緋弾に迫りしは緋色のメス   作:青二蒼

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年末の滑り込み投稿。

毎年、そんな感じがします。

ちゃんと生きてますのでご安心を。



113:日常からいつもの非日常へ

 

 お姉ちゃんとの密会で、ジーサードとキンジのみにある種の情報提供をした。

 それも、お姉ちゃんからしてみればただの布石。

 お姉ちゃんの言うとおりに動けば、ある種のバタフライエフェクトが動いて望む答えに知らずの内に誘導される。

 ま、そんなのは私も含まれてるだろうけどね。

「えー、短い間ではあったが、遠山と赤桐が転校する事になった」

 数日後、下校前のLHR(ロングホームルーム)で担任の先生が2年2組のみんなにそう言う。

 今回の一件でキンジは何かしら掴んだらしいし。

 私はキンジがいないなら残る意味もない。

 そもそも、経過観察任務でキンジの様子を見てるんだし。

 だったら御役御免というやつだね。

「えーっと……短い間でしたが、ありがとうございました」

 キンジはそんな面白みもない挨拶で締めくくってる。

 それ、担任の先生の挨拶を半分くらいパクったヤツでしょ。

 さてと……私はどうしようかな?

 武偵が一般校に潜入してたもんだし、それをバラすのは余計な不安をあおる可能性がある云々(うんぬん)かんぬん。

 ちょっとサプライズしようかと思ったけど、余計なことで武偵に目をつけられることもない。

 私も何だかんだ、無難な挨拶をして終わった。

 ただ1人、望月さんは複雑そうな表情をしてるのを私は見逃さない。

 あの様子だとキンジを追い掛けてきそうだね。

 それはそれで私は構わないんだけど、重荷になる自覚がない人ってのはある意味では罪人より度し難いよね。

 私からすれば楽しみが増えるんだから、とても助かるんだけども。

 それよりもキンジに対しての反応は「遠山!」「遠山くーん!」と、別れを惜しむようなクラスの反応が絶えない。

 中でも望月さんは、泣き出して近くの女生徒に(なだ)められてる始末だ。

 なんだかんだカリスマというか、面倒見の良さが出ちゃってるよね。

 最初は遠ざけるように言ってても関わったら最後の最後まで責任を取るというか。

 お人好しって言われても仕方ない気質。

 だからこそ、冷たい言葉の裏側にも何となく気付いちゃう人は多い。

 朝青(あさお)と藤木林という2人の生徒に関しては、顔に絆創膏があったりと見るからに怪我だらけだが、身に着けた制服はビシッとしてる。

 そのまま、

「俺らのこと忘れないでくださいね、遠山さんッ!」

 と2人は遠山にハグをする。

 それから、私に不意に目を向けて来たので一瞬だけウィンク。

 私の様子にちょっとだけ、驚いた顔をしてる。

 その視線の先にはわざとちょっと広げた私のブレザーの内に顔を覗かせる閃光弾(フラッシュグレネード)

