この世界、おばさんにはちょっとキツイです。   作:angle

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短い上に事件とコナンがいません。


FILE.18 福利厚生はいつも強制 ~プロサッカー選手脅迫事件~

5月16日(月)

 

 

さて、月影島から戻ってきた翌日の朝。

今日も朝のアラームで目を覚ましたあと、お風呂にお湯を溜めながら、まずはお洗濯から始めた。

なにしろ出張で出た洗濯物が丸3日分もたまりまくってるからね。

(以前下着だけでも買い足しておいてよかったよ。じゃなかったら足りなくなるところだったわ)

お風呂を出て作り置きのカレーで朝食にしたあと、全自動から出てきた下着をひたすら干しまくる羽目になった。

 

 

そんなこんなで身支度をして家を出たのが朝の10時、私は毛利探偵事務所へと出勤した。

 

 

「おはようございます」

「おう、早いな」

「朝は割と強い方なので。さっそくパソコン使いますね」

「ああ、よろしくな」

 

 

それからはひたすら月影島の事件のおさらいだ。

昨日の帰りの船の中であらかたまとめてはあるので、報告書っぽくレイアウトしながら打ち込んでいく。

毛利探偵は相変わらず暇そうだなぁ。

これでちゃんと蘭さんを育ててこれてるってことは、まあそれなりに大きな仕事は今までも来てはいたんだろう。

 

 

ていうか、もしかしたら案外、親の遺産とかで食うには困ってないんだったりして。

そのあたり、原作にはぜんぜん出てこなかったから、ちょっとばかり興味をそそられる部分だったりする。

 

 

できれば蘭さんが帰ってくるまでには終わらせたかったから、急ピッチで進めてたんだけど。

さすがに丸々2日分ともなるとそう簡単には終わらなくて。

昼食をはさんだ午後3時過ぎにやっとどうにか作り上げることができたんだ。

 

 

「ふう……」

「終わったのか?」

「はい。あとはもう一度日を置いてチェックをすれば完成です」

「ご苦労だったな。次はいつ来る予定だ?」

 

「そうですね、毛利探偵の都合がいい日でいいんですけど」

「……ああ、そういや、蘭がオメーに話したいことがあるとか言ってたぞ。じきに帰ってくるから、それまで待ってたらどうだ?」

 

 

……いや私、なんでこんなに急ピッチでやってたかって、ひとえに蘭さんに会いたくなかったからなんですけど。

だってさ、順調にいけば今日って、プロサッカー選手脅迫事件が起きる日なんだよ!

さっき毛利探偵が聞いてたラジオでもちらっと、東京スピリッツとビッグ大阪の試合がどうとか言ってたし。

あの赤城量子って子が訪ねてくるよりも前に帰らなきゃ、ぜったい蘭さんに現場まで連れていかれるに決まってるじゃん!

 

 

「いえ、ほんとに、今日のところは帰らせてください。ちょっといろいろやりたいこともあるので」

「仕方ねーな。じゃあ、オレの方から話しておくか。オメー、明日はなにか用事があるのか?」

 

 

明日、って……。

原作の掲載順で言ったら、プロサッカー選手脅迫事件のあとは確か、闇の男爵殺人事件のはずだ。

……。

……ホテルで串刺しになるヤツだよ!!

 

 

「あ、あの、先日の原付免許が……」

「そんな急いで取るほどのもんじゃねえだろ。タダでホテルに泊まれるってんだ。オメーの分もあるから一緒に来い」

 

「……なぜ私の分が……?」

「大人3人と子供1人で予約してあるんだとよ。部屋も2部屋あるらしいから、オメーがちょうどいいだろ。従業員の福利厚生だ! オレは最高にいい雇い主だな、ワッハッハ……!!」

 

 

いやいや、毛利探偵が最高にいい雇い主かどうかは置いといて。

明日が火曜日で明後日が水曜日だってこともひとまず置いといて。

確かこの話、阿笠博士が友人の博士とそのお孫さんと3人で行く予定だったところに、急に都合が悪くなったから毛利一家が譲ってもらったツアーだったはず。

それがなんで、私の分の人数が増えてたりするんだ……?

 

 

つまりこれ、もう私が行くのほぼ決定ってことじゃないですか!

世界の修正力が働いた結果としか思えないよ!

