続かない。
それだけだ。
「ふんふんふーん」
白髪赤目のうさぎを想起させる少年、ベル・クラネルはご機嫌だった。
つい先日までどこのファミリアにも入れてもらえず半ベソをかいていた時とは違いベルはオラリオという迷宮都市で心機一転頑張ろうとダンジョンに潜り、ついにモンスターを一体倒すことに成功したのだ。
バーン、とファミリアのホームである廃教会の地下へと入っていく。
「アクア様!僕やりました!ゴブリンを倒したんですよ!」
ベルにとってはやっとこさ成し遂げた偉業。
だがらアクアと呼ばれた女神は、一瞬惚けたような顔をすると、すぐに我に返って叫ぶ。
「はぁぁぁ!?何言ってんのよベル!ゴブリンごときじゃあ、腹の足しにもならないでしょ!もっとすごいのを狩って来なさい!階層主とか狩ってきて、私に美味しいものをたらふく食べさせて!」
この傲慢な女神はアクア。
水を司る女神なのだが、なんとも堕落した生活を送っている。
性格は今の発言からわかるようにダメ人間、いや、駄女神である。
自分は働かず、数少ないファミリアであるベルに稼ぎの全てを任せている。
そのベルもつい先日冒険者になったばかりで稼ぎなどろくにありはしないというのに、だ。
ゆえに、アクアファミリアのここ最近の主食はジャガ丸くんのみである。
「ご、ごめんなさい!僕、頑張ってきます!」
「期待してるわ!頑張りなさいよベル!」
ベッドに寝転びながらアクアはひらひらと手を振ってアクアはベルを見送った。
「そうか、ゴブリンじゃだめなのか。アクア様は階層主って言ってたなぁ。……よし!」
まだステイタスの更新を一度も行っていな新米が何を思ってか「よし!」などとバカなことを言い始める。
それを見かねてか、一人の神々しさを感じさせる銀髪ロングの少女がベルに近く。
「あの、少しいいでしょうか?」
「あ、はい、なんですーーっ!?」
「えと、あなたの独り言を聞いてしまったのですが。……冗談ですよね?一人で、しかもそんな装備で階層主なんて」
なんと慈愛に満ち溢れた少女なのだろうかとベルは思った。
いや、これは少女ではなく女神の域に入っているとさえ思えてしまう。
「え?で、でもアクア様が」
「またアクア先輩ですか。……いいですか?階層なんてものはですね、ベテラン冒険者がパーティを組んで倒すようなものなんです。失礼だとは思いますけど、あなたを見る限り、無理だと思うのですか」
「そ、そうだったんですか!?あ、アクア様が言うんだから僕でも大丈夫かと」
なんとも純粋な少年である。
いや、純粋である前に無知である。
「いいですか?あなたはソロで活動するようなので言っておきます。冒険者は冒険しちゃダメなんです!」
「……はい」
「よろしい。でしたらコレを持って行ってください。ポーションです」
少女はそう言うとポーションの瓶を三つほど取り出した。
「えぇ!?わ、悪いですよ!」
「いいんです。でも、アクア先輩には、内緒ですよ?」
人差し指を立て内緒のポーズをとる少女。
それはなんとも美しくベルの目には映った。
「あ、あの、な、名前は、お名前を聞いてもいいですか?」
「ああ、まだ言ってませんでしたね。私はエリス。幸運を司る女神です」
「ええぇぇぇぇ!?」
女神のようだと思っていた少女は、ようだ、ではなく女神だった。
♢
「うわぁぁぁぁぁ!?だ、だれかぁぁ!!!」
ベルは現在ダンジョン内で絶賛逃走中である。
その逃げている対象といえばーー、
「ブモォォォォ!」
ベルのいるような底階層ではいるはずのないモンスター、ミノタウロスであった。
「な、なんでこんな強そうなのがこんなところにぃぃ!!」
遭遇当初はアクアのためになんとか倒そうと考えたのだが、ミノタウロスの振るう怪力に顔を真っ青にしたベルは逃げ一択で行動を決めたのだった。
「あ、アクア様ぁぁあ!た、助けテェェェェ!」
倒すことも敵わず、ミノタウロスを撒くこともできないベルは涙目でただただ逃げ回ることしかできなかった。
