僕の先輩はキョンシー 作:蒼雲
細かいことは後にして、本編をどうぞ。
僕の先輩はキョンシーだ。
比喩とか揶揄じゃなくて、まじりっけなしのキョンシーなのだ。
肘は曲がらないし、歩かずに跳ねて移動する。
おまけに噛まれた人はキョンシーになる。(らしい)
何より、『勅命』と書かれたお札がおでこに貼ってあることが何よりの証拠だ。
そんな僕の先輩は、「
先輩というからには僕ももちろん先輩と同族なわけで。
ぴょんぴょん跳ねて移動するし、肘も曲がらない。ごく一般的なキョンシーだ。
そんな僕と先輩の出会いはちょっと変わったものだったが、話してみればありきたりなもので、僕たちキョンシーという種族と比べれば、極めて普遍的なものだったように思う。
ある日僕が目覚めると、女の子が僕の顔を覗き込んでいた。
あいにく女の子にもてたことがない僕はこの状況に困惑したが、鼻のあたりで自己主張している彼女のおでこについたお札が、この状況を丁寧に説明してくれていた。
彼女はおそらくキョンシーだ。お札があるし。
僕は地面に大の字で寝ている。
そして彼女の頭(顔は彼女のおでこから垂れていると思われるお札で視界がふさがれてあまりよくは見えない)が目と鼻の先にある。
相変わらず回転の悪い頭が、蛍光灯のように光ったとき、
上体を起こす。キョンシーと頭がぶつかる。目の前に星が見える。
そんなことは関係ない。ここから早く逃げなくては。
が、腰が抜けているのか、うまく立てない。
後ずさろうにも、肘が曲がらない。
キョンシーが衝撃から立ち直ったのか、僕の方に目線を向ける。
まずい。
キョンシーの口が微かに開く。
肉をかみちぎるためのギザギザの歯が白く輝くのが見えた。
「いきなりなにをするんだ…… いたいじゃないかー」
ずいぶん気の抜けた話し方である。
「せいががいってた。 わたしはせんぱいなんだぞー」
せんぱい?せんぱいって……先輩?
僕の頭は蛍光灯みたいに回転が遅いが、それと関係なく、この状況を理解するのは困難だと思う。
だってこの目の前のキョンシーの言葉を信じるなら僕は
キョンシーじゃないか。
衝撃の事実というか、人間(今は死んでキョンシーになったらしいが)が理解の範疇を超えたことを目の当たりにしたとき、意外と冷静になるもので。
自分の体を調べてみれば、おでこに先輩と同じようなお札が貼ってあった。
それと、肘が曲がらない。地味に不便な体である。
この状況を受け入れることはできなかったが少なくとも理解はできた。
この後考えるべきなのは……今後のことだ。
キョンシーに今後や未来もクソもないような気がする。だってもう死んでるし。最後は脳が溶けて自我もなくなるし。
とりあえず立ち上がってみた。うまく立てないが、体をひねって無理やり立ち上がる。
今気付いたが歩くことが出来ない。膝がうまく曲がらないので、跳ねて移動することになりそうだ。
ますますキョンシーみたいである。(というか、もうキョンシーそのものである。)
ふと先輩の方を見てみると、得体のしれないネズミのような何かをぴょんぴょんと楽しそうに追いかけていた。
それを捕まえてどうするつもりなのか。丸かじりするつもりなのか。
「つーかーまーえーたー」
さらばネズミ(のようなもの)よ、安らかに眠れ。南無。
尻尾をつかんで頭からがぶっ
ネズミの中身と赤い液体が先輩の頭にどばっ
先輩はニコニコしている。
が、上半身が無くなったネズミだったものと、ネズミの中身やらなにやらで赤黒く染まった先輩の顔が、満面の笑みを台無しにしている。
何とも猟奇的な光景だ。
先輩はネズミの骨まで丸ごと砕いて食べて、尻尾は腕を器用に回して遠くに投げ捨てた。
遠くでがさっという音が聞こえてきたところで、僕はようやく先輩に話しかけることが出来た。
「えっと……先輩?」
「なんだー こうはい」
「ここはどこですか?」
「はかば……?らしいぞ。せいがにここにいるようにいわれたのだー」
「せいがと言う人はどなたなんですか?」
「せいがはせいがだぞー」
そういうことではなくて。キョンシーの先輩に聞くのが間違いなのか。
そういってる間に先輩はまたぴょんぴょんと飛び跳ねていってしまった。
僕も急いで後を追う。先輩の背中を追いながら跳ねる。
ぴょんぴょん ぴょんぴょん
我ながらシュールな絵だと思う。安いおもちゃみたいな動きだ。
先輩が止まった。追いついた僕も止まる。
「今から何をするんですか?」
「たいそうだぞ」
「体操?」
「これをやるとここがやわらかくなってうごきやすくなるってせいががいってた。」
そういうと先輩は腕を勢いよく回し始めた。
その回し方だと肩しか柔らかくならないと思う。やり方が違うのではないだろうか。
「こうはいもやるんだぞー」
先輩に言われては仕方ない。僕も先輩を見習って、腕をぐるぐる回してみた。
先輩と違って勢いよく回らないため、やっぱり安いおもちゃみたいな動きしかできなかった。
そんな僕の様子を見て先輩は気を良くしたのか、先ほどよりもずっと早く回し始めた。
風を切る音が聞こえる。先輩の腕がどんどん加速する。
そろそろ目で追えなくなってきたそのとき、
ぶちちちっ すぽっ
不穏な音、言うなれば何かがちぎれたような音が聞こえてきた。目の前にあった先輩の腕が無い。
まさかと思って空を見上げてみる。
先輩の腕が、空に舞い上がって、ぐるぐる回っていた。
それは雲一つない青空に勢いよく飛ぶ竹とんぼみたいだった。
飛んでるものはそんなかわいいものではない。人の腕がそんなに勢いよく飛ぶものなのか。
目の前で起きていることは、ある意味ではさっきの状況よりもずっと理解しがたいことだった。
先輩の腕はしばらく空の旅をしてから、先ほど投げ捨てたネズミの尻尾ように遠くへ飛んでいき、これまた先ほどと同じようにがさっと音を立てて消えた。
今回は初回なので短め(2339文字)です。
大体3000くらいをコンスタントに投稿できればと思っております。
もしよろしければ次回も見てやってください。
ではでは ノシ