七番隊長の日常
十一番隊長、更木も登場します。


ヒロインは飲み屋のおかみで恋愛未満。

自サイトとpixivにマルチ投稿していますが。
部分的に手直し、削ったりしてあります。

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pixivにupしたものを手直ししています。


飲み屋の女将と雨

 仕事が終わると、まっすぐ家に帰るというのは、いつものことだった。

 だが、このところ、狛村は一人でふらりと寄る場所があった、そこは小さな飲み屋で一月程前、偶然、店の女中に強引に客引きされたのがきっかけだった。

 

 初めて、店に入ったときは客は自分一人だけだった。

 二度目のときは近所の男達が数人ほどだった。

 大声で騒ぐわけでもなく、談笑しながら酒を飲んでいた。

 店の中に入って来た狛村の姿を見ても驚く様子もなく、死神の隊長が来るとは店の格もあがったんじゃねえかと女主人に声をかけるのだ。

 

 

 その日は、いつもより遅い帰宅だった、家に帰って食事の支度をする面倒だと思い、狛村は店に行こうかと考えた。

 飲み屋なので遅くまでやっている筈だ、この時間なら構わないだろう。

 

 店の前まで来たとき、暖簾が揺れて女が顔を覗かせた。

 「今夜は、もう、しまいか」

 「いいえ、お客さんは少ないので、暖簾だけでもと思って、お入り下さい」

 店内に入った瞬間、聞き覚えのある声に狛村は耳を疑った。

 

 「なんだあ、珍しいなあ、ワン公じゃねえか」

 声は十一番隊の隊長、更木剣八のものだ、仲が悪いというわけではないが、良いというわけでもない、そりの合わない輩というのはどこにでもいるものだ。

 狛村にとって、更木はまさにそういう相手だった。

 「酒、もうねえぞ」

 更木の顔は珍しく、赤くなっていた。

 「お主、一人か」

 狛村は思わず尋ねた、いつもそばにいる、副隊長やちるの姿がみえないのは珍しいことだった。

 「美味い酒を飲んでるときにガキ連れはねえだろ」

 この男にしては良識のある台詞だと思わずにはいられなかった。

 「よう、春雨、酌してくれ」

 「だったら、あたしが」

 更木の台詞に調理場から、若い女が嬉々として身を乗り出した。

 「てめえの酌なんか、うまい酒もまずくなるぜ」

 あっちへ行けといわんばかりの更木に、あたし女ですよと若い女は憤慨した声を

あげた。

 

 「何を召し上がられます、お酒は」

 「いや、それよりも腹が減っていてな」

 「栗と茸の炊き込み御飯がありますが、サンマの塩焼きなどはいかがです」

 秋の味覚を先取りした献立に狛村は喉の奥が、きゅっと鳴った、こんなときは待つ時間も楽しいものである。

 暫くすると、大きな丼に盛られた炊き込み飯、焼きサンマ、汁物の膳が目の前

に並び、狛村は箸を取った。

 「うまいな」

 「あたりまえだ、まずいもん出したら、こんな小さな店は潰れてるぜ」

 狛村の一言に、隣にいた更木が口を出してきた。

 うるさい男だ、一言どころか、文句が多すぎると狛村は口には出さなかった。

 「飲み屋なら、もっと色気のある女をだな」

 すると、女主人がすみませんねえっと笑いを返してきた。

 「お主、口の悪さは相変わらずだな」

 珍しく口を出されて、更木はむっとした顔になった。

 黙々と箸を動かしながら狛村は睨みつけるような視線に何も言わず、箸を動かしていた。 本人は分かっていないの口の悪さを、自覚があって口にするなら、尚更、たちが悪い。

 

 「帰っていいわよ、桔梗」

 女主人の言葉に、女はいいえと首を振ると更木の隣にどんと腰を降ろした。

 「お酌します」

 嫌がる更木の声など、お構いなしといったようである。

 「お代わりはいかがですか」

 空になった丼に天こ盛りの飯が盛られる、すると狛村は、それもあっという間に平らげた、空腹のせいもあるだろうが、味付けも丁度いい塩梅で美味いのだ。

 「甘いものはいかがです、栗蒸し羊羹、作ったんですが」

 菓子は嫌いではなかった、皿に盛られた羊羹を食べる狛村は、ふと視線を感じて隣を見た、更木の顔が、いかにも不機嫌そうに歪んでいた。

 おもしろくないといわんばかりの顔つきだった。

 酌をされた杯を一息に飲み干すと、更木は席を立った。

 「邪魔したな」

 

 更木が店を出ると、桔梗は怒ったように女主人に声をかけた。

 「口の悪い人ですねえっ、怖い顔をしてるくせに、お酌してくれっていうときだけいい顔して、駄目ですよ、春雨さん、あんな人は」

 むっとしたよう桔梗は狙われてますよと声をかけた。

 

 「雨が降りそうですから、傘を」

 店を出た狛村に、女が傘を手渡そうとした。

 空を見上げると、ぬるい風が体中にまとわりつくようだが、たいしたことはないと思い、断ろうとした。

 風邪をひかれては大変ですからと女は傘を握らせようと手を取った。

 手が、ほんの少しだけ触れる。

 「すまぬな」

 声が、ほんの少しいつもと違う、狛村は自分でも気づいていなかった。

 

 「更木は、先ほどの男は、よく来るのか」

 返事は、すぐに返ってきた、そんなことを聞いてどうするのだろう。

 いや、聞いたところで自分に関係あるのだろうか。

 そのとき、狛村の鼻先に冷たいものが落ちてきた。

 軟らかい雨の滴に傘を広げ、濡れないようにと頭上にさしかけると、雨は嫌いですかと女が尋ねた。

 

 「よお、降る雨ですなあ」

 うんざりしたような声で、外を見ながら狛村に声をかけたのは射場だった。

 仕事続き、雨続きで、もう三日も外に出ていないのだ。

 体がなまってしもうてたまらんと辟易したように呟きに狛村は思わず笑いをも

らした。

 外を見ると、その雨は、あの夜の静かな夜を思い出させた。

 雨というものが、近頃、嫌いではなくなった。

 だが、その声は射場の耳には届いてはいなかった。

 

 しとしとと降る雨の中、傘の下で濡れてしまうと彼女の、春雨の体を抱き寄せ

たことを、狛村は思い出していた。

 


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