人が現れるだろう。ファーストキスどころか、ディープなそれまでしてきたのには驚いたが、若さのなせる思い切りだ。寂しいのは否定しないが、それでも何時かは離れるべき。だけど、今は存分に彼女の幸せを尊重しよう。

 そんな提督の感情とは裏腹に、電は閉じた目の下では瞳をうるませて、喉の奥からこみ上げるような幸福感と、胸の奥の疼きをもっと感じたいと言わんばかりに提督に抱きついた。猫のように丸まっていた彼女は、今やその小さな両手で成人男性の脇腹にすがりつくように抱きついている。

 

「電、少し書きにくいんだが……」

「はわわっ、ご、ごめんなさいなのです!」

 

 少し困ったような声を出したのが失敗だったのだろうか。途端に萎縮してしまって、先程まで感じていた幸せそうな表情を引っ込めてしまう電。提督は、やってしまったか、ともっと電の幸せを感じる表情を見ていたいと思っていた自分を認識して、耳の先が真っ赤に充血するのを感じた。

 抱きついているのだ。彼の鼓動が早くなって、恥ずかしさを紛らわせているのは電にもとてもよく伝わってくる。

 電は提督を見上げて、開いた目の中の潤んだ瞳を震わせた。視線に気づいた提督は、官能的な彼女の女らしい仕草にグッと胸を締め付けられて、ふっ、と一度だけ荒めの息を吐き出した。

 

 電は提督の顔に自分の顔を近づけて、互いに湿りはじめた口と口を近づけた。

 提督も、書類仕事中だということを忘れるほどに見入って、電の近づいてくる琥珀色の瞳にそのまま吸い込まれそうな錯覚を覚える。深く深く、地のそこで眠り続けて太陽を受けた宝石。琥珀の歴史の中に自分が触れた。不思議な感覚は、口に触れた柔らかな感触で断ち切られる。

 

「あ……司令官、さん……」

「……っ」

 

 生唾を飲み込んで、確かめるように指を唇になぞらせる。

 キスしてしまった。電と。

 彼女は、両手で口元を隠すようにしているけど、真っ赤に染まった頬までは隠せていない。あまりにも愛おしく、触れれば壊れてしまいそうな程に尊い彼女は、しかし現実であることを再確認するかのように接近してきた。

 

「んっ」

 

 電はもう一度首を起こして、提督の首にしっかりと手を回した。

 そして目と目がぶつかりそうな距離で、提督の唇を奪い、ぬるりと舌を入れ込んだ。

 ディープキス。戸惑っている提督の舌を拾い上げて、電は自らの意思で舌を絡めあった。より深く繋がりたい、電の出来る精一杯の行動だ。その小さな体躯では、提督と肉体的に繋がるにはあまりにも無理がある。だから、彼女はその隙間を埋めるように、提督のいつか別れるべきという感情を引き戻すように提督を捕まえて離さない。

 

「ぷ、はっ」

「はっ、はっ……」

 

 それから一分。永くも思えた彼女らの深い接吻は終わりを告げる。

 提督の唾液がついた唇を愛おしそうに、電という少女に似つかわしくない積極さでぺろりと舐めた。

 

「ん、司令官さぁん…愛してます」

「電……」

 

 彼女はまた甘えたように、頭を提督の胸板に擦りつけた。

 先程までの大人がするような行動とは裏腹に、提督はただただ優しく幼子に違いないはずの電を撫でて、優しげな手つきでその髪を梳かした。うぅん、と気持ちよさそうに身を震わせる。

 この少女が幸せであるのなら、と。提督は電の未来を思い浮かべて、その隣に彼女の理想的な男性――自分が本当の婚姻の場にいる姿を想像し、

 

「だ、だめだ。私では……ダメの、はずなんだ」

 

 満足したのだろうか。その意識を眠りに落とした彼女を起こさないよう、ゆったりと態勢を直した提督は、雑念を払いのけるように執務を再開する。

 

 それにしても、こういうものなのだろうか。女性経験が無いゆえに判断が付かないが、それにしても異常ではないのだろうか? 提督は疑念を頭に浮かべながら、これまでの電の行動、そしてキスや愛情を全身で求め、与えてくる彼女の行動を思い出す。

