第零遺跡の「鍵の管理者」   作:奈々歌

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お久しぶりです。奈々歌です。

活動報告の方で連休もあるから今年中に二話更新すると書きましたが、緊急の仕事で休みが吹き飛んだので今年の更新はこれが最後となります(._.)

それと明日ですが、新年のあいさつを書いた活動報告を日付が変わった頃にあげます。そこにそこそこ重要な連絡も載せるので読んで頂けると幸いです!


それではどうぞ!

※六月二十五日。修正終了。


Episode.2 すれ違う運命。儚い希望

 

「という訳で、暫く王都に行って参ります」

 

次の日。

 

まだ日が昇って間もない早朝。女子寮を出たノエルは、学園の正門で馬車を待っていた。

 

彼の見送りには、アイリにルクス、それにノクト。更にはクルルシファーやフィルフィまでもが来てくれた。

 

中でもフィルフィは眠たそうに、うつらうつらと枕を抱き締め、うたた寝をしているようだったが、それでもよく来てくれたなとノエルは思う。

 

昨晩。帰り際に工房(アトリエ)でリーシャから渡された書簡には、ノエルが予想した通りの内容が記されていた。

 

女王陛下より「王都へ一度来て欲しい」とのこと。

 

最初は久々に『仕事』の依頼かと思ったのだが、多分、今回は―――。

 

(バルゼリットとの一件と『終焉神獣(ラグナレク)』のことだよなぁ………)

 

この世界に姿を現した旧時代の建造物『遺跡(ルイン)』。

 

現在、七つの存在が確認されている『遺跡(ルイン)』には、その一つ一つに一体だけ眠っているとされる『遺跡(ルイン)』深層への侵入を阻む門番がいる。

 

伝説級の『幻神獣(アビス)』とされる『終焉神獣(ラグナレク)』。

 

旧帝国時代。軍が強引な『遺跡(ルイン)』を行った際、その内の一匹が目覚め、世界へと解き放たれてしまった。自国の領地内にある町や村をいくつか滅ぼし、他国でもその猛威を振るい、小国を滅ぼしたとさえ言われている。

 

甚大な被害を出した『終焉神獣《ラグナレク》』。アーカディア帝国は帝国支持派だった各国の協力を得て、甚大な被害を出しながらも、その討伐に成功。

 

―――、当時はそう思われていた。

 

終焉神獣(ラグナレク)』は討伐が完了されている。それは旧帝国の執政官たちにより、偽られた情報だった。

 

五年前。旧帝国に起きた『革命』の時、他国へと逃げ延びた執政官の一人が『|終焉神獣』に関する資料を流出。それがヘイブルグ共和国へと渡った。

 

ヘイブルグ共和国外洋。リドネス海沿岸にて討伐されたとされる『終焉神獣(ラグナレク)』は石化しており、一時的に休眠しているだけなのだと。

 

その石化が解け始めていると、ヘイブルグ共和国からアティスマータ新王国へ書簡が送られてきた。旧帝国が各地に出した甚大な被害。書簡の内容は、ヘイブルグ共和国が旧帝国の滅びた今、新王国へと責任を追及し、『終焉神獣(ラグナレク)』の討伐を求めるという内容。

 

新王国では至急に会議が行われた。

 

その場で『終焉神獣(ラグナレク)』の討伐に、名乗りを上げたのはクロイツァー家。女王陛下の承諾を受け、討伐部隊長としての使命を与えられる予定だったクロイツァー家の嫡男、バルゼリット・クロイツァー。

 

ノエルはクルルシファーを巡る決闘の末に、バルゼリットを討ち破った。

 

更には、バルゼリットの企てていた謀略をも暴き、彼を牢へ投獄。クロイツァー家は四大貴族から失脚した。

 

現在王都では『終焉神獣(ラグナレク)』の討伐部隊再編成の軍議が連日行われているそうだ。その話は新王国軍の副司令官を父に持つシャリスや、新王国の姫であるリーシャから既に聞いている。

 

そうなると、今回の招集はその部隊への参加か、あるいは部隊長任命か?

