めざめてソラウ   作:デミ作者

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 いや、あの、はい。
 違うんですよ、はい。
 一年くらいお待たせしたのは確かなんですけど、こう。
 流石にこんな内容で更新して良いのかなとかいくらなんでもとか葛藤してたんですけど、そろそろ何か更新しないと多方面から怒られそうだなって……

 いやでも、大晦日だし前書きに「あんまり真面目な内容じゃない」って書いてますし漫画版Fakeの弓ヘラクレスがクッソカッコ良かったので皆さん許してください!!!
 それでは今年一年ありがとうございました来年もよろしくお願いします!(今年二回目の投稿)


幕間
Interlude


 黒い影は語る。

 ――蝶の羽ばたき効果というものを、今更知らない者は少ないだろう。元来は力学の用語であっただろうか、そこまで理解しているかはともかくとして。どこかの蝶の羽ばたきが、また別のどこかで大きな嵐を生む。運命において、何がどう影響しているか分かったものではない、ということだ。

 さて。その蝶の羽ばたき効果であるが、それが実際に起こりうるものである、あるいは起こったものだとしよう。しかし、誰がそれを理解できるのだろうか? 本来こうなる運命だった、などと説明しようと、理解などされるはずもない。それがバタフライエフェクトであると理解できる者は、所謂「本来の歴史(げんさく)」を知っているものだけ――故に、それが運命の揺り戻しであるということを、当事者自身ですら理解できない。

 

 運命の揺り戻し。それは無論、第四次聖杯戦争に於いて、無惨に死ぬべきだった二人が生き残り、呪いとともに消えるべきだった一人が希望とともに去った事実と、その反動を指す。本来の歴史と比較して、三人の人生を捻じ曲げたそれ――その揺り戻しが、同じように、また別の三人の人生を捻じ曲げるものであるのも、また自明の理なのだ。

 

 ならば、何が何を変えたのか?

 それは、槍兵陣営が斃れていないが故の結末。聖杯戦争を最終盤まで運ぶために、教会の裏手にて殺され果てた――本来の歴史(げんさく)に於いては蟲蔵まで這い戻った間桐雁夜の、未帰還が、すべてを捻じ曲げた。

 

 

 ――運命の壊れたその日。第四次聖杯戦争より幾分か年月の経った蒸し暑い夜。戯れに少女に告げられた言葉は、その壊れた心を以ってしても衝撃であった。

「ああ、雁夜か。アレはあの戦争でお主を放って逃げおったぞ。もともとが落伍者、どこまで無様を晒すかと見ておったが……よもやあのようなことを仕出かすとはな」

 

 無論、それは老人――間桐臓硯の悪意ある嘘だ。しかし、蟲蔵の少女にそれを確かめるすべはなく、また疑う気概も残ってはいない。

 

「あの時、あやつはな、桜。お主を見捨て、そしてお主の姉と母のみを連れて何処ぞに雲隠れしおったのよ。お主の産みの父、遠坂時臣をサーヴァントで縊り殺してな。今にして思えば、このことを最初から計画しておったのだろう。お主のことも、己から女を奪った憎き恋敵の娘を地獄に叩き落とすことで溜飲を下げたかったのじゃろうな。遠坂の倅は今際にそのことに気付いたようであったが、最早手遅れよ」

 

 悪意の蟲はきぃきぃと嗤う。

 

「お前の娘は胎盤として消費されるだけだ、とな。あやつはあの醜い顔を殊更に歪めて、四肢を捻り切った遠坂の倅に言い放っておったわ。なるほど、あの狡猾さは確かに我が孫よ。魔道の才こそ無いものの、儂をここまで欺くだけの智慧を見せていればもう少しマシに扱ったものを。……ああ、桜。恨むのならば儂を恨むなよ? お主がここへ堕ちたのは、儂のせいではないからのぅ」

 

 蟲に犯される少女、あるいは幼女――間桐桜は声を発さない。

 けれど、間桐臓硯は分かっていた。それを告げた瞬間、間桐桜の身体が、痛み苦しみとは別の要素でぴくりと動いたことを。唾を飲み込んだことを。眦から一筋、涙を垂らしたことを。