 ケッコンカッコカリをしてから、彼女はタガが外れたように今のような行為を毎日求めてくる。今まで見せていた臆病で、少し気弱な少女の姿は、今や提督の前では見せることはない。

 提督を求め、提督に求められる。そんな関係でありたいのだと、カッコカリの夜に電は語った。艦艇としての記憶、救えなかった記録、そして今の自分。そのすべてをひっくるめて、人としての姿を得た電は、提督に偏愛をぶつけていた。

 

 それでも、提督は不思議と彼女を引き離すことは出来ない。

 電は提督に溺れ、提督を溺れさせて、いつの間にか異常だと思っていたはずのそれは日常の行動にすり替わっていった。幼子であるはずの電に、深い深い接吻と性交に至らずとも身体を擦りつけ合う。そんな行為は毎日毎日……。

 

 ただ、幸せに眠る彼女の顔を見て、あの情欲に塗れた電の表情を見て、突き放すことなど出来るはずもなかった。突き放す、出来ない。ああ、そうなると、もしかしたら。

 

 提督はただ天を仰いで、その変わらぬ天井のさきを見つめる。

 

 

 

 

 司令官さんは優しくて、大きくて。

 包み込まれるあの瞬間が好き。電は、司令官さんだけが好き。

 交わした口と、絡みあう舌が好き。電は、もっと司令官さんに愛を注ぎたい。

 前よりずっと、わがままな子になっちゃったのです。

 でも仕方ないよね。司令官さんは電を選んでくれたのです。

 仮だなんて関係ない。電は、深く深く深海の底まで、彼と一緒に居たい。

 

「だから、邪魔なのです。司令官さんと電の時間を奪わないでください」

 

 火を吹いた砲塔は、深海棲艦をもう一度海の底へと叩き落とします。

 電は強くなってしまったから、だからこうして戦うことも増えました。

 もしかしたら、司令官さんは電を遠ざけるために…?

 そんなことを考えて嫌になります。司令官さんだって、電の事をあんなにも愛してくれている。唇に答えてくれる。その手は電を撫でてくれる。精一杯の愛のささやきを、司令官さんは受け取ってくれるのです。

 

 本当に、本当に幸せな時間。電が大切にしたい時間。

 だから―――それを邪魔するものは。

 

「Wow! 流石は電デース! 今回もMVP持って行かれちゃったネー!」

「金剛さん、あ、ありがとうなのです」

「いいのヨ! テートクが選んだ子に間違いは無かったってことネ! もっと自信を持って自分のしたいようにするべきデース」

「したいように……」

「But、ケッコン式で大胆な事した電には余計なお世話かもしれませんネ」

 

 金剛さんが言うとおりなのかもしれません。

 もっと、電は自分の感情を伝えてもいいのかな。ううん、もっと、提督にも本気になってもらいたいのです。だから、提督の前だけじゃなくて……。

 

「ありがとうなのです金剛さん。もっと頑張りますね!」

「Good Luck! 電のこれからの活躍も期待してるヨ!」

 

 頭を下げた電は、軽い足取り軽い表情で帰投する。

 金剛としても悔しさはあるが、彼女と提督の幸せを邪魔するなんて無粋な真似をするつもりはない。それに、金剛も提督が電にイマイチ本気になりきれていないことに気づいていた。だから、そんな年齢差だとか、風聞だとかを関係なく金剛は応援するのだ。

 金剛が抱く思いはバーニング・ラヴ。燃え上がるように情熱的で、直球で、身を焦がすような危ない恋。それを体現する二人を応援しないなんてことはありえない。

 

 しかしそれは、焚き火に原油をぶちまけたに等しい行為であることを知らない。

 彼女の言葉を受けた電が、これからどういう行動に出るのかも。

 

 そして後日。朝早くにいつものようにやってきた電は、すでに執務室に座っている提督の元を訪れる。

 ぴょんと跳ねるように膝にのって、頭を擦り付ける。そしてまた深いキスをねだる彼女の行動はいつものことだ。当たり前になった非日常的な行動を、提督は当たり前のものとして受け入れて、また深い接吻を交わした。

 ここまではいつもどおりだったろう。だが、この光景はいつもこの早朝にのみ見られたそれだ。他の艦娘が訪れたり、艦隊出撃の際には流石の電とてリミッターを設けていたはず。そう、そのはずだった。

 

