足したけど2で割らなかった   作:嘴広鴻

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後日談

 

 

 

「久しぶり、依子」

「うん、そうだね」

「ハ、ハハハ……ゴメンね。今まで騙していて。

 けど嘘って思われるかもしれないけど、私は依子のことはホントに友達だと思ってた。その……喰種にこんなこと言われても迷惑かもしれないけどさ」

「ううん、そんなことないよ。(喰愛読んだし)私、トーカちゃんのこと信じる」

「……あ、ありがとう、依子」

「だから、これから私の言うことも信じてくれる?」

「うん! 依子の言うことなら何だって信じるよ!」

 

 

 

 

 

「田畑くん、彼女出来たって」

「それは嘘だろ」

 

 

 

 

 

━━━━━亜門鋼太郎━━━━━

 

 

 

 3月31日

 高槻泉(本名:芳村愛支)、有馬貴将、金木研の3人によってCCG史上最大かつ存在意義を問われるスキャンダルが全国に生放送で暴露された。

 記者会見終了後、3人は忽然と姿を消す。

 

 同時刻にCCG本局、白日庭、和修邸、及び東京都内数十箇所で:reによる襲撃事件が発生。

 CCG本局で開かれていた特等会議を襲撃した平子上等捜査官と不殺の梟は、和修吉時CCG局長並びに和修政准特等捜査官を捕縛。その場に居合わせた篠原特等捜査官らに引き渡したのちに逃走。

 白日庭、和修邸を襲撃した0番隊隊員は、白日庭のいわゆる半人間の子供たちを誘拐(実際は救助)。和修邸の主だった人間を捕縛し、拘束した状態でCCG本局へ投げ込んで(比喩表現ではなく)から逃走。

 東京都内数十箇所で発生した戦闘は、不殺の梟が話したVの拠点におけるVと:reの構成員の戦闘と思われる。詳細は調査中。

 

 未曽有のこの事態に丸手特等が局長代理となって事態の処理に当たるが、:re設立宣言会見を視聴していた日本全国の視聴者から様々な問い合わせが殺到。

 内容は抗議の声が半分。あの会見は事実なのかの確認が半分。

 事態を重く見た日本政府による警察法に基づく緊急事態の布告がなされ、CCGは警察の管理下に入る。丸手局長代理が積極的に警察を呼び込んだという噂がある。

 3月31日はこれ以降、事態の把握で終わる。

 

 

 4月1日

 金木研が屋外で行われていた朝の情報番組のお天気コーナーに乱入。

 喰種収容所コクリア襲撃を宣言し、その場から徒歩でコクリアに出発。

 

 3時間後、コクリアに到着した金木研によるコクリア襲撃が開始される。

 コクリア警備員、並びに急遽駆け付けた喰種捜査官が防衛を試みたが、金木研単独に打ち破られる。高槻泉(隻眼の梟)も合流していたが戦闘には参加しなかった模様。

 死者こそ出なかったが骨折程度の重傷者多数。田中丸特等捜査官、鉢川准特等捜査官らが篠原の刑に処される。ついでにコクリアに乗り付けた丸手局長代理のバイクも戦いの余波で壊される。

 

「騙すようなことをしてすいませんでした、亜門さん」

「……くっ、殺せ!」

「はい! “くっころ”頂き「言わせるかぁっっ!!」ってカネキュン待っギニャアーーーッ!?!?」

「な、何なんだ?」

「鋼太郎、お前は知らなくていい」

「アキラは知っ「知るな」……わ、わかった」

 

 コクリアを破壊されてしまい、収容していた全ての喰種を解放されてしまったが、金木研が生存していた喰種全てを率いて24区へ撤退したために今のところ東京都内の喰種捕食被害者は増加していない。

 撤退する際に独自の行動をとろうとしたせいで、金木研によって“粛清”された喰種が数体いる模様。

 これら全てはマスコミのカメラによって撮影されていたが、テレビ局の自主判断によって大部分は放映されず。ただし民間人による携帯電話のカメラによる撮影も行われており、映像がネットに出回ってしまっている。

 なお、篠原の刑に処された田中丸特等捜査官、鉢川准特等捜査官らの姿は夜のニュースで放映された。篠原の刑が全国区に広がった。

 

 一連の騒ぎが世界各国にも広がり始め、日本のCCGに相当する機関の捜査が行われている模様。特に和修とクインケを共同開発したドイツでの騒ぎが酷いらしい。

 それと結局“くっころ”とは何だったのだろうか?

 

 

 4月2日

 和修の捜査がひとまず終了。和修一族が喰種だったことが確認された。

 政府やマスコミからの追及が激しいため、丸手局長代理による現時点での状況説明の説明記者会見が行われる。

 

 そして金木研が会見終了間際になって会見場に乱入。

 :reは明日からしばらく大人しくしているので、その間に全CCG局員の喰種検査、並びにVの捜査と東京以外の都市の喰種被害発生の警戒を要望。

 

「大半の局員の方々は真面目に働いていた人間ですので、日本国民の皆さんはそんなに責めないで上げてください。

 というか捜査の邪魔」

 

 と、よりにもよって金木研からCCGへのフォローが入る。

 この日から少しだけCCGへの抗議の数が減少。ただし抗議の質は上昇した模様。

 

 

 4月2日

 全CCG局員の喰種検査を行おうとするが、和修が正体を隠すために利用していたRc検査ゲートは信用出来ないため、いったいどの検査方法を使用して喰種判断をするか混迷する。

 血液検査は結果が出るまで時間がかかるし、何よりも検査機関の人間が和修及びVの手先の可能性があるために、検査を行ってもその結果が信用出来ない状況に陥った。

 CCGラボの地行博士に新しい検査方法の発明を依頼しようともしたが、その地行博士がVの人間だった場合どうするのか、などの問題が噴出。

 局員の間で疑心暗鬼に陥る状態になった。

 

 

 4月3日

 金木研から電話があり、簡易的な喰種判断方法が伝えられる。

 検査方法は鼻を塞いだ状態で蒸留水にそれぞれスクロース、塩化ナトリウム、酒石酸、カフェイン、グルタミン酸ナトリウムを溶かしたものを飲み、その内容を当てるという、いわゆる甘味、塩味、酸味、苦味、旨味の鋭敏さを試験する5味識別試験だった。

 確かに嗅覚を塞いだ状態でならば、人間とは違う味覚の喰種ではこの検査に合格出来ないだろうと納得するも、富良上等が煙草を吸っているせいか危うく落ちかけた。禁煙を決意したらしい。

 宇井特等も落ちかけた。

 

 とはいえこの検査でも完璧には安心出来ないので、CCGラボで大至急新たな検査方法を模索することになった。

 東京中の喰種は活動停止しているため、アキラのような研究に適性のある捜査官が集められる。どうせCCGは開店休業状態で暇だしな。

 

 

 4月4日

 引き続きCCG局員、並びに主だった公務員の喰種検査を実施。

 検査方法を公開したところ、民間でも自発的に行われた模様。

 

 10時に翔英社から“喰種だけど愛さえあれば関係ないよねっ 外伝”の書籍化が発表される。

 その30分後に不殺の梟による翔英社襲撃が行われるも、何故か予め居合わせた隻眼の梟によって防衛される。

 

「あっれぇ~~!? どぉーしたのさぁっ、おっと~~うさんっ!?」

「恥ずかしいっ! いくら何でもそれは恥ずかしい!」

「いい加減にしろアンタら」

「ホラ、帰りますよ、店長」

「すいません、お邪魔しました」

 

 結局、騒ぎを聞いて駆け付けた金木研によって両梟は撃沈。遅れて駆け付けた魔猿と黒犬に担がれて引き取られていった。

 

 そして13時に再び翔英社から“喰種だけど愛さえあれば関係ないよねっ”の書籍化が発表される。ついでに有志が英訳したのもネットに広まった。仏、独訳なども順調に進んでいる模様。

 その5分後に金木研による翔英社襲撃が行われ、高槻泉の担当編集者でもあった塩野瞬二氏が篠原の刑に処される。

 

 篠原の刑が世界各国に広がった。

 

 

 4月5日

 金木研が“隻眼の王”として、3月31日に襲撃した和修邸、白日庭、V拠点から持ち出した資料を持ってCCG本局を訪問。

 現在、丸手局長代理が日本政府及び警察関係者と共に応対中。

 その間に同行してきた“王妃”と、その王妃が人間に紛れて生活していた折に親交を持った人間、CCGで保護をしていた小坂依子嬢との会談を要望される。

 条件付きで受託。

 

 会談時は王妃、小坂依子嬢ともに護衛は2人まで。残りの人員は別室で監視カメラを通して経過を見守ることに。

 CCGは黒磐武臣二等捜査官、瓜江久生二等捜査官を小坂依子嬢の護衛として同席させる。

 王妃の護衛は白と黒の喰種。女性と思われるが仮面をしているため詳細は不明。

 

 

 今頃、丸手局長代理たちは金木くんと言葉でやり合ってるんだろうなぁ。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「私は丸手局長代理の護衛の五里二等捜査官だ、金木研くん」

「は、はい……」

「ちなみに五里は五里霧中の五里で、決してゴリラのゴリではない」

「いや、あの……ホントすいませんでした。勘弁してください」

「じゃあ始めるか、金木研くんよぉ」

「チッ、やりますね、丸手局長代理」

「あんま大人舐めんなよ、ボーズ

(このために黒磐から借りてきたんだし)」

「……ヒデの就職取り消した癖に」

「いや、永近についてはホントすまんかった……って、それも元はと言えばお前さんのせいじゃねーかよ!

