第零遺跡の「鍵の管理者」   作:奈々歌

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意外と長くなってしまいました。期待通り書けているかわかりませんが(笑

表現が微妙なところがあるかもしれませんが、我慢してください_(._.)_


では、どうぞ!


番外編。ある日の出来事。
変わらない気持ち。


 

 

 

これは『争奪戦』が行われる少し前のお話。

 

 

ノエルは朝からアイリに文字通り叩き起こされる。アイリとノクトを合わせた三人で朝を過ごすのがすでに日課となっていた。

 

「いやー、この学園に来てから生活習慣変わりまくりだな」

朝食後の紅茶を飲みながらノエルは呟く。

 

「ノエル兄さんは昔っから朝は食べない人でしたもんね。でも、私の目の届く範囲にいる以上はしっかりと改善させてもらいますから覚悟してくださいね?」

向かい側の席に座っているアイリが先ほどの呟きに相槌を打つ。

 

「Yes.ノエルさんはアイリに愛されているのですね。少し嫉妬してしまいます」

 

「だろ? 昔っからアイリは俺にべったりでさ、可愛かったんだからな」

 

「もうノエル兄さん! その話はしないで下さい!」

 

「否定しないところを見ると、自分でも認めていたんだな」

 

「なっ!? それは……、まぁ確かにあの頃はよくノエル兄さんに頼っていましたけど―――」

 

「別に今もどんどん頼ってきていいんだからな? 俺はアイリのお兄ちゃんなんだからさ」

 

「もう私も子供じゃありませんから大丈夫です。逆に言ってしまえば、もう少し兄らしくしっかりとしてください」

腕を胸の前で組み、頬を小さく膨らませる。

 

「はいはい」

 

「返事は一回です」

 

「お前は俺の母親かよ、まぁ母親がどんなんだったか知らんけど」

 

「もう兄さんったら、……けほっけほっ」

アイリが何か言おうとした時、小さく咳き込む。

 

「大丈夫か? あんまり遅くまで起きてるからだぞ。今日は休んでいた方が――」

 

アイリは内職として『遺跡(ルイン)』から発見された古文書の解読や機竜の指南書更新などを学園の勉強もしながらこなしている。

かなりの額を稼いでいるのだが、その分睡眠時間を削ることになってしまっており、体に負担をかけている。病弱だった頃を知るノエルは心配だった。

 

「これくらい平気です。もうノエル兄さんは過保護過ぎますよ」

そういってアイリはジト目を向けてくる。心なしか頬も少し赤く、熱がありそうだった。

 

「そうかな……。でも無理すんなよ? 辛かったら医務室にちゃんと行くんだよ?」

 

「もう! そういうところが過保護だと……けほけほっ」

 

「はぁ、ノクト。悪いけどこの意地っ張りな妹がこれ以上具合悪くしたらお願いできる?」

ノエルは小さくため息をついた後、アイリの隣で話を静かに聞いていた少女へ問いかける。

 

「Yes.私も気になっておりましたので、元々そのつもりでした。アイリとはクラスも同じなのですぐに対処します。ですから安心してください」

 

「ありがとう。妹を頼んだよ」

 

「けほ、もう二人共。これくらい平気だと―――」

アイリの言葉を遮るように、予鈴の鐘が聞こえてきた。

 

「もうそんな時間か。じゃあそろそろ行くわ。遅刻するとライグリィ教官怖いし」

ノエルは席を立ちあがった。それに続くようにアイリたちも席を立って、三人は食器を返却すると廊下に出る。

 

何気ない会話をしながら廊下を歩き、二学年の教室へと続く階段に到着した。

 

「じゃあな。また後で」

 

「ええ、ノエル兄さんくれぐれも寝ないように」

 

「あいよ、アイリも無理すんなよ?」

ノエルはアイリの頭に手を置いて軽く撫でた。やめてください、とアイリは頬を膨らませるが嫌そうではないように見える。

 

