授業の休み時間になると、先ほどのルクスとフィルフィのやり取りが功を奏したらしくクラスメイト達はルクスとノエルへの警戒を解いたようだった。
「ルクスくんとフィルフィちゃんって、もしかして婚約者だったりするの?」
「『雑用王子』って、どんなお仕事をしているんですか?」
ルクスの机の周りにクラスメイト達が集まってきて質問責めをしていた。
貴族のお嬢様が通う士官候補生の学園の割に、砕け過ぎた空気なのでルクスは戸惑っている。
(なんか、想像と違うなぁ……)
ルクスがそんなことを思いつつ、ノエルの方を見ると、
「ノエル君はなんで幻神獣と戦えるの!? すごかったよ!!」
「攻撃の瞬間、姿が一瞬消えたように見えたのですがあれはなんだったのですか!?」
ノエルにもクラスメイト達が質問責めをしていたが、ルクスとは違い戸惑うことなく淡々と答えていた。
「ノエルはなんでそんなに落ち着いてられるの……」
「ルクス…こういうのはすぐ慣れるようになっていた方がいいぞ…」
「無理だよ……」
ルクスがノエルの答えにがっくりと落胆する。
「ねぇねぇ! ルクスくんはまだ雑用の仕事やってるんだよね?」
「はい、まぁ…義務ですから」
机を囲んでいる女生徒の一人に聞かれ、ルクスがそう答えると、
「じゃあ、私が頼めば『お仕事』してくれるんだ! 頼んじゃおうかな」
「あっ! 私も頼みたい!!」
私も私も、と次々に女生徒達がルクスに詰め寄ってくる。
「み、みなさん落ち着いて!?」
だんだんと収拾がつかなくなってきた時、
「はいはーい!! ルクっちに依頼があったら私がまとめるよー!」
クラスメイトのティルファーがみんなをまとめ始めた。
(ルクっちってなに!?)
ティルファーがなにやら箱を持ってきて、
「雑用依頼はこの箱に入れてねー。ちゃんと日付も入れてさ。あ、ノエルっちにでもいいよー」
「「ええぇぇぇ!?」」
「なんで俺まで巻きこまれてるの!?」
ルクスの様子をぼぉーっと眺めていたノエルがいきなり自分の名前がでてきて驚く。
「いや、せっかくだしなんとなく?」
「ええぇぇぇ……」
ノエルがマジかよ…という表情を浮かべてると、すでに何件か依頼書が入れられているのが目についてしまい諦めるしかないと悟る。隣で依頼書の山を築いているルクスの箱よりはマシかなと思うのだった。
「てか、あれルクス生きてんのかな……」
ルクスが机に突っ伏して、ピクリとも動かないのをみてそう呟くノエルであった。
†
お昼休みになると、机に突っ伏しているルクスに一人の女生徒が近づいてきた。
「お、おいルクス。そのだな…良かったら一緒にメシでも行かないか?」
突然声を掛けられたルクスが驚いて飛び起きる。
「リ、リーシャ様!? えっと…僕と二人でですか?」
「そうだが……私じゃダメか?」
頬を赤らめつつ、リーシャことリーズシャルテ・アティスマータがルクスから目を逸らした。
その瞬間、教室で小さなどよめきが起こる。
「そ、それとだな……。これからお前には私専属の世話係になって欲しいんだ。ちょうど従者がほしくてな……」
もじもじとしつつ、リーシャがそう言うと、
「「ええっ!?」」
ルクスとノエルが驚くと同時に、クラスの皆が再びざわめく。
「え!? リーシャ様って、人嫌いで侍女すらつけてなかったよね?」
「いきなり『男』の彼を従者にするなんて……まさか!」
女生徒達からそんな声が聞こえる。
「いいだろそれくらい……その、お前は私の…は、裸を強引に見たんだから…」
リーシャの言葉に「きゃああ」とクラスが騒がしくなる。
「いや!? それはその―――」
ルクスが慌てていると、
「ルクス…やっぱり変態だったのか……」
ノエルが完全に引いていた。