 っつかバイク弁償しやがれ、この野郎!」

「バイク? 何のことですか?」

「(……申し訳ありません。丸手局長代理。実はエメリオの流れ弾が……)」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

『ええ~、信じてくれないのぉ~~?』

『いや、だって…………田畑だよ。あの田畑だよ!?』

『(即答だったな)』

『(喰種風情が……)』

『(田畑ってどんだけ?)』

『(そこまで酷いと逆に興味あるね)』

『カネキさんとメールの付き合いがあって、カネキさんのアドバイスを参考にしたら出来たんだって。今日、トーカちゃんと会うことをメールで教えたら、トーカちゃん経由でカネキさんにお礼をしておいてだってさ。

 そういえばトーカちゃんもカネキさんも電話番号とメルアド消しちゃったんだね』

『……マジかよ。ありえねー。

 つかカネキそんなことしてたんだ』

『え? トーカちゃんってばまだカネキさんのこと名前で呼んでないの?』

『えっ? ……ああ、いや、そういうわけじゃないんだけでね。でもその……だってまだ慣れてないし、それに何か恥ずかしいし……。

 あとメルアドとかはこんな騒ぎを起こしたから流石にね。イタズラ電話やメールが来ても困るし。

 ……その、落ち着いたら新しい電話番号とメルアド教えるよ』

 

 

 こうして小坂さんと話しているのを見ていると、王妃である彼女も普通の女子大生という感じだな。現に金木くんと一緒に上井大学に通っていたようだし。

 いや、そもそもあの王妃ってあんていくでウェイトレスをしていた娘だったはずだ。アキラと一緒に何度かあんていくに行ったことがあったが、金木くんと一緒にいたのを見た覚えがあるぞ。

 

 ……しかしあんていくか。あそこの店員が喰種だなんて思いもしなかった。

 俺だけじゃなくアキラ、それと有馬特等と一緒にあんていくに行ったことがある宇井特等や、区対抗草野球大会で金木くんと一緒に野球をした田中丸特等たちも気付かなかったから、俺だけが特別鈍いというわけではないようだ。

 それに有馬特等を始めとする、0番隊の子供たち。彼らが半人間だとは思いもしなかった。

 人間と喰種の間に生まれ、それでも喰種としてではなく人間として生まれた彼らは、普通の人間に比べて寿命が短く、30歳ぐらいまでしか生きられないという。

 彼らも金木くんについて一緒に24区に行ってしまったのだが、喰種たちと一緒に過ごしていても大丈夫なのだろうか?

 

 

「メロンパン()()()()」「久しぶりに食べる生野菜美味しい」「24区だと備蓄の冷凍野菜しかないからねー」「それか缶詰」「帰りにいろいろ買って帰ろうよ」「ケーキ!」「どうせなら野菜育ててみる?」「え、地下で? モヤシぐらいしか無理じゃない」「嘉納に任せればいいっしょ」「そんなことより夕飯どうする? 私寿司食べたい」「あー、生魚いいねぇ」「どうせカネキさんお金持ってるんだから、回ってないのを……」

 

 

 ……意外と大丈夫そうだな、コイツら。

 護衛として0番隊が来たときは驚いたが、今までと変わりがないようで何よりだ。宇井特等は頭を抱えておられたが。

 まぁ、袂を分かってからまだ1週間だし、話からすると2年ぐらい前から:reと組んでいたらしいから、そうそう態度が変わったりはしないのだろう。

 

「入見おばちゃん、コーヒーおかわりください」

「誰がおばちゃんかぁっ!?」

「……ハイル、相変わらずだな君は」

「郡センパイも相変わらず不機嫌そうですねぇ」

 

 金木くんから渡された資料をずっと睨むようにして見ていた宇井特等が伊丙上等に話しかけるが、やっぱり彼女も変わっていない。

 変わってないことに安心すればいいのか、それとも少しは変わってくれればよかったのにと嘆けばいいのか。どっちがいいのだろうか。

 

 王妃と小坂さんの監視を別室で行っているのはCCGは俺と宇井特等、そして富良上等。そして:reは伊丙上等と元0番隊の4人と喰種1人が立ち会っている。

 それとこの喰種も見覚えがある。確か王妃と一緒にあんていくでウェイトレスをしていた女性だ。

 元同僚という関係から王妃の護衛をしているのか? さっきは王妃のことを“トーカ”と呼び捨てにしていたから、王妃を呼び捨てに出来るぐらい親しいのか、それとも王妃自体はそれほど力を持っていないのかのどちらかか。

 “喰愛”見た限りだと、両方って感じだろうか?

 

「いやー、さっき説明したように郡センパイは宇井ホープの御曹司で、富良上等は奥さんとお子さんがいますでしょ?

 平子上等みたいに:reについたら最悪死刑もありえるんですから、お二人には声かけないって決めたのは有馬さんですんで、私に当たらないでくださいよー」

「それを言われちゃ辛いな」

「フン……で、どうなんだ? 金木研がさっき聞きたいことはハイルたちに聞けと言っていたが、ちゃんと質問には答えてくれるのか?」

「もう資料読み終わったんですか? まぁ、別にいいですけど、今は食べるのに忙しいんで入見おばちゃんお願いします。

 次はクリームパン~♪」

 

 ホントに変わってないなぁ、伊丙上等は。

 まぁ、彼らの会話を聞いていたところ、24区で過ごしたこの1週間はこの一連の騒ぎに対する警戒態勢を敷いていたこともあって、ほとんど非常食やレトルト食品を食べて過ごしていたそうだ。

 そして約一週間振りに地上に出てきたので、ついでにということでCCGに来る前に好きな食べ物を買い込んできたらしい。

 

 ……流石に有馬特等はここへはいらっしゃらないのか。

 

「くっ! いったいCCGはこの子たちにどういう教育を……。

 まぁ、いいわ。質問があるのなら答えるけど?」

「…………」

「……宇井、そう意固地になるなよ。何にせよ今は情報が必要だろ。今頃は丸手局長代理が金木研から話を聞いているだろうが、彼以外からも情報の裏付けをとる必要がある。

 彼女は敵対しようとせずに、話をする気持ちは持ってくれているんだから、まずは話を聞いてみようぜ。

 少なくともお互いに、Vとやらに良いように踊らされるのはゴメンだって考えは共通してるんだしな」

「……そう、ですね」

「そう言ってくれて助かるわ。コッチとしても、今この場で面倒事を起こすのはゴメンだもの」

「なぁに。喰種とこうやって話すのは初めてじゃないからな。

 あ、俺にもコーヒーくれや、ウェイトレスさん」

「はい。少々お待ちく…………何を言わせるのよ」

 

 骨の髄までウェイトレスが染み付いていたのか、反射的に客商売の顔が覗けた喰種……いや、入見さんと呼ぶべきかな、ここは。

 入見さんは持ち込んだ魔法瓶から紙コップにコーヒーを注いで伊丙上等に渡し、新たな紙コップにコーヒーを注いで少し迷ってから富良上等に渡してきたので、富良上等はそれを受け取る。

 ちなみにこのコーヒーは金木くん謹製のモノらしい。

 

「悪いね」

「……変わった捜査官ね。平然と喰種から渡されたコーヒーを飲むなんて」

「さっきも言ったように喰種とこうやって話すのは初めてじゃないんだ。高校の同級生に喰種がいたんでね。

 それに有馬のヤツと一緒にあんていくに行ったことがあるから、アンタから渡されたコーヒーを飲むのは今更だ」

「有馬さんと富良上等の出会いのヤツですか。

 でも話だと有馬さんがほとんどやって、富良上等はトドメ刺しただけじゃありませんでしたっけ?」

「お前さんは黙っとけ、伊丙」

「そういうこともあるわよね。はい、どうぞ」

「……どうも」

 

 仏頂面の宇井特等もコーヒーを受け取り、俺にもコーヒーを差し出されたので受け取る。

 まぁ、0番隊の彼らみたくしょうもないことを駄弁るまでは砕けないでいいが、この場では殺し合わないんだから少しは緊張感が解れた方がいいだろう。

 それに確かに富良上等が言ったように、俺もあんていくに何度も行った身なので喰種から渡されたコーヒーなんて今更だ。宇井特等もそれがわかっていたからコーヒーを受け取られたのだろう。

 

「それで? 何を聞きたいのかしら?」

「……まず改めて確認だ。この資料は確かなのか?