ノエルは十分アイリ成分を補充した後、教室へと向かって行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、何とか眠気に勝ったぞ」

 

午前の授業が終わり、昼食の時間となった。ノエルはルクスでも誘って食堂に行こうとしているとクラスメイトの女生徒から声をかけられる。

 

「ねぇ、ノエル君。ノクトちゃんが来てるよ?」

 

「ん? ああ、わかった。ありがとな」

ノエルは教室のドアに立っている少女へ歩み寄っていく。

 

「どうしたノクト、なんかあったか?」

 

「Yes.アイリが体調を崩してしまい、先ほど医務室に送り届けました。ノエルさんとルクスさんには伝えるべきと思いまして」

 

「アイリが!? ルクス、医務室に急ぐぞ!」

ルクスの席でリーシャがもじもじと昼食のお誘いをしていたが、お構いなしにルクスを連れ出す。

 

「ちょっとノエル何があったの!?」

突然のことで状況が理解できていないルクスが尋ねる。

 

「アイリが具合悪くして医務室にいる。これだけで理解できるな?」

 

「えっ、アイリが!? わかった急ごう」

教室からリーシャの叫び声が聞こえるがこの非常事態だ、無視しよう。

ノクトと共に二人は医務室に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「失礼します」

医務室の扉を軽く叩いて、ノエルたちは中に入る。

 

「あ、兄さんたち来たんですか」

アイリがベッドの上で上半身を起こしていた。

 

「起きてて大丈夫なのか?」

ノエルはベッドの横にある椅子に腰を下ろす。

 

「今はいませんが、校医さんに薬を貰いましたので大丈夫です。ノエル兄さんは心配し過ぎなんですよ」

 

「心配するさ、大切な妹だし。なぁルクス?」

 

「うん、僕にとっては唯一の肉親だからね」

 

「はぁ、もう分かりましたから。ちゃんと昼食取って教室に戻ってください」

アイリは小さくため息をつきながら、そう促した。

 

「でも、校医の先生いないし―――」

 

「これくらい一人で平気ですから。ほら、もうお昼の時間あまりないですよ?」

ルクスの言葉を区切ると、壁にかけてある時計を指差し告げる。

 

「わかったよアイリ……、行こうノエル。お大事にね?」

こうなるとアイリは考えを変えることがないことは分かっているので、渋々ルクスは椅子から立ち上がる。

 

「何かあったら呼んでくれよ? 飛んでくるから」

そう言いつつアイリの頭を撫でる。

 

「はいはい、困ったら呼びます。頼ります。これでいいですか?」

その手をよけながらアイリは答えた。

 

「はいよ、お大事な」

そう言葉を交わした後、ノエルたちは医務室を後にしていった。

 

 

「ノクトもいいですよ」

ベッドの横に立っている少女に声をかける。

 

「No.アイリの体調が安定するまではここにいます。まだ熱もあるようですし」

 

「ノクトもどことなく兄さんたちに似てきましたね」

 

「そうでしょうか? 変態にはなりたくないです」

 

「ああ、もう兄さんたちの認識は変態扱いなんですね」

ノクトの答えにアイリは苦笑いを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鐘の音が聞こえる、午後の授業が始まったのだろう。

 

あの後、ノクトには何とか説得して授業に出てもらった。そのため今は私一人で医務室のベッドに寝ている。

 

「実際一人になると寂しいものですね」

アイリは一人小さく呟く。時折教室の方から笑い声が聞こえたりすると尚更そう感じた。

 

「お腹も減りましたね、食堂に行けば何かまだありますでしょうか」

そういって布団から出ようとすると、ふらついてしまう。

 

「思った以上に悪いみたいですね……どうしましょう」

呼んでくれればノエル兄さんはすぐ来ると言っていたが、さすがに授業中では無理があるだろう。

 

「休み時間になれば、ノクトが来てくれるでしょう。それまで我慢ですかね」

小さく咳き込みながらベッドへと戻り、再び横になった。

 

