Fate/after Redoing   作:藤城陸月

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 先日無事に帰ってきました。藤城です。

 申し訳ないのですが、前話の改稿を行いました。

 誤字の訂正やニュアンスの変化だけではなく、後半部の書き足しなどをしておりますので、前話から続けて読んでいる方以外は確認をお願いします。


 さて、今回はいわば説明会その1です。

 もう少し後半で書いてもいいのですが、この物語の語り部である晶君は、『『唯一魔王を打倒することのできる勇者』を育成する、という責務を負わされた準最強キャラ』、という立ち位置のキャラクターなので、比較的序盤の今に、早めに書くことに書きました。


 それではどうぞ。



2  里帰り  冬木

 差し出された紅茶に、「ありがと」とお礼を言って、口を付ける。

 起きたばかりで本格的に動いていない、低血圧な私の頭に多幸感を伴って染み込むような、そんな飲みなれた味。

 飲み終えた紅茶の余韻に浸る。そのころには私も何とか完全に目が覚めていた。

 

「あれ?お母さんが覚醒してる」

「ホントだ。珍しいね」

「なぁ」「ねー」

 

 割と失礼なことを言いながら、ドアを開けて入ってきたのは遠坂(うち)の双子。

 アイツと同じ髪と瞳を持つ、次男。優暉(ゆうき)

 小さい頃の私とよく似ている、長女。(ひかり)

 年齢(とし)は11。外見の共通項は少ないが、仲は非常に良好。

 この二人を見ると、時たま、昔を思い出す。

 双子の兄妹と、今日の昼頃に帰ってくる『予定』の長男、(あきら)は私にとっての自慢であり、誇り。そして──────6年前にアイツが死んでからの心の拠り所。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 飛行機を降りてから、新幹線に乗り、在来線に乗り換え、バスに揺られること暫し。

 降り立つは冬木市新都。

 一度帰ると決めたら思ったよりも簡単に帰れるものだ、と今更ながら思った。

 

 

 

 無意識の内に励起しようとする魔術回路をクールダウンさせる。

 それは、この土地が優秀な霊脈及び霊地を複数内包している、日本有数の土地だから、という理由だけではない。

 

「─────久しぶりだなぁ」

 

 ─────冬木市。

 当主である俺の母親で6代目となる遠坂家がセカンドオーナーとして管理している土地。

 今は亡き父親が生まれ育った土地。

 

 俺が生まれ持った、メインが46、サブがそれぞれ34の魔術回路が──────

 母親が、調律で復元できるギリギリまで移植してくれた、遠坂の魔術刻印が──────

 そして、父親の亡骸から神代の魔術師の協力をもって作り上げた、■■の魔術刻印が──────

 

 ──────喜んでいる、懐かしがっている、急かしている。

 

「─────そうだな」何となく恥ずかしいので小声で呟く「早く帰るか」

 

 

 

 実家のある深山町までは、先ほどまで乗っていたのとは異なる、市内バスを使うのが一般的だ。

 不便な事だが、バス停の位置が離れている。

 記憶を辿ながらキャリーバッグを転がし、バス停にたどり着く。

 四年ぶりだがバス停の様子は変わっていない。このことに微かな喜びと、確かな懐かしさを自覚する。

 

 …………四年ぶりというワードに何故か感じる、危機感。

 

 ─────脳裏に浮かぶイイ笑顔でほほ笑む母親。

 …………ワリと詰んだかもしれない。

 

 その前に、四年前って、うちの双子が7歳。

 …………すまない。放浪癖のある愚兄を許してくれ。

 

 ……………………どうしよう。というか、何故今までこのことを考慮しなかったのだろうか?

 ─────目を逸らしていたから、という答えが一瞬で浮かぶ。

 

 ……。

 

 とりあえず、バスではなく徒歩で帰ることにした。

 これからはこまめに帰ろう、と現実逃避しながら。

 

 

 

 その前に遅れることを連絡する必要があることに気が付く。

 そう、口頭───この場合は携帯電話───で。

 

 何かの間違いで機械音痴な母親が電話に出ないことを祈りながら、彼は携帯電話を取り出した。

 

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 アイツが死んだ時、時計塔との間に大きな騒動があった。

 

 

 

 

 ──────封印指定。

 ある魔術師以外には再現できないような、希少な魔術を永遠に保存するために、その魔術師を一生幽閉し、()()する。

 言うなれば、ホルマリン漬けの標本にして飾るようなものだ。

 

