第零遺跡の「鍵の管理者」   作:奈々歌

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毎度、毎度、更新遅れてすみません_(._.)_

忙しい時期でして、家に帰ってこれるのが日が変わるくらいの時間帯になっているのです(泣

ですが、あまり遅くならないように頑張りますので、これからもよろしくお願いします!!


それではどうぞ!!

※3月11日、修正。


傍にいて欲しい人。

 

 

決闘を終えた二人。

 

傷だらけで体力も限界に近いノエルとクルルシファーは、それぞれルクスとリーシャに士官学園まで運んで貰うと、学園の医務室にルクスやノクト達に付き添われながら向かって行く。

 

リーシャには損傷した《フェンリル》と《ファフニール》の状態を見て欲しいと頼んだのだが、今回はかなり無茶な使い方をしたので後で怒られそうだ。ちなみにルクスはリーシャに特別依頼書を使用した依頼で連れていかれた。

 

三和音(トライアド)』のシャリスとティルファーは軍の人達と今回の事件の後始末をしてくれている。前回の事件といい今回の件といいとても感謝している。

 

医務室についたノエルとクルルシファー。どちらも多くの怪我を負っていたが、特にノエルは裂傷などが酷く、頭部、腕や足に包帯を巻かれていく。その際、アイリも治療に参加しており、ノエルの腕に包帯を巻きつけながら、いつもの通りお説教が始まったのだった。

 

 

「まったく、どうしてノエル兄さんは毎回毎回私になんの相談もしないで行ってしまうんですか?」

 

上手にノエルの腕へ包帯を巻きながらアイリは小さくため息をつく。その様子を見ながらノエルは苦笑していた。

 

「アイリにばれると、今みたいに説教されるからです」

 

アイリからの問いに素直に答えるノエル。相談してもしなくてもアイリにはいつも怒られることになるのだが、結局は許してくれるので優しい妹だな、とノエルは思っていると―――。

 

「そうですか、ノエル兄さんの考えはよく分かりました。はい、これで終わりですよ」

 

アイリはそう呟くと、最後に巻き終わった部分を軽く叩く。どうやら先ほどの返答が不満だった様子。

 

「痛いよアイリ!?」

 

軽く叩かれたと言っても、傷の上なのだからそれなりに痛い。ノエルは腕を押さえて涙目になっていた。

 

そんなノエルに最初はジト目を向けていたアイリだったが次第にその視線を伏せていく。

 

「………、凄く心配したんですからね」

 

「えっ?」

 

アイリの小さな、それでいて弱々しい呟きが聞こえてくると、涙目になっていたノエルはアイリの方へと顔を向ける。

 

「ノエル兄さんはお人好しですから、いつも誰かのためにこんなになるまで一人で無茶ばかりして………。私だってもう昔みたいに弱くはないんですよ? ノエル兄さんの力になれるところだってあるんです。だから今度からは少しでいいですから私を頼ってくださいね? ノエル兄さん」

 

「………、アイリ」

 

アイリには心配を掛けたくない。

 

そう思い、今回の決闘についてもアイリには話さないで向かったのだが、それが余計に彼女を心配させてしまっていたようだ。

 

ノクトに頼もうとしていたもう一つの依頼。

 

それは決闘に向かうことをアイリには内密にしていてくれ、というものだった。でも、感のいいアイリのことだ、ルクスが学園の皆にノエルの策を伝えている時、気が付いて、問い詰めて、知ってしまったのだろう。ルクスはアイリには勝てないからな。

 

俯いてしまったアイリの頭にそっと手を置くノエル。

 

「今度からはちゃんと相談するよ、ありがとなアイリ。それといつも心配かけちゃってごめんよ?」

 

優しく微笑みながら綺麗な銀髪を撫でる。

 

昔みたいに病弱でいつも俺やルクスを頼りっぱなしだった頃とは違う。アイリだって何か力になれることがないかと頑張っているのだ。それなのに頼ってもらえなかったら寂しいよな、悲しいよな。

 

「もう………、しょうがない兄さんですね、ノエル兄さんは。今回は特別に許してあげます」

 

アイリは顔を伏せたままだったが、その表情は悲しみではなく、嬉しさからなのか微笑んでいるのが感じられた。

 

