第零遺跡の「鍵の管理者」   作:奈々歌

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遅れてすいません!

それではどうぞ!


少女の探していたもの。

 

 

「なんか、雨でも降りそうな感じだな―――っと、クルルシファーそこ気を付けろよ?」

ランプを持ち、彼女の前を歩くノエルはそんなことを呟きつつ、注意を促す。

 

「ありがと。そうね、少し空気が湿ってきた気がするわ」

ノエルの言葉を聞き、ひょい、と足元にあった機の根っこを跨ぐ。そして、お礼を彼の背中に伝えながら、先ほどの言葉に相槌を打った。

 

野営を抜け出して、『祭壇』へと向かう二人。暗闇でよく見えないが、天井には雨雲のようなものがうっすらと見える。降られる前に『祭壇』へと着きたいため、二人の足も自然と早くなっていた。

 

ノエルの顔に小さく雨粒があたる。それを手の甲で拭うと、

「まずいな、振ってきやがったか。傘なんて持ってきてないぞ」

 

「これを被れば、少しはしのげるんじゃないかしら? 意外と厚めの生地で出来てるみたいだし」

そう言って、クルルシファーは姿を隠す際に使用した布を見せてくる。確かにこれなら多少は濡れずに済むはずだ。だが、一枚しかないため、一人しか使用できないだろう。

 

「そうだな、ならクルルシファーが使えよ。風邪引かれたら困るしな」

そしてクルルシファーの腕から布を取ると、ぱさっ、と頭にかけてあげる。

 

布の大きさからにしてその美顔が覆われるが、

「あら、あなたはいいのかしら?」

そのかけられた布を手で少し避けて顔を出すと、そう尋ねてきた。

 

「俺は馬鹿だから、風邪は引かんのだよ。心配ご無用ってやつだ。気にすんな」

そう言いながら、軽くクルルシファーの頭に手を置く。すぐに払われると思っていたノエルだったが、クルルシファーは払わず、嬉しそうに口元を緩めていた。

 

「優しいのね、ノエル君は」

 

「優しいって言うより、それが普通だと俺は思うけど?」

ノエルは小首を傾げる。

 

「ふふっ、それを素で出来るあなたなら、女の子にモテるでしょうね」

その様子を見たクルルシファーは、悪戯っぽい笑みを浮かべ、そう呟いた。

 

それを聞いたノエルは表情がぱぁっ、と明るくなる。

「おっ、それまじで!? 信じるよ?」

 

「責任はとれないけどね。まぁ、私は好きよ、あなたみたいな人」

その反応にクルルシファーはくすっと笑った。

 

「じゃあ、もしモテなかったら、クルルシファーのところに行けばいいんだな?」

 

「そうね。その時、私に本当の『恋人』がいなかったらね」

 

「そっか、クルルシファーは引く手数多だもんな。俺じゃあ無理だろうな……」

ノエルは落胆したように落ち込んでしまう。

 

「そんなに落ち込むことかしら? 私はそんなにモテないわよ?」

 

「冗談で言ってるよな? それ。お前がモテないなんてありえない!」

俯いていた顔をがばっと上げ、ジト目を向ける。

 

「私はあなたがモテないほうが、ありえないと思うのだけれど?」

そう言ってクルルシファーは、その視線に目を合わせる。暫く見つめ合った後、二人はそれぞれ笑い出した。

 

そして微笑み合った後、

「じゃあ、そろそろ先を急ぎましょうか?」

 

「あぁ、すまん。そうだったな」

ノエルが軽い口調で謝ると、二人は雨が弱く降る中、『祭壇』へと再び歩きだしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここがそうなのかな?」

ノエルは目の前に見える場所を見ながら呟いた。

 

あれから歩くこと数十分。二人は奇妙な建造物がある場所に辿り着いていた。白い柱が数本立ち並び、その柱が囲んでいる中央の台座には淡い光を放っている宝玉がある。建造物の形からして、これが『祭壇』なのだろう。

 

「ええ、ここが『祭壇』で間違いないようね」

クルルシファーは、『箱庭(ガーデン)』内部のことが記載されている地図を見ながら答える。

 