 十分な魔力さえあれば固有結界の単独展開が可能。

 そして、その固有結界に由来する異常な投影魔術。

 

 封印指定を受けるのは当たり前だった。

 

 

 そして、封印指定に加えて、大規模な神秘の漏洩。

 

 幾つもの戦場において、人命を救うために行使された数多くの魔術。

 それを躊躇う理由はアイツにはなかった。

 

 その痕跡全てを隠すのは不可能だった。

 

 

 結果として差し向けられた、封印指定執行者や専門の狩り人。

 

 ──────()()()()()で行われる神秘の隠蔽と()()()()()()()()()封印指定。二つの任務の矛盾を見抜き、利用し、その間隙を穿ち抜ける。

 ──────神秘の隠蔽の関係で、大勢の一般人の前では大規模な魔術を使いたがらない魔術師を暴動に巻き込み暗殺。

 ──────魔術以外の方法で命を狙う者を、『法』で縛り付け、『正当な理由』で『処刑』。

 ──────銃とは異なり、発射する際に音を発しない弓を用いた、超遠距離狙撃。

 ──────……………………

 ──────…………

 ──────……

 

 

 それらの襲撃を全て切り抜け、返り討ちにし、同時に無辜の人々を救う。

 

 

 ──────そして、魔術の世界とは無関係の少年に殺された。

 

 

 

 ──────その死に方は、アイツにとって、一種の救済だったのかもしれない。

 ………………私は絶対に認めないが。

 

 

 

 

 そして残ったのは、死体。

 

 余りに希少かつ有能、強力、そして魅力的な魔術。

 それを使いこなす魔術師。──────その死体。

 

 

 時計塔が欲しがらないはずがなかった。

 

 

 そして、()()()がそれに応じるはずもなかった。

 

 

 その結果、見せしめも兼ねて死体を奪おうとする時計塔の魔術師と、意地でも死体を渡したくない冬木市の魔術師の死闘は避けられない。

 

 ──────世界平和を願った男の死体を巡って、その男の知人が争うことを望まないと知っていながらも。

 

 

 

 

 ──────しかしながら、その死闘は行われなかった。

 

 その時は13歳の少年でしかなかった魔術師の機転を以て。

 

 

 

 

 ──────()に父さんの魔術を受け継がせて欲しい。

 

 つまり、死体から魔術の成果を全て抜き取り、それを魔術刻印に加工し移植する。

 これにより、死体の利用価値をなくし、継承可能であることを示し封印指定を解除させる。

 

 正に、非の打ち所がない機転であった。

 ──────その行為の危険性から目を逸らせば。

 

 

 

 当時の晶は、私にバレたら反対されるから、と()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に頼み込んだらしい。

 

 

 唯でさえ、魔術刻印は段階を経てゆっくりと移植するものであり、そのことは、その時すでに遠坂の魔術刻印を移植し始めていた晶も知っていた。

 その理由は拒絶反応。それを抑え込むのには時間と手間が掛かる。

 

 

 しかし、本当に危険なのはそこではなかった。

 

 アイツの特異性の本質である固有結界という大魔術は()()()()()()()()

 これを受け継ぐ、ということは心象風景を──────精神そのものを受け継ぐこと。

 

 つまり、晶の心象風景(精神)がアイツの心象風景(精神)に塗りつぶされる、ということだった。

 

 

 当たり前だが、それは危険極まりない行為である。

 

 下手をしたら廃人。上手くいっても何時発狂するか分からない。

 それを行うのは、賭け以前の自殺行為。

 

 

 そして、晶は危険性を熟知したうえで、キャスターの反対を押し切り、キャスター以外には内緒にしたまま、土蔵にこもり、強行した。

 

 ──────強固な覚悟と確かな()()のみを持ち。

 

 

 

 問い詰める私に、神代の魔女であるキャスターは、拒絶反応を抑え込むだけでも一週間は掛かるだろう、と答えた。

 

 ──────行方不明になっていた晶を探し、土蔵の前に強固な結界を作っていたキャスターに、結界を突破してたどり着いたときには、すでに三日が過ぎていた。

 

 更に問い詰めようとした私に、私たちに──────土蔵が開く音が届いた。

 

 

 現れたのは、すべての色が抜け落ちたかのような白銀の髪と燃え尽きたかのような褐色の肌をした、何処か虚ろな目をした少年だった。

 

