にこにーハッピーバースデー!

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矢澤にこ生誕祭2016

最初は、面白い子がいるな、くらいだった。

まだスクールアイドル自体もそこまで有名じゃない頃。一年生でいきなりアイドル研究部なんて立ち上げて。部員を集めて、独自にレッスンして、ライブして。素直に凄いなぁ、と思った。でも他人事。そのライブが成功しなくて、部員が減っていっても、特に何も思わなかった。

そんな頃やったかなぁ、ウチがにこっちと出会ったのは。

 

 

 

 

「…………」

「どうしたの、希」

「あの子……もう夏休みに入るのに部活の勧誘しとる」

「新しく部活を立ち上げたいんじゃないかしら? 五人いればそれだけで申請できるし」

「うーんでも、前に講堂でダンスやってたような……」

「希?」

「ごめん絵里ち、今日は先帰っとって」

「? 分かったわ。何か忘れ物?」

「いや、きっと忘れないために、やな」

「?」

 

 

「アイドル研究部、よろしくお願いしまーす!」

「一枚貰ってええ?」

「もちろん!」

希が受け取ったチラシには、案の定部活の勧誘云々が書かれていた。

「アイドル研究部……」

「そう! もしかして、興味ある?」

「いやぁ、ウチは歌もダンスもやった事ないし……。でもこないだの講堂ステージ、良かったと思ったで?」

「……そう」

相手の雰囲気に影が差したのを感じた希は、あれと首を捻る。褒めたつもりだったのに何故。

「にこの力は、あんなモンじゃないわ」

「そ、そっか。ごめんな」

「別にアンタが謝る事じゃないわよ。スクールアイドルにこにーの伝説は、これから始まるのよ」

「頑張ってな」

「言われるまでもないわ。でも、ありがと」

再び勧誘チラシを配り出した彼女を、希は見送った。

「__ん?」

そして自分の足元に、何か落ちているのを見つけた。

「生徒手帳……? あの子のかな?」

希がそれを開くと、

「矢澤……にこ。やっぱりあの子のか。__おーい矢澤さ……」

手を上げかけた希は、そこでふと考える。

「これ……誕生日が七月二十二日って。明日やん」

希の視線が、目の前のツインテールと手元の記述とを行き来する。

「……ふふ〜ん?」

そして浮かべた笑みは、後に彼女の畏怖の対象となる『あの顔』だった。

 

 

翌日、にこは学校にいた。

「ああもう、今日は伝伝伝観るつもりだったのに……。どこで落としたのかしら……」

中庭や正門前をウロウロするにこは、

「無いわ……」

空を仰いだ。

「多分、昨日のチラシ配ってる時に落としたんだと思うけど……。ああもうどこに落としたのよ……」

探し物は明確だが、それがここで見つかる事はない。

「__あ、いたいた。お〜い!」

突然声をかけられ、にこは驚いて振り向く。

「アンタ、昨日の……」

「東條希や。矢澤にこさん♪」

「何で私の名前を知って……」

「はいコレ。落し物」

そう希が差し出したのは、生徒手帳。

「あっ、私の! アンタが持ってたのね……。見つからないわけだわ」

徒労を知ったにこは、かぶりを振って手を伸ばす。

「ヒョイッと」

それを希はタイミングよく、生徒手帳を引っ込めた。

「…………」

当然にこの表情は悪くなる。

「あーホラ、そんなに怖い顔したらアカンよ?」

「誰のせいよ!」

「矢澤さん、今日誕生日やろ?」

「何で知って……ああ、生徒手帳に書いてあるわね」

記憶を辿ったのか、にこは一人で納得する。

「だから、これも一緒に」

希は、カバンから取り出した箱の上に、生徒手帳を置く。

「これは……?」

「誕生日にあげるモノなんて、決まっとるやん」

「私に……くれるの?」

「勿論。でもケーキだから、早く持って帰った方がええよ? 保冷剤はあるけど、こう暑いと足も速そうやし……」

「__希、って言ったわよね」

どこか得意げに話す希の言葉を遮って、にこが口を開いた。

「そうやけど?」

「……ついてきなさい」

少し悔しそうに、拗ねたように、にこは歩き出した。

「どこ行くん?」

「いいからついてきなさい。そうすれば分かるから」

「何やろ?」

希は首を傾げたが、相手が答えてくれないので大人しくついて行くしかない。

 