 特に24区では人間牧場などはなく、金木研によって喰種の食料が供給されているというのは?」

「だいたいあってるわ。“王のビレイグ”や“喰愛”も含めてね。

 それと人間牧場って何かしらソレ? 24区にあるのは…………えっと、何て言うのかしら、アレは……赫子、牧場……? …………赫子?」

「も〇こみちくんとかはもう赫子とはまったくの別モンですよねぇ」

 

 赫子牧場。金木くんが生み出した、金木くんと同様に人間の食物を食べてRc細胞に変換出来る赫子か。

 それさえあれば、確かに人間を喰わずとも喰種は暮らしていけるだろう。

 

「でも“だいたい”って何だよ?」

「まずVの資料は私たちが作ったものじゃないから、資料が正しいかどうかはこれからの調査待ちってことよ。この一週間で少しは調べられたけど、流石に全部調べるのは無理よ。

 でもだいたいは有馬や0番隊のこの子たちの証言通りだったから“だいたい”ってこと。流石に最強の喰種捜査官でもコッソリ隠れながらではVの奥深くまでは探れなかったみたいね」

「ああ、なるほど。

 “王のビレイグ”や“喰愛”は?」

「そりゃ小説なんだから多少は脚色してるわよ。“王のビレイグ”のヒロインと、そのヒロインのモデルになったのは外面はともかく内面は似ても似つかないし。

 “喰愛”は……どうなのかしらねぇ? あの子たち、あんなにお互いに想いを伝えられるような性格してたかしら?

 だいたいあっていることはあっているけど、傍から見てたら最初のうちはじれったいったらありゃしなかったのよ……」

「え? カネキュンとトーカちゃんのバカップルがですかぁ?」

「そうなのよ、ハイル。

 今でこそ他人の目を気にせずにいちゃついているけど、付き合いだした初めは特にトーカが恥ずかしがっていて、あんな話のような感じじゃなかったわ。

 それと和修元局長に送られた方の“喰愛”の中身は知らないわね。むしろカネキくんが知りたがっているぐらいなんだけど、今日の交渉で引き渡しを要求するんじゃないかしら?」

 

 “喰愛”……か。

 あのネット小説の方を読んだ限りでは王妃の金木董香、旧姓霧島董香が人間に好意的じゃなかったら、金木くんは人間の敵になってたかもしれないんだよな。彼は嘉納に、人間によって人工喰種にされたのだから、そうなってしまっても仕方がないかもしれないのだが。

 となるとその霧島董香を人間に好意的にした小坂さんは、何気に東京の人間の救世主ということか。

 少なくとも霧島董香と小坂さんが仲良くならなかったら、今みたいに東京の喰種被害者がゼロになるって事態にはならなかっただろう。

 小坂さんに感謝すべきなのか、これは。

 

 ……というか伊丙上等が隻眼の王をカネキュン呼ばわりして、王妃をちゃん付けで呼ぶのっていいのだろうか?

 

「それに“喰愛”だとカネキくんがトーカにベタ惚れで、トーカとずっと一緒にいるためにこの騒ぎを引き起こしたって感じだけど、どっちかっていうとトーカの方がカネキくんにベタ惚れじゃないかしらね。

 もちろんカネキくんもトーカのことは大事にしてるけど、多分トーカはカネキくんに別れ話持ち込まれたら「お願いだから捨てないで」って泣いて縋るわね。カネキくんは逆にトーカの幸せを祈って黙って身を引くタイプ。

 “喰愛”についてはカネキくんノータッチみたいだったから、きっとトーカの見栄が影響してるんだろうけど」

 

 なるほどなぁ。

 “喰愛”によると、あんていくは喰種が開いていた喫茶店で、20区の喰種のまとめ役もやっていた。そして生きた人間は襲わずに、自殺した人間などを喰うようにしていたようだ。

 流石に自殺者の肉だけで20区に住んでいる喰種の食料全ては賄えないので、喰種に襲われる人間を減らすことは出来てもなくすことは出来なかったが、それでも傘下の喰種には“1ヶ月に1人まで”という取り決めを作っていた。

 元から20区の喰種被害者が他の区より少なかったのは、あんていくが他の喰種も統制していたからだろう。

 そしてそんな人間を喰いながらも殺さずに、CCGにも駆逐されない束の間の平穏の日々を過ごしていたら、金木研という元人間の人工喰種というイレギュラーが20区に現れた。

 金木研は“大喰い”に襲われたが、偶然“大喰い”ごと鉄骨落下事故に巻き込まれて重傷を負い、“大喰い”は死亡。

 そして担ぎ込まれた嘉納総合病院で、元CCGの解剖医であった嘉納によって喰種化施術を行われてしまう。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「……お腹痛い」

(フン)ッ!! 調子に乗って喰い過ぎるからだッ!!

 いくらここでは食料には困らんからとはいえ、最近の貴様は自堕落が過ぎるぞッ!!」

「あと頭も痛い」

「いや、それは普通の赫子の血からではない、小僧(カネキ)の血から作った血酒をストレートで飲むからだろう。

 アレはもう儂でも水で割らんと無理だ」

「だってせっかく抽選に当たって手に入れたんですもの」

「当てたのは儂だッ!!」

 

 

 

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 病院で目が覚めた金木研は“大喰い”のことは夢だったのではないかと思う……いや、思い込もうとしたが、その頃には既に身体が人工喰種となっており、人間の食事を受け付けなくなってしまっていた。

 退院後も空腹に悩み、遂には家でジッとしていることも出来ずに夜の街を彷徨い歩いた。だが自分が道行く人間に食欲を抱いてしまっていることに気付いてしまい、人間を襲わないよう離れるために人気のない方へ進んでいくと、とても良い匂いが漂ってくるのに気付いた。

 自分でも食べられるものがあるかもしれないと希望を抱き近づいてみると、そこにいたのは喰種と喰種によって殺された人間の死体。

 人間の死体の匂いに釣られてしまったことにショックを受けるが、その場にいた喰種からは仲間だと思われ人間の肉を分け与えられそうになる。意外と優しいな、カズオって喰種。

 拒否しようにもショックを受けた上に空腹が限界に達していた身体は動かない。もしかするとあのままでは人間の肉を喰らっていたかもしれなかった。

 だがそこにもう1人の喰種が突然現れ、喰い場を荒らしたということで、人間の肉を分け与えてくれようとした喰種を殺してしまう。……カズオっ、成仏しろよ。

 そして金木研も殺されそうになったが、あんていくの一員として20区の治安を保つためにパトロールしていた霧島董香に助けられる……というのが金木くんと霧島董香の出会いだ。

 

 何というか、随分とバイオレンスな出会いだな。

 

 その後、霧島董香にあんていくを紹介され、店長をしていた不殺の梟と出会う。

 喰種の臓器を移植されたことによって生まれた人工喰種というイレギュラーだが、不殺の梟は過去に人間の女性と愛し合い儲けたが事情があって手離した自らの娘のことを重ねたのか、とても金木研に親切にしてくれる。

 とりあえず飢えを抑えるために人間の肉を渡されたが、金木研は飢えていても人間の肉を喰う踏ん切りがつかなかった。ただし喰種はコーヒーだけは飲めることを教えてもらったので、気休め程度に空腹を紛らわすことが出来るようになった。

 そして久しぶりに大学に顔を出した金木研だが、親友と帰宅中に口封じを企んだ先日襲ってきた喰種に再び襲われてしまい、親友も気絶させられて自分は重傷を負った。

 喰種は腹いせに、親友を金木研の目の前で喰おうとする。だがそれを許すことが出来ない金木研は、無我夢中で赫子を使って喰種を倒す。

 無事に親友を助け出すことは出来た。しかし腹を突き破られるぐらいの怪我を負った金木研は、それまでの空腹も相まって遂に限界に達してしまい、我を失って親友を喰らってしまいそうになった。

 

 だが再び霧島董香がその場に現れ、金木研を叩きのめして親友を助ける。いや、助けてくれた。

 あんていくに運び込まれた金木研は、眠っている間に人間の肉を喰わされる。起きてそのことに気付いた金木研だったが、人間の肉を喰うことで飢えが治まった自分はもう喰種となってしまったことを理解し、もう人間の世界には戻れず、喰種の世界にも行くことは出来ない孤独な半端者だと絶望する。

 ……そりゃ苦しいだろう。もう少しで親友を喰い殺そうとしてしまったのだから。

 そして絶望するに金木研に、不殺の梟は“君は喰種と人間の2つの世界に居場所を持てる唯一の存在”と励まし、喰種の世界を知ってもらうためにもあんていくに勧誘する。

 

 これが“喰愛”の第一章。金木くんが喰種の世界に入り込むキッカケを描いた章だ。

 

 

 ……確かにこの出会い方なら、金木くんが霧島董香に惚れるのは無理もあるまい。

 自分だけじゃなくて親友の命すら救ってくれたのだし。俺ですら金木くんの親友、つまり永近が助かったということは素直に喜ばしく思うのだしな。

 

 まぁ、第一章の最後にオチがあって、飢えが治まった金木くんは普通の人間の食事を取れるようになったんだよな。

 何でも人工喰種になったことで、Rc細胞を分泌出来るし貯蔵も出来る人間と喰種を足したけど2で割らなかったようなイイとこどりの存在になっていたらしい。

 あれだけ人間の肉を喰うことに葛藤していたのにアッサリと人間の食事が取れるようになるなんて、大喰いに狙われることといい喰種の食事に居合わせるといい、金木くんって運悪過ぎないか?