 

確かにこの件に関しての原因と責任は自分にある。だが、『終焉神獣(ラグナレク)』は並みの機竜使い、汎用機竜で部隊長が務まる相手ではない。

 

部隊長には神装機竜を扱える程の実力を持つ機竜使いが選ばれるはずだ。

 

ノエルが神装機竜を扱える事を知っており、尚且つ部隊再編の軍議に参加出来る人物となると限られてくる。その少数の人物の内、誰かがノエルを部隊長に推薦する。あるいは軍議の場で名を出すとは考えられない。

 

『革命』を起こした二人の『英雄』―――、『黒き英雄』と『銀色の狩人』。

 

ノエルが《フェンリル》を使い『終焉神獣(ラグナレク)』の討伐部隊長の任を果たしたとしても、それは自分の正体を明かすも同然の行為だ。

 

二体の『英雄』の一方を知っているとなれば、下手をすると、もう一体の『英雄』であるルクスの事に感づかれるかも知れない。それだけは新王国として避けたいことだ。

 

アーカディア帝国の元王子であるルクスが『黒き英雄』だと知られてしまえば、五年前のクーデター。『革命』が覇権争いの一端となってしまう。

 

それが国民、貴族へと認識されてしまうと、新王国としての求心力が弱まってしまう可能性が出てくる。

 

その部分を考慮すると『終焉神獣(ラグナレク)』討伐の件では、汎用機竜を使用した討伐部隊参加が限界となるだろう。まぁ、まだ決まった訳ではないが―――。

 

もしかしたら本当に『仕事』を頼まれる可能性だって十分にある。

 

 

(後はこの件で女王陛下や宰相に絞られるくらいか………。かったるいなぁ)

 

ノエルは段々と気が重くなってくるのを感じていると、いつの間にか傍に立っていたアイリが声を掛けてきた。

 

「気を付けてくださいね、ノエル兄さん。今は《ワイバーン》しか持っていないんですから。いつもいつもノエル兄さんは私の見てない所でばかり、後先考えない無茶なことをしますから………。この間だって―――」

 

「ほいほい、小言を言われなくても分かっているよ、アイリ。そんなに心配しなくても今回は『仕事』だとしても戦闘は無いだろうし、もしあったとしても、今まで《ワイバーン》だけでどうにかなってきたからさ。よほどの事が起きない限りは大丈夫だよ」

 

最初は心配してくれているのかと思い、聞いていたノエルだったが、次第に説教へと発展しそうな雰囲気を持つ小言が増えてきたので、話を遮るように口を開いた。

 

同時に安心させるようアイリの頭を優しく撫でる。これが最善の対処方法。

 

アイリはノエルの手を避けることなく、なされるがままでいたが、自分の話が遮られたことで少し不服そうに頬を膨らませていた。

 

アイリの言う通り《フェンリル》の修復状況の進み具合を見ると、受け取れるのは王都から帰還してからになるだろう。

 

その証拠に、今この場にリーシャの姿がないのはルクス曰く、昨日徹夜して修復に当たっていたので工房(アトリエ)で寝ているとのこと。授業が始まるまでには起こすらしい。

 

その為、現在ノエルの腰に携えてあるのは汎用機竜である《ワイバーン》に対応した白い機攻殻剣(ソード・デバイス)のみとなっている。

 

ノエルはアイリを宥めていると、二人を見ていた青髪の少女、クルルシファーが申し訳なさそうな、悲しそうな表情をしているのに気が付く。

 

「………、ごめんなさいノエル君。今回の招集はあの一件が一番の問題なのよね? やっぱり私も一緒に行くわ。他人事ではないし」

 