 まあ、大々的とはいかないけどこれぐらいなら察せるでしょ。

 それから内緒、とばかりに人差し指で「シー」とジェスチャーする。

 でも、それだけでも何となく分かったのか2人は他の生徒には気付かれないよう静かに頭を下げた。

 私はそんな感謝される人じゃないんだけどね。

 でも、ちょっとおかしくて苦笑する。

 自分達が知ってる人が知らない間に1人消えてるのにね。

 そうして放課後、すっかり夕方になって――私は校長室で経過観察任務の件のお礼を言った。

 しかし、そこの校長は逆に「再び生徒が学ぶようにしていただきありがとうございます」とお礼を返された。

 それから私は、私じゃなくそれはキンジのおかげだと言って、そこを出た。

 そのままキンジとレキが下駄箱のある昇降口を出たところを見かけて追い掛け、合流する。

「なーに、やってるのかな?」

 2人の間に割り込むように顔を出したとこで、レキは私を面白くなさそうな視線をし、キンジは呆れた顔をする。

「お前な……経過観察任務なんてなんで受けてるんだよ」

「今更その話? もう終わった話だよ」

「なんで追い掛けてきてるのかが分からんから聞いてるんだが……」

「――それ聞いちゃう?」

 私はその言葉に思わず詰まる。

 まあ、気になってるのはあるし……観察的な意味もある。

 だけどそれよりも――

「あー……」

 素直に言葉に出そうと思って、私は出なかった。

 いつもなら、何の恥じらいも臆面もなく自分の胸の内を言えた。

 でも、何故か視線が合わせられなくて言葉が出てこない。

 ――寂しかった。

 そう言えるはずだったのに、今は言えない。

 だって……キンジにからかわれる口実を与えるのはちょっと癪な気がする。

「――そうらァ!」

「いっせーの、せっ!」

 どう返答したものか考えていたら、校舎の2階、2年2組の教室の窓から、さっきハグしてた藤木林と2年1組の窓からは女の子のかけ声が聞こえた。 

 みんな振り返れば、そこには校舎の窓から下へと落ちる垂れ幕。

 遠山、赤桐、レキの偽名である矢田。

 それをカタカナで書いて『アカギリ トオヤマ ヤダ』って感じで縦に垂れ下がってる。

 上手く縦になるよう工夫してるね。

 キンジを見れば、さっきの質問よりもこっちの方に心を奪われたらしい。

 安堵と共に複雑な心境が少し混ざる。

 ……こういう日常も、もしかしたら案外良かったのかもしれない。

 そう思えるくらいには……退屈じゃなかったよ。

 

  

 校門を出たところでキンジ達とは一度別れる。

 その別れた先ではどこかで見た金髪のツインテール。

 まったく……カワイイ妹だこと。

 わざわざ迎えに来るとは思わなかった。

 電柱に背を預けて、横目でチラリと私を見る。

 どこか呆れたような顔をしたかと思えば、少しだけ目付きが鋭くなって私を睨む。

 それはどこか怒気を含んでるような、そんな目。

「なにか言うことがあるんじゃないかな、お姉ちゃん」

「ただいま」

「………………」

 どうやら望んでいた答えではないみたい。

 いや、分かっててはぐらかしてるとバレてる。

 この反応からして既に色金保有者であることが周知された……と見るべきだろう。

 保有者であることがバレるのは力を使ったか公言したか、あるいは心臓をぶち抜いたかの主に3択。

 そこに(コウ)が関わって来るとなれば、消去法で答えは一番最初になるだろう。

「ゴメン、使った。ちょうどいい機会だと思ったし、遅かれ早かれ神崎が近くにいるならいずれバレてる。まあ……王手(チェック)を掛ける大事な布石でもあるけどね」

「……布石なら分かったよ。心臓に悪いけど」

「心臓が悪くなるのは、私なんだけどね」

「なら最初からやらないでよ」

 それはごもっとも、と私は苦笑する。

 同時に私は質問する。

「怒らないの?」

「回りくどくて趣味に走るけど、何だかんだ必要なことしかしないお姉ちゃんだし……どうせ言っても聞かない。そうでしょ?」

「そうだね」

「ちょっとは悪びれない?」

「悪びれてたらもうちょっと自重するよ。それに約束する」

「ごもっとも……だね」

 悲しみと呆れを交えたような複雑な表情で理子は肩をすくめる。

「私はそう簡単に死にはしないよ」

「そういうことじゃないんだけどね」

 どこか少しイラつきを含めて言いながらも、理子は自然に私と肩を並べて歩く。

 それから顔を覗き込むように、

「死んだら一生恨むからね」

 そして頬を膨らませてる。

 様子から見るにどうやら怒りはおさまったらしい。

「分かってるよ」

 とは言え、納得はしないだろうね。

 やれやれ……私の本性を分かっててなおこれだから、妹ながら物好きだと思うよ。

 

 

