第零遺跡の「鍵の管理者」   作:奈々歌

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遅くなってすみません_(._.)_

休みがないのでなかなか時間が取れませんでした………。

お気に入りがいつの間にか150件越え! 感激です! これからもよろしくお願いします!


それではどうぞ!


『恋人』を守るために。

 

 

 

城塞都市の三番街区。その外れにある教会跡地に少女は来ていた。二年前にあった幻神獣(アビス)との戦闘で、今は廃墟と化したこの場所に、月の光で照らされた人影が少女の他に二つ立っている。それは装衣に着替えたバルゼリット・クロイツァーとアルテリーゼだ。

 

「よく来てくれた、我が未来の妻よ。あの後、『遺跡(ルイン)』の調査はどうであった? まぁ、その無事な姿を見ると、特に大きな問題はなかったように思えるが―――」

 

張り付けたような笑顔を作り、仰々しい態度で、話しかけてきた。だが、その言葉を遮るようにクルルシファーが口を開く。

 

「前置きはいいわ。早く始めましょう」

 

そう言った後、腰に携えている機攻殻剣(ソード・デバイス)に手をかけた。

 

事を急いでいるような少女の態度に、バルゼリットは疑問を持つと、

 

「どうした? 今日は少々せっかちだな。我が未来の妻にしては珍しいぞ」

 

「気にしなくていいわ。あなたには関係ないことだから」

 

普段の冷静な雰囲気ではなく、どこか焦っているようだった。

 

さらりと答えられ、その態度に快く思わなかったのか、バルゼリットは少し顔を顰める。だが、バルゼリットはもう一つ気づいたことがあり、再び問いかけた。

 

「そういえば、そなたの『恋人』の姿が見えないな? どうした、怖気づいて逃げ出したのか?」

 

決闘は二対二と酒場での話し合いで決めていたはず。それなのに、この場にはバルゼリット、アルテリーゼ、クルルシファーの三人しかいない。彼女の『恋人』であるノエルの姿がなかったのだ。

 

挑発するような言い方をされるが、

 

「彼はそんな人ではないわ。こんな下らないことに、もう巻きこみたくないのよ―――、彼にはもう十分、私は救われたから」

 

少女の様子に変化はない。少女はなにかを決心しているといった顔で、最後のほうの言葉を小さく呟く。

 

「なら、俺とアルテリーゼ殿。二人を一人で相手するということか? 舐められたものだな。聞くところによると、アルテリーゼ殿は特級階級(エクスクラス)らしいじゃないか。それに俺の神装機竜《アジ・ダハーカ》。勝機はあるのか?」

 

バルゼリットは腰に提げている神装機竜のものと思われる機攻殻剣(ソード・デバイス)をクルルシファーに見せつけるようにしてくる。そしてアルテリーゼの階級――、特級階級(エクスクラス)。機竜使いに与えられる最高級の階級。実力はそれを聞いただけで、どれほどの凄腕の使い手か分かる。

 

「ええ、私一人で十分よ。もういいかしら? これ以上は時間の無駄よ。始めましょう」

 

勝機があるかないか、それはまだ分からない。バルゼリットの神装機竜の力は未知数だからだ。でも、これ以上時間を掛けるわけにはいかなかいクルルシファーは二人にそう促す。

 

「分かりました。では、現時刻から決闘を開始します。決着は纏っている機竜が解除されるか、降参を認めるまで―――、よろしいですね? お嬢様」

 

二人の会話を静かに聞いていたアルテリーゼが促されるままに口を開き、この決闘についての説明を行う。そして、他の大まかな制約は王都で行われている公式模擬戦に準ずると最後に加えた。

 

アルテリーゼから確認を取るように聞かれたクルルシファーは、

 

「ええ、覚悟はできているわ」

 

と、そう答えた。

 

覚悟はできている。この場に来る前から―――。

 

クルルシファーのどこか含みのある表情を見たバルゼリットは、先の説明に付け加えるかのように口を挟む。

 

「この場、教会跡地からの逃亡も敗北とみなされる。気を付けるのだぞ? 我が未来の妻よ」

 

「そんなことはしないわ。寧ろ、あなたの方が、気を付けたほうがいいわね」

 

