第零遺跡の「鍵の管理者」   作:奈々歌

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遅れてすみません_(._.)_毎回言ってしまっているような気がしますね……。

いつも通り五時に更新しようとして、ルビ振りしながら寝落ちしてました(笑

二週間ぶりのお休みなので、頑張って仕上げました。


それではそうぞ!

※3月14日、修正。


悲しみに染まる笑顔。

 

 

クルルシファーは月が浮かぶ夜空を見上げる。

 

そこには銀色の巨竜がこちらの戦場を見下ろしていた。神装機竜《フェンリル》を纏ったクルルシファーの『恋人』である少年。

 

 

助けて―――。

 

 

そう願い、求めた人物である『彼』が来てくれた。

 

「悪いなクルルシファー、遅れちまって」

 

その姿、その声、私が求めてしまった『彼』のもの。

 

もう巻きこみたくない。迷惑をかけたくない。

 

そう決めて、嘘までついて、たった一人で来たのに―――。

 

 

「ノエルだ。これから参戦させてもらう。お前ら、俺の『恋人』を泣かせてた罪は重いぞ?」

 

 

どうして、どうしてあなたは他人である私なんかのために………。

 

(本当に『彼』が来てくれた。どうしてだろう………、『彼』が来てくれただけで安心する)

 

『彼』―――、ノエル君が来てくれたことを嬉しく思ってしまっている私がいる。本当はダメなのに。これ以上巻きこんではいけないのに。

 

「………して、どうして来たのよ」

 

ノエルを見上げ、クルルシファーは小さく呟く。頬に涙を伝わせながら。

 

「俺はお前の『恋人』だぞ、来て当たり前だろ? 安心しろ、あんな男にお前を渡したりなんかしないからさ」

 

箱庭(ガーデン)』で私を救ってくれたあの安心させるような優しい顔。

 

そんな顔を向けられたら、また手を伸ばしたくなってしまうじゃない。

 

「私はこれ以上あなたを巻きこみたくなかった! だから嘘までついて一人で来たのに!」

 

クルルシファーの悲痛な叫びがノエルまで届く。その叫びを聞いても、ノエルは表情を変えない。その微笑み、真紅の瞳を彼女に向けていた。優しく、ただ安心させるように。

 

「まだ『恋人』としての日は浅いけど、お前が嘘ついていたことぐらい分かってたさ。直接聞いても教えてくれないのは目に見えていたからノクトに動向を探ってもらってたんだよ」

 

そう、だから私は焦っていた。感のいいノエル君ならこうして来てしまう可能性があったから。

 

「クルルシファーはそこで休んでな。あとは俺が全部片づけとくからよ。そしたら学園に一緒に帰ろうな」

 

ノエルはクルルシファーにそう告げる。ノエルを見上げていたクルルシファーはその言葉を聞いて俯いてしまった。

 

 

ごめんなさい―――、ありがとう。

 

 

そうノエルは聞こえたような気がしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてと、じゃあ第二ラウンドと行きましょうか!」

 

月華に照らされ、白く輝いている大剣を片手で構えると、その切っ先を相手の二人へ向けながら宣言した。

 

ノエルはもう片方の手に機竜爪刃(ダガー)を転送すると、バルゼリットに向けて投擲する。バルゼリットはそれを回避するため、クルルシファーの装甲腕から足を離し距離を取ると、《凍息投射(フリージング・カノン)》で瓦礫の一つに凍らされている戦斧(ハルバート)の場所まで移動していく。

 

その様子を見ていたノエルの背後から一つの影が迫って来ていた。

 

「あなたは二人同時で相手をする状態に置かれていることをお忘れになっているのではありませんか?」

 

アルテリーゼが双剣を構え、《フェンリル》へと跳躍し迫って来ていた。だが、その攻撃は《フェンリル》に当たることなくその直前で阻まれる。

 

「ッ………!? これは!?」

 