 武偵高に戻って来た私は早速、経過観察任務終了の報告を高天原(たかまがはら)先生にする。

 ついでにレポートも添えて。

 そりゃあ、武偵が一般に戻るのに「はい、今日から一般人」とはいかない。

 武偵ならではの技術、そして機密、合法的にしばらくは有効な武偵の武器使用許可証。

 それらを悪用しないか、民間として問題ないかの素行調査も含まれてる。

 普通なら1ヵ月ないし2週間でのちょっとした長期任務だからね。

 それらを提出と報告をし終えて私は戻る。

 大した話は特にはしていない、キンジは学校でどうだったか程度の話。

 とはいえ、ちょっと生暖かい視線を向けられるのはどうかと思う。

 そりゃあ、先生からすれば青春って感じでどことなく母性的な感情が湧くでしょうけど。

 まだ、こっちは恋愛初心者……この感情の付き合い方は私には難しい。

 新鮮ではあるのだけどね。

 それよりも――

「やあ、どうも」

 英国紳士の変装で私は1人の客人に話しかける。

「何者よ……」

 そう、あのヤクザとドンパッチした夜に(さら)って来た鏡高(かがたか) 菊代。

 彼女を横浜にある紅鳴館へと招待した。

 別に牢屋に入れたり身ぐるみを剥いだりなんてしていない。

 ただ、連絡手段とかは奪わせて貰ってる。

 リリヤに彼女を見張るようにして貰ってるので、変な事はできないだろう。

 彼女を欺くのは並大抵の者では無理だからね。

 応接室のような場所で革張りのソファーで対面する彼女は、警戒心むき出しの中に恐怖をにじませる。

「さて、私が何者か……それよりも重要なのは自分がこれからどうなるかの方が心配ではないのかね? ああ、紅茶はどうだい? 彼女が入れるのはロシアンティーだが、なかなかに美味しくてね」