周りから見てもとても微笑ましいその兄妹の光景に隣のベッドでノクトに治療してもらっていたクルルシファーが笑顔を向けてくる。

 

「なんだかあなたたちを見ていると羨ましく思うわね」

 

血が繋がっていなくても二人は兄妹だった。本当にお互いのことをよく分かっている。

 

「そうか? アイリの説教は毎回怖いぞ? 特に笑顔の時とか………。まぁ、それは置いといて、クルルシファーの方は怪我、大丈夫か?」

 

目立った怪我は見られないようだが、《ファフニール》のかなりの損傷、そして動けなくなるほどの疲労からして暫くは安静が必要だと思うが―――。

 

「ええ、あなたと比べたらこんな怪我何ともないわよ。寧ろあなたの方こそ大丈夫かしら?」

 

包帯を何ヶ所も巻いているノエルにクルルシファーが尋ねる。負傷も疲労も彼の方がどう見ても酷かった。

 

クルルシファーに尋ねられたノエルはアイリの頭から手を離し、自分の腕や頭に巻かれた包帯を確認する。ノエルが手を離したことでアイリは少し不満そうな表情になるが、ノエルに後はどこを手当てしたか教えていた。

 

「まぁ、痛くないって言ったら嘘になるけど、お前を守れたんだから平気かな」

 

確認をした後、怪我の多さにノエルが笑っているとアイリが傍で小さく息をつく。

 

「ふふっ、私なんかのためにありがとう。ノエル君」

 

そんなノエルの様子がなんだか嬉しかったクルルシファーは目を細め顔を綻ばせる。

 

「私なんか、なんて言うなよ。俺は守りたいから守ったんだからさ」

 

「じゃあ………。そうね、私のために戦ってくれてありがとう。私の『恋人』さん?」

 

「『恋人』の関係じゃなくても守ったけどな。お前は大事な『仲間』だからな」

 

依頼書による二人の関係。

 

それがなくとも大切な『仲間』は自分の身をあんなにも傷だらけにしながらでも守り抜く。そんな姿が彼、ノエルに対して私にこんな気持ちを抱かせるのだとクルルシファーは思う。偽りの関係から変えたいと。

 

「そうよね、私はもう一人じゃない。私にはノエル君がいてくれる。学園のみんなも。大切な『仲間』として、『家族』として………」

 

私が欲しかったもの。願ったもの。

 

遺跡(ルイン)』の生き残りである私が自分で周りの皆とは『違う』と一人で勝手に壁を作ってしまっていたから分からなかった、気付けなかったもの。

 

「本当にありがとう。ノエル君」

 

いつも見せてくれる彼女の笑顔。その笑顔を守るためノエルは戦った。だからこうしていつも通りに見ることができたことで、ノエルは自然と頬が緩んでいたのだった。

 

 

「それじゃあ,そろそろ私は自分の部屋に戻るわね」

 

それから暫くアイリやノクトも会話に交じりながら雑談していると、かなり夜も更けてきたのでクルルシファーはそう切り出した。

 

確かに今日は疲れた。『箱庭(ガーデン)』から帰ってきてゆっくりとする暇もなく、策を講じるためや決闘で動きっぱなしだったことを思いだす。最後に寝たのは『箱庭(ガーデン)』で仮眠を取った時かな?

 

「今日くらいは、ここで寝ていけよ」

 

今日はこのまま医務室でノエルは休んでいくつもりだった。お互い怪我も疲労も溜まっているのだからクルルシファーも休んでいけばいいのに、とノエルは促す。

 

正直、ノエルは自室に戻るのが面倒なだけなのだが―――。

 

ノエルの言葉を聞きながらクルルシファーはベッドから腰を上げると、そう言ってノエルが上体を起こしているベッドの隣に位置するベッドを指差してくる。クルルシファーが手当てを受けていたベッドとは反対側だ。

 

「あなたといられるから本当はそうしようと思ったのだけれど、私はなんだかお邪魔みたいだから今日は戻って休むわ。あまり怪我も酷くないし、自室に戻る体力くらいあるわよ。だから、そこの彼女たちのこと、よろしくね?」

 

「何言って―――、あぁ、そういうことか。いつの間に………」

 

ノエルはクルルシファーに促され、そのベッドに視線を向ける。するとそこには小さく寝息を立てている少女が二人。

 