するとぐぅ、とお腹が小さく鳴り空腹を再認識させてくる。

 

「こんな時、ノエル兄さんでもいれば色々してくれるんでしょうけど」

実際にいたらどんなことをしてくれるか想像していると、自然と笑みがこぼれていた。

 

「はぁ、ノエル兄さん。来てくれませんか? 呼んでるんですけど……」

聞こえるわけも無いのに口に出てしまう。やはり甘えてるんだろうか。

 

そして、寂しい気持ちを我慢しながら休み時間になるまで眠ろうと瞼を閉じようとした瞬間。

 

 

「じゃじゃーん! お兄ちゃん特製お粥だよー!!」

無駄に高いテンションでノエルが医務室に入ってきた。

 

「えっ!? ノエル兄さんどうして? 今は授業中のはず―――」

アイリは突然の出来事に驚いて体を起こす。

 

「午後の授業は休んだんだ。ルクスも休むって言いだしたけど、あいつはまだ勉強ついていけてないから授業に出させたけどね」

ノエルはベッドの横にある小さな机にお粥を置き、椅子に腰を下ろす。

 

「そこまでしなくても私は……、けほけほっ」

 

「おいおい、大丈夫か?」

アイリの背中をさすってあげる。

 

「さっきは強がってしまいましたけど、本当は一緒にいてほしかったんです……」

アイリにしては珍しく、本音がこぼれてしまう。

 

「本当に意地っ張りだなアイリは」

そんなアイリにははっ、と小さく微笑むのだった。

 

「ほら、腹減ってるんじゃないかって思ってお粥作ってきたんだ。食べるだろ?」

ノエルは机に置いていたお粥を手に取り、尋ねてくる。

 

「ええ、せっかくですからいただきます」

 

「普段のアイリも可愛いけど、今日のアイリも素直で可愛いな」

 

「そんなお世辞はいいですから」

 

「お世辞じゃないんだけどな。……ほら口開けて、あーん」

レンゲですくったお粥を息をかけて軽く冷まし、口元に運んできてくれる。

 

「自分で食べれますよ!」

恥ずかしいのか顔を赤くする。

 

「こういう時はお兄ちゃんに甘えなさい。ほら、冷たくなってまうぞ?」

 

「もう仕方ありませんね……。あ、あーん…」

アイリは小さく口を開け、レンゲを入れてもらう。

 

「どうだ、美味しいか?」

もぐもぐと食べているアイリに感想を求める。

 

「意外です。ノエル兄さん料理できたんですね、美味しいです」

 

「良かった。初めて作ったから大丈夫か心配だったんだよ。あ、もちろん味見はしたよ?」

 

「初めてでここまでの味を作れるのは正直嫉妬します」

アイリも料理はできるほうだが、初めからこんなに上手くは作れなかった。

 

「料理は愛情だよアイリ。美味しいということはそれだけ俺のアイリへの愛が入っている証拠さ」

ノエルは恥ずかしがることなくそんな言葉を放つと、得意げな顔をしていた。

 

「なら、今度私も料理するときはノエル兄さんへの愛情でも込めてみましょう。本当に美味しくなっているかはノエル兄さんに判断してもらいます」

 

「おう、任せとけ! まぁでもアイリが作った料理ならなんでも旨いけどな」

そういって満面の笑みを向けてくるので、言った自分の方が少し恥ずかしくなってしまう。

 

「もう、ノエル兄さんったらまたそんな冗談を……。もう一口貰えますか?」

 

「はいよ、あーん」

かなりお腹が空いていたのだろう、美味しそうに食べてくれるアイリに自然と笑顔になりながら何回もお粥を口に運んであげるのだった。

 

 

そんな調子でゆっくりと順調に食べていき、お粥は最後の一口となる。

 

「ほら、最後だ。あーん」

入れ物に残っているお粥をかき集めて一口分を作り、食べさせようとしてくる。

 