 扉を塞ぐように立つリリヤに少し目を向けて、私はスプーンでジャムを一つ舐める。

「ロシアンティーはジャムを紅茶に入れて飲むと思われがちだが、実際はこうして舐めてから飲むのが普通だそうだ。直接入れると紅茶が冷めてしまうからね」

 そして、私はソーサーとカップを持ち上げて飲む。

 鏡高は怪しみながら不安に揺れる視線をテーブルの紅茶に目を向ける。

「なに、毒なんて入ってないよ。そんな回りくどいことをするくらいなら、君はあの豪邸で死んでる」

「……アタシを利用でもするの?」

「利用と言えば、そうだな。ただ、君の裏社会関係のあれこれを利用するつもりはない」

 私の言葉に鏡高は少し眉を動かす。

 自分が思っていたことと違う回答に疑問を持っていることだろう。

 利用するならそこしかないと。

 残念だけど、私には特に利用価値もないし利用する算段が立てられたとしても組み込むほどでもない。

「私が君を連れて来たのは、ちょっとした趣味だよ。なに、用事が済めばいつもの通りに過ごしても構わない」

 その言葉にポーカーフェイスをしていても、鏡高はますます分からないとばかりの目の色。

 極道だからと多少は肝が据わっていても、私の不明瞭さに不安は隠しきれないだろうね。

「私はね、人を見るのが好きなんだよ。人の中身をね……それは内面であったり内臓であったり色々だ」

「………………」

「君の中身も興味深かった。裏社会に生きる人間の割にはキレイだったよ」

 思わずにやけて放った言葉に、鏡高は呼吸が少し荒くなる。

 ぞわりとしたような目、そして何かの気味悪さを感じてしまった表情。

 私の言い回しと、異常さに気付いてしまったみたいだね。

 自分の服の中身を見るように、開きはしなくても着物の襟を掴んで視線を落とす。

「なに、女性の肌に傷が残るようにはしていないさ。そう心配しなくてもいい」

 我ながら手術痕を残さないようにする技術はなかなかに上手くなったと思う。

 また解体するならキレイな方が気持ちいいからね。

 よく見なければ擦り傷の痕程度にしか見えない。

「なにが、目的よ……」

「言っただろう? ちょっとした趣味だよ。さて、あとは君が他言無用でいつもの日常に戻ってくれれば構わないよ。途中までそこのメイドに送らせよう」

「…………」 

 この場で逆らうのは得策じゃない。

 だけど、ただで帰して貰えるとは思っていない。

 メイドの少女――リリヤに何かされるかもしれない。

 そんなところだろうね。

 こういう状況でどういう風に考えるかなんて大体は予想がつく。

「1人で帰るわ」

 だから、その答えも予想通り。

 

「――ご自由に」

 

 私はニコリと、朗らかに笑みを浮かべる。

 

♦      ♦      ♦

 

 謎の男にメイド、そいつらに何故か拉致られたかと思えばあっさり解放された。

 所持品もそのまま返されて、拍子抜けがする程に何もなかった。

 意味不明な気味の悪さ。

 目的なんて、何も分からない。

 白野の顔をした何かにアタシはやられた。

 もしかしたらと、アタシは考える。

 でも……変装なのか本人なのか、それともグルなのかは判別が出来ない。

 どういうことなの……?

 ともかく、他言無用だなんて言ってた割には監視されてるような感じもしない。

 それがなおさらに不気味でならない。

 アタシが何かされたのは確か……それすらも、分からない。

 さっきのことを忘れろなんて、無理に決まってる。

 それにあの男の雰囲気はアタシが見てきたヤクザ共よりも飛び切りヤバい何かだった。

 そんな男に、アタシは何かをされてる。

 …………遠山。

 思わず、アタシのヒーローの顔を思い浮かべる。

 もう少しで組の事務所の1つに辿り着く。古参で、父の信頼が厚かった重鎮。

 さすがにアイツなら裏切者ではないでしょう。

 でも、その前に――

 路地裏に移動して携帯で遠山の電話番号を選んで掛ける。

 この不安をどうしても晴らしたい。

 ただ声を聞くだけでもいい。

 お願い……助けてよ。

「とおや――ッ!?」

 繋がって、声に出した瞬間に走る痛み。

 なに、これッ……?

 胸が、心臓が苦しいッ。

 締め付けられるような激しい痛み。

「はッ……あぅ……ああ!」

 手が強張って携帯を落として、思わず膝から崩れ落ちる。

 胸を押さえながらアスファルトを跳ね転がる携帯に目を向ける。

 携帯の近くに、誰か、いる……?

 ……誰?

「鏡高さん」

 白野がそこにいた。

 まるで待ってたかのように、アタシを見下ろして。

 それから携帯を拾い上げたかと思えば、通話を切る。

「……アン、タ」

「他言無用って言ったのに、早速キンジにお電話とはね」

 しゃがんで、白野が笑顔で痛みにうずくまるアタシを見下ろしてる。

 まるで愉快なものでも見るように。

「どうして痛いか知りたい? 知りたいよね」

「…ぁ……は」

 言葉が出ないアタシを待たずに白野は勝手に説明し始める。

「君の中を(いじ)らせて貰って、ペースメーカーってやつを埋め込んだんだよね~。心臓の動きが悪い人の補助をする機械で普通なら胸の上に機器が見えるんだけど、これは小型で肋骨の内側に入れてる。女の子の体だし見た目で何か違うのはいただけないからね~」

 そ、んな……

「人間の動きは結局は電気信号だからね。その電気信号を読み取ることが出来れば、鏡高さんが何しようとしてるか分かるってこと。詳細は省くけど、そのペースメーカーが君のNGな行動を検知したら自動的に心不全を起こすように働きかける。だから心臓発作と同じような痛みが出る」

「どう、し、て……」

「どうして? そうだね~、これが落とし前かな? 彼の"傍にいてもいいけど、一緒になる"ことは許さない」

 それから、にっこりとそいつは笑う。

 純粋で残酷な程に邪悪なその笑顔は今まで見たことはなかった。

「君のヒーローの手は届かない。(すが)りたいなら(すが)ればいい……ま、何も出来ないんだけどね♪ それじゃあ、風邪をひかないように気を付けてね~」

 私は……望みを、ささやかな助け(希望)すら、届かなくなるのが分かる。

 ――心は解体(こわ)された。

 

♦      ♦      ♦

 

 ――う、あああぁぁぁぁ!!

