紅魔館でも郡を抜くマイペースのスィーフと人里へ行くことになった亜衣夢。予想通り振り回され最後まで散々な目にあってしまうのだった。
秋も深くなったこの頃。亜衣夢が幻想郷に来てから数ヶ月経った。仕事にもなれ、レミリアの無茶振りにもなれた。ここ数日は特に事件も何もなく平和に過ごせていた。
...そう、今日までは。
「余計なナレーション入れんじゃねぇ!」
□主人、何を言ってるんだい?
「いや、気にするな。」
亜衣夢は廊下を箒で掃きながら自室へと向かった。この仕事が終われば休憩であるからだ。スペルブックを連れながら淡々と掃除を続けた。
「てかなんだお前、丸くなって。」
□気にするな。
あの時は敵意剥き出しだったスペルブックも今では亜衣夢にしっかり忠誠を誓うようになった。亜衣夢はもう既にここの住人となってきたのだ。
「いやぁ...このままずっと平和なら良いのにな...」
ピコン
□(あ、旗が建った。)
「何も起きなければなー。」
ピコンピコン
□(更に建った...主人、フラグ建築の天才か!?)
「俺...この掃除が終わったら部屋にあるプリン、食べるんだ。」
□(もう辞めてぇ!とっくにフラグ建築できる土地はゼロよ!もういっぱいよぉ!)
亜衣夢は意気揚々と自室の扉に手を掛けたその時、フラグは回収された。扉を開けると同時に何かが自室を埋め尽くした。何かが落下した衝撃とモノの砕け散る音が亜衣夢の体を弾くように飛ばした。
「ゴ...ゴフッ...」
「いった〜い...どこよここ。」
面影すら残っていない部屋から見知らぬ声が聞こえてきた。亜衣夢は混乱状態となりただ立ち尽くすことしか出来ていなかった。なんの音だとすぐに咲夜が様子を見に来た。そして直ぐに酷い有様を見て驚愕するのだった。
「何が...あったのよ!」
「ん...?この声は、咲夜?」
また先程の声が聞こえてくる。しかも、ソレは咲夜を知っていた。亜衣夢が咲夜の方を見るとこちらもソレを知っている様だった。
「...天子、そこで一体何してるの。」
すると瓦礫の中にいる『天子』と呼ばれた者はここらのものを全て吹き飛ばしたのだ。もちろんその破片は亜衣夢を襲う。亜衣夢はなす術なく破片と共に吹き飛ぶが咲夜はナイフで全て受け流す。
衝撃が収まると部屋から誰かが出てきた。
「いやぁーごめんごめん。外の人間がいるって言うのを聞いたからどんなのか気になって来たのよ。...で?その人間は?」
「それならあなたが今踏んでいるわよ。」
「えっ、」
「...早く...除けて...くだしゃあ...」
「わっ!?大丈夫?」
「...死にそうです。」
〜亜衣夢救出中〜
「では改めて!私の名前は『比那名居 天子(ひなない てんし)』よ!天人でもあるあなた達とは格が一つも二つも上の存在!そこの人間、天子様と崇めなさい!」
「馬鹿やってんじゃないわよ..」
「えーと...天子、様?」
「何あんたも乗ってるのよ。」
「何かしら!」
「その...『天人』とは?」
「...はぁ?そんなのも知らないの?無知ねぇー。」
「ゴフッ(^q^)」
「いい?天人と言うのはその名の通り天上に住む言わば貴族のような存在。それで...えーと...」
「...天子、どうせ分からないんでしょ?勉強とかサボってん来たのもソレが目的...あってるわね?」
「うぅ、うるさい!とにかく偉いの!強いのよ!」
図星のようだ。咲夜に指摘されると慌てて簡素な単語を使いはぐらかしたのだから。亜衣夢が微妙な顔をしているとそれを見られたのか天子は睨んできた。
「...まぁとりあえず、お茶にでもしましょ。これの修理は私と妖精メイドがしておくから、亜衣夢そのポンコツ天人を連れていってあげて。」
「誰が『ポンコツ天人』よ!!」
◇移動中ナリ〜
「コロ〇か!」
「どしたの急に。『コ〇助か!』って。」
「いや、突っ込まなければならないと思いまして。」
「そうなの?『〇ロ助か!』って?」
□...おい伏字。
△はい何でございましょうか。
□次仕事しなかったらクビな。2度とこの業界に来るなよ。
△ヒィィィ!!