「―――では、本日は足りない資源を集めるためオリョール海へ出撃してもらいたい」

「了解なの! イクの魚雷がウズウズするのね!」

「はやく行こうよでっちー! ろーちゃん頑張りますっ」

「ひ、引っ張らないでよお。あとでっちは止めてって言ってるでち!」

 

 ひときわ騒がしい潜水艦の艦娘たち。

 秘書艦である電は、その光景を見ながら自分の中に渦巻く欲望が在ることを感じた。

 

 もし、この場で司令官さんと朝のキスをしたらどうなるんでしょう。

 キス。もっと愛して、誰もが認めるくらいに愛し合う関係になれたら。

 

「ひゃっ……」

「わ、わああ……大胆、でち」

 

 電が考えている間に、身体は勝手に動いていた。

 ばっと飛びついた電は、提督に負担が掛からないようにしながらもしっかりと腕を首に回し、提督の唇に触れていたのだ。

 自覚した彼女は、高鳴る鼓動と見られている恥ずかしさにあの時を――ケッコンカッコカリ式場の場面――を思い出す。あの時にも同じように、この身を焦がすような熱が訪れていた。それは、今のコレと似たそれではなかったか?

 

「は、ん……ちゅ……」

「いな……づ」

 

 喋らせる隙なんて与えない。

 

「愛しています、司令官さん」

 

 一息に言って、目を瞑る。

 また口を重ねて、その舌をねじり込んだ。

 ドッドッドッ、と鼓動が重なる。早く打ち鳴らされる心臓の鐘が、電と提督の間で重なりあうように彼女は感じていた。

 潜水艦娘たちは顔を赤くしたまま、各々の恥じらい肩をしながらそれに見入っている。

 

 やがて、ぷはっと根負けした電が、唾液をポタポタ垂らしながら提督から離れた。

 荒くなった息を引きずりながら、首から降りた電は提督の身体に寄りかかって、ようやくこの場に観客が居ることを思い出す。

 

「っあ…みなさん、いってらっしゃい、なのです」

「~~っ! い、いい、行ってくるのね!」

 

 全身まで真っ赤になりそうに、宛てられた彼女らは足早に執務室を後にした。

 そして提督は、思いもよらなかった電の行動に驚き、自我を手放し、そしてようやく自分の意識を取り戻した。

 電が一体何をしでかしたのか。それを自覚して電に言葉を掛けようとするが、想像以上に高鳴る自分の心臓に押し負けて、それよりも心臓の上辺りに感じる疼きがこれまでの比では無いことに気づいて、言葉にならない言葉があ、う、と漏れる。

 

 息も荒く、顔も赤くなった電が見上げていることに気づいて、提督はその目を覗き込んだ。覗き込んでしまった。

 

 琥珀色の瞳の奥に、自分が映っている。彼女の目の中で囚われたように、まるでこの身は電だけのものであるかのように。顔なんて見えない。本当に、その意識から肉体まるごと飲み込まれ、閉じ込められたような自分の映し身が電の瞳に嵌めこまれていた。

 

 ぞわり。提督の背中を寒いものが通りすぎる。

 何を馬鹿な。こんな体躯の小さな少女に、今は艤装を背負っていないため、本当に普通の少女と変わりない電に恐怖したとでも言うのだろうか。

 一歩だけ引こうとした自分が居ることに気づいて、その僅かな隙を塗って電は再び唇を貪った。水音が響く執務室を見るものは誰もいない。だが、電はこれまで以上に高鳴る己の中の何かに軽い快感を感じながら、少しだけ涙をこぼした司令官をキスから開放する。

 

「だめ、ですよ司令官さん」

 

 優しく、微笑んで彼女は言う。

 

 司令官さん。電は怖いモノではないのです。

 あなたが愛おしくて、愛おしくて、たまらないだけなのです。

 だから、今はもっと司令官さんを全身で感じさせてください。

 いっしょにいたいのです。司令官さん。

 

 彼女はすっと後ろに回って、腰に腕を回すとピッタリとその体をくっつけた。提督自身あまり背丈が在る方でもないため、臀部よりも上の方に電の顔が埋まる感覚が彼の背中を伝ってくる。