 背中越しに聞こえる嗚咽(おえつ)と、泣き声。

 ん~……スッキリ。

 またしてもウルスラちゃんに協力をお願いすることになるとはね。

 私が背負われてる間に鏡高を攫ったのは彼女。

 やっぱり、誰にでもなれる子は使い勝手が良いね。

 解体以外で晴れ晴れとした気持ちになるのは久しぶりだよ。

 悪役らしく三段笑いでもすればいいかと思ったけど。

 無様だからこそ、結果は真摯(しんし)に見届けなきゃいけないよね。

 もうキンジの隣に立てる資格なんて自分にはないと思った彼女はそれでも(すが)るのか、どういう選択をするのかは非常に興味深い。

 しかし、既に次のイベントはもう決まってる。

 ――修学旅行Ⅱ(キャラバン・ツー)

 修学旅行という名のチームの連携力その他、武偵として国際社会へのあれこれを学ぶ社会体験。

 それが差し迫ってる。

 次の舞台は十中八九、香港(ホンコン)になるだろう。

 藍幇(ランパン)と接触し、身近な敵対組織となればそうなる。

 お姉ちゃんの計算通りに事は運んでる訳だね。

 そして……エニグマのお披露目にもなるだろう。

 R.I.P(リップ)が香港で何かするつもりだろうし、きっと面白くなる。

 

 

 という、私の予想通りにキンジが武偵高に復学してから早速だが招集が来た。

 キンジが武偵ランキングにランクインして、銃会社であるベレッタ社から奨学金を貰ったうんぬんかんぬんの話は割愛しておこう。

 本人、現実逃避気味だし。

 そうして集められたバスカービルメンバー+ジャンヌ、ワトソンの外部協力者がキンジの部屋に集まった訳だけど。

 部屋の主であるキンジは眉を寄せて頭が痛くなりそうな現実から目を背けてる。

 だって、全員が体操服で集合ですからね。

 私は淑女なのできちんとジャージを羽織っています。

 キンジにとっては目の毒だろうし、あと冬なので寒いし。

 ジャンヌと白雪と理子はブルマーというね。あとはハーフパンツみたいな一般的な体操服だけども。

 一体、誰がこんな運動着を提案したのか……普及されたのはブルマーさんという方?

