ゴジラ vs 大仏   作:外清内ダク

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最終巻、そして平安へ

 

 

 

 その後について、我々はもはや、語る言葉を持たない。

 というのも、ガヅラに関する記述はことごとく書物から抹消され、正史の裏側へ封じられてしまったからである。

 

 唯一、志摩国大戸島(現在の三重県鳥羽市大戸島町)の伝承にのみ「呉爾羅(ゴジラ)」の名が伝わっているが、それとて断片的なものだ。

 

 西暦1874年(明治7年)には、滋賀県において「真日本紀」が発見されたが、その内容が、同じ年代を扱う「続日本紀」とあまりに食い違っていることから、以降150年に渡って偽書とされ続けた。

「真日本紀」の記述が見直されるようになったのは、ようやく21世紀になってからのことである。

 

 

 人々は、なぜガヅラを秘匿したのか?

 それは唐国からの圧力だったのか?

 あるいは、後の政争の過程で聖武帝、称徳帝(高野姫)の功績を隠す必要が生じたのか?

 今となっては、真相は歴史の闇の中。

 

 

 ともあれ、「続日本紀」他の現存する史書に基づいて、それぞれの人物のその後について語っておこう。

 

 

  *

 

 

 高野姫天皇(孝謙天皇/称徳天皇)。

 この後、朝廷内での大規模な政争、反乱事件などがあったが、これを見事乗り切り、長期にわたって日本を統治した。初めは孝謙天皇、後に退位するも重祚(同一人物が再び天皇となること)して、称徳天皇と号す。

 在位中は吉備真備や弓削道鏡などを重用し、晩年まで手厚い仏教奨励政策を行った。

 西暦770年、崩御。享年52歳。

 

 

 元正上皇。

 甥の聖武天皇を我が子と呼んで可愛がった彼女は、姪孫の高野姫天皇をも我が孫の如く可愛がった。年若く、ともすれば暴走しがちな高野姫天皇をよく補佐し、初期の統治を安定させるために大きな力を発揮した。

 寄る年波には勝てず、西暦748年、崩御。享年68歳。

 

 

 吉備真備。

 高野姫天皇の腹心として大いに重用され、最終的に正二位、右大臣(現代で言うところの総理大臣)にまで上り詰める。元の身分を考えれば破格の出世であった。

 その深い見識は、新たな暦の作成、反乱軍鎮圧の指揮など、幅広い局面で遺憾なく発揮され、天平期の日本を支えた。

 775年、死去。享年80歳。

 

 

 藤原四兄弟。

 四兄弟は全滅したが、彼等の子孫である南、北、式、京の藤原四家は、それぞれ血統を繋いでいくことになる。とりわけ房前を祖とする藤原北家は、摂政藤原道長を輩出するなど大いに栄えた。その隆盛を詠った「この世をば 我が世とぞ思ふ」の歌は、あまりにも有名であろう。

 

 

 大伴家持。

 地位、階層を問わず日本中のあらゆる人々の歌4500首余りを集め、最古の歌集「万葉集」を編纂した。芸術的価値は言わずもがな、当時の風俗、言語を研究するうえでも欠かせない史料である。

 彼自身が詠んだ歌もまた、小倉百人一首などに取り入れられ、今なお愛され続けている。

 

 

 楊貴妃。

 彼女が日本を訪れたという記録は、日本にも、中国にも、一切残されていない。

 西暦755年、楊貴妃に取り入って出世した安禄山が反乱を起こす。この責任を問われ、楊貴妃は絞殺された。玄宗皇帝は最後まで楊貴妃を庇い、次に生まれ変わった時には共に比翼連理とならん(鳥の左右の翼、一体となった二本の木。夫婦仲睦まじいことの喩え)と誓ったという。

 安禄山の乱によって唐は大きく衰退し、以後、滅亡までついに失地回復することはなかった。まさに傾国、である。

 なお、絞殺されたはずの楊貴妃の遺体は、ある日忽然とその場から消えた。西暦1134年、彼女によく似た美女が日本を訪れ、鳥羽上皇の寵姫となったとも言われているが、関連は不明である。

