奈々歌です。
GWということもあり(休みがあるとは言ってない)皆さんが憂鬱になっているであろう、月曜日の朝までにはもう一話更新したいと思っておりますので、頑張らせて頂きます(笑
それではどうぞ!
校舎の廊下を少女が駆けている。
すれ違った教官から「走るな」と怒られるが、聞く耳を持たない様子で上階へと続く階段を駆け上がって行く。
黒のリボンで結われた金色の髪をなびかせ、少女は息を荒げながらも学園長室へといち早く到着していた。
そこにはどこから噂を聞きつけて来たのか、大勢の女生徒達が集まり、扉の前はごった返している様子。少女は人混みの中をかき分けて行くと扉の前に立った。すると、勢いよく扉を開け放ち―――。
「おい、学園長! まさかルクス達の退校を認めるわけはないだろうな!」
金髪の少女、リーズシャルテの大声に学園長室にいた二人が視線を向けて来る。
理事長の席に座っているレリィ・アイングラムと大机を挟み、『
セリスティアは翡翠色の瞳でリーシャに鋭く視線を向けている。そしてレリィ口論していたのであろう、体をレリィの方からリーシャへと向き直らせると口を開く。
「来ましたね、リーズシャルテ。私が学園を留守にしている間にあなたが勝手に男子生徒の編入を認めたというのは本当でしょうか?」
「確かにルクスの整備士としてこの学園で働くという雑用を解約させ、この学園の生徒として通うように頼んだのは私だ。だが、手続きは正式に通っている。お前にとやかく言われる筋合いはないぞ」
セリスティアが向けてくる威圧とも言える雰囲気に臆することなく、リーシャは真紅の瞳で睨み返すようにしながら答えた。
少しの間二人の間に沈黙の時間が流れる。まるでお互いを視線で牽制しているような感覚だった。だが、セリスティアがその間を先に破る。
「ですが、この学園への入学条件に彼は当てはまっていません。規定年齢には達していますがそれは女子の場合です。もし、彼の編入がこのまま認められるのであれば、それはこの学園の存在意義に反する―――」
セリスティアがそこまで言い掛けると、言葉を遮るように開け放たれたままでいた学園長室の扉から一人の少年がリーシャの時を同様、息を荒げながら姿を見せた。
「リ、リーシャ様!」
現れた銀髪の少年、ルクスは先に先行して行ってしまった少女の名前を呼ぶ。
彼の登場によりセリスティアの雰囲気が目に見えて変わった。それはこの部屋の張りつめていた空気がより一層強くなったことでもよく分かる、よく感じることが出来る。
「―――、あなたが旧帝国の元王子、ルクス・アーカディアですね」
セリスティアはルクスに顔を向けると、確認するように尋ねていた。
「は、はい。僕がそうです」
ルクスはセリスティアから嫌でも伝わってくる人の上に立つ者としての圧倒的な威圧感に息が詰まるような感覚を覚える。
(これが彼女の『男』に対する態度………)
初めてセリスティアと出会った昨日の晩。ルクスは女装による仮の姿、『ルノ』の姿で彼女に『女』として接しているため、男と女、態度の違いがよく理解出来ていた。
「あなたも勿論ご存知でしょうが、この学園は本来女性達の場所です。いずれ共学化を検討するという話もありますが、それは学園設立後、最低七年間は無いということになっています」
「そんな話、誰も覚えていないと思っていたが………。共学化の検討が数年早まっただけだ。別にそれぐらいいいだろう?」
リーシャが腕を組みながら二人の会話に割って入る。だが、セリスティアはリーシャを目線で制すと、再びルクスへ視線を戻していた。
「あなたが我々の不在の間、学園を何度か救って頂いたのは残っていた三学年の生徒から書簡で聞いていました。それに関してはとても感謝しています。―――、ですが、それでも『男』であるあなたがこの学園に在籍していてもいいという理由にはなりません」
セリスティアの話は筋が通っている。そのためルクスは彼女に対して何も言うことが出来ない。このままセリスティアが優位のままこの話が進めば確実に退校は免れないであろう。
「もしあなたの在学を認めてしまえば、他の例外をも認めてしまうことになります。もう一人の男子生徒であるノエルと言う彼のように」
「なら私が母に頼んでルクスも女王権限で編入させれば、お前は文句は言えないということになるのか?」
「リーズシャルテ、あなたがそのように王女の権力を使うのでしたら、私もそれ相応の対応をします。それでもよろしいでしょうか?」
「ぐっ………」
リーシャはセリスティアの返しに、言い返せず呻く。
今の新王国は四大貴族の力が有ってこそ成り立っているのが現状だ。四大貴族であるセリスティアがその権力を振るうとなれば、どうなるかは目に見えている。
(このままじゃ僕は………)
この場でルクスが何を話してもセリスティアの意見は変わることはない。だけどルクスも黙ってこのまま退校になんてなりたくはない。認められ、受け入れてもらえたこの心地いい新しい居場所を離れたくない。
何かないのか―――。
ルクスは思考を巡らせる。だが、何もない。手の打ちようが。ルクスの顔に影が差す。どうしようもないのかと俯いてしまったからだ。
その様子を見たリーシャも自分の無力さに歯噛みする。
二人が沈黙してしまい、退校についての口論は終わりを告げたも同然。学園長室には一時、静粛の時間が生まれた。その空間の中で、セリスティアはこれ以上は無意味と判断したのか、学園長室を後にしようと踵を返そうとする。
その時―――。
「はい、一旦ここまでにしましょうか」
今まで三人の会話を静観していたレリィが手を叩き、セリスティアを引き留めると同時に、沈黙で包まれてしまっていた空気を変えた。
それにはルクスも顔を上げ、リーシャもレリィの方へ視線を向ける。何かこの状況を打開する案があるのだろうか?