「そういえば、ノエル兄さんはご飯食べたんですか?」

ふと、アイリは疑問に思う。

 

「あー、そういえば食ってないな。ならこれを―――」

 

「あ、それだと……」

ノエルは最後の一口を自分で食べた。

 

「ん、なんか問題あったか? あ、私のお粥を食べやがってってか?」

 

「違います! 私を食いしん坊か何かと勘違いしてませんか!? じゃなくて、今のって間接キス……」

最後の方はなんて言っているのか聞こえなかったが、今日一番顔を赤くしている。

 

「熱上がったか? 凄い顔赤いぞ?」

 

「ノエル兄さんのせいです! 変態!!」

 

「ごはぁ!?」

いつもお腹に飛んでくるものが今回は顔に飛んできた。

 

「痛いよアイリ! どうしたの!?」

 

「兄さんの自業自得です!」

頬を膨らませ、そっぽを向く。

 

「えぇぇ……」

ノエルには何が何だかよくわからなかった。

 

 

「私は寝ますから、もう大丈夫です。今からでもいいので授業に出てきて下さい」

赤い顔を隠すように布団を頭までかぶってしまう。

 

「ゆっくり休むんだぞ? じゃあ俺は戻るからな」

そう言い残してノエルは空になった器を持って、静かに医務室を後にしていった。

 

「全くノエル兄さんったら人の気も知らないで……」

お腹も満たされ、いい感じに眠気がやってくる。

 

「ほんと、バカなノエル兄さん……」

意識がふっ、と暗がりに落ちていく。

ノエル兄さんとの夢が見れたらいいなと思いながら眠りへとついていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夢を見ている……。これは私たちがまだ幼かったころの夢。

ここは昔、三人で暮らしていた家の中だ。

 

 

 

「本当に行ってしまうんですか、ノエル兄さん……」

 

「うん、アイリやみんな、大切な人たちを守るにはこれしかないんだ」

ノエルはルクスと共に機攻殻剣(ソード・デバイス)を手にしながら帝都へと向かおうとしている。そうクーデターを起こすためだ。

 

「でも、もし兄さんたちに何かあったら私は一人ぼっちになってしまいます……」

ベッドに上半身だけを起こしているアイリは悲しそうな顔になりながら訴えてくる。

 

「大丈夫だよアイリ。俺たちは強い、絶対成功させてお前のところに戻ってくるから待ってて」

 

「僕たちは、みんなが笑い合って幸せに暮らせる国に変えるために行くんだ。だから行かせてアイリ」

二人の決意は固い。顔を見ればわかる、もう揺らぐことはないのだろう。

 

「絶対ですよ……、絶対戻ってきてくださいね?」

私には止めることはできない。私が今出来ることは二人の無事を祈って、送り出してあげることだけだった。

 

二人は頷くと、背を向けて家を出ていく。

 

数十分くらいした後、帝都の方角から戦闘の開始を告げるように激しい爆発の音が聞こえてくる。

 

「ノエル兄さん、兄さん。どうか無事に帰ってきてください……」

アイリは祈るように手を合わせと、頬を涙が伝っていった。

 

 

 

この後、クーデターは無事成功し帝国は滅びた。だが兄さんは傷だらけの昏睡状態。ノエル兄さんは手紙だけを残し、行方を晦ませた。

 

 

「ちゃんと戻ってくるって言ってたじゃないですか……ノエル兄さん……」

涙がぽたぽたと手紙に落ちていき、文字が滲んでいく。残されていった手紙を握りしめそう呟くのだった。

 

 

―――ごめんアイリ、まだ俺は戻れない。

手紙にはそう綴られていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん……。ふぁ……」

寝ぼけ眼を擦りながら上体を起こす。窓から月の光が差し込んでいるところからして、随分と寝ていたようだ。

 

「あれ? 私、泣いていたんですか」

目を擦った手を見ると、小さく水滴がついていた。

 

