もしも、百夜優一郎が子供のとき(孤児院に入る前)に吸血鬼に会っていたら   作:ブラッディー・メアリー

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そろそろ、春休み♪


小さき復讐の鬼

まだまだ名残惜しかったが、次の仕事をしなければならなかったクレアは優一郎たちをサングィネムに送り届けると、再び地上に戻って来ていた。

至る所から子供の悲鳴や物の壊れるような音がする。

 

「まったく。もう少し穏便に事を運ぶように言っとくべきだったかなぁ。これじゃあ、吸血鬼の品位が疑われるよ」

 

ぶつくさと言いつつ目的地に向かう。

向かう道すがら、子供を引き連れた兵にも何度か会い、その度に礼を受ける。

 

「第5位始祖様。お疲れ様です」

「お疲れ、その人間たちは何処の?」

「北側Y区域のです」

「ありゃ?もうそこまでいっていたか。じゃあ、そろそろ終わりかな」

「そうですね。ラクス様とレーネ様が確か次だったはずですので」

「ん、じゃ、滞り無きように」

「はっ!」

 

作業の円滑化を図るために今回の保護活動(笑)では収容の順番が細かく決められている。東西南北の順でその中でもAからZ区域にまで分けられている。ちなみに百夜孤児院は東側F区域で結構早かったりする。

兵と別れたクレアは事前情報により把握していたある少年の家へ向かう。

 

「にしても、うるさいなぁ。まだ、集めきっていないのかな?ラクスやレーネにしては珍しい。・・・ん?これは・・・・」

 

周囲の喧騒に紛れるようにして、目的の少年の家の方から血の匂いが漂って来た。

クレアは第1位始祖という特性から嗅覚や聴覚、視力が並みの吸血鬼を超えているので、ある程度の距離があって、さらに他の音や匂いが混じっていても目的のものを感じ取ることができるのだ。

 

「ん〜、これはこれは。ちょっと急いだ方がいいかなぁ?」

 

微かな香りから強い香りへと変わる血臭に急ぐことに決めたクレアは顔を上に向けて目を閉じ音と匂いに集中した。

 

「・・・・・・こっち、だね。ちょっと目立つけど、まあ、いっか」

 

方角を正確に掴んだクレアは、最短で目的地につくために持ち前の脚力とスピードを活かして、家の屋根を伝って駆けた。途中、辺りを巡回していた兵から何かしら声をかけられたりしたが全て無視をしたクレアは3キロの距離を、ものの3秒で完走した。

 

「ここか・・・・・ん?あちゃー」

 

目的の家の前に着いたクレアは、どう見ても力任せに壊された扉と、中から聞こえてくる耳慣れたラクスとレーネの声に少しばかり後悔した。

 

「しまった。あいつらの担当は此処だったのか・・・。うあ〜めんどくさ!しかも、この匂い。どー考えてもラクスだよねぇ・・・・レーネにはラクスを見張るようにって言ったのになぁ・・・・はぁ。まあ、あいつらの管轄内だから仕方ない、か?」

 

過ぎたことは仕方ないと開き直ったクレアは、取り敢えず目的の少年を殺されてはかなわないと、家の中へ入った。

声が聞こえてくるのは家の二階。血をすする音と小さくなる鼓動から吸血中であると悟る。もし、少年を吸血しているなら困ると思ったクレアは、早々に二階へ行って吸血中のラクスの腕を掴んで言った。

 

「まったく。つまみ食いも程々にしてよね。ラクス?」

 

普段穏やかな始祖から感じる微量の殺気にラクスは固まり、レーネも驚愕に目を見開いていた。

 

「・・・・・ク、クレア様。なぜ、こちらに?」

 

なんとかそう絞り出したレーネはその瞳が自分に向けられると同時に和らいだことに安堵ではなく、恐怖を覚えた。

 

「なに、別に大したことじゃないよ?ただ、この家の少年に用があってね?あー、勘違いしないでくれ。別につまみ食いを怒っているわけじゃないんだよ?貴重な食料を早々に1つダメにしやがってなんて、これっぽっちも思ってないからさ?」

 

((怒ってらっしゃる。これは間違いなく怒ってらっしゃる))

 

普段本気で怒ることのないクレアが起こればどうなるのか、2人は知らない。だが、これまでにない危機感から2人はそう確信した。

 

「「すいませんでした!!!」」

 

だから、下手な言い訳はせずに首が外れる勢いで頭を下げた。

 

「あはは、だから、別に怒ってないってば〜。やめてよ、私がいじめてるみたいじゃない」

そういうクレアであったがラクスやレーネからすると、さらに責められているような心地しかしなかった。

 

「「本当に、反省してます!もうしません!!」」

 