二人から不安と期待が混じり合った視線がレリィに注がれる。
「ルクス君はこの学園に残りたいわよね?」
「はい。―――、僕は、僕やノエルを受け入れてくれたリーシャ様、クラスの皆、学園の皆とこの場所、この学園で学びたい。そしてこの場所で戦いたいです。この学園は僕にとって守りたい大切な、大事な場所なんです」
「ルクス………」
ルクスの思いにリーシャは思わず声が漏れる。その決意を聞くことが出来たからか、リーシャの頬は緩みを見せていた。
ルクスの硬く揺らぎを全く見せない真っ直ぐな瞳を見つめるレリィ。そして微笑を浮かべると、続いてセリスティアにも問い掛ける。
「セリスさんはルクス君の在学を認めない。………、『それだけ』でいいのよね?」
セリスティアは無言で了承を表すように頷く。
この時、セリスティアが言葉に含まれていた真意に気が付いたかレリィは分からない。だけど、彼女が頷いたということは『そういうこと』なのだと考える。
セリスティアの静かな返答を確認した後、レリィは少し間を開け一つの提案を出した。
「じゃあこうしましょう。いきなりルクス君を退校させるなんて、納得しない子達もいるでしょうから、今度行われる校内対抗戦の結果でこの話の決着を決めるというのはどうかしら? 勝者が敗者に自分の意見を通せる。簡単なことよ。ねぇ、ルクス君?」
「それってつまり―――」
「お互い実力でこの件に決着をつけろ、ということか? 学園長」
言葉に詰まったルクスの代わりにリーシャが口を開く。それを聞いたレリィはリーシャに答える前にある方向へと指を差す。その先は学園長室の扉だ。
「ふふっ、それだけじゃないわよ、リーズシャルテさん。扉の方を見て貰えるかしら?」
リーシャにより開け放たれたままの扉からは見知った人達。クルルシファーやアイリ、フィルフィや『
「彼女達の中にはルクス君を支持する派、セリスさんを支持する派が必ずあるわ。だからその二組に分かれて校内選抜戦で戦うの。二人の機竜使いとしての実力だけじゃなく、人望―――、学園の彼女達から支持を多く集められる実力も一緒に相手に示すことが出来るということよ」
レリィの考えに扉の前に群がっていた女生徒達の騒めきが一段と大きくなった。飛び交う言葉は一体二人のどちらにつくか、誰を味方につけるか、様々だ。
「ふっ、中々面白いじゃないか。そうなれば勿論、私はルクス側につくぞ」
リーシャの発言に一、二学年の女生徒達が反応する。どうやら彼女達はルクス側につくようだ。ただ、本人であるルクスは話の速度についていけていないようで、完全に置き去りにされていた。
ルクスが現在理解出来ている事と言えば、もうこの流れは止められないということのみ。
まだ記憶に新しい、この間行われた「ノエル、ルクスの依頼書争奪戦」もそうだったが、この人の提案は基本的に良いことがあまりない。
でも、今回の状況ではルクス自身打つ手がなかったことから、助けて貰えたと捉えていいのかもしれない。皆を巻きこんでしまう形になってしまったけれど。
「学園長、あなたの提案には言いたい事が多々あります。ですが―――」
セリスティアも同じくこの流れに戸惑いを感じていたようだが、翡翠の瞳を閉じて暫し、逡巡した後、再び瞳を開けた時には承諾をする。
「分かりました。実力―――、『力尽く』で彼をこの学園から追い出してもいいということですね?」
「ええ、あなたが彼女達とルクス君に勝てたら、だけどね?」
「問題はありません。私は彼らに負けるつもりはありませんので―――」
戸惑いからか、先程まで若干の緩みを見せていたセリスティアの気配が変わる。いや、戻ったと言うべきだろうか。
レリィにそう言い残したセリスティアは、踵を返しながら、鋭い威圧感を持つ瞳でルクス達に一瞥を与えると、そのまま学園長室を後にして行った。
セリスティアの姿が見えなくなると、ルクスの頬を一粒の冷や汗が流れていく。
そして、この部屋を支配していた息の詰まるような張りつめた空気が和らいだことで、ルクスは息を長く吐いていた。
「とりあえずは、何とかなったな」
ルクスの隣に寄って来たリーシャが呟く。
「はい、本当にどうなるかと思いましたよ。助かりました、レリィさん」
リーシャに相槌を打つとルクスはレリィの方に向き直り礼を述べる。その瞬間、ルクスは気が付く。レリィの表情にどう見ても悪戯っぽい笑みが浮かんでいることに………。
「もしかしてレリィさん、さっきの提案って僕を助けるためじゃなくて………」
ルクスが引っかかった違和感の正体を確かめる為、恐る恐る尋ねる。レリィから返って来た答えはどうやら予想通りのようで―――。