攻撃を阻んだのは《フェンリル》の特殊武装、《一天紋章(スカイ・エンブレム)》。

 

一天紋章(スカイ・エンブレム)》は通常の障壁より何十倍もの強固さを誇っている。そのため、強化型の汎用機竜であっても破ることは容易ではない。

 

「忘れてなんかないですよ。アルテリーゼさんこそ俺が今使っている機竜が神装機竜であることを忘れているんじゃありませんか?」

 

一天紋章(スカイ・エンブレム)》を解除すると、いきなり阻んでいた障壁が消えたことで態勢を崩したアルテリーゼに《神速制御(クイックドロウ)を放つノエル。

 

その太刀筋は《エクス・ワイアーム》の右腕の装甲を砕く。そして、一瞬の出来事で固まってしまっているアルテリーゼに追撃で鋭い蹴りを直撃させた。

 

「ぐっ………、まだだ!」

 

蹴りの勢いで地面へと吹き飛ばされていくアルテリーゼ。空中で態勢を整えようとしながら、残っている左腕に機竜息砲(キャノン)を転送している。

 

だが、強い衝撃が彼女を襲う。

 

「かはっ………!?」

 

まだ地面までは距離があるはず―――。それなのにまるで地面に叩きつけられたような衝撃が襲ってきた。その衝撃によりアルテリーゼはたまらず苦痛の表情を浮かべる。

 

アルテリーゼの背後には《一天紋章(スカイ・エンブレム)》が機竜の大きさとほぼ同じ大きさで展開されていた。

 

「まずは、一体だな」

 

《エクス・ワイアーム》に《フェンリル》が目の前まで迫る。アルテリーゼは歯を食いしばりながら、機竜息砲(キャノン)を向けようとするが、その瞬間《フェンリル》の姿がふっと消えた。気が付くと《フェンリル》はアルテリーゼの背後へと姿を現す。

 

ノエルの姿を視界に捉えたアルテリーゼはその行動に疑問を抱くが、またも障壁が消滅したため、落下を始める。

 

アルテリーゼは《エクス・ワイアーム》を動かし機竜息砲(キャノン)を《フェンリル》に向けようとする。

 

「ま、待て! 行かせるものかっ!!」

 

「機竜の状態を見てから言いなよ、アルテリーゼさん」

 

ノエルにそう促されると、アルテリーゼは自身の《エクス・ワイアーム》の異変に気付いた。

 

「なっ!? いつの間に!?」

 

砕かれていなかった左腕が機竜息砲(キャノン)ごと破壊されていた。装甲腕は縦に亀裂が入り、今にも砕けてしまいそうでこれ以上動かすことはできない。

 

両腕の装甲腕と武装が破壊された《エクス・ワイアーム》はもう戦いに参加することは困難であるため、地上に着地したアルテリーゼは追撃を辞めると機竜を解除していた。

 

アルテリーゼはすでに肩で息をしている。アルテリーゼほどの使い手がこの短時間の戦闘で、それほど疲労していることにノエルは疑問を持つ。

 

「私がこのくらいで………」

 

アルテリーゼは奇妙な疲労感によりその場に座り込んでしまったのだった。

 

 

ノエルはその様子を横目で確認しながらクルルシファーの下へと降り立つと、彼女に目線を合わせるように機竜の片膝をつく。

 

「大丈夫か? クルルシファー」

 

「………大丈夫よ。………、ごめんなさいノエル君」

 

ノエルの声に反応して顔を俯かせたままクルルシファーは返事を返す。

 

「謝ってばかりだなクルルシファー。お前と俺は『恋人』なんだからもっと俺を頼っていいんだぜ?」

 

―――、ごめんなさい。

 

彼女の口から何回も聞いた言葉。

 

箱庭(ガーデン)』で。ノエルがこの戦いに来て。

 

―――、俺を頼ってくれ。いつまでも俯いているクルルシファーにノエルは微笑みかけると、そっと頭に手を置く。

 

「………、その『恋人』というのは依頼で成立している偽りの関係よ。本当の『恋人』というわけではないわ」

 

『争奪戦』でクルルシファーが手にした一枚の紙。一週間ノエルを独占できる依頼書。彼とはそれを使った仮の『恋人』の関係。それなのに彼はどうして?