「あんな夢見たからかもしれませんね……」

自分が見た夢を思い出してしまい、寂しい気持ちと悲しい気持ちがこみ上げてくる。

 

「ノエル兄さん……会いたいです……」

そう小さく呟く。

 

きっと今は自室で眠っている頃だろう。また朝になればいくらでも会うことは出来る。でも、今は無性に会いたい。

 

アイリがそう思っていると、仕切りの役割をしている白いカーテンの向こうから小さな寝息が聞こえることに気がつく。

 

「誰でしょう? 医務室には私一人なはず―――ッ!?」

疑問に思ったアイリは手でそのカーテンをよける。そこには壁に背を預けて寝ているノエルの姿があった。

 

「ノエル兄さん、どうしてここに!?」

 

「んん……、あれ、俺寝ちまってたのか……」

その声に反応するかのようにノエルが目を覚ます。

 

「おお、アイリ起きたのか。どうだ調子は?」

アイリの視線に気が付いたようで、こちらに顔を向けてくる。

 

「え、ええ。咳も出ませんし、だいぶ良くなりました。これなら明日から登校できます」

 

「そうか、良かった。でもまだあんまり無茶すんなよ?」

ノエルが安堵の表情になった。

 

「ノエル兄さんに言われなくてもわかってますから大丈夫です」

アイリの返事にそうかい、とノエルは微笑を浮かべていた。

 

「そういえば、いつからノエル兄さんはそこにいたんですか?」

疑問に思っていたことを尋ねる。

 

「ああ、食器を置いて来た後すぐだよ。帰ってきたらアイリ寝てたし」

 

「そんなに早くに戻って来てたんですか、私は授業に戻って下さいと言ったはずですが?」

 

「やっぱり心配でさ、戻ってきちゃった」

 

「はぁ、ノエル兄さんらしいと言えばそうですね。私が甘かったです」

アイリは小さくため息をつく。だが、表情は嬉しそうだった。

 

「あはは、アイリもまだまだだな」

ノエルはそう言いながら立ち上がる。

 

「なんか欲しいもんあるか? 持ってきてやるぞ?」

軽く体を伸ばしながら聞いて来る。

 

「いえ、特にはないです。せっかくですし、このまま朝まで休むことにします」

 

「そうかい、なら俺もここで寝てくかな。まだ心配だし」

 

「そうですか、なら風邪を引かないようにしてくださいね? そうなったら元も子もないですから」

 

「大丈夫、毛布持ってきてるから。でも、そうなったらアイリに看病してもらうかな」

 

「わかりました。でも、そのためにわざと風邪引くとかはしないでくださいね」

 

「わ、わかってるよ。もうアイリったらもう少し信用してよー」

どうやら図星だったようだ。言葉が棒読みになっている。

 

「もうノエル兄さんったら……。ほら、来てください」

アイリはそう言うと、ベッドに人一人横になれるくらいの場所をあけた。

 

「どうしたのアイリ?」

 

「ノエル兄さんが風邪を引かないように入れてあげますから来てください」

 

「ええっ!?」

普段のアイリからは考えることのできない大胆な発想にノエルは驚く。

 

「妹の頼みごとです。聞いてくれますよね? ノエル兄さん」

いつも通りの口調で言ってはいるが、アイリも恥ずかしいのか顔が赤い。

 

「いや、でもさ、ほらもう俺たち年頃の男女だし……」

幼かったころ、アイリが寂しがっていた時はよく一緒に寝ていたことはあった。

 

「ダメですか? ノエル兄さん……」

アイリの声が弱々しくなっていき、すがるような表情になっていく。

 

「アイリ……。わかったよ、今回だけだぞ?」

傍にいてあげよう、きっと何かあったのだろう。そう思い、アイリのいるベッドに入っていった。

 

「こうしてると昔を思い出すな……。アイリ、雷怖がってたっけ?」

 