 

 でもそのおかげで人間の食料を喰種の食料に変換出来てるんだから、不幸中の幸いと思った方がいいんだろうな。

 

「そういや金木研のRc細胞値が100万以上って本当なのか? むしろ嘘だと言って欲しいんだが……」

「本当よ。

(もこ〇ちくんとか分離している赫子やクインケも合わせたら1億越えるかもしんないけど)」

「マジかよ。

 いや、それだったら金木研の強さに納得いくんだけどよ……」

「有馬さんに勝てるわけだ」

「反則ですよねぇ。クインケでいくら攻撃しても堪えないんですもん。

 カネキュンに辛うじて効くクインケは、コレみたいなカネキュンの赫子から作ったクインケだけですし」

「平子先輩が持っていたのと同じクインケ?

 ……そうか。それは金木研の赫子から作られたのか」

「私のコレはクインケ[ケン―ツルギ38]です。あと持ってきてるのは[ケン―ヨロイ9]ですね」

 

 伊丙上等がトランクから取り出したのは、一見するとよくあるプレーンタイプの剣型の尾赫クインケ。しかしそのクインケの刀身には人間の口のようなものがついており、しかもその口が呼吸しているかのように閉じたり開いたり動いている。

 アラタを奪われたときに見た金木くんの赫子ソックリだ。

 名前から察するに“ケン”ってのが金木研の“研”のことで、“ツルギ”だとか“ヨロイ”ってのはクインケの形態のことだろうか。“剣”と“鎧”。

 しかし鎧ってことは……赫者のクインケか? しかもナンバーの分母がないということは、数は無制限で量産可能ということなのだろうか?

 

 ……相変わらず反則だよなぁ。

 

「フフフー、凄いっしょ。

 しかもコレ、Rc保存剤とかもいらないメンテナンスフリーですし、ご飯食べさせたら自動で破損が治ってくれるんですよぉ。

 ねぇ、ケンちゃん?」

「ウン!」

「ッ!?」「喋った!?」

「(やっぱ私ら喰種でも慣れないわね、このクインケ。赫子使うより消耗ないから便利なんだけど……)」

「……そんなに身体が変化して、よく金木研は今まで世間にバレなかったな?」

「普通に人間の食事を食べてれば、まさか喰種だなんて思われないわよ」

 

 永近は金木くんの変化に何となく思うところはあったらしいが、日が経つにつれて今まで通りの金木くんに戻っていったので、事故のショックで少しおかしくなっていたのが元に戻っていったのだろうと納得したらしい。

 気付かなくても仕方あるまい。まさか親友がそんなことになっているなんて思いもしないだろう。

 というかそんなこと言ったら、対喰種の専門家であるのにあんていくに何度も行った俺たちや、区対抗草野球大会で一緒に野球した捜査官の誰もが金木くんの本当の姿に気付けなかったんだから、永近を責めるわけにはいかない。

 そもそも草野球大会の時に、一緒に弁当喰ってた彼が喰種だなんて誰も考えついたり出来るわけがない。

 

「あ、そういえば“喰愛”の第二章で捏造というか、明らかに事実と違うところはあったわね」

「“美食家(グルメ)”編で?」

 

 “喰愛”は複数の章から成り立っている。

 第一章の“出会い”編から第二章の“美食家(グルメ)”編、第三章の“修行”編、第四章の“アオギリ(にカチコミ)”編……と続いていて、そして章と章の間に入っている金木くんと霧島董香の甘ったるい恋バナを書いた間章の“日常”編から出来ている。

 というか全て合わせると“日常”編が一番長い。そういえば政道は“喰愛”読んでてイラついていたなぁ。

 それと確か第二章の“美食家(グルメ)”編は共食いすら行う20区の疎まれ者、美食家(グルメ)とあだ名される喰種が、人間とも喰種とも違う臭いを漂わせる金木研に興味を持ち、金木くんを喰おうと付け狙う話だったんだが……。

 

「どこら辺がだ?」

「ホラ、あの章では最終的には美食家(グルメ)にカネキくんが攫われたけど、間一髪でトーカに助け出されるってことになるでしょ。

 大まかにはその通りなんだけど…………カネキくん、美食家(グルメ)に捕まったときに、服をハサミで切られて上半身裸にされて身体を撫で回されたみたいよ」

「おおぅ……」

「それは……災難な」

「トーカが駆け付けるのが数秒遅かったら汗を“味見”されてたとか何とか……マズい、言ってるだけで鳥肌立ってきたわ」

「金木研に心底同情するわ」

「私も流石にそれは……」

「ああ、だからカネキュンって偏食性の喰種とか食い意地張った喰種にはキツいんですね。

 先日も勝手に外に出ようとしたトルソーを粛清してましたし」

「あの件でトーカに頼りっぱなしだった自分が不甲斐ないと思ったのか、その後の修業を一生懸命やるようになったんだけどね」

 

 それは金木くんも美食家(グルメ)殺すだろうな。そして第三章の“修行”編で必死こいて修行するだろう。

 霧島董香も本当のこと書かないな。

 

 ……ということは、金木研が喰種の完全な味方じゃないのは美食家(グルメ)のおかげ?

 素直に喜べんな、オイ。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「やぁ、今24区に到着しックシッッ!!」

「お待ちしておりました、習様。若奥様方も心配なされておりました。

 しかし風邪ですか? 24区の通路は寒いですし、空気も淀んでいますので……」

「ああ、いや。大丈夫だよ、松前。

 パパは予定通り、もう少し地上の様子を観察してから合流する。

 今のところ僕たち月山家が喰種ということはバレていないようだ。Vの構成員がCCGに捕まっているから、そこからの自供でいずれ疑われてしまうだろうけど、カネキくんの用意してくれた身代わり用赫子で誤魔化せるはずだ。

 一度誤魔化すことが出来たら、屋敷に再び戻れるのも遠いことではないだろう」

「……カネキさんの赫子って本当に便利ですね。カネキさんが傍にいないと複雑な動作は出来ないようですが、まさか身体を変化させてソックリな身代わりまで出来るとは……」

「ムッシュHysyの協力があってこそらしいけどねぇ」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「ま、(一般人のカネキくんとトーカへの好感度を上げるためのウソ話は)そんなところよ」

「随分と波乱万丈な人生送っているなぁ、金木研は」

「ワガママかもしれないけど、初めて会ったころの初々しいカネキくんが懐かしいわ。今はもうスッカリと捻くれた大人になっちゃって……。

 言っておくけど、さっきのこと言い触らしたらカネキくんに篠原の刑に処されるからね」

「(……過去の悪夢がっ)」

 

 宇井特等の顔色が悪い。

 うん……まぁ、わざわざ言い触らす必要なんてないだろう。

 

「……となると、金木研が今後取りうる展開についても“喰愛”の通りってわけか?」

「厄介な。停戦に応じなければ東京の喰種の統制を緩めるなんて、まるで脅迫じゃないか」

「だって他に取りうる手がないんだもの。

 それに人間にしても喰種にしても、これだけの真実を目の当たりにしながら争い続けようとするのなら、もうカネキくんとしても面倒見切れないわよ。

 私たちは私たちで引き篭もるから、アナタたちはアナタたちで好きにしたら?」

 

 金木くんはこれから東京都民、ひいては日本国民に“妥協”させようとしている。

 

 現在、東京では金木くんが東京の喰種を従えているために、喰種の捕食事件はまったく起きていない。そしてCCGの信頼が揺らいでいる状態だ。

 そんな状況でCCGが:reの提案する停戦に応じずに喰種の駆逐を続けていくというのなら、:reは現在の喰種の統制を緩めて離反したい喰種は自由にさせる、つまり東京都内に再び喰種を解き放つらしい。

 先月までならCCGは強権的に喰種の駆逐を進められただろうが、国民からの不信感を持たれており、そもそもの喰種捜査官の辞職者が増えている今のCCGにはそんな力はない。少なくとも和修とVの件を終わらすまでは停戦に応じざるを得ないだろう。

