僕の先輩はキョンシー 作:蒼雲
竹とんぼと化した先輩の腕をぽかんと見届けていた僕はようやく現実に戻ることができた。
どこに着地したんだろ。見た限り結構飛んでたみたいだけど...
両腕が無くなった先輩の方を見ると
「おおおおお!!みたかこーはい!とんだぞ!わたしのうで!」
目を輝かせていた。
なぜハイテンションなのか。自分の両腕が空に舞ったことがそんなにうれしいのか。
「これが『ろけっとぱんち』か!すごいぞ!」
絶対に違う。自分の腕は使い捨てではない。
嬉しがっている所悪いが、無くなった腕はどうするのだろう。
キョンシーはゾンビだが、流石に腕が無くなると生活に不便だと思う。それに肘が曲がらないというキョンシーのアイデンティティがなくなるし。
「からだがかるい!こんなきもちでいるのははじめて!」
当たり前である。どこの世界に自分の腕を竹とんぼみたいに飛ばす妖怪がいるのか。(さっき目の前でそれが起きたが)両腕が無くなって体が軽いで済むのも、正直に言っておかしいと思う。キョンシーならではなのか。僕もさっき目覚めたばかりのビギナーキョンシーだが、その感覚がわからないのは、ビギナー以前の問題だろう。
ハイテンションな先輩には悪いが、腕を探した方がいいと思う。
「せんぱい」
「なんだーこうはい? わたしはいまきげんがいいぞ」
「腕はどうするんですか?」
「ろけっとぱんちはつかいすてじゃないのか?」
たとえロケットパンチの腕が使い捨てだとしても、自分の腕はそうではない。
……そう思いたい。
「これから困りますよ?」
「そうなのかー」
それは他の妖怪の持ちネタだからやめましょう。
何とか先輩をうまく丸め込む……もとい説得できないだろうか。
そういえば……キョンシーって体のパーツは再生するのだろうか。他の妖怪だと、妖力を傷口に集めることで、再生速度を早めることができる。力が強い妖怪にもなると、瞬時に再生することもあるらしい。
だがキョンシーは死体に防腐の術をかけるだけだ。あとは術者(ご主人)の能力次第で変化する。
何が言いたいのかと言うと、体自体は人間の死体のままだということだ。もちろんのこと人間の体は瞬時に再生したりはしないため、妖怪と死体の間に位置するキョンシーは、いったいどうなるのか?
そんな僕を尻目に先輩は僕の周りをぴょんぴょんと飛び跳ね始めた。
ぐるぐる回る。
スピードがついてくる。
びゅうっ
僕の顔に先輩が起こした風が顔にかかる。あまりの風速に目をつぶる。舞い上がった砂や細かい石の感触が伝わってくる。
先輩は何をするつもりなのか。今度は腕ではなく、自分がロケットになるつもりなのだろうか。
探す手間が増えるのでぜひともやめていただきたい。
いよいよ先輩の姿がブレ始めたそのとき、
急に風が止んだ。風に飲まれていたカラスが体制を建て直し、先輩がいた場所を中心にして、一気に飛びたっていたのが見えた。
どうした風が止んだのか。それはもちろん、先輩に何かあったからである。
地面に這い蹲っているこの腕無しキョンシーが、原因を物語っていた。
盛大に言ってるようだが、こけただけである。おそらく腕が無くなったことにより、バランスが取りずらくなったのだろう。
「いきなりどうしたんですか?先輩。」
「うーん……せいがが……せいがが……」
先輩を起こしつつ、先輩の行動を見て思いついたこじつけの理由を告げる。
「先輩。腕が無いとロケットパンチ、出来なくなっちゃいますよ。」
☆ ☆ ☆
そんなわけで先輩の腕を探すことになった。
腕(ロケット、竹とんぼでも可)が飛んだ方向はわかってるんだけど、距離が全く予想できない。
……不毛な気がする。探す手段も
なんだかやる気がなくなってきた。先輩にはこれから『腕なしキョンシー』としての新たな立場を築きあげてもらうことになるだろう。新たなアイデンティティの獲得の瞬間だ。実にめでたい……かもしれない。