「ふふっ。それじゃあ、おやすみなさい。それと、明日忘れないようにね?」

 

「あいよ、また明日な」

 

ノエルはベッドから出てアイリとノクトに毛布を掛けながら、医務室から出ていくクルルシファーを見送ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の朝。

 

今日は祝日だったのでクルルシファーとの約束の時間までゆっくり休みたかったのだが、ノエルはアイリに叩き起こされはしなかったものの、普段通りの時間に起こされ、寝惚け眼をこすりながら身支度を済ますとノクトと三人で食堂に向かう。

 

「今日ぐらい休ませてよ、アイリ。ふぁああ………」

 

朝食を食べながら欠伸のするノエル。思っていたより疲労が溜まっていたようで、疲れがほとんど取れている感じがしなくとても眠い。

 

「ノエル兄さんのことだからずっと寝ていそうなので起こしたんですよ? クルルシファーさんとの約束はお昼前なんですよね? なら、ちゃんと朝食をとっておいて早めに身支度を済ませてください。女性を待たせるのは男性としていけませんから。ノエル兄さんはいつも私との約束に遅れてきますし………。私とはまだいいですけど、他の人にそれをするのは許しませんので―――」

 

「わ、分かったよ、アイリ。それとごめんなさい………」

 

なんか昨日からアイリに謝ってばかりだな、とノエルは思う。ルクスがアイリに勝てないと言っておきながらも、自分もそうだなと自覚するのだった。

 

「ちなみにですが、アイリはノエルさんをすぐ起こそうとはしないで暫くノエルさんの寝顔を見ていましたよ。それはそれは、とても可愛らしい笑顔になっておりました」

 

隣で二人のやり取りを静かに聞いていたノクトが表情こそ普段とあまり変わらないが、楽しそうな雰囲気を出しながら今朝のアイリの行動を口にした。

 

それを言われてしまったアイリはノエルに顔を向けながらその表情を一気に赤くする。

 

「ノクト!? そんなこと私は―――、ッ!?」

 

ノクトの方に急いで視線を向け、その恥ずかしい行動を否定するアイリ。

 

だが、ノエルがそれを想像してしまい、笑いを堪えていることに気が付くと、こちらに再び視線を戻してきた。そして怒ろうとするのだが、今度はノクトが笑いを堪えきれず吹き出してしまったためそちらに再び顔を向けた。

 

そんな二人に挟まれたアイリはその柔らかそうな頬をだんだんと膨らませていく。

 

「もう二人共、いい加減にしてください!」

 

アイリは怒った。そしていまだに頬を膨らませているアイリをノエルとノクトはよしよしと頭を撫でて宥める。アイリ自身も本当のことなのでこれ以上怒ることが出来ず、黙って撫でられていたのだった。

 

ほんと可愛いやつめ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんなもんでいいかな? アイリ」

 

朝食を食べた後、ノエルは自室に戻ると、以前、クルルシファーと出かけた時に購入してもらった礼服を身に着けている。ノエルはこういう恰好をしたことがないため、アイリにおかしなところがないか確認してもらっていた。

 

「いいと思います。似合っています、ノエル兄さん。初めて着たにしては手際よく着ていましたね?」

 

「ん? そうだったか? もしかしたら記憶がないだけで着ていたことがあったのかもな。あれだ、体は覚えてるってやつ」

 

アイリが意外にも素直に感想を伝えてきたので少し驚いたが、確かにそう言われると妙に慣れた感じがあった気がしなくもない。

 

「でしたら、ノエル兄さんも貴族だったのかもしれませんね」

 

一般の地位でこれほど高価な礼服を着る時など無いに等しい。あるとすれば王族か貴族位なものだ。でも―――。

 

「俺みたいなのが? ありえないだろ………」

 

俺みたいな奴が貴族だったら笑えるよ、とノエルは苦笑いを浮かべていた。

 

「あくまでそれは可能性ですから。それよりもそろそろ時間じゃないですか? クルルシファーさんとのデートの」

 

アイリは時計を確認すると『デート』という言葉を強調しながら促してくる。雰囲気もどこか不機嫌な感じだ。目も逸らして合わしてくれないし………。

 

「そう怒るなって。『恋人』の依頼が終わったら一緒にいる時間増えるし、出掛ける約束もしただろ? だからもう少し我慢してくれ」

 