「余計なことは思い出さないで下さい! やっぱり入れるんじゃありませんでした。私どうかしてたみたいですね」

二人で横になりながらそんな会話をする。ベッドは意外と大きくて、二人が横になっても十分な幅があった。

 

「なら、やっぱり俺はソファで寝るよ」

そう言って、出ようとする。

 

「ダメです! 一緒にいてください」

アイリが慌てて腕を掴んできた。

 

「……。どうしたんだアイリ?」

 

「お願いです、今は傍にいてください……」

アイリの目元に涙が溜まっていくのが見える。

 

「もしかして、嫌な夢でも見たのか?」

 

「……、ノエル兄さんが手紙だけ置いていなくなった時の夢を見ました」

 

「ああ、……あの時は本当にごめんな。そうしなきゃならない訳があったんだ……」

 

「わかってます。わかってましたけど、私はすごく寂しかったんですよ?」

 

「ごめんな、もうどこにも行ったりしないから。俺は傍にいるから」

そうしてノエルはアイリを優しく抱きしめた。

 

「……、約束……ですよ?」

 

「わかってる。約束するよ」

その返事を聞いて安心したのか、アイリは小さく微笑んで顔を胸の辺りに埋めてきた。

 

「ノエル兄さん」

 

「なんだ?」

 

「ただ呼んだだけですよ」

 

「そうかい」

 

しばらくすると、小さく寝息を立ててアイリは眠りについていた。

 

「寝たか、今日は意外な一面ばかり見れたな。ほんと、可愛いやつめ」

アイリの頭を撫でながら呟く。そうしてノエルも静かに眠りにつくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝。

朝早く私が目覚めると、隣ではまだノエル兄さんが眠っていた。

 

「そっか、私昨日ノエル兄さんと……」

まだ私のことを優しく抱きしめたまま寝ているノエル兄さんを見ながら、昨日の眠りにつく前に交わした会話を思い出す。

 

「約束、ちゃんと守ってくださいね。……っ」

そう呟いた後、そっと頬に口づけをした。

 

「ん、うーん……。あ、アイリおはよう」

うっすらと目を開けて、ノエルが目を覚ます。

 

「おはようございますノエル兄さん、そろそろ動きたいので手をよけてもらってもいいですか?」

 

「ああ、そっか。このまま寝ちゃってたのか」

ノエルが今の状況に気づいた。

 

「ふふん、離してほしければ口づけをだな―――」

 

「ついさっき頬にしましたよ? ノエル兄さん」

悪戯っぽく笑みを浮かべながらいつもみたいに言うと、そうアイリが言葉を遮るように答えてきた。

 

「へっ!?」

思いもよらない返答に固まっていると、するするっとノエルの腕からアイリが抜け出してベッドから出ていく。

 

「私は部屋に戻って着替えてきますね、ノエル兄さんも着替えて来てください。一緒に朝食食べに行きましょう」

そう言い残し、アイリは医務室を後にしていった。

 

 

「アイリが俺に口づけしただと……。なんでそんな大事な瞬間、俺は起きていなかったんだぁーーー!!」

 

 

ノエルの声が医務室に響き渡り、廊下を歩いていたアイリにも聞こえたらしく、微笑を浮かべる。

 

「やっぱり、ノエル兄さんといれると安心できますね」

昔からちっとも変わらない。バカみたいに優しい、この世界で一番安心できる人。

 

 

 

 

「大好きですよ。ノエル兄さん」

小さくそう呟いて、自室へと向かっていく。

 

 

 

 

 

こうして、いつも通りの学園生活が今日も始まるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、食堂にて。

 

「アイリ、一つ尋ねてもよろしいですか?」

隣に座っているノクトが声をかけてくる。

 

「どうかしたんですかノクト?」

 

「Yes.目の前で放心しているノエルさんは何があったのですか?」

 

「さぁ、私は知りませんよ。まあ、そのうち元に戻りますから大丈夫です」

 

「そうですか、なら見守っておきましょう」

 





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