それではどうぞ!
※3月12日、修正。
「私は―――、『道具』として生きていくから」
彼女のその言葉、その微笑みにノエルは胸を締め付けられるような感覚を覚える。
彼女の口から言わせてしまった。
彼女を救うつもりで戦いに来たのに、逆に彼女を苦しめている自分がいる。その現実にノエルは言葉を失う。
―――、お前ら、俺の『恋人』を泣かせた罪は重いぞ?
笑えるよな、俺も泣かせてんじゃないか。苦しませているのも俺だ。どの口があんなこと言えるんだよ。ごめんな、不甲斐ない『恋人』で。
だけど、それでも、今はお前のあの笑顔を取り戻せるのは俺だけなんだ。だから―――。
死んでもお前を守り抜く。俺は笑っているお前が一番好きだから。
学園で。街で。俺の前でさ、また見せてくれよ。お前の笑顔を。
「俺はお前の『恋人』だ。必ず助ける。だからよ、自分のことを『道具』なんて言わないでくれ」
すでに傷だらけだが関係ない。俺の傷なんて彼女の痛みに比べたら小さなものだ。
「戦わせてくれ。大切な『恋人』、クルルシファー、お前のために」
ノエルはクルルシファーの方を向くと微笑む。
『彼』の笑顔。いつも私に見せてくれる優しい微笑み。あんなに傷だらけなのにどうしてそんな顔ができるの?
「どうして………。どうしてあなたはそんなになってまで、私なんかのために………」
微笑んでいた彼女の表情がだんだんと崩れていく。涙を流しながら。
「俺はただ、お前の力になりたいだけさ。意地悪だけど、笑顔を見せてくれるお前が好きだから」
そう告げるとノエルはクルルシファーに背を向ける。そして大剣を構え、バルゼリットへ向き直った。
「ノエル君………」
クルルシファーは傷だらけでこちらに背を向けている『彼』の名を呟く。
必ず助ける。
『彼』の背中から強い思いを感じる。クルルシファーはその背に包み込まれるような安心感を覚えていた。どうしてこんなにも『彼』の背中が大きく見えるのだろうか?
「不思議ね………、『恋人』として一緒に過ごすようになるまではこんな気持ちは感じなかったのに………」
そう思っていると、怯え、震えていた体もいつの間にか落ち着きを取り戻していたことにクルルシファーは気が付いていた。
†
「そろそろ決めさせてもらうぞ、バルゼリット」
軋みの音が増してきている《フェンリル》を纏いながら、大剣の切っ先を向けるノエル。
「そんな状態でまだそんな戯言を言うか、正真正銘の馬鹿だなお前は!」
いつ暴走を始め、自壊するか分からない機竜を纏い、まだ自分を倒す気でいる目の前に少年を見てバルゼリットは声を上げて笑い出した。
そんなバルゼリットを無視し、ノエルは自分の機竜《フェンリル》の状態を確認する。
(使えて後、二回………、ってところかな。十分だ、リーシャ様に怒られそうだけど………)
装甲には所々亀裂が入り、出力もそろそろ限界。特殊武装は《アジ・ダハーカ》に奪われてしまっている。そんな状態のはずなのにノエルは小さく口元を緩めていた。
ノエルは《フェンリル》を駆り、大地を蹴る。誰から見てもただの突進にしか見えない単純な攻撃。
バルゼリットは三重障壁を展開し待ち構える。さらに《
《フェンリル》が《アジ・ダハーカ》の数ml先にまで到達した時、腰の位置に存在する推進装置が軋みだし、強く輝きだす。すると、先ほどまでとは比べものにならないほどの出力を放出し、急加速を始めたのだった。
その加速は異常なもので《
機竜の動きとは思えない異常な動きを見せた《フェンリル》に焦りの色を見せるバルゼリット。その姿が視認できない。先ほどのような攻撃がどこからか飛んでくるかもしれない。そんな恐怖を感じているようだった。
無理もない、自身が現在使用できる障壁、武装を全て使用しなければ防ぐことの出来ないほどの一撃を放ってくる相手だ。一つの間違いが命取りになる。
(馬鹿な! 俺がなぜあんな奴ごときにこんなにも怯えなくてはならんのだ!)