 それは、五百年を生きた怪物の腑を、歪んだ喜悦で満たすには充分な反応であった。

 

「そもそも、儂が欲していたのはお主の母親よ。お主でも、お主の姉でもない。どちらでも良かった。仮にお主が男であったなら、姉を譲り受けただけの話じゃからな。禅城の血は我ら間桐の血統をすら蘇らせる可能性があった。故にやつと禅城葵を引き合わせてやったと言うのに、奴は惚れた女を蟲に饗するのが気に食わなんだらしい。……ああ、だからお主まで産ませたのだろうよ、桜。儂に贄を用意してから本命を連れ出す、なんとも浅薄ではあるが上手く仕掛けたものよ。女のほうも、姉だけがいれば気を収めるとは、アレに似合いの淫婦じゃな」

 

 じゃからのう、桜。

 お主が恨むべきは儂にあらず。恨むべきは、思惑通りにお主を産ませ、儂へ手を出させた雁夜か。

 お主を捨て、お主の父を捨て、雁夜に靡いたお主の母か。

 あるいはお主自身が女に産まれたこと、そのことか。

 そのいずれか、あるいはいずれもを、恨むが良い――

 

 ――それは、確かに蟲の翁の戯言である。

 しかし、それを確かめる術は間桐桜には無く。

 少女は正しく絶望した。己を取り巻くすべて、即ち『間桐桜として産まれたならば、臓硯からは逃げられない』のであると。

 その中に一つの希望を見た。即ち、『間桐雁夜のようにすれば、臓硯からは逃げられる』のであると。

 そして、切望し熱望する――ゆえに、ここで運命が壊れた。

 それを聴いていたのは、間桐桜ただ一人にあらず。久方ぶりの喜悦にほんの少し我を忘れ、声の大きくなった蟲翁の戯言を耳にした――間桐鶴野。

 吹き飛ばされた右手の痛み、じくじくと熱持つそれがほんの一時だけ恐怖を、嫌悪を、後悔を忘れさせ――着の身着のまま、間桐邸を飛び出す。それだけの勇気、あるいは蛮勇もまた、間桐雁夜(おとうと)が蟲翁を出し抜いたという嘘によって齎されたものだった。

 

「ああ――」

 

 運命の歯車は、どうしようもない程に狂ってしまった。

 飛び出した党首は己の手を奪った魔術師殺しをも頼り、行方を晦まし。

 人でなしの蟲翁は鬱憤を少女に叩きつけ。

 故に、間桐桜は――その日、運命に出会わなかった(赤銅髪の少年の高跳びを見なかった)

 一切の希望なく、泥の底に溺れ行く。なればこそ、深く暗いその感情がそれ(・・)の中に潜む復讐者と結びつくのは必然であった。間桐桜の躰に埋め込まれた砕けた聖杯の欠片(アイリスフィールの残骸)。本来ならば悪神に届くはずもないちっぽけな少女の願い。

 ――聖杯は覚醒し駆動し機能していた。ひとりの紅い女がそれに触れたことで。

 ――聖杯に満ちる意思は、悪魔とされた黒い少年のものではなく、幼い女を子に持ち慈しむ白い女のものであった。ひとりの紅い女が、それを消さずにおいたことで。

 ――そして、聖杯は、その『法』を知っていた。他でもない、己に触れた紅い女の中身が、そうして紅い女(ソラウ)に成ったことで。

 

 故に。

 間桐桜がそれに耐え得ると、そして生贄が最も影響を被ると判断された、第四次聖杯戦争より数年後に。幼女が少女となり、身体つきが丸みを帯び、胸も膨らみ始めたその頃。少年が英国にて思春期を迎え、自身の男性性(おとこ)を自覚し始めた頃――最悪(最高)のタイミングで、その呪いは起動した。

 逃げたる遊蛾と囚われの蝶、その人格(なかみ)を丸ごと入れ替えるという置換魔術によって。

 

「……は?」

 