迷路のようなダンジョン内を逃げ回ること数分。
ベルは入り組んだダンジョン内をただがむしゃらに逃げ続けていた。
すると、前方には一人の少女。
「ふむ、アクアから聞いた特徴と一致してます。あなたがベルですね?」
少女はベルと並走しながらも、本人確認。
「あ、はい、そうです。……あなたは?」
「我が名はめぐみん!オラリオ随一の魔法使いにして爆裂魔法を操りし者!」
「……めぐみんさん?どうして僕を?」
めぐみんは自分の名前についてツッコまれなかったことに喜びつつも説明をする。
「私もアクアファミリアの一員なのです。それで、新入りのあなたの面倒を見て欲しいとアクアに頼まれまして」
「あ、ありがとうございまぁぁ!?」
お礼を言おうとした瞬間、背後から岩が飛んでくる。
ミノタウロスはついに投擲をしながらベルを追いかけ始めたらしい。
そんな状況になってしまえば、ベルの死は時間の問題である。
「め、めぐみんさん!どうにかなりませんか?」
「ふっ、よく私に振ってくれました。我が爆裂魔法を見せてあげますよ!………その前に、詠唱の時間だけでも稼いでくれませんかね?」
「……わかりました!やってみます」
ベルは逃げ続ける足を止め振り返り、腰の短剣を抜く。
ベルの目には恐怖の色が浮かんでいるが、ここでやらなければ死ぬのだ、ならばめぐみんの魔法を信じるほか無い。
ミノタウロスの振り下ろされる腕をかい潜り懐に入ると短剣で横薙ぎ。
だが、ミノタウロスの硬い皮膚で弾かれる。
だが、それでも、諦めずに何か策を探す。
バガァァン。
ミノタウロスはそんな音を立てながらダンジョンの、壁や床を壊していく。
それと同時に舞う砂塵。
「そうだ!」
それを見てピンときたベル。
ベルは素早くしゃがみ小石を適当に掴み取ると、ミノタウロスの顔めがけて投げつける。
投げられた小石はミノタウロスの目にあたり、怯むミノタウロス。
そこに追い打ちをかけるようにベルは全力でミノタウロスの目に短剣を突き立てる。
「ぶ、ブモォォォ!!??」
ミノタウロスの悲鳴がダンジョン内に響く。
ベルの短剣はミノタウロスに刺さったまま。
次の手を失ったベルはめぐみんのところまで後退。
「ナイスですよベル!では見せてあげましょう。我が最強の爆裂魔法を!……その前に距離をとります。危ないですから」
ミノタウロスの視界が塞がれているうちになるべく魔法の射程ギリギリまで離れる二人。
「では、いきます。『エクスプロージョン』ッッ!!!」
その声とともに放たれる焔。
着弾と同時に耳をつんざくような爆音とものすごい爆風。
ダンジョンそのものを破壊しかねない威力の魔法がミノタウロスに向けて放たれた。
勿論ダンジョンのような狭い場所でこんなものを放てば術者どころか他の冒険者にまで迷惑をかけるのだが、その辺は命の危機ということで許されるだろうと、ベルは吹き飛ばされながら考えた。
♢
ダンジョンから戻ってギルドへ。
めぐみんの爆裂魔法は強力ゆえに消費魔力も絶大らしく、使用したら当分動けないらしいので、帰りはベルがめぐみんを背負う形になった。
「めぐみんさん!ダンジョンでは魔法を使わないでってあれほど!」
ギルドにてアドバイザーであるエイナ・チュールに二人揃って正座させられていた。
「ですがエイナ!お言葉ですが私の爆裂魔法を使わなければ二人まとめて死んでいたかもしれないのですよ!」
「二人が五階層なんて駆け出しが言っちゃダメなところまで行くからでしょう!」
「だったらいつどこでなら爆裂魔法を放ってもいいのですか?この前街の外で使ったら怒ったじゃないですか!」
「当たり前でしょ!」
なにやら言い合っている二人を尻目に、ベルは一人思いふける。
(爆裂魔法……カッコいい)
その後、ベルのステイタスには『爆裂願望』などというスキルが発現したとかしなかったとか。
誰か続き書いてくれない?
私はダンまちにわかだから書けへんねん。