そんなことはありえない。と言うように告げた後、そのまま返すように、クルルシファーの方からもバルゼリットに注意を促す。それと同時に冷たい視線も向けていた。

 

クルルシファーの態度に、アルテリーゼが言葉を強める。

 

「お嬢様。これ以上のご無礼はおやめください―――」

 

そのアルテリーゼを手で制したバルゼリットは、自分の機攻殻剣(ソード・デバイス)を抜剣する。

 

「ほう、俺も舐められたものだな。我が未来の妻よ」

 

そして、詠唱符(パスコード)を唱え、神装機竜《アジ・ダハーカ》をその身に纏った。

 

アルテリーゼも続けて抜剣し、詠唱符(パスコード)を唱える。

 

「―――来たれ、不死なる象徴の竜。連鎖する大地の牙と化せ。《エクス・ワイアーム》」

 

学園で見ることがある《ワイバーン》などの汎用機竜とは違う、強化型機竜。それを纏うとアルテリーゼは機竜の両の手にそれぞれ機竜牙剣(ブレード)を転送させ、構えた。

 

二人の機竜を前に、クルルシファーも鞘から機攻殻剣(ソード・デバイス)を抜き払う。

 

「大丈夫。私一人でもやれる。今までも一人だったのだから―――」

 

私は一人だった。学園のみんなといても、私はみんなとは『違う』人間。でも、彼だけは私に手を差し伸べてくれた。私と同じ『違う』人間として。だからこの件はもう、私一人で片づける。これ以上、迷惑はかけたくないから。

 

小さく一度、深呼吸をした後、少女は詠唱符(パスコード)を呟く。

 

「―――転生せよ、財貨に囚われし災いの巨竜。遍く欲望の対価となれ。《ファフニール》」

 

すると、少女の背後に光の粒子が集まり、白銀の巨竜が姿を現す。

 

接続(コネクト)開始(オン)

 

巨竜を纏うと、クルルシファーは二体の機竜に向かって、飛翔していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

決闘が始まる少し前。士官学園の女子寮でリーシャは、ある男子生徒の部屋へと向かっていた。ここは女子寮なのだが、この学園には二人しか男子生徒は在籍していないため、部屋は女子寮にある。その一つ、目的の部屋であるノエルの部屋に到着すると、その扉を叩く。だが、中から反応はなく、どうやら留守のようだった。リーシャはその行方をもう一人の男子生徒であるルクスに尋ねるため、その部屋へと続く廊下を歩いていると、丁度良くルクスが部屋から出てきたのだった。

 

「おいルクス! ノエルを知らないか?」

 

自分の部屋の扉を閉めているところだったルクスに声を掛ける。

 

その声に反応して、顔を向けるルクス。

 

「リーシャ様? ノエルなら決闘に―――あっ!」

 

慌ててルクスは口を閉じる。まだ内密にすべき話だと判断したためだ。

 

「大丈夫だ。決闘についてはノエルからすでに話は聞いている。その決闘相手に関しての書簡が義母上から届いたから伝えに来たのだが―――、もう行ってしまったんだな」

 

リーシャの手には一枚の手紙をルクスに見せながら言ってくるが、ノエルがすでに行ってしまったことが分かると小さくため息をつく。

 

「はい。ついさっきノクトが来て、それで。―――、ところでリーシャ様、その書簡の内容って一体………?」

 

ルクスが書簡に視線を向けているのに気づいたリーシャは、

 

「ああ、これか? ノエルの決闘相手、バルゼリット・クロイツァー。奴を倒してはいけないという理由と、この新王国に迫っている危機。さらには、奴の企てているであろう計画。といった内容だ」

 

と、重要な部分を簡潔に説明した。

 

どうやら、リーシャはノエルから決闘の話を聞いた後、王女の権限を使い、個人的に色々探りをいれていたらしい。

 

終焉神獣(ラグナレク)のことはお前も知っているよな? どうやら、旧帝国時代に倒されたと思われていた終焉神獣(ラグナレク)の石化が解け始めているらしいんだ。そして先日、その件について開かれた四大貴族と女王陛下の会議において、奴の一族、クロイツァー家の当主が息子であるバルゼリットに終焉神獣(ラグナレク)の討伐をさせると女王―――、私の義母親に申し出たらしい。そしてそれは承認された。ここまで話せば、感の良いお前なら大体察しがつくだろ?」

