この方がプロローグらしい、のかな?
Episode.0 二人の帰るべき場所
少年は一人、降り頻る雨に打たれている。
深い森の中、唯一開けた場所に『
顔を雨で濡らしながら上を見上げても、『
『
『
雨や泥で所々汚れているが、貴族の物と思われる高価な装飾が施されている洋服。
闇に溶け込んでしまいそうな黒い髪。
まるで血で染まってしまったような深く赤黒い瞳。
光の灯らない虚無な瞳で、少年は『
「………、何で、お前は………」
少年は小さく呟く。
鏡に映る景色に混じり、少年の後ろには人が数人倒れていた。
鎧を着た者。『竜』を模していた金属の破片をその身に残している者。息はある。意識を『何者』かに刈り取られただけだ。
この場には少年しか立っていない。いや、残されていない。他は目の前にある『
「………、『お前』は、俺のことを知っているのか?」
―――、ああ、『お前』は『お前』を知っている。
少年はもう一人の少年、『
『《鍵》の認証を確認しました。『
何処からか機械質でいて、脳内に直接響いてくる奇妙な声。
その声に反応してか、『
扉が開ききった『
『
先の見えない闇。
深い、深い、暗い闇。
光も通さない吸い込まれそうな闇。
だが、少年は臆する事なく足を踏み出す。『
「―――、ごめんな、セリス姉。俺は必ず帰って来るから」
少年は一度振り返ると、語り掛けるように呟く。
この場にはいない大切な少女へと。
少年は名残惜しそうに寂しげな表情を見せると、再び闇へと向き直り、歩き始める。
やがて少年の姿は闇に包まれ、見えなくなって行った。
†
少女は一人、降り頻る雨を見ている。
静粛に包まれている部屋の中、窓に手を添え、少年達の帰りを待っていた。
窓に映る少女の姿は鮮やかな金色の髪、深く透き通った翡翠の瞳。
少女が暮らしているのは、皆々に豪邸という印象を与えるほどの屋敷。貴族の中でも群を抜くほどだろう。
普段は人も多く、相応に賑やかなのだが、現在は兵も大半が出払っており、従者達や警備にあたっている衛兵達が残っているだけ。
理由は『あれ』。
少女の見つめる先にある影。何の前触れも無く現れた『
屋敷の『竜』を扱える兵達は少年と共に『あれ』に向かったのだ。
少女の父、この屋敷の現当主が治めている広大な土地にも既に『
『
『竜』の力を手に入れるにも『竜』の力が必要となる。
そして、この世界で上に立つにも『竜』の力が必要となる。
例え、『竜』の力を持っていたとしても、『
「『あれ』に向かうのは危険ですノエル、お願いですから行かないで下さい!」
少女は少年を必死に止めた。普段は見せることのない涙を流しながら。何度も手で擦ったのだろう、目元が赤くなってしまっているのが見えていた。
―――、大丈夫だよ、必ず帰って来るから。だから待っていて欲しい。
少年は少女の涙を指でそっと拭うと、微笑む。
安心してくれと。
泣かないでくれと。
笑って送り出してくれと。
「………、ですが、私はノエルがいないと―――」
―――、セリス姉の傍が、今の俺にとって、大事な、大切な『帰るべき場所』だから。
「ノエル………」
少年は少女を抱き寄せる。少女もそれに答えるように少年を抱きしめると、胸元へ顔をあてた。
少年の腕の中は温かい。包み込まれるような優しさを感じる。
ここは私の心の不安や心配を全て溶かしてくれる場所。
少年にとって少女が『帰るべき場所』なら、少女にとって少年が『帰るべき場所』。大事な、大切な居場所。きっと、これから先も、未来も、いつまでも変わることのない大切な―――。
少女は胸に押し付けていた顔を上げ、少年に視線を合わせる。そして幼さを残す端整な顔を涙で崩しながらも、精一杯の笑顔を見せていた。
―――、じゃあ行ってくるよ、セリス姉。
少女の笑顔を見る事が出来て安心したのか、少年は手を解くと、離れ際に頭を撫でる。それには少女も頬を赤く染めていた。
少年は『竜』を扱う兵達と屋敷を後にして行く。
「私は待ち続けます、ノエル。ここが、私が、あなたの『帰るべき場所』だから―――」
少女は少年を待った。胸元に光る『思い出』をその両手で握り、無事に少年達が帰ってくることを祈りながら―――。
―――、運命は時に残酷で無情で。時には幸と救いになる。
屋敷に帰還出来たのは傷ついた兵達のみだった。
そこには少年の姿、少女の『帰るべき場所』はなかった。
少女の願いは虚しくも叶わなかった。
†
『外はどうだった? 楽しかったかい?』
「………」
『何か話してくれないかな? 久々の再会なんだからさ』
「………」
『黙り………、か。はぁ………、まぁいいさ。『君』を外界に出してしまったのは俺の失態だからね』
「………」
『さてと、まずは『おかえり』………、かな?』
「………」
『嫌でも思い出してもらうよ? 君の本来の『役目』を、ね?』
「………」
『それじゃ、行こうか。まずは君に『力』を渡そう。そして君には『壊して』貰うよ。『あの世界』の行く末を。『運命』を。我が一族の『復讐の結末』を―――』
―――、たった一人の『英雄』としてな。
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