「じゃあ、行こうか。お前の目的とやらを果たすために。っとその前に―――」

そう言ってノエルは『祭壇』がある円状の床に足をかける。だが、立ち止まり、歩いてきた道に視線を向けた。

 

「どうしたのかしら?」

ノエルの後ろに立っていたクルルシファーはその行動に疑問を持つ。だが、次にノエルが発した言葉で、その行動の意味を理解する。

 

「ついて来てるんだろ、ルクス。出てこいよ」

 

「えっ、ルクス君が?」

クルルシファーもノエルが見ている方向に視線を向ける。すると、暗闇の中から人影が現れる。そこには彼女もよく見覚えがある特徴的な銀髪の少年が立っていた。

 

「いつから気づいてたの?」

ルクスは苦笑いを浮かべながら、頬を人差し指で掻く。

 

ノエルは腕を組み、その質問に対して答える。

「かなり前からだな。尾行下手だったからすぐ気づいたぞ?」

 

「はぁ、まったく、ノエルには敵わないなぁ。ごめんね、気になったからついてきちゃったんだよ」

ルクスは落ち込んだようにため息をついた後、クルルシファーに顔を向けた。

 

ルクスのその顔を見たクルルシファーは仕方ないとばかりに、

「まあいいわ、あなたもここまで来たなら共犯よ、一緒に行きましょうか」

そうルクスに同行を促した。

 

「確かにそうなるな。よしルクス、リーシャ様に一緒に怒られような」

 

「あはは、作戦無視したんだもんね、僕たち」

リーシャが出した作戦を無視して、三人は一足先に『祭壇』へと来ているのだ。立派な作戦無視である。まぁ、怒られるだろう。ルクスは大丈夫そうだが。

 

「そういうことだ。それじゃあ改めて、行こうか」

そしてノエルは『祭壇』の方へと向き直して、進んでいく。

 

「………。ええ、そうね」

クルルシファーはノエルの後ろを歩きながら、何かを躊躇うような顔になっていた。

 

「どうかしたのか?」

その様子にノエルは疑問を持ち、尋ねる。

 

ノエルが声をかけた時にはすでにいつもの冷静な表情に戻っていて、

「なんでもないわ。行きましょう」

そう言いながら、止まっているノエルを追い越していったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これってどうやったら中に入れるんだ?」

ノエルは『箱庭(ガーデン)』の内部へと行くための入り口を探していた。『祭壇』の周りの見ても、入口らしきものは見つからず、これといった方法も思いつかないので、途方に暮れていた。

 

「内部への入り方知らないもんね。リーシャ様とかだったら知ってたのかな?」

そんなことを呟きながら、ノエルとルクスが辺りを見回していると、クルルシファーが『祭壇』の中央にある宝玉に向かって行った。

 

「たぶん、これが入り口なのよ」

クルルシファーは台座に乗っている宝玉の前まで歩み寄ると、手をかざす。

 

すると、淡い光を放っていた宝玉の光が強くなり、辺りを包み込んでいく。

『―――《鍵》の存在を確認しました。特殊コードの解錠を行います』

どこからともなく声が聞こえてくる。人の声に近いものだったが、これはたぶん別のものだろう。

 

「やっぱりそうだったのね。私は―――」

宝玉の光が視界を埋め尽くしていく中、クルルシファーの声が聞こえてくる。だが、途中でその声は聞こえなくなり、ノエルはあまりの眩しさに瞼を閉じた。

 

光が弱まり、ノエルは目を開ける。すると全ての景色はがらりと変わっていた。三人の目の前には大きな門が佇んでおり、周りは岩に囲まれている。崩れて瓦礫が散乱している場所もあるところを見ると、あまり安定している空間には思えない。

 

「………、どうやらここが『祭壇』の内部みたいね」

 

「う、うん。そうみたいだね」

クルルシファーの言葉に相槌を打つルクス。戸惑っている様子のルクスとは裏腹に、クルルシファーは落ち着いているようだった。

 