 

「前にも言ったろ? 俺はそれでも本当の『恋人』のつもりでいるってさ。クルルシファーがそう思っていても俺はお前を本当の『恋人』だと思っている。だから、俺は全力でお前を守る」

 

ノエルは彼女の頭に置いていた手をゆっくりと頬へ滑らせていく。そして俯いていた顔を上げさせると、目元に堪えていたのか、溜まっている涙を親指で優しく拭った。

 

「ノエル君………」

 

顔を上げたことによりノエルの顔が視界に入る。私に微笑んでくれる優しい表情。そんな顔をされたら私は―――。

 

 

「………、お願い、助けて」

 

 

―――、あなたに頼りたくなってしまうじゃない。

 

「今度はもっと早く言えよ? クルルシファー」

 

ノエルは彼女の頬から手を離すと、『恋人』からの願いを叶えるため立ち上がる。

 

「帰ったらまた一緒に出掛けようなクルルシファー。デートだデート」

 

そう言ってノエルは決着をつけに向かって行く。

 

大切な人、『恋人』を守るための戦いに―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「話し合いは終わりか? ノエルとやら」

 

ノエルとクルルシファーのやり取りの間にバルゼリットは《ファフニール》の《凍息投射(フリージング・カノン)》で瓦礫に凍らされていた戦斧(ハルバート)の氷を蹴り砕き、再び手にしていた。

 

ノエルはその手に握られている白剣の切っ先をバルゼリットへと向ける。

 

「ああ、さっさとあんたを倒してクルルシファーと帰らせてもらうからな」

 

「ふん、生意気な。俺はてっきりお前が逃げたしたものだと思っていたのだがな。その女一人のためにわざわざその機竜を使うのか? 『銀色の狩人』よ」

 

ノエルの発言を鼻で軽く笑った後、嘲りの笑みを浮かべながらどこから手に入れた情報なのか分からなかったが、『黒き英雄』と並ぶその名でノエルを呼んだ。

 

「ッ―――!? 彼があの伝説の!? そんな馬鹿な!」

 

『銀色の狩人』―――、『黒き英雄』と並ぶ伝説の機竜使い。帝国を一夜にして滅ぼした黒と銀の英雄。その片方、銀の伝説の正体が目の前にいる少年だということにアルテリーゼは驚愕する。

 

「俺は『英雄』なんかじゃない。彼女を苦しませるお前を倒すため、大切な『恋人』を守るために戦う一人の機竜使いだ」

 

その真紅の瞳でバルゼリットを睨む。クルルシファーを泣かせたお前だけは許さないと。ノエルは白剣を両手で握り直し、構える。

 

「そうか、なら勝負といこうか『銀色の狩人』!!」

 

バルゼリットは《アジ・ダハーカ》を駆り、疾風の如く間合いを詰めてくる。ノエルも大地を蹴り動きだす。《アジ・ダハーカ》の戦斧(ハルバート)と《フェンリル》の大剣が同時に振るわれると、音を立て、衝撃を生みながらぶつかり合う。

 

「『銀色の狩人』であるお前をこの《アジ・ダハーカ》で倒し、『王国の覇者』の名を他国にも轟かせてやろうぞ!」

 

「やれるもんならやってみやがれ!」

 

二人は数度、戦斧(ハルバート)と大剣を斬り結ぶ。そして二人は刃を離し、一度距離を取った。すると、ノエルの下に竜声が届く。それは《ファフニール》から送られてきたものだった。

 

