第零遺跡の「鍵の管理者」   作:奈々歌

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どうもお久しぶりです。

年末が近づいてくると、どうも忙しくてなかなか時間が取れませんでした_(._.)_

それと縦書き表示にすると、凄い小説っぽくなることに最近気がつきました(笑

では、それでは今回から新章突入!! どうぞ!!

※六月十九日修正完了。


巡り会う二人。取り戻される記憶。
Episode.1 束の間の日常


「―――、ここはこうしたほうがいいわね」

 

決闘が終わり、クルルシファーの婚約についての一件に決着がついたあの夜から数日後。

 

全竜戦への出場選手を決める校内選抜戦まで残り一週間となった学園の授業では、実戦を想定した実技の訓練が多くなる。本日は二年生と一年生の合同訓練。

 

リング状の演習場では多くの女生徒がそれぞれの機竜の纏い、演習に明け暮れていた。内容としては模擬戦をしている生徒達もいれば射撃訓練で的を射ている生徒もいる。

 

その中で青い髪をなびかせる少女、クルルシファーは《ファフニール》ではなく、訓練用の《ワイバーン》を身に纏い、クラスメイトである一人の女生徒に射撃を教えていた。どうやら気になった所があったらしい。

 

以前の彼女からは想像もできなかった光景に女生徒は初め、困惑していたようだったが、優しく的確なクルルシファーの指導を受けている間にそれはどこかへ消えていた。

 

クルルシファーの教え方が上手なのもあるだろう。ものの数分で女生徒は見違えるほど射撃の命中精度や安定性が上がっていた。

 

「あ、ありがとう! クルルシファーさん」

 

女生徒は自身の変化に驚き、嬉しそうに笑みを浮かべながら、クルルシファーに礼を述べる。少女の瞳からは尊敬の眼差しが向けられていた。

 

「この程度の事、礼にはおよばないわ。それじゃあ私は行くわね」

 

そう言い残すと、軽く手を振り、歩いて行くクルルシファー。だが、その少女からの視線が嬉しかったのか。恥ずかしかったのか。少し頬を赤く染めているように見えていた。

 

クルルシファーが休憩に入る為、観客席へと続く通路へ向かうと、途中、先程の様子を見ていた他の女生徒たちから次々と指導を求められる。

 

普段のクルルシファーにしては珍しく、女生徒に囲まれてあたふたと戸惑っている光景は周囲から見ていても微笑ましい。彼女も笑顔だ。あの時とは違う、本物の笑顔。

 

その演習場の賑わいを先に休憩に入っていたノエルとルクスは観客席から見ていた。すると、ルクスがノエルの隣で徐に口を開く。

 

「変わったね、クルルシファーさん。なんか雰囲気が柔らかくなったっていうか―――」

 

「あの決闘以来、あいつを縛っていた物が取れたようだったからな。元々クルルシファーはあんな感じの結構世話焼きで面倒見が良いやつだと俺は思うぞ? 依頼としてだけど『恋人』として一週間一緒に過ごしたからな」

 

クルルシファーは周りの生徒達に自ら関わっていくようになった。

 

この学園に留学して来てから、周囲とは日常生活で必要程度の距離感しか取っていなかった彼女の変わり様は、ノエルにとってもクラスメイト達からしても喜ばしい。

 

私は周りとは『違う』存在。

 

私は『遺跡(ルイン)』の生き残り。

 

私はこの世界の人間ではない。

 

自分はたった一人。

 

そう自分で決めつけてしまい、気が付けなかった周りにいる『仲間』や『家族』という存在。それがきっと彼女の心に変化を齎したのだろう。

 

(良かったな、クルルシファー)

 

女生徒達に囲まれるクルルシファーを見て、ノエルはふっと笑みを浮かべながら呟いた。

 

 

そんなノエルにルクスとは反対側から一人の女生徒が話しかけてくる。

 

「あの、ノ、ノエル君………。少し教えて欲しい所があるんだけど………。いいかな?」

 

声を掛けて来た女生徒は、以前、王都から男性の教官が来た際、悪質な指導で足を痛めてしまった時、ノエルが手当てをした少女。確か使用している機竜はノエルと同じく《ワイバーン》。

 

「ん? ああ、いいぜ。休憩もそろそろ終わるし一緒に行こうか」

 