 故に翌日、間桐桜の躰の中で目覚めた人格――魂ではなく、肉体と精神、魂の三要素の内側に蓄積される趣味趣好や記憶、経験や知識、そして思考回路と個人歴史(パーソナリティ)のすべて――が、躰の持ち主のそれではなく、本来の歴史、あるいは運命において、彼女の兄となるはずであった間桐慎二のそれであったことは、必然であった。

 

「はっ、は、な、何だこれ、ここは、僕、は――っ、夢、じゃない……!?」

 

 かつて少年であった少女が布団を捲りあげれば、そこにあるのは勝手知ったる己の男の身体ではなく、一糸纏わぬ少女の裸身。混乱する頭で周囲をぐるりと見回せば、肩口まで伸ばされた髪が首筋をくすぐる。ここは知っている、もう長いこと帰っていないとはいえ自分の知る間桐の屋敷のはず――だと言うのに、その内に居る己だけが変質している。

 

「あ、なん――っ、声……!?」

 

 身体もであれば、無論声も。は、と細くなった指を喉に這わせれば、少しずつ男の身体になってきていた自分のそれとは違い、喉仏も無ければ肌の手触りも違う。きめ細かく柔らかな肌が触られている、という異常事態が脳――間桐桜の脳であるが――へ警鐘を鳴らす。

 ごくり、と呑み込んだ生唾が腹へ落ち込む感覚が嫌に生々しい。少年(おのれ)のものでない心臓が、少年(おのれ)のものでない膨らんだ胸の内側でばくばくと音を立てる。紫色の瞳を通して見る屋敷の風景も、形の整った鼻腔をくすぐる屋敷の香りも、此処を訪れるのは幼少期以来であるというのに何故だろう、はっきりと自身が知覚していたそれとは異なると理解してしまう――それが、「間桐慎二として経験した感覚」と、「間桐桜として経験する感覚」との差異であることを、少女となった少年はまだその脳で理解し得ない。

 

「ち、畜生……何が、どうなって……ひいっ!?」

 

 おっかなびっくりベッドから抜け出した、途端に鳴り響く電話のベル。羽織るものを探そうにも、身の回りにそれらしきものは存在しない。仕方なく、裸身のまま全身を震わせながら受話器を掴み取る――果たして、向こう側から聞こえてきたのは。

 

『ああ、もしもし? 繋がってますよね? えーと、間桐桜さん……いや、間桐慎二さん、ですよね?』

「おまっ、僕の声……!」

 

 それは、彼にとって馴染み深い間桐慎二の声であった。声を聞いて安堵したか、あるいは現状を忘れて怒りに染まったか。喉より溢れる鈴のような少女の声で一気に捲し立てる。お前は誰だ。ここは間桐邸か。僕はどうなった。この身体は誰のものか。お前の差し金か、元には戻れるのか――すべての返答は、くすくすと言う嗤い声だった。

 

『ああ、いえ。すみません、何もできない非力なその身体で、怯えているのが目に見えてしまって。……質問の答えですが。私は昨日まで間桐桜だったもので、その身体は間桐桜のもので、そこは間桐邸で、こうなった理由は分かりません……原因はなんとなく分かりますけど。で、元に戻れるかは分かりませんが、戻りたくありません。まあ原因と照らし合わせて、私がこう思っているので二度と元に戻れないんじゃないでしょうか』

「なッ……お、オマエっ! ふざけるなよ、いきなり僕にこんなことをしておいて嫌だと!?」

『ええ、はい。でも良いじゃないですか。慎二さん、魔術が使いたかったんでしょう? 自分の身体だったら無理だったかもしれませんが、その身体なら使えますよ。とびきりの希少属性と極上の魔術回路つきですし』

 

 は……? という呆けとともに、少しばかり受話器から耳が離れる。

 

「じゃ、じゃあなんで――」

『さあ? まあ、この時間ならもうすぐ理解できると思いますよ。まあ、お互い要らないものを捨てて必要なものを手に入れたということで。魔術の才に比べれば、些細なことでしょう? その身体で生きていくことも、私が欲した平穏で普通の生活を送れなくなることも。あなた方にとっては、それが至上なんでしょう?』

 