「別に羨ましいとかそんなんじゃありません。………、でも正直寂しかったです。久しぶりに再会できて、会える時間も増えてきたと思ったら、依頼であまり会えなくなってしまいましたし………。ですから約束、守ってくださいね?」

 

手紙だけを残してノエルが姿を晦ましてしまってからの五年間。全く会うことが出来なかった二人。

 

ノエルが女王陛下から受けた依頼の報酬をほとんどルクスとアイリの借金返済に充ててくれていたことで、無事にやっていることは分かっていたのだったが、実際にノエルが学園に入学することが決まり、五年ぶりの再会を果たしたのだから、アイリはとても喜んでいた。

 

また一緒にいられると。昔のように傍にいられると。

 

自分でも自覚しているほどアイリはノエルにべったりだったのだから。

 

それ故に、アイリにとってノエルと会えない時間がまた増えてしまうのは辛かっただろう。それなのに我慢させてしまっているのがノエルにとっても辛かった。

 

だから空いた時間はアイリの顔を見に行っているし、朝もなるべく一緒にいる。この依頼が終わったらアイリの願いをたくさん聞いてあげよう。ノエルはそう思っていた。

 

「大丈夫、アイリとの約束は必ず守るから。どこか行きたいところあったら教えてくれよ?連れていってやるからな」

 

ノエルは姿勢を少し低くし、アイリと目線を合わせると優しく微笑む。すると、寂しげな表情をしていたアイリは目を合わせてくれて、小さく、それでいて嬉しそうに目を細めると頷いてくれた。

 

「そんじゃ、行ってくるからな」

 

それを見たノエルは一度軽くアイリの頭に手を添えた後、クルルシファーとも待ち合わせの場所へと向かって行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ノエルは待ち合わせの場所として指定された校門で『恋人』を待っていた。

 

そういえば初めて二人で出掛けた時の待ち合わせもここだったな、と思っていると、綺麗な水色のドレスに身を包んだ少女、クルルシファーが女子寮の方から歩いてくる。

 

「待たせたかしら?」

 

「いや、大丈夫だよ。そのドレス似合ってるなクルルシファー、可愛いというか………、凄く綺麗だ」

 

クルルシファーのドレス姿は、そのすらりとした細身の体と綺麗な青い髪にとても似合っている。正直見とれてしまっていた。

 

「ふふっ。そこまで見つめられるとさすがに照れるわね」

 

ノエルが見とれていることに気が付くと、クルルシファーは白く綺麗は頬を少し赤く染める。ノエルもクルルシファーに指摘され、慌てて目を逸らすと、ノエルも珍しく頬を染めていた。

 

『恋人』という関係になる前、彼女とこんなにも仲が良くなれるとは思いもしなかった。

 

大人びた雰囲気のクルルシファーからしたら自分は全然子供で相手にされないのではないかと思っていたほどなのだから。今、こうして自分の言葉や行動で色々な彼女の一面を見ることができるのが嬉しかったりもする。

 

「今日はどうやって行こうか? 商業地区の方だろ?」

 

恥ずかしさからか、まだ赤い自分の頬を指で掻きながらノエルは尋ねる。聞いていた今回の目的地は歩いて行くとすると距離があった。それに昨日の今日だ、二人共疲労がまだ残っている。

 

「大丈夫よ。この先に馬車を待たせてあるわ、それで行きましょう」

 

「そうなんだ、じゃあ行こうか。っと、どうした?」

 

ノエルはクルルシファーからそう促されると、馬車へと向かうため歩きだそうとする。すると、その歩みを止めるかのように袖が引っ張られる。ノエルが自分の袖を見ると、クルルシファーの綺麗な手がその袖を掴んでいたのだった。

 

「手、繋ぎましょうノエル君」

 

クルルシファーからの提案に小首を傾げるノエル。

 

彼女にしては珍しい。普段はいつの間にか腕などを絡めてくるのだが―――。

 

不思議そうにクルルシファーを見つめているノエルにクルルシファーが理由を話す。

 

「あなたの手、好きなのよ。だからお願いできるかしら?」

 

好きという言葉にドキッとする。『恋人』でなくてもクルルシファーのような綺麗な少女にこんなお願いをされたら断れないだろうな、とノエルは思う。

 