 ああ、姿が見えない。だけど、温かい。

 思い通りなのかもしれない。でも、本当に愛情を示してきて、誰かにそれを魅せつけるようにしてまで。電という少女はそれだけ本気なのだろうと、提督の心のなかにストンと落ちる感情があった。

 

「ね、司令官さん」

 

 微笑んでいるのだろう。顔が見えなくてもわかる。

 優しく、ささやいた声は消え入るような小ささなのに、確かに提督の耳へと辿り着いた。耳を端からするりと撫でまわすような彼女の優しい声に、提督は安心感と伴侶に感じるような愛情が湧き上がってくる。

 その小さな体躯に対する情欲、肉欲ではない。もっと尊くて、彼女とただただ一緒にいたいと思うもの。これまで決して目を向けようとしていなかった、提督自身が遠ざけていた感情。

 

 電もまた、彼から伝わる身体越しの暖かな視線に気づいた。

 

 ああ、ようやく届いたのですね。

 電はとても満たされているのです。

 司令官さん、電をもっと愛してください。

 もっともっと強く、あなたと一緒にいたい。それだけで。

 

 こうして彼らは一歩だけ、前進したのだろう。

 共に歩んだはずの一歩を。……あまりにも、差異のありすぎる一歩だけ。

 

「今日は、あと一回だけ……」

「電」

「一回だけ、ですから」

 

 もう何度目の接近だろうか。

 提督の目の前に広がるのは、愛おしいと感じ始めたばかりの電の顔。

 今度こそ、電と心の通じあったキスで最後にしてしまおう。

 自分の感情を意識し始めた提督はそんな綺麗な感情で締めくくろうとして、彼女の瞳をまた見てしまった。

 

 先程よりも透き通って、本当に提督の姿しか入っていない瞳。

 見つめるほどに背筋が強張って、なぜか緊縛されているような感覚が全身に駆け巡ってくる。だから、止まってしまった提督の代わりに電はムッとしたように目を伏せて、すぐさま提督の唇に吸い付いた。

 提督は思う。この感覚。ドロドロに融け合ってしまいそうな、電から与えられるこの感情。なんだろう。愛という尊いものであるはずなのに、なぜこうにも底冷えするのだろうか。その瞳の中の自分を見る。なにもないのに、縛り付けられているような。なにもないのに、妨げられているような。

 

 これが、彼女の中の自分なのだろうか。電の中では、自分はこうまで何も出来ない男なのだろうか。ああ、でも柔らかい。今は彼女とふれあうこの感触に。

 

 指が絡まり合って、同じ目線の彼らはただひたにキスを続けていく。

 長いキスだ。永久にも続くような。こぼれた唾液が顎を伝って、荒々しい吐息と水音だけが部屋の中に響き渡る。いつの間にか片手で抱き合った二人は、片や暖かな全身を委ねて、片や寒気の走る感覚に精神を委ねて、互いを補完しあうかのように口をつなげていた。

 

「はっ、は、はぁっ……はっ」

「ふぅっ、ん、はぅ、ぁ」

 

 キスを解いた二人は、よろよろと近くの壁に寄りかかる。こらえきれずに切れた緊張の糸は、そのまま彼らの足に伝わって、ずるずると壁を擦りながら二人は座り込んでしまった。すっかり腰が抜けてしまったようである。

 荒い息を吐きながらも、その吐息と心音は重なりあっていた。彼らは固く結んだ両手の指を絡ませて、各々の違う感情を込めながら相手を見据えている。

 

 愛おしくて、愛おしくてたまらない提督。彼と本当に心が繋がり合って、幸せが溢れて、わけがわからなくて。でも、この感覚に身を委ねていたい。電は、提督と一緒に入られるこの時間が、やっぱりいちばん好きなのです。

 

「司令官、さん」

 

 体力が続かなかったのか。他の何かが要員か。

 電は幸せそうに微笑みながら、その意識を落としてしまう。

 どこまでも優しくて暖かな提督の脈動を感じながら、いつまでも、どこまでも一緒にいられるような幸せな夢を浮かべて。

 

 

 

 

「信じられないったら!」

 

 執務室に少女の声がビリビリと反響する。

 その声の持ち主は駆逐艦の霞という少女だった。彼女は、何かと口汚く提督の事を罵っては「クズ司令官」などと呼んでいる。

 彼女が怒りを見せている理由としては、最近電が新しい習慣とした、他艦娘の前での濃厚な見せつけるようなキスが原因だった。なんせ、彼女も電と同じくらいの年頃とはいえ、持っている貞操観念は初心なそれである。色々と常識を飛ばしたような電の積極的な愛情のアタックは、彼女にとって刺激が強いようであった。