『ノエル君気を付けて。あの《アジ・ダハーカ》は機竜の力を弱体化、もしくは無効化させてくるみたいなの。《ファフニール》の《竜鱗装盾(オート・シェルド)》も防ぎきれるはずの攻撃で簡単に破られてしまったわ』

 

『面倒な能力だなそれ。条件とかって分かるか?』

 

神装機竜だけが使える装備である特殊武装。それを弱体化、または無効化させてくるとなると戦いはかなり不利になってくる。

 

それほど強力な能力なら何らかの条件があるはずだが―――。

 

『分からないわ。でも、私が戦っている時《ファフニール》の出力がだんだんと落ちていったの』

 

高い適正を持ち、高度な機竜操作を行えるクルルシファーが適正が高いとは言えない男であるバルゼリットにあれだけ追い詰められたのもそれが原因なのだろう。

 

『つまり、近くにいるだけでも不味いってことか………。となると長引かせるのは………。分かった、あんがとなクルルシファー』

 

ノエルは竜声を切ると大剣を構え、再び駆け出す。

 

「だったら速攻で決着をつける!」

 

それしかない。クルルシファーの話だといきなり出力が落ちるわけではないようだった。それならとノエルは《フェンリル》を加速させ、バルゼリットに肉薄していく。

 

ノエルは大剣を上段へ構えると、縦からの振り下ろしを放った。だが、その斬撃はむなしくも空を切る。

 

「そんな甘い攻撃が当たると思ったのか?」

 

バルゼリットは脚部の車輪を高速で回転させ、急後退し、その一撃を回避していた。すると、今度はバルゼリットが攻撃を仕掛ける。車輪を逆回転させ、間合いを詰めると、戦斧(ハルバート)を構え、《フェンリル》へと薙ぎ払った。

 

戦斧(ハルバート)による一撃。捻りを加えて放たれた鉄の塊による攻撃が大剣を振り切り、隙が出来ている《フェンリル》に襲い掛かる。その攻撃が直撃すると思われた瞬間。

 

「掛かったな? バルゼリット」

 

薙ぎ払われた戦斧(ハルバート)は、《フェンリル》に直撃する手前で障壁に阻まれていた。特殊武装である《一天紋章(スカイ・エンブレム)》だ。アルテリーゼを衝突させた時に使用したのとは違い、今度は戦斧を防げる最小限の大きさで展開している。そのためバルゼリットの視界には入っていない。

 

両の手で戦斧(ハルバート)を振るい、その攻撃が阻まれたことによって、片側ががら空きとなった《アジ・ダハーカ》。すかさずノエルは『神速制御(クイックドロウ)』でその部分を狙う。

 

完全にバルゼリットの隙をついた奥義による目にも止まらぬ一閃。決まった。そうノエルは確信していた。

 

だが、神速で放たれた一閃の剣筋に《アジ・ダハーカ》の姿はなかった。

 

「―――、ッ!?」

 

「見えていたさ、その程度の攻撃なんてな」

 

バルゼリットは攻撃を読んでいたかのように大剣が振るわれる寸前で屈んでおり、その頭の上を薙いでいた。

 

バルゼリットは《アジ・ダハーカ》で先ほどの防がれた戦斧(ハルバート)を反転させると、体を高速で逆回転させ、ひねりを加えると反撃を仕掛ける。

 

迫りくる戦斧(ハルバート)に反応してノエルは反射的に片手をかざし《一天紋章(スカイ・エンブレム)》を展開するが、砕かれてしまい《フェンリル》に戦斧(ハルバート)が直撃する。ノエルはクルルシファーのいる近くの瓦礫まで吹き飛ばされ激突した。

 

「くっ………、そ………。なんで………」

 

ノエルは背中を強く打ち、苦痛で表情を歪める。完全に隙をついたはず。なのになぜ?