「でも、さらに奥が在りそうだな。たぶんあれが門を開ける装置かな?」

そう言って、ノエルは門の少し手前にある奇妙な箱形のオブジェを指差す。

 

すると、クルルシファーはそのオブジェに急ぎ足で歩み寄っていく。

「おい、クルルシファー。そんなに急がなくても―――」

 

「この先に私の目的の場所があるはずなのよ、だから―――」

 

そしてクルルシファーはオブジェに辿り着くと手を置く。

『《鍵》を確認しました。権限により、第二層管理室への門を解錠します』

またどこからか声が聞こえてくると、オブジェに白い光の線が走る。そして門が音を立てて開いていき、下へと続く階段が現れる。オブジェは門の開門と連動するかのように床へと収納されていった。

 

「さっきの入り口もそうだし、この門だって。どうしてこんなに簡単に通れるの?」

次々と起こる不可思議なことにルクスは驚いていた。まぁ無理もない、それが普通の反応だろう。

 

だが、ノエルは違ったようで、どこかで同じような光景を見てきたかのように落ち着いている。

 

「私は先に行くわね」

そう言ってクルルシファーは二人を置いて、門の中、第二層へと続く階段を降りていく。ノエルはその後を静かについていった。

 

ルクスはまだ戸惑っているようだったが、

「二人共待ってよ!! 置いてかないで!」

置いて行かれそうだったので、慌てて二人の後を追いかけていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

階段を降りていくと、そこには大小それぞれ無数の箱が存在していた。壁際にある棚に綺麗に並んでいる物もあったが、床に散乱しているのもある。

 

ルクスは近くの床に落ちていた小さめの箱を手に取ると、

「これは……、『ボックス』?」

 

「ああ、そうだな。これだけあれば今回の調査は成功だろうよ」

 

『ボックス』―――『遺跡(ルイン)』に存在する箱形の物体。その中には機竜の部品や古文書などか眠っている。だが、『ボックス』の正式な開け方は解明されておらず、機竜で持ち帰り、工房(アトリエ)などで無理矢理開けるしかないのが現状であった。

 

クルルシファーは『ボックス』が並んでいる棚に歩いて行く。

「ここが探していた場所なのか、クルルシファー?」

その背中にノエルは尋ねる。

 

「きっとここに私が探していた答えがあるはずなのよ―――」

そう答えた後、クルルシファーは一つの『ボックス』にそっと手を置く。

 

すると、また声が聞こえてくる。

『《鍵》の認証を確認。『ボックス』を開封します』

『ボックス』は音を立てながら開いていく。そして中から古文書が数枚でてきた。

 

クルルシファーは古文書を手に取ると、さっと軽く目を通す。

「………。違う、これじゃないわ」

そう言った後、その紙を手放し、次々とクルルシファーは『ボックス』を開けていく。そして何かを確かめるように目を通していった。

 

床に散らばる古文書を集めながらルクスは声を掛ける。

「クルルシファーさん、いったい何を探しているの?」

 

「もっと探さないと、きっとあるはず。見つけないと私は―――」

どうやらルクスの声は届いていないらしく、独り言を呟きながら奥へ奥へと進んでいく。

 

そんなクルルシファーの姿を見た後、ノエルのほうを向いて、

「………。ねぇ、ノエル。クルルシファーさんの探してるのって何か知ってる?」

『恋人』であるノエルなら何か知っていると思い、問いかける。

 

「悪いがそこまでは聞かされてないんだよ。でも、あれだけ必死に探してるってことは、それだけ大事なことなんだろうな。後で教えてくれるって言ってたから、俺はそれまで待つさ」

 

「そっか、なら僕もそうするよ」

ノエルの答えに仕方ないとルクスは諦め、クルルシファーのほうに向き直ると、ノエルはルクスが集めてきた古文書を何枚か受け取って読み始める。ルクスは古代文字があまり読めないので、ただ二人のその光景を眺めているのだった。

 

 

暫く、調べものをしていたクルルシファーがその手を止めると、さらに奥へと続く扉に向かって行く。そして扉に触れると自動的に開き始める。彼女は扉をくぐり、奥の部屋へと向かっていった。その後ろをノエルとルクスもついていき、その部屋へと入る。

