もしも、百夜優一郎が子供のとき(孤児院に入る前)に吸血鬼に会っていたら 作:ブラッディー・メアリー
やっと原作の本番あたりに入ってきました
ーー4年後ーー
採血場に向かって人間の子供達が列をなして歩いている。
最前列では代表の子供と吸血鬼によって、一人一人名前をチェックされて、採血場の中へ入っていく。
その中には四年前、クレアが連れてきた百夜孤児院の優一郎とミカエラ達の姿もあった。
「百夜優一郎」
「・・・・よし、入れ。次」
「百夜ミカエラ」
「・・・・よし、入れ。次」
採血場の中は広大で大量の採血用のベッドがあり、チューブが張り巡らされていた。
子供達はそこに寝転がると、吸血鬼によって首へ針を刺されフラフラになるまで血を抜かれ、まずい血液造成剤を渡される。
採血場の外では貧血気味になった子供が、寝転んでいたり、まだまだ、元気な有り余っている子供達がはしゃいでいたり、お絵描きしていたりした。
そんな中、優一郎は不機嫌を隠そうともしないで、渡された血液造成剤を握りつぶした。
「あぁ!もう、腹立つ!!」
「また飲まないの?優ちゃん。体壊すよ?」
「こんなマジィもん、飲めるかよ!」
怒れる優一郎を宥めているのかいないのか分からない合いの手を入れる金髪の美少年、ミカエラは小さくため息をつきつつ、近くに吸血鬼もいることから、目をつけられないように、フォローをいれた。
「はぁ。別にここでの生活も悪くないと思うけどね」
「はぁ?それ、マジで言ってんのか⁉︎」
が、そんなミカエラのフォローには全く気づかない優一郎は逆にミカエラにキレていた。
その後のミカエラの必死のフォローも甲斐無く、優一郎はミカエラに掴みがからとしたため、結構他の人間や、吸血鬼の目線を集めてしまっていた。
ミカエラが、さて、どうやって優ちゃんを宥めようかと思案していると、背後から聞き慣れた声が聞こえた。
「やぁ、ミカくんじゃないか」
「フェリドさま!」
普段であれば、優一郎や孤児院の家族以上に何かを優先したりはしないミカエラだが、ここから脱出するために利用しているフェリドには、それなりの愛想を振りまいておく必要があった。
だが、そのミカエラの行動が更に優一郎の癇に障ったのか、どう見ても貴族であるフェリドに突っかかっていこうとしていた。
「ぁん?んだよ、お前?」
これは幾ら何でもまずい、と考えたミカエラは早口で優一郎をフォローしようとした。
「す、すいません!この子、バカで、だから、その、」
「あぁ⁉︎バカってなん!むぐぐ」
未だことの大事さを理解していない、優一郎の口を塞いでいると、独特の笑い声が聞こえた。
「あはぁ?元気な子だね。その子も今度、僕の屋敷に来るのかなぁ?」
「むぐぐぐぐ!ふぐぐ、ふんぐぐぐ!!」
優ちゃんの口を塞いでおいてよかった。きっと、今頃とんでもない罵詈雑言をはいていたことだろう、と思いながらそんな心配はおくびにも出さず、ヘラリと笑って、フェリドに話しかけた。
「いえ、すいません。この子、見ての通りバカなんで、また、今度」
「あはぁ?そう?残念。あぁ、そういえば今日も僕の屋敷に来るのかい?」
「はい!よろしくお願いします!」
何とか優一郎からフェリドの興味を反らせたミカエラはホッとしつつ、さらりと付け足されたお誘いに乗った。
ミカエラの返事を聞くと、楽しみにしてるよ、と言い残してフェリドは去っていった。
フェリドの姿が完全に見えなくなったのを確認すると、ミカエラは優一郎の口から手を離した。
途端に優一郎から抗議の声が上がった。
「ミカ!何すんだよ!ってか、お前あいつに、血吸わせてんのかよ⁉︎」
「フェリドさまは貴族なんだ。血を渡せば、何でもくれるんだよ」
本当の目的を言ってしまえば、優一郎は自分もすると言いかねないので、ミカエラは建前を言った。
予想通り、優一郎は怒ったが、自分もすると言い出さなかったのでミカエラはホッとした。
しばらくその場で優一郎がミカエラに突っかかっていると、二人組の一般吸血鬼が通りかかった。
吸血鬼のすぐ前の足元では、人間の子どもがお絵描きをして遊んでいて、吸血鬼に気付いていなかった。
「あ、おい!」
危ないと思った優一郎はミカエラに起こっていたことも忘れて、咄嗟に子供達にそう、声をかけたが子ども達は顔を上げただけで、そのまま手を踏まれてしまった。
ボキリと嫌な音が聞こえる。
そのまま通り過ぎようとする吸血鬼に腹を立てた優一郎は、吸血鬼の進路を塞ぐようにして抗議した。
「あやまれ!」
チラリと優一郎を見た吸血鬼は、優一郎の胸ぐらを掴むと、そのまま渡り廊下から優一郎を下へ落とそうとした。
それにあわてたミカエラは、本日2度目、いや、3度目となる優一郎のフォローに向かった。
「ご、ごめんなさい!その子バカで、自分がしたことも分かってないんです!だから、許して上げてください!」
言っていることは全力で優一郎を貶しているが、必死にフォローしようとするミカエラを必要ないとばかりに、優一郎はなおも吸血鬼に言い募ろうとした。
「ミカ、何謝ってんだよ!俺は」
「何をしている?」
その、言葉を遮るようにして、涼やかな女性の声が聞こえた。優一郎達にとっては忘れたくても忘れられないあの日、彼らを連れ去った吸血鬼の声だった。