「今度一緒に練習しよう」と少女には言っていたので、ノエルは快く了承する。ノエルは少女と共に演習場へと向かう為、階段のある通路へと歩きだして行く。

 

「ノエルも人気者だね」

 

指導を頼まれたノエルにルクスが楽しそうにくすくすと笑う。そんなルクスを見たノエルは、視線を促すように一度ルクスの顔へ向けた後、今度は階段の方へと向ける。

 

「お前もだと思うけどな………」

 

ノエルはルクスにそう呟くと、少女と共に歩いて行った。

 

一体何を伝えたかったのかとルクスは小首を傾げながらも、促され、向けた視線の先をよく見る。そして言葉の意味に気が付いた。

 

視線の先にはこちらを窺っているのであろう、大勢の二年生や一年生の女生徒がルクスを覗いていた。ノエルはその女生徒達の横を通る際『何か』を彼女らに囁く素振りをする。

 

ノエルが一体何を伝えたのかルクスまで声は届かなかったが、『何か』を聞いた女生徒達は目を輝かせ、一斉にルクスへと駆け寄って来た。

 

「ちょ、ええっ!? ノエル! 何て言ったらこうなるの!?」

 

「ルクス君が『皆の練習、最後まで全部見るからおいで』って言って―――、ああ。もうあの状態だと聞こえないか」

 

女生徒の波に呑まれていったルクス。

 

それを眺めるノエル。

 

その後、ルクスの悲鳴のような、あるいは救いを求めるような叫び声が聞こえたような気はしたが、歓喜の声に掻き消されていたので気にしないでおこう。

 

 

ノエルは演習場へと降りて行く階段の途中で、クルルシファーとすれ違った。

 

少しばかりか疲れている様子のクルルシファーは、ノエルの姿に気が付くと、軽くウインクをして来たので、ノエルは微笑みで返す。

 

縮まった生徒達との距離。

 

自分を見てくれる仲間達、家族。

 

切望していた関係。

 

あの頃みたいに皆から必要とされたくて、沢山努力をすれば、しただけ離れて行ってしまう。それが怖くて、たまらなくて。皆とは一定の距離を置いていた。

 

でも今は―――。

 

ノエルの瞳に映ったクルルシファーは、とても綺麗で可愛らしくて。それでいて、彼女らしい小さな微笑を浮かべていた。

 

戸惑うほど彼女にとっては初めての経験。疲れを見せるほど慣れていなかった事。勉学、実技、何でも器用にこなしてしまう彼女がだ。

 

でも、楽しそうで。幸せそうで。

 

―――、良かったな。

 

―――、ええ、悪くないわ。

 

声には出してない。視線だけを交わす。それで二人には十分だった。

 

 

演習場に降りると、ノエルは《ワイバーン》を纏う。そして同じく《ワイバーン》を纏う少女と更にもう一人。同じく教官から助けた《ワイアーム》を使用する少女。

 

演習場で少女はノエルを見つけると走り寄って来る。少女からも指導を頼まれ「そういえば」と申し出を思い出す。ノエルは自身の訓練も熟しながら、少女らと共に汗を流していたのだった。

 

 

数時間後。授業の終わりを知らせる鐘が鳴り、生徒の各々が一息ついている頃。

 

ノエルはクルルシファーと観客席に昇り、隣同士で座りながら休憩を取っていた。すると、リーシャが声を掛けながら隣まで歩いて来る。

 

「おいノエル。今日の放課後、私の工房(アトリエ)に来てくれ。クルルシファー、お前もだ。お前達の機竜について話がある。校内選抜戦も近いからな」

 

決闘により損傷してしまった二人の機竜《フェンリル》と《ファフニール》。その修復はリーシャに頼んでいた。クルルシファーの《ファフニール》に比べると、ノエルの《フェンリル》は損傷が激しい。完全な修復には時間が掛かるとの事。

 

この前のような反乱軍の襲撃もあるかも知れない。

 

不測の事態に備え、校内選抜戦で使用する《ファフニール》の修復と《フェンリル》の修復は時間の関係上、並行作業で行われていた。どうやらリーシャだけでは手が足りないのもあり、聞く所によると、ルクスも数度手伝いに呼ばれたらしい。

 