 

ノエルとルクスがその部屋に入ると、先ほどまでいた後ろの空間からぱらぱらっと、小さく何かが崩れるような音が聞こえてきた。次第にその音は大きくなっていく。

 

『危険です―――崩落が開始します。速やかに安全な場所へ避難を開始してください』

そう声が聞こえた瞬間。先ほどの空間が崩落を始めた。元々、あちこち崩れている部分があったので、もしかしたらとは思っていたのだが。

 

まだ扉の近くにいた二人は、

「ここから離れようノエル! たぶんこの勢いだと、ここまで瓦礫がくるかもしれない!」

 

「そうだな、奥に避難しようか」

走ってその場から離れると、案の定、崩落による瓦礫は扉のところまでやってくる。扉が塞がれたため、来た道を引き返すことは出来なくなった。

 

「二人共、大丈夫かしら?」

クルルシファーが二人の下にやってくる。

 

「ああ、大丈夫だ。やっぱりこの階層はだいぶ傷んでいたようだな」

本来『遺跡(ルイン)』の調査ではこんな簡単に深層への道は開くことはない。そのため『遺跡(ルイン)』から機竜を始め、物資や古文書などを発掘しようとした先人たちが扉や壁を壊して進んだ結果、『遺跡(ルイン)』の内部に先ほどのような崩落の危険がある場所が存在するようになった。

 

「でも、これで引き返せなくなったね………。どうしようか?」

 

「まぁ、リーシャ様たちが見つけてくれるだろうよ。ノクトの《ドレイク》だってあるんだし、俺たちの居場所はすぐ分かるさ。最悪、機竜で無理矢理出る方法もあるから大丈夫だろ」

 

「そうだね、でもその方法は危ないから最後まで取っておいたほうがいいと思う。せっかくだし、何か話でもして待ってようか。周りも暗くてよく見えないし………」

ルクスがそう提案してくる。クルルシファーは探し物をして待つのかと思っていたが、どうやらこの部屋に『ボックス』は無かったようだった。ルクスが持っている古文書も、先の崩落で部屋の灯りはほとんど消えてしまったらしく、読めるような明るさはない。

 

ルクスがそう言った後、クルルシファーが奥の方から歩いてくる。その表情はどこか浮かないようだった。

「ごめんなさい、巻きこんでしまって―――私一人で来れば二人はこんなことにはならなかったはずなのに………」

その声はだんだんと消え入りそうな、弱々しいものになっていく。

 

「勝手についてきたのは俺たちなんだから気にすんなって。それよりも探しものは見つかったのか?」

ノエルは気にしてないといったように振る舞いながら、少女の肩に手を置いた。

 

クルルシファーはその手に軽く自分の手を添えると、

「ダメだったわ。手がかりさえ見つけられないの………」

小さくそう呟いて、項垂れてしまう。

 

そんなやり取りをしている二人を見ていたルクスが口を開いた。ノエルはルクスの方を見ると、

「ねぇ、クルルシファーさん。その探し物について教えてもらえないかな? そうすれば僕たちも少しかもしれないけど、力になれるからさ」

その質問はノエルも聞いておきたいことだったので、答えを求めるようにルクスとクルルシファーへ視線を向けた。

 

二人の顔を見たクルルシファーは、話すべきか悩んでいたようだったが、

「………。そろそろ話してもいいかしらね。ノエル君にはちゃんと話すって言ってしまったし。ルクス君も聞いて頂戴、私のことを」

少しの沈黙の後、顔を上げ、口を開き、真実を語りだす。

 

 

「―――私は『遺跡(ルイン)』の生き残りなのよ」

 

 

「えっ………」

彼女から発せられた言葉にルクスは言葉を失う。ノエルもその言葉に驚いていたが、ルクスの驚きとは違ったものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時を同じくして、城塞都市の富裕層区にある豪邸。その一室に二つの影が存在していた。片方は『王国の覇者』であるバルゼリット卿。そしてもう片方は黒いローブを深々と被った人物だった。