 

「まさか―――、あれは」

 

クルルシファーは先の攻防で何かに気づいたようだった。

 

クルルシファーの呟きを聞き、ノエルは顔を向ける。

 

「彼は《ファフニール》の神装能力を使っているのよ。《財禍の叡智(ワイズ・ブラット)》―――、未来予知の能力をね」

 

《ファフニール》の神装能力《財禍の叡智(ワイズ・ブラット)》。

 

クルルシファーの説明によると、その能力は一定距離内の未来を数秒間だけ視覚を通して見ることができるらしい。

 

ノエルは『箱庭(ガーデン)』に入る前に行われた戦闘を思い出す。クルルシファーが幻神獣(アビス)『ゴーレム』との戦闘で、まるで相手の攻撃が見えているような攻撃、回避をしていたことを。

 

つまりは相手の攻撃を先読みし、攻撃を仕掛けることも回避することも可能ということになる。バルゼリットがその能力を使っているとなれば先ほどの一撃が回避されたのも納得がいくのだが―――。

 

「まじかよ………、他の機竜の神装を奪う能力か。だけど一体………」

 

どうやってその能力を使っているのかが分からない。範囲内の機竜から奪うのか、あるいは機竜同士の接触か。そこまでは予想できてはいるのだが―――。

 

ノエルが《アジ・ダハーカ》の能力の条件について考えていると、バルゼリットが行動を起こし、何故かこちらが気づくように声を掛けてきた。

 

「決闘の最中に『恋人』と語らいとは随分と余裕があるみたいだな?」

 

バルゼリットは両肩の砲口を起動させ、こちらに向けてきた。だが、狙いはノエルの《フェンリル》ではなく、消耗により身動きが取れないでいるクルルシファーの《ファフニール》だ。

 

バルゼリットは何の躊躇もなく《双頭の顎(デビルズグロウ)》を放った。二筋の光柱が《ファフニール》に迫る。その攻撃に反応して自動的に《竜鱗装盾(オート・シェルド)》が発動するが、弱々しい盾が数枚小さく展開されるだけ。

 

「くっ………」

 

防ぎきれない―――。

 

目の前に迫りくる砲撃。《ファフニール》は出力の低下でまともに動かない。クルルシファーは自分に迫りくる光をただ見ていることしかできない。

 

そしてクルルシファーがその現実から目を背けるように瞳を閉じようとした瞬間、二筋の光がまるでクルルシファーを避けるように左右へと逸れていったのだった。

 

「やらせるわけ………、ないだろっ!」

 

クルルシファーの前に立ちはだかる人が一人。《フェンリル》を纏ったノエル。ノエルは前方に手をかざし、八の字を描くよう二つの障壁《一天紋章(スカイ・エンブレム)》を展開し、《双頭の顎(デビルズグロウ)》を逸らしていた。クルルシファーの後方で爆炎と轟音が鳴り響く。

 

少女を守るため最大出力で展開した《一天紋章(スカイ・エンブレム)》だったが、その障壁には亀裂が入っていた。

 

通常の障壁より何十倍もの強固さを誇っているはずの《一天紋章(スカイ・エンブレム)》。しかも面で直接防いだわけではなく、斜めにし、逸らすことで障壁が受ける威力を軽減させたはず………。それなのに亀裂が入ったということはどうやら《フェンリル》の出力も低下を始めているようだとノエルは考える。

 

(神装が発動しなかった………。《アジ・ダハーカ》に奪われてしまったのか?)

 

ノエルは鏡のように輝く銀の装甲で反射させ、自身の顔、左目を確認する。まだ染まりきってはいない。使用限界ではないのにどうして?