 

 

 橘諸兄。

 大納言を経て、正一位、左大臣に叙せられる。正一位は臣下として最高の官位であり、生前に授けられたものは僅か数名しか存在しない。また、左大臣は、右大臣のさらに上に臨時で置かれる名誉の職であり、位人臣を極めるとはまさにこのことであろう。

 芸術を解し人懐っこい彼の性情は、最期まで変わることがなかった。大伴家持とともに「万葉集」編纂に携わった、とも言われている。

 

 

 鈴鹿王。

 彼のその後については、さほど詳しい記録が残されていない。僅かに、官位が従二位まで上ったことが確認されるばかりである。

 しかし、彼のことだ。誰も見ておらずとも、歴史に残っておらずとも、最後まで己の役目を忠実に果たし続けたに相違ない。

 

 

  *

 

 

 大仏は、その慈悲によってガヅラを鎮めた後、二度と動くことがなかった。

 そこで人々は、大仏が座禅を組んだその場所に、新たにそれを覆うように大仏殿を立て、この霊験あらたかなる御仏を長らく崇め奉った。

 

 大仏はその後、平安時代と戦国時代の二度にわたって焼失の憂き目を見ているが、そのたびに再建され、今に当時の威容を伝えている。

 大仏は、現代においてもなおひとびとに敬愛され続ける、奈良の象徴、なのである。

 

 

 

 西暦794年、都は平安京へ遷った。

 天皇と貴族を中心とした律令国家体制は、ここに絶頂期を迎え、人々は長き平安の時代を享受した。

 やがて律令体制は徐々に制度疲労を見せ始め、武士の台頭を許すことになるのだが――

 それはまた、別の話であろう。

 

 

 そして。

 日本(やまと)の国に、永い永い時が流れた……

 

 

  *

 

 

 時に、21世紀初頭。

 

 羽田沖、東京湾アクアトンネル直上にて。

 

 

 海上保安庁が、東京湾を漂流する無人のプレジャーボートを発見。

 船名は“グローリー丸”

 船内の捜索を開始。

 

 

「遺留物あり」

 

 

 宮沢賢治詩集「春と修羅」。

 そして、「呉爾羅(ゴジラ)」の文字。

 

 

「やはり無人だ」

 

 

 と、そのとき――!

 

 

 

 

 

 

つづく。




あとがき

 というわけで、これにて「ゴジラ vs 大仏」、完結です。
 最後は「つづく。」となっておりますが、この作品はここまでで終了します。この後どこに続くのかは、言わずもがなでございましょう。

 みなさまからは予想を遥かに超えたご好評をいただき、ランキングにも入ることができました。推薦を書いていただいたり、ブログや某大型掲示板や某画像掲示板などでもご紹介いただいたり(エゴサーチ待ったなし!!)、たびたび宣伝ツイートをRTしていただいたりと、温かいご支援をいただきました。本来ならばおひとりおひとりにお伝えすべきところですが、失礼ながらこの場にて御礼申し上げさせていただきます。ありがとうございました!


 なお、史実との食い違いに関しては、作者の日本史知識自体が極めて怪しいものですので、あんまりつっこまないでください!! 全体に、話を盛り上げるためにいくつもの史実を改変しました。生きてるはずのないひとが生きてたり、死んでるはずの人が死んでたり、なぜか高野姫が少女だったりしますが、全ては作者の趣味です!!! 誰かぶん殴れ!!!


 さて、作者、闇鴉慎は、普段は主にオリジナル作品を執筆しております。今後もハーメルンにおいて、オリジナル、二次創作ともに公開していこうと思っております。またご一読いただければ幸いです。


●オマケ


【挿絵表示】

この地形は現代のものである。海岸線は埋め立て等によって当時と大きく異なっている所がある。特に、現在の大阪府東大阪市周辺には、奈良時代当時「河内湖」なる大きな湖が生駒山のふもとまで広がっていた。

※「大戸島」だけは実在しない地名です。
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