「ろけっとー ろけっとー うでどこだー」
独特のリズムで自分の腕を探す先輩はどこか楽しそうだ。
無いやる気を振り絞って、先輩の腕を探す作業に戻る。
無くした場所(腕が飛んで着地した場所)を見つけるのは難しくても、腕自体を見つけるのは難しくないはずだ。なにせ、人間の腕が転がっているのだから。その辺の小石があるのとはワケが違う。それが日常と化した世界は、世紀末か何かだけで充分である。
虱潰しというものは効率的なやり方ではないことは明らかである。探し物をするときは記憶の筋道に従ってやらないと、いつまで経っても見つからないのだ。
先輩の腕が見つからないワケはそれだけではないけど。
目を離したら先輩がいない。
あたりは一面緑だらけ。いついなくなったかわからない。おまけに腕と違ってどこに行ったかもわからない。
……ホントにどうしようコレ。
途方に暮れて歩いていると、幅が広い川を見つけた。
澄んだ水がさらさらと流れ、魚も見える。僕がキョンシーでなければ喜んで入ったかも知れない。死体となった今では、出来はしないだろうけど。
水面に僕の顔がうっすらと移る。
肌が青白いことが、僕が「キョンシーとして目覚めたことを改めて思い知らされた。
無意識に、考えた。僕はどうしてキョンシーになったのだろうか。
ご主人は先輩が言っていたせいがさんと言う人だろう。その人に防腐の術をかけられているのはほぼ間違いないと思う。
でも、僕には生前の記憶が無い。自分の名前も覚えてないくらいだ。だからどのようにして死んだのか、覚えてない。
僕が思考の世界に流れようとしていたそのとき。
「こーはい こーはい」
先輩の声が聞こえてきた。その方向に顔を向ける。
先輩が、川上の方から、仰向けになって流れてきた。ちなみに腕はない。泳いでいるのではなく、流されているようだ。
「……どうしたんですか?先輩」
「うでがー」
「腕がどうしたんですか?」
「とーらーれーたー」
川下の方を見てみるとタヌキのような妖怪が腕を口にくわえて川を器用に下っていた。
急いで追いかける。先輩はそのまま流れてくるようだ。
こういう時に跳ねることしかできないキョンシーは不便だ。肘や足がうまく曲がらないから走ることが出来ないし、ましてや泳ぐことなんでそれ以前の問題である。
対してタヌキのような妖怪は案外早く、僕たちとの差を確実に広げている。
まずい。このままだと本格的に先輩に新たなアイデンティティの確立を目指してもらう方向に走らなければならなくなってしまう。
懸命に追いかけるも、追いつくことが出来ない。
追いつけない! ……もう駄目かもしれない。
「あらあら……そう簡単に男の子があきらめちゃダメよ」
水色の衣をまとった人が目の前に現れた。腕には、タヌキのような妖怪が握られていた。
☆ ☆ ☆
「うちの
「いえ、本当に助かりました。」
タヌキのような妖怪から腕をとりかえした僕は、水色の人物にお礼を言った。
「せいがー」
「芳香ちゃん。駄目じゃない。後輩に迷惑をかけちゃ」
「ごめんなさいだぞー」
この人が「せいがさん」らしい。僕と先輩のご主人に当たる人……なのかな?
「あの……せいがさん。」
「何かしら?後輩くん。」
「これからよろしくおねがいします……?」
「……そう、よろしくね。」
ここから僕のビギナーキョンシーとしての生活が始まるのだ。
抜けてる先輩……芳香先輩とご主人のせいがさんとともに。
ちなみに……キョンシーの場合、失った部位は縫い付けておけば引っ付くらしい。なんという生命力。
「さあ、芳香ちゃん。腕、がっちゃんこしましょうねぇ」
「うーせいがー……」
「なあに?」
「ろけっとぱんちがうてるようになりたいぞ……」
せいがさんはぽかんとしていた。そりゃ、そうだよね。
3120文字。
こんなに3000文字って書くのしんどかったっけ…?
腕無しキョンシー(仮)の口調が難しい…
ではまた次回 ノシ