 

 足元が崩れたかのような錯覚。これほどの絶望を感じたのは初めてだった。

 

 そのまま放心状態になり、何時の間にか座り込んでいた私に差し出されたのは、──────褐色の肌が少しずつ、元の色白な肌に戻りつつある右手だった。

 呆けたままで顔を上げる。目が合ったのは、柔らかな光を放つ碧の瞳。

 私を心配し、労わるような、そんな()()()()()()()

 

 ──────大丈夫だよ、母さん。それに、母さんが元気じゃないと()だけじゃなくて()()()()心配する。

 

 擦れた声。よく見れば、その体は汗や埃に塗れ、大部分が元の色に戻りつつある肌は、急速に治りつつあるが、打ち付けたような痣や、明らかに自傷と分かる切り傷や切り傷であふれていた。

 

 ─────限界だった。

 安堵と、喜びと、懐かしさと、その他もろもろの感情に身を任せる。

 そのまま抱きつき、何度も名前を呼びながら泣き叫ぶ。

 三日間不休で探し続け、施術を見守っていたために全力を避けなかったとはいえ、魔術の英霊(キャスター)の敷いた結界を突破した疲れが一気に出たのか、泣き疲れて、そのまま眠りついてしまった私。

 戸惑うような、しかし慣れたような手つきで頭を撫でる手に、懐かしさを伴った心地よさを感じながら。

 

 

 

 

 姉さん、と私を呼ぶ声で回想から覚める。

 

 アイツが父親から受け継いだ、武家屋敷。

 そこで私は、私たちは晶の帰りを待っていた。

 時刻は昼前。そろそろ昼食を作ろうかな、という時間帯。

 私は居間で考え込んでいて、そのまま回想に突入してしまったようだ。

 

「どうしたの■?」

「晶君から電話が来て、到着するのが少し遅れて夕方頃になるそうです」

 電話番号が変わっていたらしく、初めは誰だろうって思ったらしい。

 四年ぶりに会話したが、思ったよりも緊張しなかったらしく、話し込んでしまったそうだ。

「そっか、ありがと■。ちょっと残念だけど、正直助かったわ。

 四年ぶりだから、なんて話し出したらいいか悩んでたから」

「そっか、姉さんもだったんですね」

「なんだ、■も?」

「いえ、晶君も、です」

「…………そっか」

「それでなんですけど……」

「■?」

「えっと、姉さんに変わるって言っちゃって」

「あぁ……」

 携帯原話からかけてきたらしい、ということを聞きながら手渡された受話器を手に取る。

 

「えっと、もしもし?」

『えっと……。久しぶりかな、母さん』

「本当にね。──────全く、電話で久しぶりって言うぐらいなら、電話ぐらいこまめにしなさいよね」

『やっぱりそうだよね。うん…………』

 

 会話が途切れる。

 沈黙と気まずさが支配する。

 

 …………どうしよう。

 

 向こうも同じ状況らしく、受話器の向こうから車が通過する音などが聞こえる。

 

 

 電話の向こうから、微かに息を吸う音が聞こえる。

 

 若干の申し訳なさを感じながら、晶の発言を待つ。

 

 

 

 

 

 

 

『─────えっと、ごめん母さん。じゅ、十円玉が切れそうだから、またあとで』

「ちょっ、晶⁉それ、携帯、よ、ね…………。あ」

 

 あっったま来たぁ──────、という叫び声が響く。




 遠坂■

 遠坂家6代目当主にして晶の母親。


 遠坂優暉 遠坂曜

 双子の兄妹。晶は兄。


 間桐■

 (旧)御三家の一角、間桐に養子として出された過去を持つ、母親の妹であり叔母。





 今回明らかにしたのは、晶君の(まだ描写がない)チートじみた戦闘能力の最大の要因。

 詳細は次回以降に書きますが、このことを切っ掛けとして『剣以外の記憶を読み取る』ことが出来るようになります。
 このことには彼の『起源』が強く関係していますが…………、まぁそれは、後のお楽しみ、ということで。



 …………合宿の前に投稿が出来るかが不安です。でも、焦って書くと、前話みたいなことになるしなぁ。
 正直、悩みどころです。

 合宿は、22日から2泊の予定です。
 なんだかんだで、次回の投稿は26日ぐらいになりそうな気がします。

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