 しかし和修とVの件を終わらせてから喰種の駆逐を再開しようにも、それは再び東京都民が:reから解き放たれた喰種の被害に遭うことを意味している。少なくとも今のように被害者をゼロにすることは絶対に出来ない。

 だがそんなことは東京都民が許さないだろう。何しろ不手際を起こしたCCGのせいでゼロだった喰種被害者が増えるのだから、面子のために東京都民を犠牲にしたと捉えられかねない。

 

 そして東京の喰種被害ゼロが続くと、他の都市が不満を持ち始めるはずだ。何で東京ばかり被害者がいないんだ、と。

 それに対して金木くんは他都市への:re構成員の派遣、現地喰種の鎮圧・引き取りを提案している。金木くんの提案に乗れば喰種被害者が限りなく少なくなるのだから、その魅力に抗えるところは少ないだろう。

 今はその実績作りの期間というわけか。

 

 いや、実績は既にもう出来てる。東京都内の喰種捕食被害者をゼロにするというやり方で。

 だから今は世間に知らしめるための期間だな。

 

「この手の何がいやらしいかって、ターゲットをCCGから日本国民全般にしたことだよな。

 感情を抜きにして理屈だけを考えれば、この提案を受け入れるメリットがデカ過ぎて、この提案を拒否したときのデメリットがデカ過ぎる。喰種被害に遭っていない一般人なら、これからの被害がなくなるのならそれでいいと賛成するだろうよ。

 そうなると俺らも一応は公務員だから、国民様の言うことは聞かなきゃならん」

「問題があるとするなら、カネキくん1人いなくなったらそれだけでどうしようもなくなるってことなのよね。

 けどCCGがこの状況でカネキくんを殺すことなんて無理でしょう?」

 

 ……ま、そうだろうな。

 金木くんは元はと言えばCCGの被害者だ。

 そもそも和修やVが喰種だったのだから、この争いはある意味では喰種同士の争いともいえるものだが、結局のところ俺たちが良いように利用されていたことには変わりない。

 そんな俺たちがこの状況で喰種被害者が増えるのを承知で金木くんを殺そうなんて企んだら、国民から総スカンにされるぞ。

 

「そもそも実力的にカネキュンに勝つの無理ですよね。というかCCGと:reが協力しても、カネキュン1人に勝てないんじゃないですか?

 世論的にも実力的にもカネキュンの存在が抑止力になってて、ぶっちゃけ喰種って足手纏いというかカネキュンにおんぶにだっこっしょ。何しろ食料も電力もカネキュン任せなんだし」

「そんな身も蓋もないこと言わないでちょうだい、ハイル。

 私たちだって、カネキくん1人に押し付けてるのを気にしてるんだから……」

「でも便利ですよねぇ。赫子でナルカミみたいに発電出来るなんて」

 

 電力まで金木くんが作ってるのか。ここまでくると何でもアリだな、彼は。

 

「……真面目な話、もしこの話が決裂することになったとしても絶対にトーカに危害を加えない方がいいわよ。せめてカネキくんを倒してからにしなさい。

 さもなければ東京が火の海になるわよ」

「は? その火の海って表現は何だよ?」

「ああ、カネキュンってタタラっちみたいに火吹けますよ」

「あの子、元々は文系なんだけど赫子の修業をしているうちに理系の勉強もしたらしくて『炭素と水素と酸素から燃焼物、可燃ガスや油脂は合成出来ますね』とか言い出したのよ。

 それ以上は怖くて詳しい話は聞いてないけど」

 

 炭素と水素と酸素…………元は炭水化物か?

 まぁ、石油だって結局はその炭素と水素で出来ているんだしな。Rc細胞を体内で作れるのなら、そういうのも作れるのかもしれん。

 

 ……アレ? 金木くんに対しては常識がおかしくなっていないか、俺?

 

「本当に何でもアリだな、金木研は。

 ……そういえば喰種は、金木研に従うのに抵抗はないのか? 彼は元人間だろう?」

「普通の喰種からしたらそもそも逆らえない存在だし、従ってればCCGに脅えなくて済む。何かあったらカネキくんが矢面に立つのが決まっているから、逃げるにしてもカネキくんに何かあったらでいいと考えているのが多いわね。カネキくんもそれを推奨しているし。

 カネキくんとトーカの関係からして、カネキくんが喰種を裏切るとは思われていないしね。

 私たち付き合いが長い喰種にしたら……それこそ私たち喰種が同情するレベルの境遇でしょ、あの子。応援したくなっちゃうわよ。

 まぁ、大抵の喰種は“王がそう言うのなら”で納得しているわ。

 ハイルたち0番隊の子にしてみても生い立ちを知られても:reなら迫害されたりしないし、:reで長生きの出来る治療方法を模索することが出来るわ。そして何よりも有馬貴将がこの道を選んだのだから、皆それに従っているみたいね」

「有馬か。アイツは今何してんだ?」

「さっき言った身体の治療と延命の研究。あとは本読んだり好き勝手してるわ。

 今日、ここに来る前だって、死んだ目をしたエトを自転車の前籠に載せてサイクリングに出掛けたわよ」

「……(E)(T)を?」

E()T()を」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「風が気持ちいいな、E()T()

「……少しでもお前に期待を抱いた私がバカだった」

「元気なさそうだから、気分転換になるかと思ったんだが……」

「お前、本読み飽きて映画に手ぇ出し始めただろう?」

「よくわかったな」

「柄にもなく抱いてしまった私のトキメキ返せ、コンチクショウ」

 

「……店長、ノロさん。何で娘さんをストーカーしてんですか?」

「古、古間くん!? いや、エトが心配で……」

「…………」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 いやしかし、あの有馬特等が女をデートに誘う光景なんて想像出来ないな。

 もしかしたら有馬特等自身満更じゃないのかもしれん。有馬特等はエトとは古くから手を組んでいたという話だし、半人間と半喰種同士で思うところもあるのだろう。

 

「ま、暇なんでしょうね。治療のために嘉納から激しい運動は禁じられているから」

「嘉納? 金木研を人工喰種にしたっていう?」

「嘉納については資料にも書いてありましたよ、富良さん。

 本来なら殺しても足りないぐらいのマッドサイエンティストだが、有馬さんたち半人間の治療のために生かしている、と。

 こう言っては何だけれど、よく金木研は嘉納を許したな? 嘉納が再び良からぬことを企んじゃないかという不安はないのか?」

「許してなんかいないわよ。

 嘉納が研究施設の灯りを増やしてくれってカネキくんに頼んだときなんか、カネキくんの返答は嘉納の研究資料を燃やして『どうです。明るくなったでしょう』とかだったし……」

 

 ……金木くん。

 

「キレてんな、金木研」

「しかも陰湿」

「とりあえず嘉納は厳しく監視しているから大丈夫よ。ちゃんと照明も後から増やしてあげてたしね。

 ああ、カネキくんが言うとは思うけど、CCGから監視員を出したいっていうのなら歓迎するし、CCGラボで半人間治療の研究を行うのなら嘉納を引き渡しても構わないそうよ。

 嘉納としてもタマを全て無くすのは避けたいだろうから大人しくしてるだろうし」

 

 タマ? タマって……いや、聞くのはよそう。

 何か聞いたら後悔する気がしてきた。

 

「もう残り一つしかないもの。きっと無くさないために必死になるわ」

 

 言うな。それ以上言うな。

 

「とはいえこの子たち0番隊の延命治療には嘉納が必要みたいだから、引き渡すにしても処刑するのはまだ待ってほしいのよ。

 ……実は同僚にも人間と喰種のカップルがいるんだけど、その子たちの間に生まれたのが半喰種じゃなくて半人間だったしね……」

「いるのか?」

「ええ。だから0番隊の子たちのことは他人事じゃないわ。

 半人間の延命治療に全力で協力するのは有馬や0番隊との取引だけでなく:reとしての意思よ」

 

 0番隊の子供たちのような仕組まれた子供ではなく、話からすると普通に愛し合って出来た人間と喰種のカップルということか。

 ……やはり喰種は人間社会に思った以上に浸透しているのだな。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「ニシキくん、掃除の邪魔。暇なら保育室に子供連れてって、お友だちと遊ばせてきてちょうだい」

「えっ? 俺、今朝までずっとVの資料とにらめっこしてたんだけど…………いや、何でもないです。行ってきます」

「この時間ならアサキさんとリョーコさんたちもいるだろうから、何かあったらリョーコさんを頼ってね」

「へいへい、わかりましたよ」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 何というか、完璧に後手に回ってしまっているな。

 :reは全てを知った上で行動しているが、CCGはまず事実が事実であるかどうかの確認をしてからじゃないと行動出来ない。

 和修に踊らさられていたというのが痛いなぁ。

 

「残っている問題点は……やっぱり今までの喰種の被害者のことかしらねぇ。

 そのことに関してはもう、時間が経つのを待つしかないとカネキくんは言っていたわ」

「ああ、資料にもそう書いてあったな。

 被害者を減らす活動をしながら最低でも10年。出来れば2、3世代ぐらいは関りを持たずにほとぼりが冷めるのを待つ、と」

「小倉みたいな喰種研究家を利用すれば喰種の人権のようなものも早く確保出来るんでしょうけど、そんなことしてもお互いの確執は深まるだけ。いえ、表面に出せないようになる分、もっとドロドロな関係になるわ。

 そうなると喰種を狙ったテロとかも発生するだろうから、やはり人間と喰種のお互いに必要なのは時間だとカネキくんは考えているわ。早まって社会に混乱をもたらすのはカネキくんの本意じゃないしね」

 

 気の長い、そして辛抱強い話だ。

 金木くんは人工喰種になるまでは、あくまで普通の大学生だったと聞いていたんだが、よくもまぁそこまで考えられるものだな。

 不意に得た力に溺れるわけでもなく、その力を使って人間と喰種両方にとって出来るだけ妥協し合える道を探っている。

 いったい金木くんは何を思ってこの道を選んだんだろうか。

 

「そういえば、金木研の叔母一家について何か聞いているか?