 

 

「あの、奥様とかは……」

「無理だとよ」

 

 

あ、一応訊きはしたんだ。

 

 

「園子さんなんかはいかがですか?」

「それも蘭が訊いたらしいが、用事があるって断られたらしい。ま、あいつも忙しいからな」

 

 

鈴木財閥のお嬢様だからね、いろいろあるんだろう。

ていうか、ここで押し問答してたら、蘭さんが帰ってきちゃうかもしれないし。

もうあきらめて受けた方がいいような気がする。

 

 

「判りました。ご一緒させていただきます。何時に来ればいいですか?」

「朝飯食ってからだから、8時でいいんじゃねえか?」

「はい、判りました。よろしくお願いします」

「おお」

 

 

そのあと。

出来上がった文書は用心のため、本体と、私が自宅から持ってきた外付けハードディスクと、サービス品らしいUSBメモリーの三箇所に保存して。

(いやだって、パソコン初心者が触る可能性があるパソコンなんて、なにがあるか判らないし)

一部だけ印刷したのは毛利探偵にチェックをお願いして。

どうにか蘭さんが帰宅する前に毛利探偵事務所をあとにすることができました。

 

 

……串刺し事件が待ち構えてると思えば、あんまりうれしくはないけどね。

 

 

 

さて、時刻は午後3時を過ぎたところで、まだじゅうぶん時間はあったから。

帰宅してから少しだけ休憩したあと、また工藤邸のお掃除へ向かいました。

 

 

今回は、以前から気になっていて、でも時間がなくてできなかった窓ふきだ。

工藤邸の窓はほとんどが観音開きで外側へ開くタイプなので、まずは恒例の全部屋全開にしたあと、1階の窓から順番に片側ずつ、表と裏を水拭きと乾拭きできれいにしていった。

バケツの水を何度か変えて、1階を終えたところでタイムアップ、3時間のお仕事だ。

この次は2階の窓から始めることにしよう。

 

 

 

そんなこんなで、無事にお勤めを終えたあと。

テレビでサッカー中継を見ながらストックのカレーで夕食にして。

東京スピリッツの勝利でサッカー中継が終わってしばらくした頃、蘭さんから電話がかかってきたんだ。

 

 

「あ、愛夏ちゃん? ねえ聞いてよ! 今日たいへんだったんだから!」

 

 

そんな感じでしゃべり出した彼女は、けっきょく30分くらいかけて、工藤新一の彼女が現われた事件のいきさつを語り続けて。

最後に工藤新一が中途半端に姿を現わしたせいでよけいに疑惑が深まったらしく、今度会ったらとっちめるんだと息巻いていて大変だった。

対する私はまあ、半分以上聞き流してはいたんだが。

(真相はマンガで知ってるし、よけいなことを言って変な疑惑を持たれても困るし)

これ、原作では3日くらいかけて赤城量子に説得させてたけど、明日から泊りがけで伊豆のホテルだし、誤解が解けるまで原作よりも時間がかかるんじゃないだろうか?

 

 

「だから愛夏ちゃん、そういう訳だから。ねえ、聞いてる?」

「あ、うん。聞いてたけど何が?」

「んもう、ちゃんと聞いててよ。明日は伊豆のホテルに泊まるから、水着持ってきてね、って話」

「……水着……」

 

 

……あったっけ?

確か、20代の頃に近所のスイミングスクールに通うつもりで買って、けっきょくほとんど行かなかったから真新しい状態のがあった気がするけど。

でも20年も前の水着とか……!

 

 

「たぶん家の中をひっくり返せば出てくると思うけど、今から探すのは無理 ―― 」

「えー!? じゃあ愛夏ちゃん泳げないじゃない!! 私の、ビキニでよかったら貸そうか?」

「いや、サイズが……」

「ひもで縛るタイプだから大丈夫よ。判った、じゃあそれも持っていくから」

 

 

ていうかその前にビキニとか着たことないんですけど!?

スタイルがいい人ならカッコいいとは思うけど、私の体形でビキニとか、どこの勘違いおばさんだって話なんですけど!!

 

 

 

これはもう自分の水着を探すしかないと。

蘭さんと電話を切ったあと、家の中のありそうなところを探しまくって、なんとか見つけましたよ20年前の水着を!

とりあえず虫食いも色あせもなかったから、一度試着して確認してみて。

上に羽織るパーカーも探し出して、海にいる間はこれは脱がないぞと決意しつつ、ぐったりしながら明日の支度を終えた。

 

 

毛利探偵事務所の事務員、今からでも辞めちゃダメだろうか……?

 

 

 

眠る前にふとケータイを見たら、工藤新一からのメールが届いていました。

内容は、タイトルが「ありがとな」で、本文が「犯人の自殺を止めてくれて」で。

これが来たのは実は今日の昼間だったのだけれど(音が鳴らない設定にしてあるので届いたのに気づきませんでした)、その前にももう一通、挨拶っぽいのが4日前の日付で届いていて。

気が向いたら返事をくれとか、けっこう遠慮がちな文面で、ちょっと笑っちゃいました。

 

 

いや、笑っちゃいかんな、きっとあちらは真剣なのだろうし。

今更ながらアドレス教えたのは失敗だったかもしれないと思う。

 

 

まあ、ほんとに耐えられなくなったらアドレスを変更しよう。

せめてそのくらいの自由は許されてもいいと思う。

 

 

これ以上メールの頻度が上がらないよう祈りながら、私はケータイをぱたりと閉じた。

 

 

 

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