「だって、面白そうじゃない?」
ルクスはにっこりと微笑んでいるレリィに苦笑いを返すと、そのまま後は何も言わずに学園長室から去って行ったのだった。
†
日も暮れ、黒に包まれた空を星々が照らしている。そんな夜空を女子寮の一室の窓を開け、見上げている少女が一人。
寂しげな表情を浮かべている彼女に『
「やはり『彼』のことかい? セリス」
「ええ、出来る事なら今日にでも会ってみたかったです………」
セリスティアの手には一枚の手紙が握られている。
それは学園に帰還する際、馬車で読んでいたもの。そこに書かれていることに偽りはない。『彼』は間違いなくこの学園に在学しているのだと。
「残念だが、セリスが会ってみたいと言っていた『彼』は現在王都に召集を掛けられている。『行き違い』というものになってしまったらしいな」
「そう、ですか………。残念です」
セリスティアはそう呟くと、開けていた窓をそっと閉じ、手紙を机に置く。
「それにしてもセリスが男に興味を持つなんて珍しいな。『彼』とは何か特別な関係でもあるのかい?」
既に寝間着に着替えていたシャリスは、使用している二段ベッドの下に座ると、珍しいセリスティアの様子に興味を持ったようだった。
「『彼』には確かめたいことがあるのです。それと以前、王都で『彼』に助けられた生徒がいますので、団長としてお礼を伝えていませんから」
「ふむ、そうか。まぁ、安心したまえセリス。ルクス君の話だと校内選抜戦の間には帰ってくるらしいからな。近いうちに会えるさ、きっと」
「―――、もしかしたら私は心のどこかで『彼』に会うのが怖いと思っているのかもしれません………」
「どうしてだい?」
シャリスの返しに、セリスティアは僅かな間を開ける。
『彼』のことを聞いた時から自分に迷いが出来たことは分かっている。もし本当に私の探している人物の『彼』だったのなら………。
「その理由はまだ話せません。確信を持てた時、あなたにも話します、シャリス」
何かを思いつめたような顔。
それを見たシャリスは自分が力になれることはなさそうだと、彼女の答えが聞けることを待つことにしたのだった。
「明日もあることだし、今日はもう寝ようか」
「そうですね、シャリス」
シャリスに促されたセリスティアは寝間着に着替えると、ベッドに立て掛けてある梯子を使い上がる。そして毛布に身を包み床に就いた。
数分もすれば部屋が静かになったことで下のベッドからシャリスの小さな寝息が聞こえてくる。だけど、今晩はセリスティアにとって中々寝付けない夜を過ごすこととなりそうだった。
†
「お、おはようございます。セリスティア先輩」
「おはようございます、ルクス・アーカディア」
朝早くルクスはアイリと共に朝食をとりに女子寮の渡り廊下を歩いていると、対面から来た上級生の女生徒に挨拶をしていた。その人物はセリスティア・ラルグリス。
彼女の後ろには一人、この辺りでは珍しい褐色の肌をしている女生徒が見えた。ネクタイの色は青。三学年のようだ。
セリスティアはどうやらルクス達より先に朝食を済ませていたようで、この渡り廊下で会ったということは、一度自室に戻る所なのだろう。
二人は挨拶だけを交わし、すれ違う。
「………、負けないで下さいね? 兄さん」
「うん。分かっているよアイリ。僕もアイリや皆と一緒にいたいからね」
相手はこの学園で『最強』と言われる人だ。実力も見た事がない。勝てるかどうかなんて分からない。でも―――、負ける訳にはいかない。
旧帝国が滅び、皇族の生き残りだった自分は『咎人』となり、その立場から周りの意思に流され、ただ単純に従って暮らしてきた。
今までの自分だったらこんなことは思わなかったのかもしれない。だからこそ、この芽生えた大切な思いを、意思を通したい。
『咎人』である自分の『それ』が許されるのなら―――。
それからというもの何事もなく日々は過ぎて行った。
異様な熱気と緊張に包まれた学園は『全竜戦』の代表選手を決めると共に、ルクスの退校を左右する校内選抜戦が幕を開けようとしているのだった。
はい、今回はノエル君出ませんでした。区切りがよかったので………。すみません_(._.)_
主の出す出す予告は毎回達成出来ていないような気がします、本当にすみません。次回はノエルの出番&オリキャラが『必ず』登場しますので、読んで頂けると嬉しいです!
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