相手の機竜はもう限界が近い。恐れる要素は一つもない。バルゼリットは自分にそう言い聞かせ、落ち着きを取り戻そうとしていた。
その瞬間―――。
目の前を覆っていた土煙を突き抜け、一つの影が飛び出してきた。
『それ』に反応して《アジ・ダハーカ》の正面に自動的に《
「これは―――、
『それ』は《フェンリル》が放ったと思われる
先ほどの攻撃で完全に意識が正面にむいているバルゼリット。その後方で土煙が大きく舞い上がった。まるで、何かが急に姿を現したかのように―――。
「俺はクルルシファーの笑顔を取り戻す。この手で―――、必ず!」
そこには《フェンリル》の姿があった。急加速の代償か、人間離れした動きのせいでノエルの体は所々皮膚が裂け、血を流している。そんな傷だらけの状態でノエルは既に淡い輝きを放つ白い大剣を振りかぶっており、そう呟いた後、その大剣を勢いよく振り下ろす。
バルゼリットはその一撃に反応するが、もう遅かった。
三重障壁は前方に展開してしまったが故に間に合わない。攻撃に反応して自動的に展開される《
「俺が負けることはありえないんだぁ!」
そう叫びながら残されている武装、目の前で大剣を振り下ろしてきている《フェンリル》から奪った特殊武装《
その現状に歯噛みするバルゼリット。もう目の前の大剣を防ぐ手立てがないバルゼリットは《アジ・ダハーカ》の両の手に握られている
「焼き斬れ、《
ノエルが握っている銀白の大剣。
それはもう一つの特殊武装―――、《
《
《フェンリル》の大剣から放たれた一撃。その衝撃は凄まじいものだった。
《アジ・ダハーカ》の装甲を完全に砕き、その背後まで衝撃が駆け抜けると、周囲の瓦礫おも吹き飛ばし、地面を大きく抉る。ノエルの目の前には一つの瓦礫さえ存在しない荒地が広がっていた。
「ぐあぁぁぁぁああああ!」
その荒地の中心でバルゼリットは激痛に襲われていた。あまりの苦痛に体の至るところから出血し、激しく吐血する。そして装甲を完全に砕かれ、両腕、武装、全てを失った《アジ・ダハーカ》はバルゼリットと共にその場に崩れ落ちていくのだった。
「はぁ、はぁ。………、終わっ……た」
振り下ろされ、大地に食い込んでいるの大剣を握ったままノエルは呟く。大地を抉り、瓦礫をも吹き飛ばす衝撃を生んだ代償は大きく、《フェンリル》の両装甲腕に入っていた亀裂は大きさを増し、バキンッと音を立てる。
(これ以上は動かせないな………)
機竜の損傷を見てそう思いながら、ノエルは心の中で《フェンリル》へ感謝する。こんなになるまで力を貸してくれてありがとう、と。
ノエルは崩れ落ちた《アジ・ダハーカ》に視線を移す。武装も何もかも失ったあの状態では決闘の勝敗は決しているようなものだった。ノエルは小さく息を吐いた後、安堵の表情を浮かべる。
「勝敗はついた。俺の勝ちだな、バルゼリット」
未だに激痛で悶絶しているバルゼリットへノエルは真紅の瞳で冷酷な視線を向ける。お前は彼女をそれ以上に傷つけたんだぞ、と。
「がはっ………、ふざけるな! この俺、『王国の覇者』がお前ごときに負けることはあってはならないんだぁ! ごふっ………」
血を吐きながらノエルを睨み、叫ぶバルゼリット。
すると、強制解除寸前の《アジ・ダハーカ》が何かの合図をするかのように、耳障りな音を発生させる。
その音に反応してノエルはバルゼリットから距離を取り、警戒の構えを取る。だが、《フェンリル》もノエルも既に限界を超えている状態。それでもノエルはクルルシファーを守るため、彼女の傍へ移動する。
「はははははっ! 終わりだ、『銀色の狩人』。ここでお前を始末してしまえばこの決闘の勝敗なんぞなかったことになる。そして俺の、『王国の覇者』としての名誉も守ることができるのさ!」
突如、バルゼリットは勝ち誇ったような表情を見せ、狂ったように声を上げて笑い出す。『始末する』その言葉を聞いたノエルは確信していた。自分が予想していた最悪の展開を。
その不気味な様子を見たノエルはさらに警戒の色を強める。すると、先ほどの音―――、合図によって集まって来たのか、バルゼリットの後方から数十体の機竜が姿を現した。