 

「な、なんだってあんな…電もなにしてるのよ!?」

「電が、したいと思ったからですよ?」

「な、あーもう! ほんとバカばっかりじゃないのよ!」

 

 何かを言おうとした提督を、電は小さく微笑んでキスして止める。

 深いものではない唇に触れるだけのものであるが、電は提督の行動を止めるようにそうして唇を塞いで、微笑んではその瞳を提督に向ける。その度に提督の心は締めあげられるようにして、目の前の艦娘達に申し訳ないと思いながらもついつい電に流されて愛を返してしまうのだ。

 

 大胆。そして物怖じしなくなってきた電に、もはや前までの面影はあまりない。その丁寧な口調と仕草は変わらないが、それ以外の内面は大きな変化がもたらされている。

 だから、ほっそりと噂されていたはずの二人の蜜月は、今や鎮守府中に知れ渡る甘い関係と相成った。それを聞いて確かめに来た霞が、こうして予想以上の二人のちぐはぐな関係に顔を真っ赤にしているのである。

 

 これ以上、何も言えることはなくなってしまったのだろうか。耳の先まで真っ赤に染め上げた霞は頬を少し膨らませて、言葉にならない声を貯めこんだままに執務室を去ってしまった。逃げるような足取りで乱暴にしめられたドアが大きな音を立てて、提督の隣にいた電はビクリと体を震わせる。

 

「これで、皆に知られちゃいましたね」

「そうだな」

 

 恥ずかしそうに照れる電。そんな彼女を落ち着かせようと頭を撫でると、彼女は目を細めながら提督へ笑顔を向ける。その瞳の中に映った提督の姿は、やはり底冷えするような何かを感じさせる、囚われた姿。

 

 司令官さんをあんな風に言うなんて電には出来ません。

 どうして、電は司令官さんをこうとしか呼べないのでしょうか。

 怒らせるつもりはないのです。一緒にしたいのです。

 望むなら、頑張って司令官さんを罵ります。

 それが電の与える愛になるなら。

 今だけは霞さんが羨ましいの。

 電ではそう呼ぶことはできないから。でも、司令官さんの……

 

 覗き込んでしまえば戻ってこれないような感覚が癖になって、提督は電の瞳の中の自分をよく見ようと顔を近づける。電はまってましたと言わんばかりに食らいついて、提督の唇を貪った。

 何度も何度も、何度も何度も繰り返されるうちに提督は思うのである。囚われているのは瞳の中の自分ではない。こうして電の腕の中に収まっている自分なのではないだろうか。

 

 ああ、何時かは繋がるのだろう。心も体も。

 だが、今はこの浅くも満たされぬ関係に身を委ねて、彼女とともに鼓動を刻みたい。提督はいっそう電の背中を包む手を寄せて、彼女の名を呟いた。

 

「電……」

 

 司令官さんが電の名前を呼んでくれる。

 あの人が、電を求めてくれる。

 受け止めた愛を絡めて、返して、受け取ってくれる。

 ずっと、ずっとこの時間が続けばいいのに。

 

 でも、ずうっとこうしているのはダメなんて。

 司令官さん。愛しています。もっと触れてください。もっと、もっと。

 一緒にいてください。

 

 

 

 

 いつかの時間の果てに、電は幸せを得ることが出来たのでしょうか。

 その結末はまだまだわかりません。

 でも、司令官さんはずっと一緒にいてくれました。

 

「司令官さん、まだここにいたのですね?」

 

 寂れた執務室。脅威が消えて、役目を失った鎮守府。

 一緒にいたいと思った司令官さんは、変わらないままに電を。

 

「待ってて、くれたの? ……ありがとう」

 

 はぁ、と彼の唇を貪りつくして。

 たらりと透明の橋が崩れ落ちました。

 重なる吐息と心音が、司令官さんがここにいるって。

 電は、幸せだなあ。

 

 意識は、暗転した。

 





とある放送で話してたらインスピ湧いたので書いた
後悔はない。ただ、ちょっとワンパターンかな?

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