「俺はお前を助けたくて戦ったんだ。それに、この件でお前が悪い所なんて無いんだから謝んなくていいぞ。………、まぁ、強いて言うなら、黙って決闘に行ったことかな? 大丈夫、俺がちゃんと話をつけてくるよ。だからそんな悲しい顔じゃなくて、笑顔で見送って頂戴? そしたら頑張れるからさ。ほらっ」

 

ノエルはクルルシファーの両頬に手を当てる。そして親指で頬を優しく触り、口角を上げて笑顔を作らせた。

 

その行動には流石のクルルシファーも驚いていたようだが、次の瞬間には目を細め、くすりと微笑む。

 

ノエルも彼女の微笑みを見ることが出来て安心したのか、自身も微笑んでいた。

 

「ふふっ。ありがとうノエル君。………、でも、あなたが学園にいないとなると、短い間でも寂しいわ。だから―――」

 

クルルシファーは自分の頬に触れているノエルの両手に、自分の手をそっと添えると、柔らかく握る。彼女は頬を薄く染めていた。

 

その様子にノエルは小首を傾げていると、クルルシファーは甘い声でノエルだけに聞こえるよう呟く。

 

「あなたの温もり。少しの間、こうして感じさせてくれるかしら?」

 

「………? ああ、いいけど?」

 

「………、ノエル君もルクス君に負けないくらい、鈍感よね」

 

「えっ、なんで!?」

 

「まぁ、それでもいいわ。―――、そんな所も含めて私はあなたのことを好きになってしまったのだから」

 

疑問が増えるノエル。

 

ただそれは、言葉の間が空いた後、独り言のように小さくなってしまった呟きが、ノエルの耳に届かなかったからなのかも知れない。

 

甘い一時が二人の間に流れていく中、馬車が学園の校門へと到着した。

 

「悪いな、クルルシファー。時間みたいだ」

 

馬車の到着に気が付いたノエルは、一言を添え、クルルシファーの両手を頬からゆっくりと離す。

 

必要最低限の荷物を詰めた鞄を担ぐと、未だにルクスの傍らで眠気に誘われているフィルフィの所まで歩み寄って行った。

 

ノエルは少し屈み、目線を合わせると、目の前で起きてるか確認するように手を振る。

 

「おーい、フィー? 起きてるか?」

 

「うん、起きてる、よ? ………、すうすう」

 

そうは言っているが、瞼を閉じたままだし、心なしか寝息も聞こえてくるような気がする。

 

「本当かよ」と苦笑いを浮かべながらノエルは一度息をつくと、気を取り直して再び声を掛けた。

 

「全く、フィーらしいな。まぁいいや。俺、ちょっと王都まで出掛けてくるからな?」

 

「気を付けて、ね? ノエルちゃん」

 

「あいよ。なるべく早く帰ってくるからな」

 

薄っすらとではあったが、フィルフィが瞳を開けて返してくれた。それを見たノエルは優しく頭を撫でる。すると、気持ちよさそうにフィルフィは再び目を瞑っていた。

 

「ルクス、学園のことは頼むよ? それと来週からの校内選抜。俺の試合日程を調整してくれると嬉しいかな。ちゃんと出場しないとリーシャ様が喚くだろうし、そうなると凄くかったるい………」

 

「う、うん。任せといて」

 

ノエルが本当に面倒といった表情で隣にいるルクスへと頼んでくる。

 

ルクスも『騎士団(シヴァレス)』の入団試験での事を思い出したようで、ははっと苦笑いで答えた。

 

ノエルの話では校内選抜の期間中には学園へ戻ってこられるらしい。日程の調整をしっかりしようと思うルクス。

 

フィルフィから手を離し、ノエルは馬車の方へと向き直った。

 

そして馬車へと歩いて行きながら、何故か不機嫌なご様子のアイリの傍で、物静かに立っているノクトにも声を掛ける。

 

「留守の間、アイリのこと頼んだよ。ノクト」

 