「違うよ! いや、違くはないんだけど……あぁもう!誤解なんだーー!!」
ルクスの悲痛の叫びがクラスに響いた。
そんなルクスをノエルは笑いながら見ていると、
「騒がしいところ悪いけど、ちょっといいかしら?」
遠目からルクス達の様子を見ていた女生徒が近づいてきた。
「クルルシファーか。用なら後にしろ、私は今ルクスと大事な話をしている」
(確か、ユミル王国の留学生だったかな。なんか不思議な感じがするな……。なんだろう……この違和感は……)
ノエルはクルルシファーと呼ばれた女の子を見てそう思った。
「ちょっと学園長に頼まれてね。そこの二人借りていくわね。いいわよね? ルクス君、ノエル君?」
「あ、はい」
「はいよ」
そう告げて廊下に歩きだすクルルシファーの後を、ノエルとルクスはついていった。
†
階段を上がり、学園の屋上へと三人は来ていた。
「えっと……それで学園長の頼みって?」
ルクスがクルルシファーに尋ねる。
「あれは貴方たちを連れ出すための口実よ」
クルルシファーがルクスの問いに答えた。
「ま、そんなことだろうと思ったよ。で?本題はなんだい?」
「さすが鋭いわねノエルくんは。そうね……」
クルルシファーは言葉を区切り、手すりに近づくと腰を預ける。
「……貴方たちは『黒き英雄』って、知っているかしら?」
「えっ……」
ルクスが少し焦りの様子をみせる。
「正体不明の装甲機竜を使い、帝国の機竜約千二百機のほぼすべてを破壊して滅ぼした伝説の怪物。帝国にとっては滅びの悪魔、新王国にとっては伝説の英雄となっているわ」
「噂なら聞いたことはあります……」
「まぁ、機竜使いならだいたいみんな知っているでしょ」
ノエルとルクスはそれぞれ答える。
「それで私から一つ二人にお願いがあるの」
「「えっ…」」
「『黒き英雄』を探して。私はその人に聞きたいことがあるの」
その依頼には流石のノエルも動揺を隠せなかった。
「もし、見つからないようだったらもう一人の方でもいいわ」
その様子を見たクルルシファーがそんなことを言い出す。
「……もう一人?」
ノエルは疑問に思うと、
「あまり知られていないことなんだけれど、実は『黒き英雄』の他にもう一機。一部の人達で語り継がれている伝説の機竜使いがいるのよ」
「はぁ…そうなんですか…。ちなみになんて言うんですか?」
「『銀色の狩人』―――そう呼ばれているわ。燃えさかる炎に銀色の装甲を光らせながら、まるで狩人の如く帝国の機竜を次々に破壊していったことからつけられたらしいわ」
「それって……」
その瞬間。ゴーン! っと鐘の音が大きく響いた。
「午後の授業が始まるわ。私は戻るわね」
クルルシファーはそう告げると階段へ向かっていった。
「なぁ、ルクス…。『銀色の狩人』なんて俺、初耳なんだが……」
「僕は王都で雑用してる時、聞いたことあるよ」
「まじか……。てか、メシ……食ってないな俺達」
「あっ……」
そんな会話をしながら二人は教室に戻ると、空腹に耐えながら午後の授業を受けるのだった。
†
「なんで俺まで雑用してんだろう……」
「まぁ、そこは割り切って…ね?」
授業が終わり、夜になると二人は大浴場の掃除に来ていた。
「ティルファーめ、後で覚えていろよ……」
そう言いつつ、わなわなと拳を握りしめているノエルをははっと苦笑いでルクスは見る。
その時コンコンと軽いノックの後、脱衣所の扉が開かれた。
「なっ!?」
「わっ! ごめん! もうお風呂は終わってて、今はちょっと!!」
慌ててノエルとルクスが声を上げると、
「ふっ、ごめんなさい兄さん? 見たかったですか? 私達の裸」
アイリとノクトがちゃんと制服を着て入ってきた。