「まぁ、クルルシファーがそう言うなら―――。ほら、行こうぜ」

 

ノエルはクルルシファーに手を差し出す。すると、クルルシファーはその手に自分の手を添えキュッと握ると、幸せそうに微笑んでいた。

 

「………、温かいわね。やっぱり」

 

この手を握っていると心から安心できる。

 

「ん? なんか言ったか?」

 

「なんでもないわ。気にしないで」

 

そして二人は手を繋ぎながら馬車へと向かって行く。馬車の中でも二人は手を繋いでいたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

馬車に揺られること数十分。

 

到着したのは高級商業地区にあるレストラン。

 

クルルシファーとの約束。それは今日ここで婚約について話があるとアルテリーゼに招待されているので『恋人』として一緒に出席してほしいとのことだった。どうやら二人に話があるらしい。

 

「お待ちしておりました。お嬢様、ノエル様」

 

馬車を降りると、店先にいたアルテリーゼが出迎えてくれた。ノエルとクルルシファーはアルテリーゼと共に店に入る。

 

店には店主がいるだけで他には誰もいなかった。どうやら貸し切りにしているようだ。三人は予め準備されていたテーブルに座ると、アルテリーゼが頭を下げながら口を開く。

 

「此度の件、申し訳ありませんでした………。バルゼリット卿との婚約を推し進めてしまった私に全ての責任があります。処罰はエインフォルク家に戻り次第、受けますのでこの場ではどうかお許しを―――」

 

「頭を上げてください。アルテリーゼさんはエインフォルク家からの使命を遂行しようとしていただけなんですから悪くありませんよ」

 

「そうね、今回は私も悪かったわ。苦労を掛けてごめんなさいね、アルテリーゼ」

 

「お嬢様………」

 

以前の酒場での二人とは雰囲気が違い、どことなく二人の雰囲気が柔らかいものになっていく感じがした。

 

今回は彼女なりにエインフォルク家に忠義を尽くした結果なのだ。ノエルたちは責める気はなかった。それとクルルシファーから聞いた話だが、アルテリーゼも孤児院からエインフォルク家に引き取られた立場でクルルシファーと境遇が似ているらしい。そんな二人だから分かり合えることもあるのだろう。だからこそ、今の二人を見ていてノエルは嬉しかった。

 

「ありがとうございます。―――、そしてさすがお嬢様ですね。私が婚約の進捗を確認に来るまでもなく素晴らしい『婚約者』を見つけておられたようで、私の使命は既に果たされているようなものですよ」

 

「………、ん? 今なんて?」

 

クルルシファーが既に『婚約者』を見つけている?

 

確かに今、アルテリーゼはそう言った。それは誰のことだろうか? とノエルは疑問に持つ。隣に座っているクルルシファーも小首を傾げていた。

 

「バルゼリット卿の策略を暴き、自らの策を巡らせ、捕らえてしまうその英知。更には私ごと、『王国の覇者』を倒してしまう機竜使いとしての実力。多くの貴族や領主との繋がり。新王国の姫様や女王陛下にも認められ、頼られているノエル様なら我がエインフォルク家の当主様もお嬢様の『婚約者』として認めることでしょう」

 

「はい!? ちょっ、クルルシファー、演技だったって教えてなかったの!?」

 

アルテリーゼの方で勝手に『婚約者』と認識されてしまっていたことにノエルは驚き、慌ててクルルシファーに尋ねる。

 

「時間がなくて今この場で言うつもりだったのだけど………。でも、私はそれでもいいからこのまま話が進んでも構わないわよ?」

 

ノエルの問いに微笑を浮かべながら答えるクルルシファー。

 

「演技とは何のことですか? ノエル様」

 

「ああ、クルルシファーと俺の関係は―――」

 

ノエルはアルテリーゼに依頼により『恋人』のフリをしていたことを伝えようとするが、その言葉を遮るようにクルルシファーが割り込んでくる。

 

「婚約の話はアルテリーゼ、あなたに全て任せるわ。ノエル君を『婚約者』として話を進めておいて頂戴?」

 

「お任せくださいお嬢様。全身全霊をもってノエル様を当主様に『婚約者』として推挙させて頂きます」

 

アルテリーゼはそう言うと席を立つ。店を出る様子だ。

 