 騒ぎになってたから今はCCGで保護してるんだが……」

「…………」

「ん?」

「ど、どうかしたのか?」

「いや、その……カネキくん、その叔母一家とは仲が悪いらしくて、トーカと結婚したことも伝えてないらしいのよ。

 多分だけど、あまり触れない方がいいと思「お待たせしました。トーカちゃんたちの様子はどうですか?」うっ……と、あの子たちは…………って、何やってるのかしら、あの子たち?」

 

 うお、びっくりした。

 話し合いがもう終わったのか、金木くんと丸手局長代理がモニタールームに入ってきた。

 しかし叔母一家のことはどうするべきだろうか。入見さんの顔色からすると……どうせ丸手局長代理が話してるだろうから、わざわざ下っ端の俺たちが触れることじゃないな、ウン。

 

 その丸手局長代理の顔色は良くもなく悪くもなくだが、どことなくスッキリしたような顔をしている。

 まぁ、丸手局長代理はこの一週間、局長代理としてCCGへの批判の矢面に立ちながら先行きが見えない不安と戦っていたのだから、金木くんと話し合うことで少しでも未来への展望が見えただろうから気が楽になったのだろう。

 

 その未来への展望が、良いものなのか悪いものなのかはわからないが。

 

『へぇ~、小学校の時の同級生……』

『う、うん……』

『ほぅほぅ、仲良かったんだぁ?』

『しかも大人になってからの偶然の再会とな?』

 

 しかし入見さんの言葉に反応してモニターに目をやると王妃と小坂さん、それに王妃の護衛2人が部屋の隅に集まってしゃがみ込み、小坂さんの護衛として配置した黒磐二等捜査官をチラチラ見ながらヒソヒソ話をしている。

 人間でも喰種でも、女は全員姦しいのは変わらないみたいだ。

 

「丸手さん、話し合いの方は?」

「ああ、まぁ……仕方がねぇだろう。少なくともこの騒ぎがひと段落するまでは:reの休戦を受け入れるさ。

 あくまで俺の責任でな」

「しかし……」

「いや、いいんだ。吉時さんとは若い頃から組んでいたし、有馬に至ってはヤツがガキの頃から面倒を見ていた。

 それなのに俺は今まで何も気付けていなかった。その結果が今のこの有様だ。誰かが責任を取らなきゃいけないのなら、俺が取るのが筋ってもんだろ。

 まさか吉時さんや有馬たちに全部おっ被せて、俺たちは素知らぬ顔をするってわけにゃいかねぇからな。

 ま、そもそも断れるような状況じゃねぇしよ」

 

 寂しそうに丸手局長代理が笑う。

 この数日でスッカリと老け込んだ感のある丸手局長代理だが、その眼には覚悟の光のようなものが見えて眼力だけは失っていない。

 

 それにしても“仕方がない”か。

 今のCCGを現したような言葉だな。

 

 :reとの、喰種との関係をどうするかは、既にCCGではなく日本政府に主導権を握られている。

 東京以外の都市では喰種被害はまだ続いているのでCCGの解散などはありえないだろうが、和修が仕切っていたときのような日本の国の一機関でありながら独自性を保つようなことは出来ないだろう。

 だから俺たち下っ端はともかくとして、上の人間は総入れ替えか、もしくは政府から派遣された人員が仕切るって形になるだろう。それに東京以外の都市のCCG支局はどうなるのかはわからない。

 

 まぁ、今までが独自的過ぎる組織だったと言われたらそれまでなんだが……。

 

「大変そうですねぇ、丸手局長代理」

「お前さんが言うなよ、金木くん。

 ……いや、お前さんが一番の被害者で、騙されていたとはいえ俺たちCCGの責任の方が大きいってのはわかってんだがな」

「それはそうでしょうがっ……!」

「まぁまぁ、宇井さん。

 とりあえず僕も元人間として、人間の利益にもなるような未来を作っていきたいって思ってます。そこだけは信用して頂けないでしょうか?」

「大変だな、金木くんよぉ。お前さんが選んだのは間違いなく茨の道だぞ。もうここまで大きな騒動になったなら、お前さんの一生をかけても終わらない一大事だ。それこそ歴史の教科書に載ってもおかしくねぇぞ。

 まったく……20歳そこそこのガキが、何でそんな道を行こうと思ったんだか。そしてこれからどんな道を行こうとしてるんだ、お前さんはよ?」

「何ででしょうね。僕としても不思議です。

 でも何の因果かこんな身体になってしまって、何かを変えられる力を手に入れてしまったのだから、いいことでもわるいことでも何でもいいから皆のためになるようなことをして

 

 かっこよくいきたい。

 

 そう、思ってます」

 

 

 そう言う金木くんは、去年の野球大会の時に会ったときと変わらない顔をしている。変わらない顔で笑っている。

 それも無理して笑っているとかじゃなくて、もう覚悟を決めた上で吹っ切ったような笑顔だ。ただの英雄願望……というわけじゃなさそうだな。

 丸手局長代理も言ったが、20歳そこそこの青年がよくここまで覚悟を決めれたものだな。

 

 ……俺も、覚悟を決めるか。

 

 

「金木くん、君と少し話をしたい。

 聞きたいんだ、君の物語(はなし)を」

 

 

 

 

 

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 俺の突然の申し出も、金木くんは快く受け入れてくれた。金木くんとしても、一般の捜査官から話を聞きたいと思っていたそうだ。

 丸手局長代理も黙認という形で見送ってくれた。まぁ、当然のことながら善意だけというわけでもなく、少しでも金木くんたちの情報を求めているのだろう。後日に何かしら報告をする必要があるな。

 そしてCCG局内で個人的な話をするわけにもいかないので、場所を元あんていく、金木くんが人工喰種になってから勤めていた喫茶店に移すことになった。

 

 あんていくはあの会見での暴露以降、怖いもの見たさの野次馬が結構来ていたそうだ。

 といっても金木くんたちはあんていくに戻ったりせずに24区で暮らしていたので彼らが見ていたわけではなく、戻ってこないとは思っているが一応ということであんていくを監視していた捜査官からの話だ。

 鍵もかけられていたので、ここ一週間は誰も出入りしなかった店なのに、あんていくに入ったら暖かい空気が流れていた。

 

 

「就職先が……就職先がなかったんですよ、亜門さん」

「お、おう……。

 その、何だ。就職取り消しの際は力になれなくてすまなかったな、永近」

 

 

 暖かい空気だったが、何だか湿っていたな。

 

 空気が暖かいと思ったら普通にエアコンが作動しており、何かと思えば以前にCCGでアルバイトをしていた永近が、他数人と一緒に開店準備らしきものををしていた。

 どういうことかと問い質してみたら、どうやら永近がこの店を引き継ぐことになったらしいが…………ウン、あの時は本当にすまなかった、永近。

 大学4年生の8月に就職取り消しになった永近のことは流石に気の毒と思ったのだが、CCG一本でやってきた俺には他業種への推薦の伝手なんかなかったし、何よりも時期が悪過ぎた。

 俺だけじゃなくアキラや政道や篠原さん、そして責任を感じた当時の丸手特等の伝手を当たって唯一見つけた就職先は、田中丸特等のご実家のお寺だったという有様だったしな。

 当然というか、順当に永近は断ってきたが、誰も責める人はいなかった。

 

 でもまぁ……あんていく(ここ)に就職決まって良かったじゃないか、永近。

 

 しかし違うんだ、永近。

 聞きたいのはお前の就職残酷物語(はなし)じゃないんだ。

 

 永近、もし仮にお前があんていく(ここ)を辞めても、皆がお前を採用しようとしないだろう。

 ……そのうえで無茶な頼みをしたい――。

 どうか嘆くな。(心苦しくて)聞きたくないんだ、お前の就職残酷物語(はなし)を。

 

「しかし永近。お前は本当によくあんていく(ここ)をやっていこうと思ったな。

 下手をしたらお前も:reの一員と思われるぞ」

「無職に比べたら何てことないっスよ。

 それに喰愛があれだけ出回ってんなら、カネキから離れようと近くにいようと変わんないでしょうしね。

 あ、それと店長さんが24区で新しくあんていくを開くそうなので、ここの店名は“あんていく”から“:re”に変更です」

 

 ……それもそうか。

 喰愛に出てきた金木くんの親友については名前も出ず、序盤に出番があるだけの脇役だったが、それでも親友が永近だということはわかる人にはわかるだろうし、調べれば簡単に永近のことに辿り着けるだろう。

 金木くんが永近にここを譲ったのも、永近を守るためという意味もあるのだろうな。

 

 そして新しい店名が“:re”か。本当にここを:reの出先場所にするつもりか?