勿論、所有者であるノエルもそれだけの量を任せるのは悪いと修復の手伝いをリーシャに伝えたのだが、「怪我の療養を優先しろ!」と言われてしまい、申し訳はなかったが、彼女に任せていた。

 

まぁ、あれだけ無茶な使い方をしたから、きっと怒られるのだろうなと思いつつ、この間の一時間近い説教を思い出すと、ため息をついたノエルなのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

授業を終え、演習場から出ると、生徒達は装衣から制服へと着替える為、演習場の近くにある控え室を使用する。

 

そして、女生徒達が使用した後、控え室の外で待機していた学園で二人だけの男子生徒、ノエルとルクスが使わせて貰う型を取るようにしていた。

 

ノエル達が使用する際、いつも女生徒達の良い香りが強く残っている。花のような優しく甘い香り。果物のような強く、それでいて爽やかな香り。

 

これは香水と呼ばれる物。割と値が張る物らしく、皆が使用しているのを見ると、如何にも貴族の令嬢が多く通う学園と言った感じだ。

 

用途としては、演習などで汗をかいた時や、出掛ける時の御粧しで多いと聞いた事があるが、普段の学園生活で身に着けている子が殆どだ。全員と言っても過言ではない。

 

すれ違った時。話かけられた時。隣に座った時。少女達からいい香りがしてくると、男としては色々と思うところがある。

 

前にティルファーが言っていたが、男子生徒―――、ノエルにルクスが学園に通うようになって、皆が皆、更に気を遣うようになったとか?

 

 

控え室の扉が開き、シャリスが顔を覗かせると、女生徒の着替えが終わった事を知らせてくれる。ノエルとルクスは制服を持ち、中へと入って行く。

 

控え室の中では、女生徒達の大半が雑談などをしながら残っている。ここは本来女学園。女生徒達は他の女生徒の目をあまり気にせず、仕切り板を使わずに着替える。

 

だが、ノエル達は男子。それに控え室には大勢の女生徒達。仕切り板を使い、着替える事になるのだ。

 

装衣から制服へと着替えたノエルとルクスは、仕切り板を避けると、真ん中に設置されている長机を囲み、談笑している『三和音(トライアド)』や他の女生徒達がいる場所へ歩いて行く。

 

その際、ノエルからカチャリと何かが音を立てて床に落ちた。気が付いたノクトは落ちた『それ』を拾うとノエルへ声を掛ける。

 

「ノエルさん、これ落ちましたよ?」

 

ノクトの手にある『それ』は金色をした小さな首飾り。見た限り傷が多く、かなり前から使用しているように感じられた。

 

「あれ、いつの間に………。ありがとうノクト。それ、大事な物なんだ。普段は落としたりしないんだけどなぁ」

 

ノエルはノクトから首飾りを受け取ると、首に手を回し着け直す。首飾りはノエルの首元に収まると小さくきらりと輝いた。

 

「ペンダントのようですが、いつも身に着けているのですか?」

 

「まぁな。普段はこうして制服の中に隠れているから、見えなかっただけだと思うよ。アイリやルクスは着けている事知っているし。ノクトと買ったあの香水も一緒に着けているぞ?」

 

「い、Yes.それはそれで嬉しい、ですね………」

 

ノクトは頬を微かに染めると少し目線を逸らす。その後、もう一度ノエルの首飾りに視線を戻すとある事に気が付いた。

 

「そのペンダント………。何か彫られているようですね? 誰かの名前に見えますが―――」

 

ノエルの首元で揺れる首飾りの裏面がちらりと見えた。どうやら裏側には誰かの名前のような文字が彫られている。ノクトはそれを見ようと顔を近づけていく。

 

ノエルは裏面をノクトが見やすいように向けてあげると、ノクトは書いている文字を読む。書いてあったのは彼の名前である『ノエル』。それに―――。

 

「俺の名前はこれに書いていたのを使っているだけなんだ。俺が記憶の殆どを無くしているって話しただろ? そんな俺の手元に残っていたのがこの首飾りでさ、この名前に不思議と違和感がなかった。どうしてなのかは分かんないけどな」

 

「そうだったのですか………。ですが、このペンダント。もう一つ、同じように文字が彫られているみたいですね」

 

首飾りには『ノエル』の文字とは別にもう一つ。文字の長さからして誰かの名前のような文字が彫られている。だが傷が多い。刻まれている文字はほとんど読めない。

 

唯一、最初に書かれている文字は読めるようだった。書かれていたのは『S』。これは名前の頭文字なのだろうか?