「Yes.お任せ下さい。ですが、ノエルさんがいないとアイリは機嫌が悪くなりますので、なるべく早めに帰って来て頂けると助かります。でないと、八つ当たりの小言責めでルクスさんの精神が持たなくなってしますから。アイリは先程、ああ言っておりましたが、本当のところは『凄く寂しいです。ノエル兄さん』と言いたかっただけなので―――」

 

「ちょっとノクト!? 勝手な意訳はしないで下さいって毎回言っているじゃないですか!」

 

アイリがノクトの発言で、むくれていた表情を一転させ、頬を赤らめる。

 

「相変わらずだなアイリは。まぁそんなところが可愛いんだけどな」

 

「もう! ノエル兄さんまで!」

 

次第に頬を膨らませ、不機嫌に戻っていくアイリ。ノクトは距離を取り、ルクスの背後に隠れ、ノエルは逃げるように馬車へと速足で歩いて行った。

 

「んじゃ、行ってくるからなー」

 

ノエルは皆に手を上げながら、馬車の中へと姿を消す。乗り込んだ扉が閉まると、馬車は動き出し、王都方面へと続く四番街区へと向かったのだった。

 

 

ルクス達は、馬車が見えなくなるまで見送った後、それぞれ女子寮へと戻って行く。そんな中、一人だけ、アイリは寂し気な表情で馬車が向かった先へ振り返っていた。

 

「早く帰ってきてくださいね、ノエル兄さん。本当に寂しいんですから………」

 

言えなかった本音。素直になれない自分。

 

でも、きっと―――。

 

「ノエル兄さんなら、私が言葉にしなくても、分かってしまっているんでしょうね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ノエルが学園を出発してから数時間後。

 

ノエルを乗せた馬車とは違う、もう一台の馬車が学園へと向かっていた。馬車の中には少女が一人。一通の手紙を読みながら揺られている。

 

手紙に記されているのは、少女が学園を留守にしていた間の出来事。

 

幻神獣(アビス)』の襲撃。反乱軍の侵攻阻止。『箱庭(ガーデン)』の調査。書かれている内容からして『騎士団(シヴァレス)』の誰かが書いたものだろう。

 

少女は一通り読み終え、その手紙を一旦膝の上に置くと、馬車の窓から見える城塞都市を眺め始める。すると、誰かに語るかのように口を開いた。

 

「ノエル………。やはり『あなた』は私の探している『あなた』なのでしょうか………」

 

あれから王都を探し回ったが、結局目的の人物を見つけることは出来なかった。直接姿を見た訳ではない。助けられた女生徒達からその容姿と特徴を聞いただけなのに―――。

 

(この胸騒ぎはなんでしょうか?)

 

もし探している人物が本当に『あなた』なのだとしたら、あの日言えなかった言葉を伝えたい。そして叶うなら『あなた』の声をもう一度聞きたい。

 

手紙には学園への編入生についての名も、功績も書かれている。

 

学園へ侵入した二体の『幻神獣(アビス)』を各個撃破。反乱軍侵攻時では、リーズシャルテ率いる『騎士団(シヴァレス)』と協力し撃破。第六遺跡(ルイン)箱庭(ガーデン)』の調査の同行、中型『幻神獣(アビス)』の撃破。

 

その編入生の名は、旧帝国元第七皇子ルクス・アーカディア。アティスマータ新王国、女王陛下による推薦、ノエル・アルオリス。

 

少女は手紙に視線を落とすと、編入生であるノエルの名を、そっと人差し指でなぞった。

 

「もう、諦めていたはずなのですが………。まだ私は希望を抱いていてもいいのでしょうか―――」

 

少女は名残惜しそうに手紙を折り、隣に置いてある荷物の中へと仕舞う。丁度その瞬間、少女が窓から視線を外すと、『誰か』の人影が、窓から見える馬車が横を通り過ぎて行く。

 

二人の運命は交わらない。

 

それは偶然なのか、それとも―――。

 