 きしきし、ぎいぎい、くちくちくち。

 自身のものとは到底思えない底冷えのする声に、背筋を走る怖気。問い返そうとするも既に遅く、そしてそれは怖気などでもない。

 

「おい……おい、ちょっと待て。おま――ひ、ィッ!? む、蟲!? なん、なんだよこれェ!」

『ああ、始まりましたか。まあ、諦めてください。ホント、魔術師ってどうしようもないですよね。鶴野さん……ああいや、父さんも同意見みたいで、そう言ったら喜んでましたよ。こんなどっちつかずの中途半端なところは引き払って、魔道と関係ないところに引っ越そうとも』

「ハ、ぁ……! なあ、助けて、助けてくれよォ! 脚に、手に蟲がァ!」

『こんなに恵まれた男性の立場を失って、そんなゴミみたいな魔術師……いや、胎盤としての生活を送る引き換えに手に入れられるのが魔術の才能だけだなんて、少し同情もしますけど。返品も交換も受け付けてないので。ごめんなさい。まあ――』

 

 ぶらん、ぶらんと伸び切ったコードに揺られる落ちた受話器の前に少女――間桐桜は既に居らず。

 

『良い感じの悲鳴だったんで、あの蟲爺も張り切るかもしれませんけど。一番痛いところは多分私が肩代わりしたんで、あとは慣れたら楽ですよ――まあ、男性がどう捉えるかは分かりませんけど。ともかく。『間桐慎二』は私が引き受けますから。あなたは『間桐桜』として私の代わりに生きて、死んでくださいね』

 

 がちゃんと切れた通話の向こう側に、地下から響き渡る女の絶叫は届かず。

 ここに、運命は致命的なまでに崩壊した――

 

――――――――――――――――――――――――

――――――――――――

――――――

―――

 

「――というのが、アンタが魔法少女戦線(プリズマワールド)に出向いてた間に起こったことだな。ああ、時系列的には数ヶ月前だ」

 

「は?」

 

「ああ、安心してくれよマスター。アンタがかつて自分に施したみたいに間桐桜の精神は保護済みだし、痛覚も一定ラインを超えると快楽に転換されるようにマスター(アンタ)の転換魔術を施しておいた。アイツは死ぬまで間桐慎二としての自意識を保ったまま間桐桜の肉体で生き続けるから問題はないぜ」

 

「は?」

 

「あー……まあ……言い出したというかやらかしたのはこの世全ての悪(オレ)だがオレじゃない。アイリスフィールの皮のほうだ。曰く、『マスターの平行世界の記録を鑑みるに、あんなの生かしておいても女の子が酷い目に遭うだけよ!! 女の敵よ!!』とのことだ。つまりオレの責任じゃない――いやまあ皮被ってもオレはオレだし止めようと思えば止められたけど観てて楽しかったからしょうがなブゲェッ!?!?」

 

「……この、何処に出しても恥ずかしい精神の捻じ曲がったド低級星ゼロサーヴァントがーーッ!!」

 

 夢幻召喚、エリザベート・バートリー……怒りをそのまま竜息吹(ドラゴンブレス)として叩きつけ、元凶のアンリを壁にめり込ませて撃滅――すれど事態は面倒な方向に転がったまま。

 俺――ソラウはツノの生えた頭を抑え、ちょっと動くと原典(PC)版みたいなことになりそうなヒモ衣装を鏡に映しながら、原作(シナリオ)から逸脱しそうな間桐陣営をどうにかするために、頭を抱える羽目になったのであった。




 いやアトランティスクッソやばいでしょ(ヘラクレスガチ勢)
 これはアルケイデスか弓クレスくるでぇ今日(2019/12/31)の生放送で日が回った瞬間にオリュンポス実装告知される、俺は詳しいんだ。

 慎二くんと桜ちゃんの人格交換は型月的魂-精神-肉体の三要素に抵触しない形で理論を考えてますがめちゃんこ長くなったので割愛しました。
 ちゃんと桜ちゃんになった慎二くんも桜ちゃんの肉体から与えられる感覚を最大限受容できるので安心してください!

あとこの後の間桐陣営大整理は気が向けば書きますが気が向かなければそのまま第五次に突入しますので悪しからず(予防線)

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