「ここは俺が用意した決闘の場だぞ、何も策を講じてないわけないだろう? 見ろ、人払いのために配置していた俺の私兵共だ。俺との戦いで消耗したお前では倒しきれまい」
バルゼリットの言葉の通り、消耗しきっているノエルではあの数を相手に戦うのは困難だ。バルゼリットはあの私兵を使い、ノエルを始末した後、事故として全て揉み消すつもりだろう。そうなればクルルシファーはバルゼリットに連れていかれ、真相を知る者はいなくなる。
「お前の策なんて最初から分かっていたさ。旧帝国の思想をそのまま受け継いでいるようなお前が何もしてこないわけないからな。だから俺は―――」
ノエルは言葉途中でバルゼリットの私兵たちを指差す。すると、数十体いた私兵の機竜が次々と力なく倒れていった。そしてその後方、ノエルが巡らせていた策を実行した銀髪の少年が代わりに姿を現した。
「なんだと………、一体どういうことだ!」
「お見通しなんですよ、あなた程度が考えた策なんて。彼には通用しないんです。バルゼリット卿」
バルゼリットの疑問に銀髪の少年、ルクスが答える。
「本当にノエルが言った通りになったな」
上空から声が聞こえてくると、自分の計画が潰されてしまい、唖然としていたバルゼリットは上空を見上げる。
そこには金髪の少女がその瞳と同じ色、リーズシャルテが赤い巨竜、神装機竜《ティアマト》を纏い、投擲兵器の特殊武装《
更にその背後、機竜を纏っていない私兵たちが大勢ワイヤーで捕らえられており、もう一体の神装機竜と思われる巨竜に抱えられているのが見える。
「大丈夫? ノエルちゃん」
巨竜を纏っていたのは幼馴染である少女、フィルフィだった。
ノエルはフィルフィが紫色の神装機竜を使っていることに驚くが、今はそれを気にしている場合ではない。
「みんな来てくれたんだな、ありがとう」
次々と集まってくる見知った少女たちにノエルは礼を伝えた。ノエルの策は見事にその効果を発揮したようだった。
リーズシャルテ、フィルフィを始め、汎用機竜を纏った『
「貴公の計画は《ドレイク》の傍受機能を使って全て聞かせてもらったよ。クルルシファーを脅していた容疑、計画的な相手の殺害容疑、決闘ルールの違反など、様々な容疑が貴公には掛かっている。私の父は軍の副司令官を務めているんでね、その繋がりを利用して軍にはもう知らせているよ。もうじき到着するだろう、諦めて投降したまえ」
「くそっ………、俺がこんなところで、こんな奴らの策なんぞにはまるなど………」
バルゼリットは歯噛みする。
この状況をどうすれば打開できるのか? そう思っていると教会跡地の裏に広がる深い森が目についた。あの森を抜け、城壁さえ越えてしまえば―――。
「ふっ―――」
何かを思いついた様子のバルゼリットは不敵な笑みを浮かべ、ノエルたちに背を向けると崩壊寸前の《アジ・ダハーカ》を駆り、最後の賭け、逃走を開始した。
「ま、待て!」
バルゼリットの行動の意味を理解したリーシャは叫ぶ。
城壁を越えられ、奴を領地に逃がしてしまえば手出しができなくなる。さらには今回のことは権力でなかったことにしてくるだろう。それだけは避けたい。
リーシャに続き、『
「忘れてはいないか、『銀色の狩人』よ? 俺の《アジ・ダハーカ》は他の機竜の神装能力を奪えるのだぞ?」
バルゼリットは背を向け、笑い声を上げながらノエルに話掛けてくる。その言葉を聞いたノエルは戦闘でバルゼリットが《ファフニール》の神装能力《
「まさか―――ッ!?」
ノエルは気が付く。この状況で一番使わせてはいけない能力がバルゼリットの手に渡っていることに。
「はははっ! 今更気づいてももう遅いぞ? 使わせてもらうぞ、お前の神装能力をな!」
《フェンリル》の神装は《アジ・ダハーカ》に奪われたままだったのだ。時を止める能力。この状況で使われると確実に逃げられてしまう。
「《
バルゼリットが《フェンリル》の神装の名を口にする。
逃げられる。誰もがそう思う。
だが―――、時は止まることなく動いていた。
「ごふっ………!?」