 

ノクトは疑問に思うとノエルに視線を向ける。視線に気が付いたノエルは「読めないでしょ?」と苦笑いを浮かべていた。

 

「その文字が読めれば、記憶を取り戻す手掛かりになりそうなんだけど、修復とか出来そうな知り合いがいれば良かったな………」

 

ノエルはどこか寂しそうな、残念そうな表情をする。正直、今の所記憶に関しての手掛かりは無きに等しい。

 

以前、ノエルは機竜の整備や開発までもこなしてしまう程の天才的な技術を持つ器用な王女、リーシャならもしかしてと思った事があった。だが、流石に「それは専門外だな」と言われている。

 

「飾り物を手作りしたりとか、女の子らしい事、やったことも少ないんだろうなぁ。この前なんて『ルクスと私は手を繋ぐ仲なんだぞ!』って俺とクルルシファーに自慢してきたし………」

 

「何の話ですか? ノエルさん」

 

ノエルの独り言のような小さな呟きに、ノクトは小首を傾げると、ノエルは微笑みながら「なんでもないよ」と相槌を打つ。

 

寂しさが混じるノエルの微笑みにノクト少し思案顔を見せる。思案顔と言っても普段の物静かな印象を覚える表情とあまり変わらない程の小さな変化なのだが。

 

ノクトは一つ、ある提案をしてきた。

 

「ティルファーでしたら出来るかも知れません。確証は無いのですが………」

 

どうして? と言いたげなノエルに、ノクトは説明をしてくれる。

 

ノクトの話によると、どうやらティルファーの実家であるリルミット家は貴族や新王国の家紋や腕章、襟当てなどの装飾品を製作する店。もちもん首飾りなどのアクセサリーも多く扱っている。

 

つまり彼女、ティルファーは細工師の家柄という事。その本人、ティルファーの趣味もアクセサリーを集めるのではなく、自分でデザインしたり、制作する事なのだそうだ。だが、よく手直しされているらしい―――。

 

「なになにー!? あたしの噂?」

 

ノエルとノクトの会話が耳に入ったのか、ティルファーが笑顔でこちらにやって来た。ノエルは悩む。はたしてティルファーにこの首飾りが直せるのか? ノクトの話を聞く限りだと、たぶん―――。

 

「………、無理だな」

 

「Yes.残念でしたね、ティルファー」

 

「えっ!? いきなり何!?」

 

ノエルの結論を聞いたノクトが憐れむようなジト目でティルファーを見る。いきなりそんなことを言われても分かんないよなと、ノエルは簡潔に事情を説明した。

 

事情を知ったティルファーの答えは案の定「んー、無理だね!」と笑いながらの即答だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本日最後の授業の終わりを知らせる鐘が鳴り、放課後となる。ノエルはリーシャに言われた通り、クルルシファーと工房(アトリエ)へと向かう為、格納庫や演習場が建ち並ぶ石畳の道を歩いて行く。

 

『恋人』の依頼をしていた時の名残なのか、自然に腕を絡ませてくるクルルシファー。それを素直に受け入れていたノエルだったが、少し歩いた後、もう依頼の期間が過ぎていることに気が付く。

 

ノエルはクルルシファーを見ると、視線の意味に気づいているのか、そうでないのか分からないが、悪戯っぽい笑みを向けてくる。

 

それにクルルシファーは、絡ませている腕の力を強くしてくるので、ノエルはぽりぽりと頬を掻きながら、アイリにでも見られたら機嫌悪くされるんだろうなぁ。と思うも、結局は受け入れるのだった。

 

 

「何をしているのですか? ノエル兄さん」

 

「なんでアイリがいるの!?」

 

歩くこと数分。二人は工房(アトリエ)に到着すると、軽くノックをし、扉を開けて、中に入って行く。

 

だが、扉を潜ってすぐの所。今現在、一番出会うと非常に不味い銀髪の少女と目が合ってしまう。そして銀髪の少女、アイリはノエルとクルルシファーの腕を絡めた姿を見ると、満面の笑みになっていた。

 

(目が笑ってないですよ、アイリさん………)

 