 

《フェンリル》の神装である《魔紐の足枷(グレイプニル)》は多用することが出来ないため、ノエルは大事な場面でしか使用はしない。それが今だった。神装を発動させ、《ファフニール》ごとクルルシファーを避難させようとしたのだが、発動しなかったため《一天紋章(スカイ・エンブレム)》を展開させたのだった。

 

「どういうつもりだバルゼリット、狙うなら普通は俺だろ? なぜクルルシファーを狙いやがった」

 

「なに、簡単なことだ。その女を狙い攻撃すればお前は必ずその攻撃を防ごうとするだろう? わざわざお前を狙い攻撃し、回避されるよりはずっと『効率』がいいではないか!」

 

バルゼリットはそう告げながら声高く笑いだす。楽しんでいるかのように。それを見たノエルはバルゼリットを睨みつける。

 

「俺は別にその女が『道具』としての機能さえ残していれば構わんのでな、攻撃が当たろうが生きてさえいればそれで構わないのさ」

 

「この外道が―――」

 

「ふはは、なんとでも言うがいいさ! 所詮その女はただの『道具』だ。お前ほどの人物なら知っているだろう? 終焉神獣(ラグナレク)というものを」

 

「………、ああ。知っているさ」

 

「お前はまだ聞かされていないだろうが、旧帝国時代に討伐されたとなっていた終焉神獣(ラグナレク)の石化が徐々に解けているらしくてな。目覚めの時が近いらしい。それでこの俺、バルゼリット・クロイツァー自らが新王国のためにそいつと戦ってやると決めたのだよ」

 

「………、それで? それとクルルシファーと何の関係がある?」

 

「俺はな、そこの『道具』を娶り、『鍵』としての力を調べ上げ、『遺跡(ルイン)』から力を財を技術を掘り起こさなければならないのだ。終焉神獣を倒すためにな。その過程でその女が死のうが『遺跡(ルイン)』の力さえ手にはいれば俺にはどうでもいいことなんだがな」

 

それを聞いてしまったクルルシファーは、怯え、震えてしまっている。

 

彼女を『人』としてではなく、『道具』としてしか見ていないその発言にノエルから殺気が漏れ出していく。さすがのバルゼリットもそれを感じ取ったようで口を閉じていた。

 

何故こいつは『銀色の狩人』の正体だけではなく、『鍵』のことまでを知っているのか?

 

それが頭をよぎるが今はそんなことを気にしている場合ではないと振り払う。

 

「彼女は渡さない。彼女は、クルルシファーは、俺の大切な『恋人』だからな。俺が幸せにするって決めてんだよ」

 

「邪魔をするな、『銀色の狩人』よ。そこの女一人の犠牲でこの国と大勢の民が救われるのだぞ? お前はこの国がどうなってもいいと言うのか? かつて旧帝国を滅ぼした『英雄』とあろうものが」

 

「そんなもんどっちも救ってやるさ、お前なんかに頼らなくてもな!」

 

それと同時に《フェンリル》の装甲が震え軋みだす。機竜が暴走を起こす前兆の現象だ。

 

「はっ! 強欲だな、『銀色の狩人』というものは。その状態で俺に勝つつもりか? 笑わせる」

 

暴走の予兆を見せている《フェンリル》とは違い、バルゼリットの《アジ・ダハーカ》はまだ余力を残していた。バルゼリットには敗北するなどということはないと確信していた。

 

「ああ、強欲だろうと何だろうと言われようがそのために手に入れたんだ。『普通じゃない力』をな!」

 

暴走寸前の《フェンリル》を駆り、勢いよく大地を蹴るノエル。大剣を構え、バルゼリットに肉薄していくと、次第に機竜の軋みが大きくなっていく。

 

その攻撃を防ごうとバルゼリットは障壁を展開する。ただの障壁ではない。《アジ・ダハーカ》が発生させる強力な『三重障壁』だ。

 

「その程度の障壁で防げると思うなよ!」

 

ノエルが叫び、鋭い一閃が《フェンリル》から放たれる。

 

暴走寸前のはずの《フェンリル》。

 

そんな状態の機竜から放たれた攻撃のはずなのにバルゼリットの表情は焦りの色を見せていた。

 