 

リーシャからそう問いかけられたルクス。確かにそこまで話を聞いていれば、その計画の察しは大方ついていた。

 

「はい………、でもリーシャ様。ノエルなら大丈夫ですよ。きっとなんとかしてくれます。昔から彼を知っている僕には分かるんです」

 

確証はない。でも、彼ならやってくれる。ルクスはノエルが自分の部屋から出ていく時、少しだけ見えた表情を思い出す。その時の表情、大切なものをなんとしてでも守ると決めた決意の顔。それを見たルクスはきっとノエルなら―――、と。

 

「ん、そうか。なら、私も信じて待つとしようかな」

 

腕を組み、小さく微笑むリーシャ。私も彼を信じてみよう。目の前にいるルクスを見ているとそう思えてきたのだった。

 

そんなリーシャを見たルクスも自然と口元が緩む。ここでルクスはあることを話しだした。

 

「リーシャ様。実はノエルから頼まれたことがありまして、待つのではなく―――」

 

ルクスはノエルから頼まれたことを話す。その内容はリーシャのような人物が適役な依頼だった。

 

話を聞き終わった後、リーシャは疑問を持ったのか、口元に手を当て、考えるような仕草を見せる。

 

「………、本当にそんなことがあるのか?」

 

「あの人物ならやりかねません。だからお願いします。リーシャ様の力が必要なんです」

ルクスの真剣な表情。

 

それを見たリーシャは、

 

「そうか……、分かった。協力しよう。ノエルには助けられてばかりだからな」

 

「ありがとうございます、リーシャ様!」

 

その言葉を聞いたルクスは表情を綻ばせると、リーシャの手を握った。

 

「ん………。そ、そうと決まれば、もう何人か人手を集めておこう。私とお前だけじゃ少ないからな!」

 

ルクスの笑顔と手を握られたことで、顔を赤くしたリーシャは、照れ隠しでルクスから顔を逸らすと、そう提案してきた。

 

「はい、リーシャ様!」

 

二人は人手を集めるため廊下を歩いていく。ルクスが思っていたより早く握っていた手を離してしまったため、リーシャは残念そうな表情になるが、それに気づくことができないのがルクスなのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「決闘、開始だ!」

 

バルゼリットは高らかに声を上げ、そう宣言すると、《アジ・ダハーカ》を駆り、クルルシファーの《ファフニール》へと向かう。

 

アルテリーゼも《エクス・ワイアーム》で双剣を構えると、挟み撃ちにするようにバルゼリットの反対方向から攻めるように移動を開始する。

 

「もう一度言っておきますが、手加減はしませんからね? お嬢様」

 

「ええ、そんなもの、元から必要ないわ」

 

クルルシファーは、月が輝く夜空へ飛翔していく。相手の二人は陸戦型の機竜であるため、距離をかなり取ることができる。十分距離を取ったクルルシファーは特殊武装《凍息投射(フリージング・カノン)》を構えると、バルゼリットに数発放つ。

 

放たれた光弾が《アジ・ダハーカ》に着弾する―――、と思われたが、その間に割り込んだ影が一つ。

 

「そう来ると思っておりましたよ。お嬢様」

 

それは《エクス・ワイアーム》を纏ったアルテリーゼだった。

 

アルテリーゼは、挟み込むように回り込んで行ったように見せかけ、クルルシファーの狙いがバルゼリットに向いた瞬間、こちらに跳躍していたようで、アルテリーゼは片方の手に握られている機竜牙剣(ブレード)を盾の代わりとし、《アジ・ダハーカ》に直撃する軌道にあった光弾を防ぐ。

 

光弾を防いだ機竜牙剣(ブレード)は《凍息投射(フリージング・カノン)》の能力により瞬時に凍りつき、アルテリーゼは手まで凍らされる前に機竜牙剣(ブレード)を手放していた。

 

「ご無事ですか、バルゼリット卿?」

 

「ああ、問題ない。流石ですな、アルテリーゼ殿」

 