「ん? おお、来たかノエル。それとクルルシファー」

 

そんなアイリを前に、動けないでいたノエルへリーシャが、小柄な身の丈に合わない作業用の白いガウンを羽織った格好で出迎え、声を掛けてくる。

 

前に工房(アトリエ)を訪れた時、リーシャのこの格好を見たことがあるが、相変わらずガウンの裾が床を滑っているようだった。

 

「悪いな。少し遅くなった」

 

声を掛けて貰えたことで、アイリの注意が逸れた隙にノエルは膠着状態から脱する。心の中で感謝しておこう。声に出したら、更に機嫌を損ねてしまう気がする。

 

「あれ? 皆も来ていたんだな」

 

ノエルが工房(アトリエ)内を見回すと、機竜の整備や修理に使いそうな道具を運んでいるルクス。紅茶を淹れているノクト。椅子に座ってもぐもぐとお菓子を頬張るフィルフィの姿があった。

 

「うん。リーシャ様の手伝いでね、フィルフィは付き添いで来ちゃったみたいでさ………」

 

ははっとルクスは苦笑する。

 

ルクスは昔からフィルフィには弱いからな、と思うノエルだったが、そもそもルクスは女の子に対して全般的に弱かったな、と思い直す。そしてルクスの説明から考えると、ノクトはアイリの付き添いといった所だろうか?

 

「じゃ、じゃあ。アイリさんは機竜の解析で来たのでしょうか?」

 

ノエルは恐る恐るゆっくりと振り向き、未だに笑顔を浮かべるアイリに尋ねる。

 

「そうですね。ノエル兄さんが貴重な神装機竜を無茶な使い方で扱うものですから、もう一度、出力解析をしておいて、今回のような戦闘での情報を把握していないと不安になりますので」

 

意外にもアイリはすぐに普段通りの澄ました表情に戻っていた。そして手に持っている紙にペンを走らせている。

 

機嫌を直してくれたのだろうか? いや、たぶん呆れられただけなのだろう。

 

「すいません、アイリさん。でも、仕方なかったんですよ………」

 

アイリにはっきりと言われてしまい、ノエルは項垂れてしまう。

 

彼女―――、クルルシファーを救うため『禁忌の力』を酷使した結果、かなり無茶な機竜の扱いをする事になってしまった。その代償についてはノエル自身、理解しているし、反省もしている。

 

「はぁ………。大丈夫ですよ、ノエル兄さんもクルルシファーさんも苦戦したのは分かっていますから」

 

小さく息をついた後、アイリは手元にある紙を数枚手渡して来た。その書類には《アジ・ダハーカ》についての解析結果が記されており、特殊武装、神装といった情報まで記載されているようだ。

 

どうやら、あの決闘の場から《アジ・ダハーカ》に対応する機攻殻剣(ソード・デバイス)を回収していたらしい。だが、奪った《フェンリル》の神装の負荷に耐えられず、それに加え、ノエルが放った『禁忌の力』の損傷で、もう修復が出来ない程、大破しているとのこと。

 

「《千の魔術(アヴェスタ)》と言ったか、あれはいい研究材料になる神装だ」

 

リーシャの言葉を聞き、ノエルは渡された書類に目を通していく。すると、その神装《千の魔術(アヴェスタ)》についての記載を見つける。

 

 

千の魔術(アヴェスタ)》―――、周囲の機竜からエネルギーを奪い、更には接触した機竜からは特殊武装や神装までも、一時的に奪うことが出来る。

 

 

だが、ここに書かれている限りではその容量に限界があるらしく、一度に多くの能力を使用すると、その一つ一つの精度が落ちるのが欠点。

 

周囲の機竜からエネルギーを奪えるということは、アルテリーゼのあの疲れようにも納得がいく。バルゼリットはアルテリーゼの機竜《エクス・ワイアーム》からもエネルギーを奪っていたのだろう。《フェンリル》や《ファフニール》からも。

 

適正の低いはずの男であるバルゼリットが長時間戦えたこと。クルルシファーほどの使い手があれだけ追い詰められたこと。あれだけ多くの武装が、使用可能だったことも理解出来た。

 

解析資料を読み終えたノエルは、隣にいるクルルシファーに資料を渡す。彼女もその資料に目を通した後、戦闘中に感じた違和感や異変に納得がいったようで、小さく頷いていた。