 でも、この形になったのは日本だという話を理子が前にしてた気がする。

 変なサブカルチャーに詳しい妹だよ。

「なんで着替えてこないんだよ、お前ら……!」

 と、キンジは現状にようやくツッコむ。

 そこで髪を下した神崎が口をへの字にして――

「しょうがないでしょ、女子更衣室が壊れてたんだもん」

 そうぼやく。

 文字通りに部屋ごと壊れたりするからね、ロケット弾の発射訓練とかの誤射で。

 建築会社は儲かるだろうけど、この手の学校は無駄に修繕費が掛かるよね。

 という、裏話は置いといて――

「――作戦会議ってのは、極東戦役(FEW)についてだ」

 と、キンジは鋭い眼で切り込んだ。

 しかし、キンジは暖房のついてるエアコンの風下で顔を微妙にしかめる。

 さてはエアコンの風から運ばれるこの女子空間の匂いに、早くも危険信号が出てるんだろう。

 キンジ、鼻が良いからね。

「打って出るつもり、なんでしょ?」

「話が早いな」

 その通りだとばかりにキンジは答える。

「この間のあれやこれやで考えれば、何となくはね。藍幇(ランパン)は撤退した……なら態勢を整える前に叩く。基本的な話でしょ?」

 私の言葉に鏡高邸の事件の当事者だった面子は同意するように頷く。

 ただまあ、あっちのホームグラウンドである以上どうしても地の利的にはアウェーな訳だけど。

 タイミングで考えればどっこいどっこいかなって感じかな。

 私には関係ないけどね。ホームグラウンドだからこそ相手の隙がある訳だし。

 そこに入り込めるから、誰も私に辿り着けてないんだから。

「霧の言うとおりに打って出るぞ、ターゲットは藍幇だ」

「なんで急に鼻声なのよ」

「うるせえなッ、人間の鼻は詰まる時には詰まるんだよ」

 あまり鼻に刺激がいかないようにしてるキンジに神崎が指摘。

 話を進めようとしたら、いきなり出鼻が挫かれた感じ。

「ああ、そうだ。トオヤマから調べるように言われてたココ達だが……拘置所へ輸送中のところ襲撃されたらしい。既に司法取引として金による賠償も済まされている」

 そうジャンヌが三つ編みを揺らして、ここの面子には知らされていない件を告げた。

 私と理子はリリヤのことだし知ってる。ワトソンは独自に調べて既に知ってるような様子。

「……どういうことよ?」

「既に済んだ話として情報はあまり公開されていなかったようだ。(おおやけ)には出来ないが情報封鎖がされている訳でもなかった」

 まあ、新幹線ジャックなんてしといて取引無しにお咎め無しはいかないでしょう。

 とは言え、ココ達の藍幇での地位は下がったには違いない。

「しかし、どうも腑に落ちない。ココはおそらくだが藍幇で軟禁か何かしらの処罰を受けているはずだ。もう一度この日本に来るには賠償が済まされているとしても再逮捕されるリスクがある以上は、来る意味があまりないように思える。だとすれば――もしかすると、4人目のココがいるのではないかと私は予測するのだが――」

 そのジャンヌの言葉に、一同は顔を少し曇らせる。

 ココ程度と言えばアレだけど、3人で苦戦してたのに4人目なんて勘弁して欲しいだろう。

「いるよ、4人目。あたしはジャックから聞いてるけど」

「理子、知ってたのか?」

「よくイ・ウーで商売に来てたメガネのココだよ。あの子が4人目」

 これには元イ・ウーメンバーだったワトソンと尋ねたジャンヌも目を丸くしてる。

 3姉妹どころか4姉妹でした、と。

 4つ子だからっていくら何でも全く同じという訳ではない。

 それを見分けられるのは至難の業ではあるけども。

 私? 言わなくても分かるでしょ。

「なるほどな、3姉妹どころ4姉妹かよ……それと諸葛という男も得体が知れない。それと、(コウ)という少女がいる。玉藻曰く――孫悟空なんだそうだ。如意棒とかいうレーザービームを放つ。これも強い。あれは一言で言って必殺技だ。誰も勝てないだろう。"俺以外"は」

 などとキンジが攻略方法があるみたいに強調するのは牽制だろう。

 ここにいる面子の。

 割と血気盛んというか、鉄砲玉みたいな娘が多いからね。特に色金持ちのお嬢さんは。

「猴は俺に任せろ。また、誰かが傷付くのを見るのは御免だ。手助けがいる時は招集してやるから、そしたら来い」

 イケイケなリーダーを気取ってる。

 まあ、こうでも言わないと我先にと敵を目の前にしたら突撃しかねないもんね。

 ――ちょっとカッコイイって思っちゃうけど、攻略方法が本当にあるのか微妙なところだよね。

 本当の意味で言うなら私の方が適任ではあるんだろう。

 

 