残りの光弾はバルゼリットの周りに着弾し、周囲を凍らせているだけで、《アジ・ダハーカ》には一発も当たっていなかった。直撃するはずだった弾は防がれてしまったのだから、当然の結果といえばそうであるのだが。

 

「アルテリーゼ殿。もう少しそのままでいてもらえるだろうか?」

 

バルゼリットは空中にまだ留まっているアルテリーゼに声を掛ける。

 

「はい? ―――、っ!?」

 

バルゼリットにそう告げられ、クルルシファーの方を見ていたアルテリーゼは振り返る。その瞬間、アルテリーゼの目に飛び込んできたのは二筋の光柱だった。直撃すると思われたその光柱をアルテリーゼは紙一重で回避した。

 

アルテリーゼの後ろにいたクルルシファーも、射線に入っているため、光柱が迫ってくる。だが、彼女は冷静だった。光が弾け、爆炎が広がる。あれだけの威力のものを食らったら、いくら神装機竜であっても、ただでは済まないのだが―――。

 

「アルテリーゼ、今ので分かったでしょう? こういう手を平気で使うのが、あの男なのよ」

 

爆炎で上がった煙の中から、クルルシファーの声が聞こえてくる。

 

煙が晴れると、前面に七つの盾を展開している《ファフニール》が姿を現した。それは《ファフニール》のもう一つの特殊武装、自動で使用者を守る《竜鱗装盾(オート・シェルド)》。

 

「アルテリーゼ、あなた、随分と人を見る目が落ちたようね。位ばかり気にしているからなのかしら?」

 

先ほどのバルゼリットの行動に唖然としたまま、地上に降り立つアルテリーゼにクルルシファーをはそう告げた。

 

「バ、バルゼリット卿!? 一体何を―――」

 

「丁度良い位置にアルテリーゼ殿がいたのでな、死角を作るために利用させてもらったのだよ。アルテリーゼ殿ほどの実力の持ち主なら声さえ掛けておけば、躱せると思っていたのでな、撃たせてもらった。まぁ、防がれてしまったがな」

 

アルテリーゼの問いかけに、不敵な笑みを浮かべながら答えるバルゼリット。当たっていても構わなかったと思わせるその態度にアルテリーゼは絶句する。

 

「どうしたのだアルテリーゼ殿? 決闘を続けようではないか」

 

戦斧を構え、固まってしまっているアルテリーゼの横を駆け抜けて行く。

 

バルゼリットの行動で、アルテリーゼは、ハッと我に返えると、

 

「お待ちください、バルゼリット卿!」

 

内心に疑問を抱きながらも、《エクス・ワイアーム》を駆り、その後をついて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルクスの部屋を後にしたノエルとノクトは、女子寮を出ると、裏門の方へ向かっていた。

 

「ノエルさんの言った通り、本当にクルルシファーさんは動きましたね」

 

ノクトが隣を早足で歩いているノエルに声を掛ける。

 

歩く速度を少し緩めると、

 

「どうやらな。それでクルルシファーはどっちの方向に向かって行ったっけ?」

 

ノクトに相槌を打ちながら、ノエルはクルルシファーの行方を尋ねた。

 

「Yes.西の方角に向かって行かれたので、三番街区の方角になります」

 

尋ねられたノクトは、その方向を示すように人差し指を向ける。

 

その方向にある場所といえば、大通りに商業区画などだが―――、

 

「そうなると………、教会跡地がある辺りが怪しいな」

 

そのさらに奥にある廃墟。人気がない場所になるため、決闘の場としては都合が良いだろう。ノエルはそう思っていた。

 

ノエルの考えている様子を見ていたノクトは、

 

「私はノエルさんに頼まれて、クルルシファーさんの行動を監視していましたが、何が起きているのですか?」

 

疑問に思っていたことを問いかける。ノクトはノエルにクルルシファーの動向を見ていて欲しいとしか頼まれていなかった。彼女はどこかに機竜を使って行くはずだからと。

 

「ごめん、ノクト。詳しく話している時間がないんだ。ルクスがこのことについて説明してくれるはずだから―――」

 

今は時間がない。こうしている間にも始まってしまっているかもしれない。ノエルは銀色の機攻殻剣(ソード・デバイス)を抜剣する。

 