少女を乗せた馬車は夜も更けた頃、王立士官学園に到着する。そして星の見えない夜空で覆われた暗闇の下。女生徒の格好をした一人の生徒に出会うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ………、どうしてこんなことに………」

 

ノエルが学園を出発した日の夜。おどおどとした女生徒が一人、学園内を歩いていた。

 

既に夜もかなり更けており、女生徒が歩いている石畳の道も女子寮から漏れている明かりで、淡く照らされているだけ。その為、周囲は見えるのだが、木々の多い茂みなどはあまりよく見えない。

 

「………、もう少し注意深く見て歩こうかな」

 

そんなことを呟いていると、不意に後ろから声を掛けられる。

 

「おい、そこの生徒。こんな時間に何をしている」

 

突然声を掛けられ、女生徒は驚きで肩を震わせていた。だが、聞き覚えのある声だと気が付くと、振り返りながら声の主である人物の名前を口にする。

 

「あ、ライグリィ教官。えっと―――、今は『三和音(トライアド)』の皆さんに協力していて見回りを………」

 

声を掛けてきたのはルクスやノエルのクラスを担当している女教官、ライグリィ・バルハート。

 

ライグリィは旧帝国時代、唯一の女性機竜使いとして活躍し、クーデターの際にも新王国側について女性のために戦った。その過去もあり、この学園での女生徒たちから絶大な人気を誇っている。

 

士官学園は、この時間ともなると正門と裏門を含め、外部から学園に通じる門は全て閉じられ、学園の敷地内は衛兵たちにより、厳重に警備される。

 

慣れてくると忘れがちになるが、本来ここは女学園。年頃の少女達を目当てに、覗きなどを目的として、侵入を試みる輩が決していない訳ではない。

 

特に最近は不審者が連夜目撃されていることもあり、警備の衛兵たちや、普段から自主的に見回りに参加している『三和音(トライアド)』でも目の届かない場所を補うため、『騎士団(シヴァレス)』の中などから実力者が数名、『三和音(トライアド)』の実質的なリーダーであるシャリスに頼まれ、日替わりで見回りに協力していた。

 

自分もその内の一人であると説明する。ライグリィは説明を聞き、納得したように頷いているようだが―――。

 

「そうか。なら気を付けるんだぞ? 最近は不審者が出るらしいからな。一応私もこうして見回っているから何かあったら知らせてくれ」

 

学園の教官として見回りは日課となっているのだろう。確かにライグリィが学園の見回りをしているとなると、女生徒たちも安心できるというものだ。

 

「は、はい。わかりました」

 

そう言った後、女生徒は軽く礼をする。

 

「じゃあ私は見回りに戻る。………、それにしても見ない顔だな? ネクタイの色からして二学年のようだが―――、編入生か?」

 

ライグリィは立ち去ろうと踵を返した所で、女生徒に何か気になったことがあったのか、こちらに再び向き直ると尋ねてきた。

 

女生徒は栗色の長髪をしており、首にはマフラーを巻いている。ライグリィはこの学園でそんな格好をしている生徒を見たことがなかった。どこか疑っているよう。

 

ライグリィからの質問に女生徒は冷や汗をかく。不味いことを聞かれたかのように。

 

「ッ!? そ、その―――、レリィ学園長に入学を進められまして、つい最近………。まだ授業には出ていないので顔を合わせたことがないだけかと………」

 

女生徒は苦し紛れに近いような言い訳をする。でも、本当に編入生だとしたら、一番怪しまれないような言い訳になるのだろうと思う。

 

「………、そうか。なら授業でまた顔を合わせることもあるだろう。その時は厳しくいくからな?」

 

「は、はい。よろしくお願いします!」

 

ライグリィは女生徒の返事を聞いた後、今度こそ、女子寮がある方へと歩いて行った。姿が暗闇に消えるのを確認すると、女生徒は安堵の息を漏らす。

 

それからというもの、見回りを続けていると、数人の女生徒とすれ違った。

 