 

「『箱庭(ガーデン)』の調査に同行した成果はどうだった? 彼女の『鍵』としての力は確認できたかい?」

ローブの人物が口を開くと、バルゼリットへ問いかける。

 

バルゼリットはワインの入ったグラスを持ち、

「いや、それは出来なかった。だが、彼女の神装や特殊武装は確認できた。それだけでもいい収穫になったさ」

そう言って、くいっとワインを飲む。その後は手元でゆっくりと回していた。

 

ローブの人物は、少しながら不満そうな様子だったが、

「そうか、それは残念だったな。だが、彼女は確かに『鍵』なのだよ。だからお前に手に入れて欲しい。そのために神装機竜をくれてやったんだからな」

 

「わかっているさ。俺がその『鍵』さえ手に入れれば、『遺跡(ルイン)』から力も財も手に入れ放題というわけだろ? 最高じゃないか」

満足そうにバルゼリットは笑い出す。その様子を見たローブの人物も唯一見えている口元に笑みを浮かべる。

 

「それに、あの女を俺は気に入ったのでな、必ず手に入れることにした。あの生意気な態度、俺の力で屈服させてやる。所詮女など男たちの道具でしかないことを分からせてやるさ」

 

「ははっ、それは楽しみだな。期待しているぞ、我が盟友よ」

二人は笑い合う。だが、バルゼリットの表情は神妙な面持ちに変わっていった。

 

「だが、その前にあの『恋人』とかほざいている奴を決闘で倒さなくてはならないのが少し問題だな」

バルゼリットは顎に手を添えながら、考えるような仕草をとる。

 

「奴の神装は厄介だからな。使われる前にどうにかしないといけない」

 

「今回の調査で偶然だったんだが、奴の神装機竜の能力はどういうものかこの目で確認することができた。まぁ、俺の《アジ・ダハーカ》の神装でどうとでもしてみせるがな」

ふっと、バルゼリットが自分の機攻殻剣に手を掛け、うすら笑いを浮かべた。

 

「確かに《アジ・ダハーカ》の神装なら奴の能力を封じることができるが―――」

笑みを浮かべているバルゼリットとは裏腹に、ローブの人物は真剣な声色に変わる。

 

「これは俺からの忠告だ。奴の神装だけは使うなよ(・・・・)? わかったな?」

言葉の一部を強調して、バルゼリットに告げると、ローブの人物は立ち上がった。

 

バルゼリットはその言葉に疑問を持つと、

「それはどうしてなんだ?」

そうローブの人物に尋ねる。

 

「あれは、普通の人間には扱えないものなんだ。いいな? ちゃんと忠告したからな?」

その問いに答えるように人差し指をバルゼリットの顔に向け、もう一度告げた。そうした後、ローブの人物は外套をなびかせて部屋を後にしようと扉に向かう。

 

「ああ、わかったさ。お前の言うことだ。信じよう」

ワイングラスを机に置くと、その背中にバルゼリットはそう言葉をかけていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――私は『遺跡(ルイン)』の生き残りなのよ」

クルルシファーは確かにそう告げた。三人がいる部屋に暫し沈黙が訪れる。

 

その沈黙を破り、ルクスが口を開くと、

「えっと、生き残りって―――」

 

「………。私はユミル教国にある第四遺跡『坑道(ホール)』から発見されたらしいわ。さっき見たのとは別の形をした『ボックス』から、まだ幼い姿の私がね」

ルクスの問いに淡々とクルルシファーは答えていく。

 

「そして、私を発見した人物がエインフォルク家当主の私の父。いえ、義父と言うのが正しいわね」

 

「じゃあ、クルルシファーさんはその………、養子ってことになるの?」

 

「ええ、そうなるわ。エインフォルク家はとても裕福な家だから私一人くらい簡単に養えるもの。でも、養子として引き取ったのも、私が『遺跡(ルイン)』の生き残りで、失われた過去への手がかりになるからでしょうけどね」

 

エインフォルク家は機竜使いの名門。やはり『遺跡(ルイン)』の力を欲していたのだろうか。そう疑問が浮かんだが、おそらくは違うだろう。

 