 ワトソンを日本の守備として残し、バスカービルは香港へ行くことが決定。

 それから私とキンジ、それから神崎はもう一度、キンジの部屋に何故か集まった。

 神崎はお呼びじゃないんだけどね。

「で、霧……あんた色金を持ってるのを何で隠してたのよ?」

「1、広める必要性がないから。2、聞かれるのが面倒だから。3、保持してるのが広まると危険が増えそうだから。好きなように解釈してよ」

 ソファーに足を組んで座る神崎の質問に対して私は対面するイスに座りながら面倒に指を3本立てて答える。

 その言葉に神崎は真剣な顔をしてまくし立てる。

「そういう、話を煙に巻くような言い方はやめなさい!」

「逆に答えてどうするの? 私に聞かれても色金関連で答えられることは特にないんだから」

 これは本当。

 私は力の使い方とか性質やらの知識はあっても、何故持ってるかとかどこで入手したなんて質問には答えられないし、知らない。

 お父さん――シャーロック・ホームズとの関係性とか言われても"白野 霧()"には関係のない話。

「お前のこういう場合は全部だろ」

 思わず正解とばかりに答えたキンジに軽くウィンク。

 だったら使わなければよかったんだろうけど、理子にも言ったように遅かれ早かれ気付かれると思って使った訳だし。

 これで、私の寿命が少ないことの裏付けとなる理由を切り出す糸口にもなる訳だからね。

「今まで色金のこと知ってたってことは、イ・ウーとかも本当は知ってたんじゃないの!?」

 直感的とは言え、割と鋭い質問だよね。

「――名前だけだし、神崎さんよりも知らない。狙われるんだろうなとは思ってた。だから……あんまり直接的じゃなかったんだよ」

 あらかじめ考えてた言い訳を答える私。

 その言葉に、神崎は今までイ・ウーと対峙してきた時を思い出すような顔をした。

 ジャンヌの時は割とガッツリ直接対決だったけど、それ以外はそんなに、って感じ。

 ココの時なんてほぼ置物状態だし。

 だけど確実に私は力を貸し、貸しを作ってきた。

 この言葉の裏付けを否定することは、彼女のプライドの高さから出来ないだろう。

 いや、誠実さでもあるかな?

「私が答えられるのは、どういう力があるのか程度だよ」

 その言葉にキンジは表情に影を落とす。

 お姉ちゃんとの問答で私がどういう状態かは知らされているからね。

 私が多く答えられないとは分かっているだろう。

「俺も霧から色々と聞きたいことはあったが、秘密は誰にでもあるものだからな。俺は、霧を信じたいと思う」

 そのキンジの言葉に、嬉しさと同時に別の笑みがでそうになる。

 

 ――楽しいね、楽しみだね。

 

 そんな感情を押しとどめて、私は"いつものように微笑む"。

「そういう訳だから、色金の話はまた今度にしよ。今は、藍幇に集中すべきだからね」

「……それもそうね」

 神崎は、過去にキンジと言い争った時の話を思い出してるのか大人しく引き下がった。

「ところでキンジ……」

「なんだよ」

「レーザービームの攻略法なんてないんでしょ?」

「……ある」

 キンジは間が空いて私の質問に目を逸らした。

 今ここで、神崎がいるから無理矢理あるって言ったでしょ。

 神崎がいなかったら絶対に「ない」って言ってたね、これ。

「本当にあるんでしょうね? なんか、あんた今怪しかったわよ」

 早くも神崎さんが疑いの目。

「当たり前だ。ただ、漠然としてるだけでもう少し裏付けというか情報が欲しいだけだ」

 私みたいなはぐらかし方してる。

 その言葉に私と神崎を視線を交わして、それから神崎は息を吐いて、私は答えるように苦笑する。

「ま、あたしも霧みたいにキンジを信じるわよ。でも、いつでも頼ってくれて構わないわよ」

 神崎は力強く答えた。

 そうして、次の舞台への準備は進む。

 舞台は『香港(ホンコン)』へ――

 これからが、第2幕。

 

 『エニグマ()』はきっとすぐそこまで、だからね。

 

 Go For The Next Stage!!

 




物語で始まり、物語で終わる。

来年も皆さんにとって良い物語に出会えますように。

良いお年を。
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