だが、誰も分からないのか、クラスメイトとして普段から教室で顔を合わせている生徒にも出会ったが、正体に気が付かない。

 

「なんで、どうして誰も気が付かないんだよっ!?」

 

女生徒は一人叫びながら、被っている栗色の長髪のウィッグを掴み取った。すると、その下からは見覚えのある銀色の髪が露わになる。

 

女生徒の正体―――。それは女装した男子生徒であるルクス。

 

ルクスは自分の手にあるヴィッグを見ながらため息をつく。

 

「僕ってそんなに女顔なのかな………。ていうか、この格好をする意味って本当にあったの?」

 

自分があまり大人っぽい顔つきでないことは分かっている。それに気にもしていることだ。でも、まさかここまで女装が似合うほどとまでは思っていなかったし、思いたくもなかった。

 

控え室で今着ている女子の制服に着替えて、鏡に自分の姿を映すと、そこには完全に女生徒になっている自分がいた。自分でも判別出来ないほどの。

 

そんな格好をしていて、しかも辺りはこの暗がりだ。それも相まってか、気が付かれないのかも知れない。いや、寧ろもうここまできたら、気が付かないでいて欲しい。

 

男として女装に気づいて欲しいという事と、バレて女装していたことを学園の皆に知られたくないという複雑な気持ちを抱えながら、ルクスはヴィッグを被り直し、見回りを再開していく。

 

どうしてこうなったのかというと、事の経緯は今から数時間前に遡ることになる―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

事の発端は依頼があるとして『三和音(トライアド)』の三人組に放課後、演習場の近くにある控え室へと呼ばれたのが始まりだった。

 

なぜそんな場所に呼ばれたのか?

 

最初は疑問に思っていたルクスだったが、学園の校舎からここまで離れるということは、何か他耳をはばかるような内容の依頼なのだろうと考える。

 

そしてルクスは控え室の中で『三和音(トライアド)』の三人組。シャリス、ティルファー、ノクトと向かい合うように椅子に座ると、今回の依頼内容を聞かされる。その依頼は―――。

 

「学園の見回り―――、ですか?」

 

ルクスが聞き返すと、依頼の内容を伝えたシャリスが頷く。

 

「どうかな? 引き受けてもらえないだろうか、ルクス君。ここ最近、夜になると不審な人物の目撃情報が数件あってね。我々『三和音(トライアド)』も自主的に警備の衛兵たちと協力して見回りをしているのだが、少々人手不足だと感じるのだよ」

 

「そーそー。私たちだけじゃ目の届かない所もあるし。本当はノエルっちにも依頼したかったんだけど、王都に行っちゃったからねー。あとルクっちは男の子だしさ」

 

「Yes.いくら私たちが武官の候補生で、武術の心得があるとしても、もし手練れの不審者と対峙することになった場合は男手があると助かります」

 

機竜を扱えるといっても彼女たちは女の子だ。ただでさえ、夜の見回りという危険が伴う行為を自ら率先して行っている三人へ協力することにルクスは迷うことはない。

 

「分かりました。僕でよろしければお受けします」

 

「さすがルクス君だ。頼りになるよ」

 

シャリスはルクスが快く依頼を受けてくれたことで礼をすると、ティルファーも笑顔を見せ、ノクトもぺこりと軽く頭を下げていた。

 

ルクスは学園に編入してから『咎人』として国民の雑用を引き受けるという義務を学園の生徒達や、学園の関係者などの依頼をこなすという形に変え、継続している。

 

以前、ティルファーが作ってくれた依頼箱に溜まる依頼書の数々には、勿論まともな依頼書も入っているのだが、その大半は学園の関係者。

 

肝心な部分である女生徒達からの依頼書には変な内容の依頼ばかりなので、ルクス自身、正直困っていた。

 

今回は『三和音(トライアド)』からの依頼ということで、本当は怪しんでいたルクスだったが、それは内緒にしておこうと心の中で思う。『三和音(トライアド)』の話を聞く限り、まともな内容の依頼だったことでルクスは安心していた。