「Yes.分かりました。ですが、これだけは言っておきます。気を付けてくださいね? ノエルさん」

 

足を止め、立ち止まると、先へ歩いていくノエルの背中にそう声を掛けた。

 

それを聞いたノエルは、顔を後ろに向け、視線をノクトと合わせる。

 

「ああ、ありがとなノクト」

 

お礼の言葉で返事をした後、機攻殻剣(ソード・デバイス)の柄にあるボタンを押す。そして、詠唱符(パスコード)を唱えた。

 

 

「―――君臨せよ。神の一族に縛められし牙竜。災いを纏いて天地を喰らえ、《フェンリル》」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「このままじゃ、勝てないわね………」

 

二体の機竜を相手に苦戦するクルルシファー。彼女は歯噛みをしながら呟く。《竜鱗装盾(オート・シェルド)》で二人の攻撃を防ぎながら、《凍息投射(フリージング・カノン)》を使い二人を牽制し、一定の距離を保っていた。

 

攻めてくる様子が見られないクルルシファーに対して、バルゼリットが口を開く。

 

「どうした、その程度か? 最初の威勢が嘘のようだな」

 

分かりやすいほどの挑発。だが、クルルシファーは普段の冷静な表情を変えることはない。

 

「あなたの方は口数が全然減らないわね? 私はお喋りな男性は好まないのよ」

 

そして、さらりとクルルシファーも、バルゼリットに言葉を返していた。

 

二人がそんなやり取りをしている隙にアルテリーゼがクルルシファーの背後に周り、機竜牙剣(ブレード)機竜爪刃(ダガー)をそれぞれ構え、鋭い攻撃を放ってくる。

 

「ッ―――!? アルテリーゼ」

 

背後に《竜鱗装盾(オート・シェルド)》が展開され、その攻撃を自動的に防いだ。

 

「腕前が落ちているのではないですか? 隙だらけですよ、お嬢様」

 

竜鱗装盾(オート・シェルド)》に攻撃を阻まれ、《ファフニール》から離れていくアルテリーゼ。その際に片手をキャノンに持ち替えて、《ファフニール》の足元を撃つ。すると、クルルシファーの視界は衝撃で舞い上がった土煙で覆われてしまう。

 

「ふはは、よくやってくれたアルテリーゼ殿」

 

その瞬間を狙い、バルゼリットが《アジ・ダハーカ》を駆り、《ファフニール》へ肉薄する。そして、両手で構えている戦斧(ハルバート)を振りかぶり、《ファフニール》に向けて薙ぎ払った。

 

クルルシファーも《竜鱗装盾(オート・シェルド)》を使い、その攻撃を防ごうとするが、

 

「くっ………!?」

 

展開された七つの盾が戦斧(ハルバート)を受け止める。だが、軋むようなの音を上げ始めた。出力が足りていない。

 

「脆いな、そろそろ体力が無くなってきたのではないのか?」

 

機竜使用者の体力の消耗やミスで起こる現象。それを見たバルゼリットは、薄ら笑いを浮かべながら尋ねてくる。

 

「そんなことは―――、ないわよ!」

 

クルルシファーは《竜鱗装盾(オート・シェルド)》を解除した。それにより、自分に向かって振るわれてくる戦斧(ハルバート)。だが、クルルシファーは焦ることなく、《ファフニール》の神装能力である《財禍の叡智(ワイズ・ブラット)》を発動させる。まるで戦斧(ハルバート)の軌道が見えているような回避を見せた後、《凍息投射(フリージング・カノン)》の光弾を放った。

 

その光弾は戦斧で防がれてしまう。戦斧(ハルバート)は防いだ衝撃で《アジ・ダハーカ》の手を離れると、近くの瓦礫まで飛んで行き、張り付くように凍結する。

 

「惜しかったな、これで終わりだ」

 

バルゼリットは動揺することなく、肩に装備している特殊武装《双頭の顎(デビルズグロウ)》を構えた。《双頭の顎(デビルズグロウ)》からほぼ零距離で光柱が放たれる。クルルシファーは《竜鱗装盾(オート・シェルド)》を展開するが、出力の落ちている状態では防ぎきれず、《竜鱗装盾(オート・シェルド)》が破られてしまい、《ファフニール》は吹き飛ばされてしまった。