「記憶がなかった私はそんなことを知らずに育ったわ。でも、暮らしていくうちに私が養子であることに、私はこの家に人たちと違うって。周りのみんながどこか他人行儀なのよ。嫌でも気づいたわ」

 

「だから私は努力したの。どんなに辛い思いをしてもね。みんなに認めてもらえるように、『家族』として認めてもらえるように。―――でも無駄だったの、私が努力して《ファフニール》を与えられるまでになった頃には、さらに距離は開いていたわ。ああ、やっぱり自分たちとは違う人間なんだって。『遺跡(ルイン)』の生き残りなんだって」

 

居場所を求め、小さかった少女は努力した。それが『家族』に認めてもらう道なのだと信じて。たった一人で。

 

「留学生というのも、ただ家から遠ざけるための口実なのよ。《ファフニール》を取り上げられなかったのは、せめて政略結婚の『道具』として、売り物としての箔をつけるためでしょうね」

少女の表情が寂しげなものになっていく。『道具』という言葉が重く感じた。

 

「………、それでも私は諦めたくなかったの。本当は『遺跡(ルイン)』の生き残りなんかじゃなくて、普通の、エインフォルク家の人間なんじゃないかって」

 

彼女が求めていたのは『遺跡(ルイン)』に眠る財や力、そんなものではなく、ただ自分を知りたかった。それだけだった。

 

「でも、今回の調査で分かったわ。やっぱり私は『遺跡(ルイン)』の人間なんだって。『箱庭(ガーデン)』の私への反応を見てきたあなたたちなら分かるでしょう?」

そう言って、弱々しい顔を二人に向ける。

 

「………」

ノエルは沈黙したまま、何かを考えているようだった。

 

ノエルとは別に、クルルシファーの言葉にどう返したらいいか、戸惑っていたルクスだったが、

「で、でもさ、もしかしたらまだ調べてないとこがあって、そこに―――」

ルクスがそう元気づけるような言葉を掛けた。でもその言葉は途中で彼女の声に遮られる。

 

「もういいのよっ!!」

少女の悲痛な心の叫びが三人のいる部屋に響いた。

 

「怖いのよ、もうこれ以上真実を知るのは………。私のように、みんなと『違う』人のや私を認めてくれる人の手がかりさえ見つけることが出来なかったらと思うと―――辛いのよ」

彼女は両腕で自分を抱きしめるようにして俯いてしまう。その体は震えていた。頬にひと筋の涙が伝っていくのが見える。

 

その姿を見たノエルは何かを決心したらしく、隣の部屋から瓦礫と共に偶然転がってきていた一つの『ボックス』を手に取った。

「………。なぁクルルシファー。お前はその『違う』人を探しているって言うのが、個人的な目的でいいんだよな? ならさ―――ほらよ」

そう言うと、『ボックス』に手を添える。そしてそっと、一つの面を撫でた。

 

『《鍵》の認証を確認。特殊コードで『ボックス』を開封します』

箱が音を立てて開いていき、中からは古文書が出てくる。ノエルがやったことはクルルシファーがやって見せたものとまったく同じだった。

 

ノエルに声を掛けられ、顔を上げていたクルルシファーはその光景を見て、

「えっ………。ノエル君、一体どうやって―――」

驚きの表情に変わると、自分を抱きしめていた両腕を緩める。

 

「簡単なことさ、俺も『同じ』なんだよ。クルルシファー」

ノエルは手を伸ばす。安心させるような優しい笑顔を向けながら。

 

「私と『同じ』………ノエル君………が?」

差し出された彼の手に少女は手を伸ばしていく。縋るように。

 

「ああ、そうだ。俺も『遺跡(ルイン)』の生き残りなんだよ。これを見ればわかるだろ?」

開いた『ボックス』を見せた後、ノエルはその手をノエルは力強く握った。

 

「―――私は一人じゃなかったのね」

ぽつりとクルルシファーが呟く。その顔には安心したような、嬉しいような小さな笑みが浮かんでいる。

 