(ん?どうした魔本。ブツブツ言って。)
□ん!?いや、なんでもないさ。
「??まぁいいか。」
「...ちょっといい?今更だけど、あなたが例の外から来た人間なんでしょ?」
「え?はい、そうですけど...」
「ふーん...」
天子は亜衣夢をぐるぐると周りながら見つめ吟味しているようだった。亜衣夢はそれの意味がわからず硬直していると、いきなり両肩を叩かれたり顔を見つめてきたりと身体中を調べ尽くされるようにされた。
「な、何ですか...?」
「...いや、別に。」
―なんですのー?いや、そんなジロジロ見といてそれっすか?( ´△`)アァ-ーー
全く...本当にこの人もお嬢様なんだ...か、ら...
亜衣夢はある事に気がついた。そう、今までの経験から見出せる未来を。亜衣夢は血相を変えてその真相を確かめずにはいられなかった。
「そういえば、比那名居さ―」
「天子様!...よ。」
天子は亜衣夢が全てを言い切らないうちに言葉を遮ってきた。亜衣夢は納得しなかったが仕方なく言葉を言い換える事にした。
「...あの、天子..様?」
「何かしら?」
天子は快く返事を返した。しかしその中には傲慢というかレミリアに近い態度が潜んでいた。
「天子様は偉いのですよね?それならお付の人みたいなのが来るのではと...。」
「...あ。」
(はいやっぱり!ワンパターン一つ入りましたー!これは...来―)
亜衣夢の予感は完璧に当たった。本日2度目となる轟音と共に激しい閃光が撒き散らさせる。バチバチとスパークを起こしつつ何かが姿を現した。
「...総領娘様...ここにいたのですね!!!」
荒声と共に稲妻が落とされる。その姿はさながらスー〇ーサイヤ〇のようだった。すぐ横を見れば天子が怯えた表情をしていた。
「...亜衣夢、私は逃げる!!」
「えっ?えぇぇえ!?」
天子は一目散に彼女を『総領娘様』と呼ぶものから逃げだした。しかしその刹那、落雷地点から更に電撃が飛ぶ。ソレは確実に天子を捉え、感電させた。
「きゅう〜...」
「全く.........あ、」
今ここでやっと亜衣夢を認識したのか、惚けた声が口から出た。
「...」
「...」
◇〜場所は変わり、中庭にて〜
「...さて、亜衣夢の部屋ならず私の館を破壊した理由、きっっちりと教えてもらいましょうか...ね?」
レミリアは完全に切れていた。邪悪なオーラが身体から滲み出て手に持っているティーカップは既に取手の部分が砕かれていた。
『はい、すいませんでした。』
「ほんとに何しに来たのよ...天子、衣玖。」
「私は...普通にその、外からの人間がどんなのかを見たくて...」
「はい、私はそれを理由に勉強から逃げた総領娘様を追いかけて...」
「...はぁ、まぁいいわ。修理は妖精共にやらせるとして、あなた達に何か詫びでもはせないと気が済まないわ。」
「わ、詫び...?」
「そうよ。何かぐらいしなさいよ。謝るだけじゃ...ねぇ。」
―お嬢様キレてる!?ちょいちょい!しまって!その後ろから這い出てくるおぞましい怪物をしまって!悪魔を召喚しないで!
「...そうだわ、そこの阿呆天人と亜衣夢、戦いなさいよ。それでせめて楽しませなさい。」
「...」
「...」
『ええぇぇぇ!?』
「なんで私がこんな以下にも雑魚そうで(グサッ)弱そうで(グサッ)脆そうな(グサッ)奴と戦わ無ければならないのよ!?」
「そ...そうですよ...カフッ」
「なんでって、ソノ通りよ。」
「...は?」
天子はレミリアの言葉の意味を理解できなかった。いや、それは当然であろう。永く付き添っているはずの咲夜も同じく、理解できていないのだから。
「私は、貴方達に腹を立てているわ。ここまでボロボロにされてしまえば紅魔館の主としても黙っていられない。だから、貴方に屈辱を味わせるために、亜衣夢と戦わせるの。」
「何ですって...」
「いやいやいやいや!待ってくださ」
「あ?」
シューン(′・ω・`)
「...いいわ、それなら私がとっても強いってとこ見せてあげる!えと...おうむ!」
「亜衣夢です!!!」
「そう、亜衣夢!まぁ、安心しなさい。あなたみたいな塵畜生には本気は出さないわ。せいぜい...2割ってとこね。」
流石の亜衣夢もその発言にはカチンときた。レミリアに言われるのは慣れているが、初対面の人にそんなことを言われるとなると亜衣夢も黙っていられなかった。
「良いですよ...やってやりますよ!!」
「良い眼をしているわ...これは少し楽しめそうね!」
「行くぞ!スペルブック!」
□あいよ!久々の出番!