 

吹き飛ばされ、辺りに無数に転がっている瓦礫の一つに激突する。

 

「くっ………、うぅ………」

 

いつもの冷静な顔が苦痛の表情に変わっていくクルルシファー。

 

バルゼリットは、クルルシファーに近づいていくと、

 

「どうやら俺の勝ちのようだな。―――、っと、まだ余力が残っていたか」

 

目の前まで近づいた時、《ファフニール》が力を振り絞るように腕を上げ、《凍息投射(フリージング・カノン)》を放とうとしてくる。バルゼリットはそれを踏みつけ阻止する。

 

(どうして―――、どうして動かないの。私の《ファフニール》)

 

踏みつけられた《ファフニール》の装甲腕を見ながら、クルルシファーは思う。こんなことは今までなかった。《竜鱗装盾(オート・シェルド)が破られたのも、自分の体力の消耗が原因ではない。そうなると、この状況からして原因は一つしか思いつかなかった。

 

「もう諦めて、降参したほうが身のためだぞ? 俺もこれ以上、我が未来の妻を傷つけたくないのでな」

 

傷つけたくない。バルゼリットはそう言葉を放つが、

「―――、それは嘘よ。あなたは楽しんでいる。こうして私をいたぶることをね」

バルゼリットの顔を見れば容易に分かる。こちらを見下すような笑みから、その言葉が嘘だということが。

 

「私の《ファフニール》の力をあなたは何らかの方法で弱体化させている、もしくは無効化させる―――、それがあなたの、《アジ・ダハーカ》の神装なんじゃないかしら?」

 

クルルシファーが思う《ファフニール》の能力が低下した原因。それはバルゼリットの神装機竜《アジ・ダハーカ》の神装能力だった。

 

クルルシファーの問いかけにバルゼリットは、

 

「ふはは、ご明察だ、我が未来の妻よ。流石は『鍵』となる少女なだけはあるな」

 

自分の額に手を当て、笑い声を上げる。そして、バルゼリットは数少ない人物しか知らないはずの彼女の秘密を口にする。

 

知っているはずのない人物。バルゼリットからその言葉を聞いたクルルシファーは動揺し、言葉を失う。

 

「―――ッ!? なぜそのことを!?」

 

ありえない。バルゼリットの周囲の人間に彼女の秘密を知る人物はいないはず。

 

「哀れなものだなクルルシファーよ。エインフォルク家からは、政略結婚の『道具』として扱われ、その婚約相手である俺からも『道具』として扱われるのだからな、そなたは」

 

『道具』―――、一番聞きたくなかった言葉。『遺跡』の生き残りである自分はエインフォルク家に養子で引き取られた。私は努力した。家族の一員として認めてもらえるように、家族としての絆を求めて。でも、求めれば求めるだけ、みんなとの距離は開いていく。それが現実だった。やっぱり私は、ただの―――。

 

「いい加減受け入れるんだな。俺の『道具』として、俺がこの国の頂点に立つための『道具』としての運命を。俺に尽くせば、『道具』として少しは大切に扱ってやるぞ?」

 

「………やよ、そんなの………嫌よ」

 

頬を涙が伝う。認めてたくない。この世界にはきっと、私と同じ人がいること。私を認めてくれる、ちゃんと私を見てくれる人がいることを。

 

(助けて………、助けて………)

 

悲痛な思いが心の中で何度も繰り返される。私と同じ『彼』を求めるように。

 

来るはずがない。『彼』にはもう迷惑をかけたくないと自分で決めて、嘘をついてまで、学園に置いて来たのだ。でも、心の中で私の本心は『彼』を求めている。

 

「助けて―――、ノエル君………」

 

そう思った時、その思いは自然と声に出てしまっていた。

 

 

 

 

「―――、悪いなクルルシファー、遅れちまって」

 

夜空から声が聞こえてくる。私の名前を呼んでくれる声が。

 

「ノエルだ。これから参戦させてもらう。お前ら、俺の『恋人』を泣かせてた罪は重いぞ?」

 

そこには月を背にし、圧倒的な存在感を放っている銀色の巨竜。彼女の『恋人』が佇んでいた―――。

 




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