第零遺跡の「鍵の管理者」   作:奈々歌

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この方がプロローグらしい、のかな?



Prologue。
Episode.0 二人の帰るべき場所


少年は一人、降り頻る雨に打たれている。

 

深い森の中、唯一開けた場所に『(ゲート)』が静かに佇んでいた。

 

顔を雨で濡らしながら上を見上げても、『(ゲート)』の先は曇天の空を覆う薄黒い雲を越え、見えないほどに大きい。

 

(ゲート)』の扉は鏡のように金属特有の光沢を放ち、周りの景色をその表に映して独特な淡い輝きを見せる。

 

(ゲート)』は景色と共に、『(ゲート)』の前へと立っている少年の姿をも、その表面へと映していた。

 

雨や泥で所々汚れているが、貴族の物と思われる高価な装飾が施されている洋服。

 

闇に溶け込んでしまいそうな黒い髪。

 

まるで血で染まってしまったような深く赤黒い瞳。

 

光の灯らない虚無な瞳で、少年は『(ゲート)』に映る自分の姿をただただ見続けていた。

 

「………、何で、お前は………」

 

少年は小さく呟く。

 

鏡に映る景色に混じり、少年の後ろには人が数人倒れていた。

 

鎧を着た者。『竜』を模していた金属の破片をその身に残している者。息はある。意識を『何者』かに刈り取られただけだ。

 

この場には少年しか立っていない。いや、残されていない。他は目の前にある『(ゲート)』により『邪魔者』として排除されてしまった。

 

「………、『お前』は、俺のことを知っているのか?」

 

―――、ああ、『お前』は『お前』を知っている。

 

少年はもう一人の少年、『(ゲート)』に映る自分の顔に手を触れる。その瞬間、『お前』の表情が僅かにほくそ笑んだように見えた―――。

 

『《鍵》の認証を確認しました。『(ゲート)』の開門を開始します』

 

何処からか機械質でいて、脳内に直接響いてくる奇妙な声。

 

その声に反応してか、『(ゲート)』が軋み出し、音を立てながらゆっくりと開いていく。

 

扉が開ききった『(ゲート)』には何もない。

 

(ゲート)』の中は闇だった。

 

先の見えない闇。

 

深い、深い、暗い闇。

 

光も通さない吸い込まれそうな闇。

 

だが、少年は臆する事なく足を踏み出す。『(ゲート)』は少年の歩みに同調するように、黒とは対極。白の足場を形成していた。

 

「―――、ごめんな、セリス姉。俺は必ず帰って来るから」

 

少年は一度振り返ると、語り掛けるように呟く。

 

この場にはいない大切な少女へと。

 

少年は名残惜しそうに寂しげな表情を見せると、再び闇へと向き直り、歩き始める。

 

やがて少年の姿は闇に包まれ、見えなくなって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少女は一人、降り頻る雨を見ている。

 

静粛に包まれている部屋の中、窓に手を添え、少年達の帰りを待っていた。

 

窓に映る少女の姿は鮮やかな金色の髪、深く透き通った翡翠の瞳。

 

少女が暮らしているのは、皆々に豪邸という印象を与えるほどの屋敷。貴族の中でも群を抜くほどだろう。

 

普段は人も多く、相応に賑やかなのだが、現在は兵も大半が出払っており、従者達や警備にあたっている衛兵達が残っているだけ。

 

理由は『あれ』。

 

少女の見つめる先にある影。何の前触れも無く現れた『遺跡(ルイン)』と呼ばれる物。巨大な『(ゲート)』の形を模した構造体。未だに謎の多き場所。

 

屋敷の『竜』を扱える兵達は少年と共に『あれ』に向かったのだ。

 

少女の父、この屋敷の現当主が治めている広大な土地にも既に『遺跡(ルイン)』は存在している事を少女は知っていた。でも『あれ』とは違い、その『遺跡(ルイン)』は『(バベル)』の形を模す物。

 

遺跡(ルイン)』からは『竜』の力が手に入る。

 

『竜』の力を手に入れるにも『竜』の力が必要となる。

 

そして、この世界で上に立つにも『竜』の力が必要となる。

 

例え、『竜』の力を持っていたとしても、『遺跡(ルイン)』に近づくのは危険な行為。何か予想も出来ない反応が起きてしまえば、それこそ命に関わる。

 

「『あれ』に向かうのは危険ですノエル、お願いですから行かないで下さい!」

 

少女は少年を必死に止めた。普段は見せることのない涙を流しながら。何度も手で擦ったのだろう、目元が赤くなってしまっているのが見えていた。

 

―――、大丈夫だよ、必ず帰って来るから。だから待っていて欲しい。

 

少年は少女の涙を指でそっと拭うと、微笑む。

 

安心してくれと。

 

泣かないでくれと。

 

笑って送り出してくれと。

 

「………、ですが、私はノエルがいないと―――」

 

―――、セリス姉の傍が、今の俺にとって、大事な、大切な『帰るべき場所』だから。

 

「ノエル………」

 

少年は少女を抱き寄せる。少女もそれに答えるように少年を抱きしめると、胸元へ顔をあてた。

 

少年の腕の中は温かい。包み込まれるような優しさを感じる。

 

ここは私の心の不安や心配を全て溶かしてくれる場所。

 

少年にとって少女が『帰るべき場所』なら、少女にとって少年が『帰るべき場所』。大事な、大切な居場所。きっと、これから先も、未来も、いつまでも変わることのない大切な―――。

 

少女は胸に押し付けていた顔を上げ、少年に視線を合わせる。そして幼さを残す端整な顔を涙で崩しながらも、精一杯の笑顔を見せていた。

 

―――、じゃあ行ってくるよ、セリス姉。

 

少女の笑顔を見る事が出来て安心したのか、少年は手を解くと、離れ際に頭を撫でる。それには少女も頬を赤く染めていた。

 

少年は『竜』を扱う兵達と屋敷を後にして行く。

 

「私は待ち続けます、ノエル。ここが、私が、あなたの『帰るべき場所』だから―――」

 

少女は少年を待った。胸元に光る『思い出』をその両手で握り、無事に少年達が帰ってくることを祈りながら―――。

 

―――、運命は時に残酷で無情で。時には幸と救いになる。

 

屋敷に帰還出来たのは傷ついた兵達のみだった。

 

そこには少年の姿、少女の『帰るべき場所』はなかった。

 

少女の願いは虚しくも叶わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『外はどうだった? 楽しかったかい?』

 

「………」

 

『何か話してくれないかな? 久々の再会なんだからさ』

 

「………」

 

『黙り………、か。はぁ………、まぁいいさ。『君』を外界に出してしまったのは俺の失態だからね』

 

「………」

 

『さてと、まずは『おかえり』………、かな?』

 

「………」

 

『嫌でも思い出してもらうよ? 君の本来の『役目』を、ね?』

 

「………」

 

『それじゃ、行こうか。まずは君に『力』を渡そう。そして君には『壊して』貰うよ。『あの世界』の行く末を。『運命』を。我が一族の『復讐の結末』を―――』

 

 

―――、たった一人の『英雄』としてな。

 




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