ので、再び謝罪の言葉を繰り返した。

一方、クレアはというと本当に怒っているわけではなく、レーネが恐怖した微笑みも、死んだ人間が目的の少年ではなかったことに対する安堵から浮かんだものであって特に他意はなかった。だから、そんなに謝られても本当に困るんだけどなぁと思いつつ、どっちかというと早々に此処から立ち去ってくれる方が良いなぁと思ったクレアは2人のクレアへの誤解を利用することにした。

 

「あー、はいはい。分かった分かった。もー良いから、さっさと人間集めてサングィネムに連れてってよ。タダでさえ時間も押してるんだし」

「「は、はい!失礼しまっす!!!!」」

 

呆れと苛立ちのこもった目をつくり、ラクスとレーネに向けると面白いぐらいに2人はさっさと立ち去った。

 

「やれやれ。・・・・・・さて」

 

2人の足音が完全に聞こえなくなるまで聞き耳を立てていたクレアは近くにあったベッドへと向き直った。

 

「で?君はいつまでそうしているつもりなのかな?」

 

側から見たらクレアが虚空に向かって話しかけているように見えただろう。

だが、一瞬ののち答えはその、ベッドの下から嗚咽となって聞こえた。

 

「うっ、ううっ・・・・」

 

耐えきれなくなったように漏れたその嗚咽は、小さな男の子のものだった。

 

「はぁ。まあ、君だけでも生きていてよかったよ。早乙女与一君」

 

早乙女与一、そう呼ばれたその男の子はその言葉が聞こえていないかのように泣き続けるだけだった。

 

「うっ、ううっ、おねぇちゃん、おねぇちゃん、ううっ」

 

死んだ姉を思いただ泣き続けるだけの与一を見たクレアは少しの同情と呆れた目をベッドの下に向けた。

 

「はぁ。・・・・ねぇ、いつまでそうしているつもりなの?そうやって、泣いていて、何かが変わるの?」

 

姉を、家族を亡くしたばかりの子供には酷な言葉。それを分かっていながら発破をかけるようにクレアは与一に言った。

 

「おねぇちゃん、おねぇちゃん」

 

だが、その言葉は与一に届かなかったのか、ただ虚ろな瞳で姉の名を呼び続けるだけだった。

 

「そうやって、ずっと泣いて何もせずに終わるつもりなの?」

 

せっかく間に合ったのにもかかわらず、このままでは与一の心が壊れて、自殺し兼ないと感じたクレアは与一の頭を掴んでベッドの下から引きずり出しながらそう言った。

 

「むり、だよ。ボクには、何も、むり、だよ」

 

だが、元来気弱な性格なのかクレアの挑発に対しても覇気のない返事しかしなかった。

あまりの軟弱さに早々に面倒になってきたクレアはほとんど投げやりな気持ちで吐き捨てた。

 

「そう。ならもういい。姉の死を嘆いて、悲しんで、此処に閉じこもっているといい。そうしていれば、誰かが助けてくれるかもしれない。誰かが姉の仇を討ってくれるかもしれないしね?全てが終わるまで、姉の亡骸を抱えて目を塞いでいるといい」

 

そう言ったクレアの言葉の何が、与一の琴線に触れたのだろうか?

身を翻して部屋を出ようとするクレアの裾を与一は力強く握って叫んだ。

 

「ふざ、けるな!」

 

与一の瞳は恐怖と怒りと悲しみがない混ぜになった様な色で、でも確かな意志を持って恐ろしいであろうに、クレアの瞳を見て睨みつけていた。その様子に少しの期待を込めながら更なる挑発を返す。

 

「別にふざけてないよ。君は何も、姉の敵討ちすら、するつもりはないんだろう?」

 

そう言ったクレアの言葉に、一瞬虚をつかれた様な顔をした与一は、クレアの目を見据えながらかすかに答えた。

 

「敵討ち。。。する」

「ん?聞こえないなぁ」

「敵討ちする!ボクのおねぇちゃんを殺したあいつに、お前たちに!ぜったい!」

 

憎悪に燃える瞳がクレアを貫いた。長らく見ることのなかった、その瞳に、捕食者の様な期待を持って、

 

「へぇ?君にできるの?」

 

訪ねたクレアに

 

「ぜったいする!」

 

与一はクレアの瞳を燃やす様に力強く答えた。

 

「そう。なら、いいよ。君が大きくなって私達を討つ日を楽しみにしておくとしよう。ラクスにも伝えておかないと」

 

期待に満ちた瞳でクレアは与一を見、憎悪に満ちた瞳で与一はクレアを吸血鬼を見た。

 

 

この日、小さな復讐の鬼が誕生した

 

 

 




与一くん、案外男気ある設定です。
クレアちゃんは何やってるの?と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、一応意味があるので答え合わせまで妄想して見てください(笑)
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