 

そんなルクスを余所にして、シャリスは座っていた椅子から立ち上がると、控え室の奥から一つの鞄を手に取り、三人の前に持ってくる。

 

「では、見回りに行く前に、ルクス君にはこの中に入っている作戦に必要な装備を身に着けてもらう」

 

そう言ってシャリスは、手に持っている鞄をルクスに見せるように差し出す。

 

「えっ? この制服のままじゃダメなんですか?」

 

見回りの依頼に何か特別な装備なんてあっただろうか? ルクスがそう首を傾げていると、ティルファーが口を開く。

 

「んー。制服って言えば制服なんだけど―――、こっちの制服に着替えて頂戴?」

 

ティルファーが両手をルクスの視線を促すかのように鞄に向ける。そしてシャリスがその鞄を開けると、そこに入っていたのは―――。

 

「えっ………、これって、女子の制服じゃ………」

 

手入れが綺麗に行き届いた制服。スカートにブラウス。それと高そうな栗色のヴィック。

 

誰がどう見てもこの学園の女生徒が着用している制服だった。何故それに着替える必要があるのだろうか?

 

ルクスが思案顔をしていると、ティルファーが制服を手に取る。

 

「大丈夫、大丈夫。学園長にお願いして特別に作って貰ったやつだから、気兼ねなく着ていいからね? というか、もうあげるから」

 

「僕、男だよっ!? いらないから!」

 

女装する意味が分からないでいるルクスに、シャリスが真剣な表情でその意味を説明し始める。

 

「ルクス君、これは立派な囮作戦なんだ。君にはそれを着て貰い、か弱い女生徒のふりを演じてもらう。するとどうだ? 不審者は君を女の子だと思い、警戒せず、男である君に近づくだろう。そして、そこを捕まえるという作戦なんだ!」

 

「で、でも、女装なんて………」

 

シャリスの力説にたじたじになるルクス。だが、その肩をシャリスはしっかりと掴む。

 

「分かってくれルクス君。これも私たち………ふふっ、いや! 学園の皆の為なんだ!」

 

「………。はぁ、分かりましたよ………」

 

途中で少し笑みがこぼれていたような気はしたが、あまりの押しの強さに負けたルクスは渋々ながら了承する。

 

「ふふふっ………。じゃあお着替えの時間といこうか!」

 

ルクスが首肯したことで、シャリスは不敵な笑みを浮かべると、先程までの真面目な雰囲気はどこにいったのか、完全に普段ルクスをからかう時のものに変わり、服を脱がせようと迫ってくる。

 

その影ではティルファーとノクトが香水やら櫛など、化粧道具を用意し始めていたのが視界に入った。

 

「じ、自分でなんとかして着てみますから! ノクトもティルファーも、それはいらない!」

 

不味いと感じたルクスは、女子用の制服とヴィックを抱えて控え室にある仕切り板の奥へと逃げていく。そしてカーテンを閉めると一人で着替え始めた。

 

数分後。仕切り板からカーテンを開け、一人の女生徒が姿を現す。

 

「う、うわぁ………。悔しいけど、私より可愛いかも………」

 

「い、Yes.正直言って、ここまでとは思いませんでした」

 

「さ、流石だ、ルクス君。これで作戦は完璧だな」

 

そこには栗色の髪をした少女。細身な体格なのもあり、制服に違和感がない。首にある『咎人』の証、黒い首輪を隠すためにはマフラーを巻いていた。

 

完全に女生徒と化したルクスは、自分の姿を鏡で確認し、驚きのあまり固まる。それでも何とか一言だけ、言葉を絞り出していた。

 

「あの、やっぱり僕帰ってもいいですか………」

 

その時、ルクスが泣きそうになっていたことは言うまでもない。

 

斯くして、ルクスは女生徒の格好をし、学園の見回りに参加することになるのだった。

 





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