「お代の支払いは済ませております。後はお二人で楽しんで下さい。私は報告のためユミル王国に急いで戻りますので、失礼いたします」

 

アルテリーゼはノエルたちに軽く一礼すると早足で店を後にしていく。

 

「待って! ねぇ、お願い、待って! アルテリーゼさーん!」

 

ノエルの叫びは空しくもアルテリーゼには届かなかった。

 

「どうすんだよクルルシファー」

 

こうなってしまっては既に手遅れだ。アルテリーゼを追いかけても無駄なことだと思い、諦めたような表情でクルルシファーの方を見る。

 

「だから私は構わないって言ったでしょう? 私と婚約を結ぶのがそんなに嫌だったかしら?」

 

「いや、嫌とかじゃなくてさ………。クルルシファーだって本当に好きな相手と婚約を結ばなくていいのかよ」

 

「あら、私はそうしたつもりなのだけど?」

 

「からかわないでくれ………」

 

悪戯っぽい笑みを浮かべているクルルシファーになんだか遊ばれているような感じだった。まぁ、嘘でもクルルシファーみたいな女性に『婚約者』として選んでもらえたことは嬉しいのだが―――。

 

 

「でも、これで『恋人』としての依頼は終わりだな」

 

一週間優先して依頼が出来る特別依頼書。

 

それがクルルシファーの手に渡り、始まった期限付きの『恋人』としての生活。思っていたより大変だったが、彼女と過ごす時間は楽しかった。それだけに依頼が終わるとなると寂しい気持ちもある。

 

「そうね。でも、この特別依頼書まだ期限があるから使わせてもらうわ。これが最後の依頼よ」

 

『恋人』としての依頼は終わるが、特別依頼書の効果は一週間あるのだ。追加の依頼があってもおかしくはない。ノエルはどんな依頼をされるのだろうと黙ってクルルシファーを見ていた。

 

「私がいいと言うまで目を閉じていてもらえるかしら?」

 

「そんなことでいいのか?」

 

正直どんな依頼をされるかドキドキしていたが、あまりにも簡単な依頼をされたので、ノエルはクルルシファーに問いかけ、確認する。

 

それくらいのことその依頼書を使わなくとも受けてもいいのに………。一体どういうことだろうか?

 

「ええ、いいの。そうしたらこの依頼書は後でアイリちゃんにでも渡しておくわね」

 

「アイリにそれが渡るのも怖いけどな………。まぁいいや、じゃあ閉じるぞ?」

 

ノエルはクルルシファーに言われた通りに目を閉じる。目の前は真っ暗で何も見えない状態になるが、クルルシファーの息づかいがだんだんと近くで聞こえてきた。それが彼女の顔が自分に接近してきていることを知らせてくる。何をされるのだろう?

 

「もういいわよ。ノエル君」

 

クルルシファーの声が耳元で聞こえてくる。そっとノエルが目を開けると、目の前には綺麗な少女の顔があった。まるでキスでもされそうな距離で―――。

 

 

「私はあなたが好きよ。誰よりもね」

 

 

そう告げるとクルルシファーは白い指先をノエルの頬に這わせる。そしてノエルの唇を塞いできた。

 

甘く、柔らかい感触。

 

自分の顔が赤くなっていくのをノエルは感じていた。

 

「ちょ、クルルシファー!?」

 

クルルシファーがその唇を離すとノエルは困惑したような表情になる。

 

「あなたには何度も救われたわ。そして大切なものにも気づかせて貰えた。あなたが好きというこの気持ちにもね。これはそのお礼。だからもっと受け取って頂戴?」

 

もう一度彼女は唇を合わせてくる。今度は長く、そして深く。

 

そして最後には啄ばむように、数度、軽く口づけをする。

 

離したお互いの唇同士がその余韻を残すかのように糸を引く。

 

 

「………、俺が相手で良かったのかよ」

 

「あなたのことが好きだからいいのよ。婚約の話、考えておいてね? あなたは私にとって大切な人。傍にいて欲しい人なのだから―――」

 

 

 

 




これでクルルシファー編は終了になりますね。

次回は番外編を挿みつつ、ついに本編とも言えるセリス編です!


ちなみに、マンガ版のアイリの水着姿、凄く可愛かったですよね!?(笑


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