ノエルの振り下ろした大剣は容易に『三重障壁』を一枚一枚粉砕していく。その全ての障壁を破り、その切っ先が《アジ・ダハーカ》に迫る。勝負の幕切れが見えたようにも思えたが―――。

 

「ふざけるな! 俺は『王国の覇者』だぞ!」

 

バルゼリットはさらに盾を展開する。それは《アジ・ダハーカ》の正面に八つ展開された。《ファフニール》の特殊武装である《竜鱗装盾(オート・シェルド)》。《アジ・ダハーカ》は神装を奪うだけではなく、特殊武装までもを奪っていた。

 

《フェンリル》の大剣が《竜鱗装盾(オート・シェルド)》に接触する。『三重障壁』を破り切ったはずの大剣は勢いを緩める様子はなく、《竜鱗装盾(オート・シェルド)》をも弾き飛ばし突破する。だが、《アジ・ダハーカ》の能力は特殊武装までをも奪えること。つまり………。

 

「なっ………!?」

 

大剣は《竜鱗装盾(オート・シェルド)》を破り、《アジ・ダハーカ》の目前で停止していた。

 

大剣と《アジ・ダハーカ》の間を阻んでいたのは《フェンリル》の特殊武装《一天紋章(スカイ・エンブレム)》。その展開上限である八つを重ねて展開し、圧倒的な硬さを実現させていた。

 

「惜しかったな。だが、見えていなかったら流石の俺も今のは不味かったぞ?」

 

バルゼリットは戦斧(ハルバート)に力を込め振り払う。ノエルは急いで障壁を展開するが、出力の低下による影響で防ぎきれず、砕かれ、再び吹き飛ばされる。

 

《フェンリル》は大地を削りながら数十ml(メル)先まで飛ばされていき、止まる。

 

「か、は………ッ」

 

仰向けに倒れながらノエルは吐血する。疲労もあるだろうが、あれほどの一撃、身体に相当な負荷が掛かっていた。

 

『見えていなかったら』

 

バルゼリットはそう言っていた。つまりは《財禍の叡智(ワイズ・ブラット)》で攻撃が当たった未来を見たということになる。そのため、焦りの色を見せ、展開する盾と障壁を増やしたのだろう。

 

「俺の特殊武装まで使いやがって………」

 

大剣を地面に差し、なんとか立ち上がるノエル。

 

「もうやめてノエル君」

 

吐血し、身体も傷だらけ。機竜ももう限界に近い。そんな状態で戦い続けるノエルにクルルシファーから声が届いた。

 

その声に反応しノエルはクルルシファーを向く。

 

「これ以上あなたが傷つくのは見たくないわ。だから、もう私なんかのために戦わないで―――」

 

クルルシファーの悲痛な思いが伝わってくる。やめてほしい、見捨ててほしいと。

 

「………、ノエル君と『恋人』として過ごした時間はとても楽しかったわ。『箱庭(ガーデン)』でノエル君が私の探していた『同じ』人間だったとわかった時はとても嬉しかった。私は一人じゃないってわかったから。それだけで十分救われたのよ。ありがとうノエル君。あとは、私は―――」

 

ノエルは感じ取る。

 

クルルシファーが言おうとしている言葉を。

 

彼女には言わせてはいけない言葉だと。

 

だが、ノエルが制止の言葉を発する前にクルルシファーの口が動いてしまった。

 

 

「私は―――、『道具』として生きていくから」

 

 

少女は微笑んでいた。

 

でもその微笑みはとても苦しそうで、痛々しい、そんな感情が入り混じっているとても悲しい微笑みだった。

 

 




クルルシファー編も次でラストにします(予定)

みなさんお待ちかねのシーンで、ノエルはどうするか。まぁご想像にお任せしますね(笑

お気に入りも160人突破! 感激です!!
あと少しでバーにも色がつく!(笑


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