 

「ここよ」

「ここって……」

にこに案内されたのは、校舎内、一つの部屋の前だった。

「アイドル研究部の、部室……?」

「そうよ。本来部員しか入れないんだけど、特別に許可してあげるわ。ケーキのお礼」

「素直じゃないんやねぇ」

「うっさいわね! いいから入りなさいよ!」

「んふふ〜、お邪魔しま〜す」

部室に入った希は、まず部屋のカオスさに足を止めた。

「ほ〜、これは凄いなあ。これ、部費で買ったん?」

「そんなわけないでしょ。にこの私物よ」

「ホントにアイドル好きなんやなぁ」

「当然でしょ。にこと言えばアイドル、アイドルと言えばにこだもの」

ドヤ顔を見せたにこは、イスに座る。

「いただきます」

手を合わせたにこは、プラスチックのフォークを掴んだ。

「はい、どうぞ」

希はその正面に座り、にこを眺める。

「どう、美味しい?」

「美味しいわよ。ありがと。__でも何で急に? 今まで話した事なかったわよね?」

「深い意味は無いんよ? ただ何となく、頑張ってる子を応援したくなっただけや」

「……あっそ。物好きな性格してるわね」

「んふふー。それはよーく分かってるんよ?」

ケーキを食すにこを、楽しそうに眺める希。

「…………」

ふと手を止めたにこは、半分ほどになったケーキを見つめる。

「どうかしたん?」

希が声をかけると、

「……ほら」

その口元に、ケーキの乗ったフォークが差し出された。

「にこだけ食べてたら、気まずいでしょうが」

「お、何や意外と優しいなぁ」

「“意外と”って何よ。にこはアイドルなの。どんな時も、自分だけ幸せに、笑顔になろうなんて思わないわ」

「矢澤さん、カッコええなあ。__あむっ。美味しい」

ケーキを咀嚼した希に、にこは呆れたような笑顔を見せる。

「“にこ”でいいわよ。そんな堅っ苦しい呼ばれ方するアイドル、いないでしょ」

「んー、そっか? じゃあ、にこっち!」

「はあ? 何よそれ」

「どうせなら、普通の名前より愛称の方がええやろ? だから、にこっち」

「……ま、いいわ」

「あ、照れた?」

「照れてないわよ」

「やーん。にこっちが照れた〜」

「うるさいわね! 照れてないって言ってんでしょ!」

「ホントに〜?」

「しつこい!」

大声でツッコミを入れたにこは、カバンを持って立ち上がった。

「もう行くん?」

「まあね。次のライブのために練習しないとだし、私は忙しいのよ」

「そっか。頑張ってね」

「言われるまでもないわ」

ドアノブに手をかけたにこは、クルリと振り返る。

「ケーキ、ごちそうさま。美味しかったし、嬉しかったわ」

向けられたニッコリスマイルに、希も自然と顔を綻ばせた。

「どういたしまして。応援しとるで、にこっち」

 

 

 

 

『お誕生日おめでとう! にこちゃん!』

広くなった部室、賑やかになった部室に、かしましい声がこだました。

「ありがと」

ここぞとばかりに擦り寄り攻撃を仕掛けてくるバカ二人を躱したにこは、希の隣に腰を下ろした。

「どうしたのよ。ボーッとしちゃって」

「んーちょっとな、昔の事を思い出してたんよ」

「昔の事? 何よそれ」

「大した事じゃないし、気にせんでええよ。ウチのちょっとした思い出やから」

「ふーん。相変わらず、アンタは何考えてるか分からないわね」

「酷いなあ。せっかくお祝いしてあげたのに」

「それはありがたく思ってるわよ。今も、昔も」

「! ……なー、ちょっとお願いしてもええ?」

「仕方ないわね。今日はにこにー主役の日だから、特別に聞いてあげるわ」

隣の、何事にもめげない強い声を聞きながら、希は小さく微笑んだ。

「これからもよろしくな、“にこっち”!」


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