そんな彼女を見たノエルは、

「運命なのかな。その俺たちが『恋人』だなんてな」

 

「そうね。もっと早くあなたに出会えていたら、私の運命は変わっていたのかしらね」

 

「さぁな、でもこれから変えていくこともできるさ」

 

「ふふっ、それもそうね。ありがとノエル君」

二人は微笑む。もう彼女の顔には寂しさの色はなく、いつも通りの彼女に戻っていた。

 

少し離れたところから、二人のやり取りを見ていたルクスは、

「なんか僕、完全に蚊帳の外だよね………。まぁ、仕方ないんだけど―――」

ははっ、と苦笑いを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい、ルクスー! この辺りにいるのかー!」

瓦礫で埋まってしまっている隣の部屋の辺りから声が聞こえてくる。この声はとても聞き覚えがある。

 

声を聞いたルクスは、

「ここです、リーシャ様!」

その声の主の名前を呼んだのだった。

 

「おお、この奥か! わかった。少し離れていろ、今出してやるからな」

その言葉の後、瓦礫が砕かれているような音が聞こえてくる。おそらく、機竜で何かしているのだろう。

 

ドカッと、目の前にあった瓦礫の岩がどかされる。すると、四機の機竜が姿を現した。リーシャの《キメラティック・ワイバーン》『三和音(トライアド)』の三人の《ワイバーン》、《ワイアーム》、《ドレイク》だ。

 

「おっ! いたいた。三人共怪我はないー?」

ティルファーが尋ねてくる。

 

「うん、大丈夫だよ。よく僕たちの場所が分かったね」

ルクスが答える。色々あったため、汚れてはいるが、怪我はしていないと伝える。

 

ルクスの言葉にノクトが相槌を打つ。

「Yes.私の《ドレイク》で感知することができる範囲に三人共いましたので。ご無事でなによりです」

本来調査するはずだった階層より、深い場所に来てしまっていたので、いくら強化しているノクトの《ドレイク》でも感知するのに時間がかかったらしい。

 

助けが来て、安心しているルクスを見て、

「勝手な行動をとるからこんな目に合うんだバカもの。今回は見つけられたからよかったものの………」

部隊長であるリーシャの指示を無視して行動をしたことで、調査にあてるはずだった時間のほとんどを三人の捜索に使ってしまった。リーシャは頬を小さく膨らまして不満を表しているようだった。

 

「悪かったなリーシャ様。でもよ、ほら、こんなに『ボックス』見つけたんだぜ?」

瓦礫で所々埋まってしまっているが、三人がいた部屋の隣には『ボックス』が無数にある。これを回収できれば、今回の調査は成功と言ってもいいくらいの量は軽くあった。

 

「それとこれとは別だぞノエル。まぁいい、後は帰ってからだ。そろそろ門が開く時間になってしまうからな。各自、できる限り『ボックス』を持って出口の門に向かうぞ!」

 

ノエルやルクスも《ワイバーン》を纏い、『ボックス』を持つ。そして全員で移動を開始して行く。門までの道のりでは、特に幻神獣(アビス)に遭遇することもなく、無事『箱庭(ガーデン)』から出ることができた。そして外部待機のメンバーと合流すると、士官学園へと戻って行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「今度は私がノエルさんを助けることができました」

 

「ああ、助かったよノクト。今度なんかお礼しないとな。街にでも出かけるか。アイリも連れてさ」

 

「それなら、アイリと二人っきりのほうがいいのではないですか? 兄妹ですし―――」

 

「それだと、お礼の意味がないだろ? 俺と二人っきりは嫌だろうから、アイリも連れて行こうと思ったんだよ」

 

「私はノエルさんとでしたら二人っきりでも構わないですよ」

 

「まじで!? じゃあ二人で行くか」

 

「Yes.分かりました。楽しみにしています」

 

「ちゃんとエスコートしないとな。任しておいて」

 

 

 




長くなったクルルシファー編も、次あたりで決闘になりますね。

時間ができたら、最初のほうの話を手直ししたいんですよね……。頑張って最新話早く書いて、時間作りますか(笑


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