―パチュリー様直伝『アグニシャイン(簡易版)!!』
亜衣夢がそれを唱えるとスペルブックから直径30センチ近くの火球が数発放たれた。それらは天子の方へ飛んでいきホーミングしていた。しかし...
「あら?スペルカードは使わないのね。凄いじゃない。」
天子は一切動揺を見せなかった。それどころか亜衣夢の技をよく観察し吟味していたのだ。
「だけどね、そんなやわな攻撃効かないわよ。」
天子は刀身の燃えた剣を取り出した。その剣は亜衣夢の放った火球をいともたやすく切り裂き、破壊した。
「な...!」
「あら?もう終わりかしら?だとしたら期待外れね。」
確かに今の技は開発途中であり威力も強くない。が、あれほどまでに簡単にやられているのを見てしまいメンタルが砕かれかけた。
□...おい主人、アレ使うぞ。
「...あれ?」
□そうだ。それでもしなければ勝てない。
「...あれ、しんどいんだけど。」
□言ってる場合か!さぁやるぞ!
「...話は終わった?1人でボソボソと言ってたけど?」
「天子さ...さん!俺はこの一撃で事を終わらせます。覚悟してくださいね!」
「...ふん、望むところよ。」
「行くぞ!」
□おうよ!
―パチュリー様直伝『プリンセスウンディーネ!!』
更に...
―亜衣夢自作『ヴォルトサンダー!!』
これらを掛け合わせ...
『エレクトロニックウンディネ!!!』
その名と共に辺りを激しく閃光が包む。誰もがあまりの眩しさに目を開けられないほどの閃光が真っ直ぐ天子に向かって放たれる。魔本の使った魔法とは格段に威力に差がありその衝撃は地面の芝を焼き尽くしていた。
しかし...
「あら、まともなの撃てるじゃない。」
天子はやはり動くことなかった。その表情は余裕そのもの、亜衣夢の攻撃など効く由もないと語っていた。
「まぁ、なかなかだったわよ。それじゃ、終わりよ。」
天子は大地に剣を突き刺した。すると、そこの地面から大岩がいきなり突き出てきて亜衣夢の魔法をいともたやすく防いだ。
「なん・・・だと?」
「この勝負、私の勝ちよ。」
―非想の剣!
また剣を刺すとその突き出ていた岩が砕け散り亜衣夢目掛けて飛んでいった。亜衣夢はそれを防ぐ魔法を唱える暇もなく、あえなく衝突してしまった。
「グッハァ...」
「...勝負、ありね?」
「...そうね。もう亜衣夢は戦えない。まぁ、なかなか面白かったわ。これで許してあげる。」
「そ、総領娘様!やりすぎでは!?」
「なーに言ってんの?殺してもいないし致命傷でもない。ただ気絶させただけよ。...でもまぁ、確かに面白かったわ。人間が魔法使っているのだもの。」
「それでは、さっさと帰りますよ。怒られるのは私なのですから。」
「はーい。じゃ、そこの人間によろしくね。」
そう言うと天子と衣玖は飛び立ち、天上へと帰っていった。その後に、亜衣夢が苦しげに起き上がってきた。
「痛...」
「亜衣夢?大丈夫なの?」
「はい、何とか。最初はまじでやばかったけど、なんとか回復しました...」
「そう...それならいいわ。今日はもう休みなさい。部屋は既に直っているはずよ。」
「はい、そうさせてもらいます。」
そう言うと亜衣夢はおぼつかない足取りで中へ戻ったいった。咲夜とレミリアはその時謎の違和感を覚えていた。
「...おかしいわ。何故、あそこまで動けるの...?」
「お嬢様...」
「...何か、ありそうね。」
◇
「...」
「俺の...プリン...」
次回『烏天狗』
次があったら会いましょう。