 

「コーヒーだ」

「あ、ありがとうございます。平子上等」

 

 あの……何故ここに平子上等が? そして何故ウェイターを?

 まぁ、店員に喰種を使ったりしないようなので、それに関してはホッとした。

 

「24区はすることがなくて退屈でな

 一応、24区と地上を繋ぐ通路の番人のようなことはしているが……」

「あー、私もここでウェイトレスやろーかなー」

「ハイル先輩がウェイトレス?」

「似合わなーい」

「盗み食いしてクビになると思う」

「でも確かに暇だよねー。脱走者なんてほとんどいないんだしさー」

「コラコラ、0番隊の君たちは身体の治療があるだろう。

 さ、君たちにもコーヒーとケーキを持ってきたよ」

「あ、ありがとうございまーす、アラタさん」

 

 あれだけ局内で食べていたのにまだ食べるのか、0番隊の彼らは……ウン? アラタ? 金木くんの義父の!?

 

「親父ー、ブリ大根の鍋吹いてるぞ」

「えっ!? 火止めてくれ、アヤト!

 それじゃあ皆さん、ごゆっくり。ヒナミちゃん、あとよろしくね」

「はーい」

 

 や、やっぱり喰種もここで雇う気なのか?

 喰種がやっている喫茶店。あの会見を見た一般人なら、怖いもの見たさで訪れそうだな。

 ここまで大っぴらにしているということは、おそらく丸手局長代理に話を通しているのだろうが、この:reが今後何らかの騒ぎの火種になりそうだ。

 

 というかブリ大根って何なんだっ!?

 いや、喰種が人間の食事を作ることはあんていくでもしていたことだろうから変ではないが、喫茶店でブリ大根はおかしいだろう!?

 

 

「お待たせしました、亜門さん」

「!? あ、ああ……大丈夫だ」

 

 どうツッコもうか迷っているうちに、24区に電話をかけるために席を外していた金木くんが戻ってきた。

 

「それでお話があるということでしたが……“神父”さんのことですか?」

「……やはり知っているのか」

 

 “神父”。ドナート・ポルポラ。

 孤児だった俺の育ての親であり、同時に同じ孤児院で育った兄弟たちを喰い殺した仇でもある。

 ヤツは金木くんがコクリアを襲撃したときに解放され、24区へ行ったはずだ。ヤツが何しているのかは確かに気になるところだが……。

 

「多分、今頃は食事をしているんじゃないですかね」

「食事?」

「ええ、コクリアにいた喰種たちは現在の状況を理解出来ていませんから、放っておくと24区から脱走してしまうことも考えられます。

 なので現在の状況を、24区で大人しく暮らしていたら飢えることはないと手っ取り早く理解してもらえるように、まずは:reの力を体験してもらっているんです。

 まぁ、ぶっちゃけしばらくの間は喰っちゃ寝してもらってるだけですが」

「ああ、なるほど」

「それでも外に出たいという人には『もう喰いたくないです』と言ってもらえるまで食事を続けてもらいますけどね。

 何しろ食料は沢山あることですし」

 

 ニッコリ笑いながら言っているが、それは拷問というヤツじゃないのか?

 

「ドナートさんが気になるのでしたら、今度24区へ来てみますか?

 丸手さんとも話したんですが、今度CCGの視察を受け入れる話が持ち上がっていますので、その視察メンバーに入ってもらえれば24区に来ることは出来ますよ」

「そ、それはっ!?」

 

 そこまで話が進んでいるのか。

 確かに戦うにしろ和解するにしろ、:reの情報が少しでも欲しいということは変わらない。それを見越してのことだろうが、そこまで踏み込んで丸手局長代理の進退は大丈夫なのだろうか?

 いや、金木くんとの会談は日本政府と警察の人間が同席していたんだ。むしろ喰種のことなど何もわからない連中が了承したのかもしれんな。

 

 それに24区か。正直な話、興味というか24区がどういうことになっているか知りたい気持ちはある。

 俺は今まで喰種を“悪”だと捉えていたが、あの会見で暴露された事実、半人間や半喰種、人工喰種や和修のことを知った今では、喰種を単純な悪だとは捉えきれなくなった。

 少なくとも目の前にいる青年を人工喰種にしたのは人間なのだから。

 

「……わかった。もしそんな話が出たら立候補することにするよ。

 ところで24区はどうなんだ? いったい喰種たちは地下で何をやっているんだ?」

「真面目に暮らしています……と言いたいところですが、ほとんどの喰種はニートです」

「ニ、ニート?」

「いや、ですから地下に仕事なんかありませんし、そもそも仕事ができるような教育を受けていないのがほとんどなので、本を読んだりネットをしたりDVDを見たりして暇を潰しています。

 もちろんこれから何とかしようとは思っていますけどねぇ」

「それは……大変だな」

「喰種に教育を受けさせようにも、教師役を出来る喰種を育てることから始めないといけないんですよ。元から教師役を出来るような教養がある喰種は、既に:reの組織運営に携わっている喰種ばかりですしねぇ。

 それこそ東京中の喰種を24区に集めきれたのが今年に入ってからですから、今は集めた喰種を把握するために戸籍を作ったり、その喰種が出来ることを確認したりする:reの土台作りの真っ最中なんです」

「本当に大変だなぁ」

「一応、少数ですが教育を受けさせている喰種もいますけど、やっぱり他人に教えるまでになるのは年単位で時間が必要です。

 内職関係のアルバイトをさせようにも、卸先が見つからないので作って終わりということになりかねませんから出来ません。

 やはりさっさと休戦にならないとこちらとしてもそうそう物事を進められないので、僕としても切実に休戦が早く決まって欲しいんですが……」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「おおっしぃっ! 遂に100点取ったぞーっ!

 ミザのババァは何点よ!?」

「ナキに…………負けた?」

「おっ、ガギにグゲは惜しかったな。98点か」

「ガゴッ」「グアッ」

「コイツ等にも負けたっ!?」

「騒がしいぞ、ミザ」

「タタラッ! お前は何点だった!?」

「……今の俺は教師役だ。

 今日作成分の戸籍チェックがあるから俺はもういく」

「おい待て、目を逸らすな! 何故そんなに急いで教室から出ていく!?」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 それと24区に行ったら隻眼の梟に会ってみなければな。

 アキラの母上を、呉緒さんの奥様を殺した喰種……いや、人間と喰種の間に生まれた半喰種。俺も会ったことがある高槻泉。本名は芳村愛支。

 彼女の生い立ちには同情すべき点が多々あるし、和修のことを考えると単純に彼女を責めて終わり、というわけにいかないことはわかっている。

 だが、やはり俺にとってはアキラの母上を、呉緒さんの奥様を殺した喰種だ。それがどんな理由であろうとも。

 

 あの会見の後、呉緒さんの憔悴ぶりは酷いものだった。

 いや、会見直後は和修のことを問い質そうと本局へ突撃するところだったんだ。

 何とか俺とアキラで抑えつけ、丸手特等が局長代理となって真相究明にあたるということになったのでいったんは引いてくれたが、落ち着いたら逆に一気に気が沈み込んでしまったようだ。

 ここ1週間はろくに食事も取らず、奥様の写真を手に取って見つめたり、ボーっとしている有様だ。

 アキラも当初はショックを受けていたが、あの呉緒さんの有様を見て自分が頑張らなければと思ったのか、精力的に新たな喰種判別方法の研究に力を入れている。

 しかしどちらかというと、アレは何かに打ち込んでいないと気が持たないので研究に没頭しているだけだろう。

 

 隻眼の梟と真戸一家の関係をどうするか。今の状況では復讐を続行することなんて出来ないだろう。

 だが、復讐を諦めたらアキラと呉緒さんの無念はどうすればいいのか。俺ではどうすればいいかわからないし、きっとアキラと呉緒さんもどうすればいいのか途方に暮れているだろう。

 今日、アキラの家で呉緒さんも含めて食事をする予定なので、この金木くんとの会話を伝えることでアキラたちにも何らかの思うところが出来ればいいのだが……。

 

「それでこちらからも聞きたいんですが、実際に今まで現場で喰種と戦っていた捜査官の方々の様子はどうなんでしょうか?