バルゼリットは両目を血で染め上げると、盛大に吐血し、《アジ・ダハーカ》が強制解除される。そしてバルゼリットは地面に投げ出され倒れ込む。
『あなたも馬鹿な人ですね。適正が高くもないあなたがノエル兄さんの神装を使って無事で済むわけないじゃないですか。その力はノエル兄さんでさえ使用回数が限られるほどの強力な能力なんですから』
不意に少女の声が竜声を通じて届いた。
ノエルのことを兄さんと呼ぶ人物は一人しかいない。銀髪の少女、アイリだ。
アイリはクルルシファーの横に立ち、こちらの様子を見ていたようで、バルゼリットはその竜声を聞いた後、悔しそうに顔を歪めるとそのまま意識を失っていた。
バルゼリットが気絶したことによりノエルたちは胸を撫で下ろし息をつく。これでこの件は無事終わりの幕を閉じるのであった。
†
その後、バルゼリットの身柄は到着した軍の衛兵たちに引き渡された。リーシャの話によるといくら四大貴族とはいえ、数年は牢屋からは出てこれないらしい。それだけの罪を奴は犯したのだ。貴族としても失脚するのは免れないだろう。
ノエルは損傷が激しい《フェンリル》を解除し、クルルシファーに歩み寄っていく。クルルシファーも既に《ファフニール》を解除していた。
「さてと、じゃあ帰るか。クルルシファー」
「最後まで見捨てないでくれてありがとう、ノエル君。全てあなたのおかげよ」
ノエルの言葉にクルルシファーは座ったままで感謝の言葉を口にしていた。
目の前で笑顔を見せている彼。でもその体は傷だらけ。
勝負を諦めて一度『道具』として生きるということを彼に口にしてしまった私。
でも、『道具』なんて言うなよと、私を見捨てないで救ってくれた私の『恋人』。
とても嬉しかった。彼の必ず助けるという言葉。
「俺だけじゃないさ。ここにいるみんな、お前を助けるために力を貸してくれたんだぞ?」
クルルシファーが一人、ノエルへの思いを巡らせていると、そう声を掛けられる。クルルシファーはその声に反応してノエルの顔を見ると、彼はルクスの方を指差し、促してきた。
「そう………、なの?」
「はい。だって、クルルシファーさんは学園の、みんなの『仲間』じゃないですか」
ルクスは微笑みながら答える。当然ですよ、と言うように。
「『仲間』………、私はみんなとは『違う』人間なのに?」
彼―――、ルクス君とノエル君には『
私はこの世界の人間じゃない。みんなとは『違う』からエインフォルク家のみんなにも『家族』として認めてもらえなかった。そう思っていたのにルクス君はみんな私の『仲間』だと言った。
「そんなのあたりまえだろ? 学園にいるみんなも、ここにいるみんなも、全員お前の『仲間』であって『家族』なんだ。だから今回みたいになる前に今度は一人で解決出来ないような問題が起きたら、一人で抱え込まないでみんなに頼れよ? 分かったな?」
そう言ってノエルは座っているクルルシファーに手を差し出す。
「『仲間』………、『家族』………?」
まだ信じきれていないようだったクルルシファーが小さく呟く。すると、みんなは頷いた。そうだよ、と。
それを見たクルルシファーは微かに頬を染める。彼女を他の人とは『違う』と縛りつけていた心の鎖が解けたようで、その表情は今まで見たこともないくらいの笑顔だった。
「ありがとう。みんな」
そしてクルルシファーは差し伸べられている『恋人』の手を握り、立ち上がる。何度も私を救ってくれた『恋人』の暖かい手。その温もりを確かに感じながら。
私が欲しかったものはこんなにも近くにあった。それに気づかせてくれたノエル君。私の『恋人』。
ありがとう。
私の心にあるこのあなたへの思いはもう偽りの関係じゃなく、本当の関係を求めていることにも気づくことが出来たわ―――。
お気に入り170人突破!! 感激です!
クルルシファー編が終わったら、ついに姉さんのお話に入れるので頑張ります(笑
休みがないから中々書く時間が取れなくて、更新が遅くなってしまってますね………。
評価・感想貰えると嬉しいです!
誤字脱字・気になるとこがありましたら、報告お願いします!