 

「ところでノエル。お前に聞きたいことがあるんだが………。どうしたらこんな壊れ方をするんだ? それにお前の体だって、傷だらけだし―――」

 

リーシャは《フェンリル》の状態と、ノエルの体に巻かれている包帯を交互に見る。

 

細かい部分の修理や、調整は既に終わっているとの事だが、《フェンリル》の両腕には、肩の辺りまで縦に亀裂が大きく入ったままだ。この部分の修復にはやはり時間が掛かる。

 

でも、半壊に近い損傷があった《フェンリル》をこの数日で、ここまで修復している時点、流石はリーシャ様だなとノエルは思う。

 

リーシャの疑問にノエルは答える。

 

「ああ、それは『強制超過(リコイルバースト)』の影響ですよ」

 

「ん? なんだ、その………、『強制超過(リコイルバースト)』というのは?」

 

「『強制超過(リコイルバースト)』―――、三大奥義の一つで、自身の機竜を意図的に暴走させ、自壊寸前の負荷と引き換えに放つ絶技。『神速制御(クイックドロウ)』とは逆の操作を行い、肉体操作による全力の行動を精神操作で抑えることにより、本来の数十倍の威力を持つ一撃を放つことが出来るというものです。一歩でも操作を間違えれば、自分や周囲の人に命の危険がおよぶ『禁忌の技』ですけどね」

 

ノエルが一通り、説明を終えると、アイリが持っていた紙類を机に置く。そして、ノエルの説明に言い添えるよう、口を開き、補足してきた。

 

「そして、その『強制超過(リコイルバースト)』の応用技が、ノエル兄さんの怪我の理由となる『強制加速(リコイルブースト)』です。本来、攻撃に回すはずの力を全て推進力に変え、機竜の限界を超えた速度を無理矢理引き出す技術。いくら障壁を展開していても、あれだけの力ですから、操縦者の体は普通耐えられません。しかもノエル兄さんは更にその限界を超えるまで速度を出したがるお馬鹿さんですから、障壁なんて展開しませんので、こんなにも傷だらけになっているという事です。寧ろ、これだけで済んでいるのが異常です。一体、ノエル兄さんの体はどうなっているんですか?」

 

補足後、未だ包帯が巻かれているノエルの腕を、その小さな手で叩く。もうあまり痛まないのだが、仕草が可愛らしかったので、ノエルは腕を摩り、痛いふりをする。

 

二人の話を聞いたリーシャは口元に手を当て、考え込む。

 

「そんな使い方をしていたのか………。道理で今まで見た事のない損傷痕だと思ったぞ。でもまぁ、安心しろ《フェンリル》も《ファフニール》も校内選抜戦にまでは間に合うからな。特にノエル、ルクスには既に話したが、お前も私の最強の部隊には欠かせない存在なんだから、勝ち残ってもらわないと困るぞ?」

 

「選抜戦かぁ………。頑張んなきゃダメ?」

 

「あたりまえだろ!」

 

「ええ、かったるいなぁ………」

 

面倒くさそうに顔を背けるノエルにリーシャは一喝するのであった。

 

 

それから暫く工房(アトリエ)で時間を過ごしていると、日も傾き、辺りが薄暗くなってきた。今日はもうそれぞれ女子寮に戻ろうという話になり、ルクスとフィルフィ。アイリとノクトが工房(アトリエ)を後にして行く。

 

リーシャは本日も徹夜の為、このまま工房(アトリエ)に残ると言うので、ノエルはクルルシファーと帰ろうと扉に手を掛ける。

 

その時、何かを思い出したリーシャにノエルは呼び止められた。

 

「ああ、そうだノエル。お前に宛てて、母から書簡を預かっていたのを忘れていたぞ」

 

リーシャは書類やら設計図やら紙の山で埋め尽くされている作業机から、ごそごそと手探りで探し始める。奥底から見つけたようで「ああ、これだ」と一枚の書簡を取り出した。

 

片づけても掃除に一日来ないだけで元に戻るのだと、ルクスから聞いた事があったのを思い出す。

 

ノエルはリーシャから書簡を受け取ると、心当たりがある為、たぶん呼び出しなんだろうなぁ、と苦笑いになるのであった。

 




お気に入り220人到達! 感激です!

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