 丸手さんの話では辞職者が急増しているとか……」

「あ、ああ……俺の知っている捜査官も何人か辞めている。

 辞めるのは家族持ちが特に多いな」

「こう言っては何でしょうが、きっと馬鹿らしくなったんじゃないでしょうか」

「馬鹿らしい、か」

 

 確かにそうかもしれない。

 今まで命をかけて戦ってきたのに、本当のところは和修の、喰種の掌の上で良いように踊らされていただけだ。

 そんなことでは、これからも命をかけて戦うなんて馬鹿らしく思えてしまうかもしれないだろう。

 

「僕が言うとアレですが、僕としてはあまりCCGに力を落としてほしくないんですよね。

 東京はともかく、他の都市ではまだまだ喰種の被害者が出ていますので」

「地方ではあまり辞職者は出ていないから安心してくれ」

「“喰愛”にも書かれていましたが、理想は:reとCCGが協力して地方にいる喰種を鎮圧・引き取りをして、とにかくこれ以上の双方の死人を出したくないと思っています。

 人間と喰種が分かり合うのはそれからですね。

 ……そう考えると“喰愛”を勝手に執筆された事に対しての文句がつけにくいんですよねぇ。僕が会見とか開いて説明しようとしていたことが、娯楽のような形で人間にも喰種にも広まっていますから。

 現に数は少ないですが、既に東京外の関東圏の喰種が:reに保護を求め始めてきています。あ、丸手さんには通達済みですよ」

 

 :reの戦力が増強される、と考えたらあまり良くないかもしれないが、地方の喰種被害者が減るということは望ましいことだ。

 ……が、こう考えること自体が:reの、金木くんの思い通りになっている気しかしないぞ。

 

 そして“喰愛”はやっぱり勝手に書かれたものなのか。

 まぁ、確かに金木くんはプライベートを切り売りするようなタイプじゃないからなぁ。

 

「……だって不安だったんだもん。エトとか白黒姉妹とか変な目でまだカネキを見てるし……」

「私たちは」「ノーコメント」

「だ、大丈夫だよ、お姉ちゃん。お兄ちゃんはお姉ちゃんを裏切ったりしないよ」

「俺はカネキに同情するけどなぁ。姉貴も馬鹿なこと仕出かしたもんだ」

「(アンタだってヒナミが今でもカネキにベッタリなの気にしてる癖に)」

「別にトーカちゃんには怒ったりしてないよ。どうせエトさんに良いように言い包められたんでしょ」

 

 ……仲が良いな。彼らが笑いあっている姿を見ていると、まるで人間みたいのように見えてくる。

 人間みたいだからこそ、金木くんは喰種に情が移ってこんなことをしたのだろうか。

 

 わかっている。こうなったからにはわかっている。

 喰種は人を喰らうバケモノのような単純な悪ではなく、俺たち人間と同じような存在なのだと。

「人間にも良い人間がいて悪い人間もいる。喰種にも良い喰種がいて悪い喰種もいる。結局のところ、それに尽きるでしょう」

 金木くんと初めて会ったときに言われた言葉だ。

 嘉納のような人間を勝手に人工喰種にする外道。人間に残虐な行為をして喜ぶジェイソンや、人間をオークションにかけて売り買いするビッグマダムのような喰種。

 だが良い人間はもちろんいるし、あんていくのような人間と共生しようとしていた喰種もいる。

 だから結局のところ、金木くんの言う通りにそれに尽きるんだ。

 

 金木くんは他にも「人と喰種がお互いに殺さず殺されない世界があったら幸せなんだとも思います」とも言っていたな。

 あの時は何を都合のいいことを言っているんだと思ったが、ここまで来ると少なくとも金木くんの想いだけは認めなければならないだろう。

 もちろん兄弟たちを喰い殺したドナートのことや、アキラの母上を殺した隻眼の梟のような、認めることの出来ない喰種はいる。

 

 だが……金木くんの言っているように、時間が経つのを待つのもいいかもしれないな。

 いや、そうでもしないと、本当にどうしていいかがわからない。

 一歩間違えれば再び人間と喰種の生存戦争が始まり、お互いにこれまで以上の死者が出ることになるだろう。そんな未来に繋がる道を選ぶより、人任せになってしまうが金木くん。信じて待つというのも手だ。

 少なくとも金木くんは人間と喰種の両方のことを良く知っており、人間と喰種の和解を目指していることだけは確かなのだろうだから。

 

「(いや、むしろエトに対する牽制のためにエトに書かせたというか……ま、勘違いしているならそのままにしておこっと)」

「(トーカちゃんも図太くなったよね)」「(それよりもエトさんの信頼度が相変わらず低くて笑える)」

 

 しかし何だか白黒姉妹と呼ばれていた喰種の声に聞き覚えがあるような……?

 

「あとやっぱり“喰愛”の僕って美化されているように思えて、どうにも気恥ずかしいんですよねぇ」

「ハハハ、そうなのかい」

「確かに前半部分はともかくとして、後半になるとカネキにしては描写がキリッとしてきたよな。

 あ、そういえば亜門さんこそどうなんですか? アキラさんとの関係は進展したんですか?」

「ちょっ!? 永近ぁっ!?」

 

 何故ここで聞く!?

 そして白黒姉妹の喰種はコッチを注目する!? というか店内なんだから仮面外せばいいだろうに!

 ああ、0番隊の連中も面白そうな顔をしてコッチを見てくるし。

 

 こ、これは何か話さなければならない流れなのか……?

 

「まぁまぁ、皆。落ち着きなよ」

「か、金木くん……」

「まずはコーヒーの補給をしてから聞くことにしようよ」

 

 金木くんに裏切られたっ!?

 いや、確かにそろそろ結論を出さなければいけないと思ってはいるんだが……。

 最近の仕事の無さのせいで暇を持て余し、よくアキラの家に食事を御馳走になりに行ったりしているし、他人から俺たちがどう見られているかぐらいは理解している。

 

 だ、だが……そ、そうだ! やはりこんな状況下では休戦するかしないかだけでもハッキリしないと結論を出すにも出せないんだ!

 

「そろそろアヤトもヒナミのこと結論出せよ」

「あ、姉貴っ!?」

「お姉ちゃんっ!?」

「ハハハ、アヤトくん。24区に戻ったら訓練室で少し話をしようか」

 

 どう答えるか迷っていたら、王妃の言葉で話が逸れてくれた。

 どうやらアヤトと呼ばれた青年は王妃の弟で、金木くんと王妃を兄・姉と呼んでいるヒナミという少女と浅からぬ関係らしい。

 というか赫眼になるな、金木くん。

 

 

 ふと永近の方を見ると、彼らの一員として笑い合っている。

 人間である永近が、喰種の彼らと、半人間の0番隊の彼らと。ここには半喰種はいないが、高槻泉がいたら同じく笑い合っていただろう。むしろ散々に引っ掻き回していただろうな、彼女なら。

 

 金木くんが目指している世界とは、このような光景がそこかしらで見られる世界ということなのかもしれない。

 昔の俺なら戯言として切って捨てていたが…………笑い合っている彼らの姿を見ていると、こんな世界も悪くはないと思ってしまう。

 

 まだまだ人間と喰種の怨恨の垣根は存在している。

 だが、金木くんを信じて少しばかり様子を見ることにしよう。

 

 

 ……それに俺の心情はともかくとして、他に方法ないものな。

 

 

 

 







 長らくお待たせいたしました。
 これにて“足したけど2で割らなかった”は完結となります。
 お話自体は前話で完結していましたけど、まぁ、こういう都合の良い世界があってもいいんじゃないかな、と思って書きました。亜門さんが何だかマイルド。宇井さんもハイルと有馬が死んでないのでマイルド。
 いつの間にかハーメルン内の“東京喰種”カテゴリではお気に入り登録数順でも総合評価順でも一番になって驚きましたが、やはり皆様も少しは平和な東京喰種の世界が見たかったのでしょうか。
 こんな作品でも楽しんで頂けたら幸いです。

 ちょうど10話で終了です。
 ピエロとかはもう知らん。ウタさんは相変わらずマスク屋営んでいて、イトリさんは喰種が24区に引っ込んだせいで客が激減したのをカネキュンに文句つけて、ドナートは『もう喰いたくないです』と言うまでもこ〇ちくんが自発的に口の中に突っ込んでいって、ロマは…………アレ? トーカちゃんに店の裏に連れて行かれてから行方不明?
 什造は篠原さんの苦労のおかげで良い子になってんじゃないですかね。政道は妹に先を越されて凹んでいる頃でしょうか。

 ……ホントご都合主義だったなぁ。

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