「そんなこと言うと、ルクス興奮するからやめなさいアイリ」
「Yes.ルクスさんはノエルさんが言っていた通り、やはり妹に欲情する変態さんだったのですね」
「ちょっ!? なんでみんな僕が裸を期待していたこと前提で話してるの!?」
「なんでしたら今度一緒にでもお風呂に入りましょうか兄さん?」
「あ! ルクスずるい! 俺と変わりやがれっ!!」
「ノエル兄さんには言ってません!!」
アイリは顔を赤くしながら否定する。
「まぁ、それはそれとして。どうしたんだい? なにか用事があってきたんだろ?」
アイリはこほん、と咳払いをすると、
「 ええ、お仕事の依頼です。この後、女子寮の大広間に来てください。寄り道したら説教ですからね?」
「寄り道して行こうぜルクス! アイリの説教受けよう!」
「ノエル兄さんは静かにしてください!! 私はもう行きますからねっ!」
アイリは恥ずかしそうにしながら、踵を返してノクトと浴場からでていった。
「なんの仕事だろう……」
「さぁ?」
ノエルとルクスは首を傾げていた。
†
「あーー腰が痛い……」
「ノエルなんか年寄り臭いよ……」
依頼主である寮母さんにチェックしてもらいOKを貰ったので、アイリに言われた通り大広間へ向かいながらノエルは腰を叩いていた。
「だって、ルクスと違って俺は普段雑用なんてしないんだぞ?」
ノエルは今日だけで数件の雑用をルクスとこなしていた。
「ははっ……なんかごめん…」
ルクスは苦笑いになる。
階段を降りて、大広間の近くまで来るとアイリが待っていた。
「一応、身だしなみは整えてきたんですね。見直しましたよ、兄さんノエル兄さん」
「まぁな。あっ! 大変だルクス大事なこと忘れていた!」
ノエルがルクスのほうを急いで振り向く。
「な、なに!? どうしたのノエル!?」
「寄り道してくるの忘れた! アイリに説教してもらえない!!」
「ノエル兄さんはもう黙っててください!!」
アイリは顔を赤く染めた。
アイリがはぁ、と軽くため息をついた後、
「では、ついて来て下さい。みんなが待っています」
といい、食堂へと歩いていく。
「あれ? でも食堂って閉まってるんじゃ……」
「だよな?」
ノエルとルクスがそんな疑問を持ち、首を傾げながら中に入ると、
「編入おめでとうーーー!!」
少女たちの声が一斉に聞こえた。
食堂に入ると、大きなテーブルにたくさんの料理が並んでいた。
「これは……一体?」
「まさかお祝い?」
「そうだよ、君たちの編入祝いだ」
シャリスが二人の疑問に答えた。
「私たちが企画した簡易的なものだが楽しんでくれると嬉しい」
シャリスがそう言うと、
「私も料理作ったけど期待しないでねー?」
ティルファーが笑顔で言う。
「No.ティルファー、それは言うべきではないかと」
ノクトのツッコミが入った。
「あー、そのあれだ…」
奥のほうから赤いドレスを着たリーシャが歩いてくる。
「こういうことは苦手なんだがな……その、楽しんで貰えると嬉しい…。そしてこの間は大儀であったな。ルクス、ノエルよ」
恥ずかしそうに視線を逸らしながら、リーシャが呟いた。
「ありがとうございます!! 嬉しいです!!」
「みんなありがとな」
ノエルとルクスはそれぞれ笑顔で感謝の言葉を伝えた。
「では、乾杯といこうか!」
シャリスのその一言で全員がグラスを持ち、掲げる。
「乾杯っ!!」
そしてガラス同士の重なる音が食堂に響いた。
こうして夜は更けていく――――――――
次は騎士団入団試験とルクスとリーシャのデート回辺りですかね。羨ましい……。
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