目高箱と幽波紋!!   作:人参天国

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ち、違うんです!
この小説を書き始めた当初はそんなつもりはなかったんです!
『コイツならやりかねない……』って思ったらいつの間にかキャラが勝手にやらかしてたんです!




第三十七話:書記戦

 

 

「それではお集まりの皆様。こちらは学食係の皆様が使用している巨大冷凍庫。零下四十八度――南極さながらの極寒空間。この倉庫全体が書記戦の舞台となりましてございます。

 今回阿久根さまの代理でエントリーされた黒神くじらさまと、挑戦者である志布志さまにはこの冷凍庫内でバトルしていただきます。

 書記戦の勝利条件は単純明快でございます。相手の身包みを全て剥いだ方の勝利。凍えようが凍ろうが、どちらかがどちらかを全裸に剥くまで戦いは継続されます。

 志布志さまがお選びになったこの形式……名付けて『冬眠と脱皮』は、本書記戦のために我々が用意した十三の決闘法の中で、もっとも残虐なルールと言えましょう」

 

 長者原がそう宣言した。

 『箱庭学園』が『黒箱塾』であった時代は氷室(ひむろ)でバトルが行われていたらしい。当時の氷室が寒くてせいぜいマイナス数度と考えれば、現代の生徒会戦挙がとんでもなく厳しくなっている。

 これはもう選挙管理委員会が残虐趣味なだけなのでは……? と参加者の大部分が疑っているが、指摘したって取りやめにはならないのが悲しいところだ。

 また、今回は前回の庶務戦の時より観戦者が多い。

 生徒会側にはめだか、善吉、瞳……そして、くじらが心配で来た奏丞もいる。

 

「お前、俺が庶務戦で戦った時は見に来なかったくせに、くじら先輩が戦う時は心配して見に来るのな。そーいう所がまったくおめーも素直じゃねーよなあ。うりうり」

「いやだってよ……考えてみろよ? 戦い慣れたお前なら球磨川相手でもなんとでもするだろうけど、今回みたいにアイツが積極的に直接戦おうとするなんざ、俺が知る限り初めてだぞ。絶対なんかやらかしそうだろ……」

「……………………オレハ、師匠ヲ信ジテルカラ」

「台詞に気持ちがこもってねーぞぉ?」

 

 一方でマイナス十三組側の観戦者は球磨川、蝶ヶ崎と。

 

「奏丞くん! 隣で観戦させてもらってもいーい?」

「おー、いいぞ。てかテンション高いな。何か良いことあった?」

「ふふ、わかる? そろそろアイツが身の程を知ってくれるかもと思ったら嬉しくなっちゃって! うふふふふふ!」

「ひえっ、コワイ……」

「ねえねえ腕も組んでいーい?♡」

「それはちょっと……あとあんまり挑発しないで……」

「あっ、もしかして照れてる? かーわいっ。まっ、いいわ! しょーがないから腕組みは勘弁してあげる!」

「……………………」

「わー、なんかこっち見てる人がいるわ。大切な試合前なのに集中できてなさそう。ちゃんと対戦相手の方を見た方がいいわよぉ? 瞬殺されたらつまらないじゃあないですかあ?」

「……お前は殺す。あとで必ず殺す」

「だからやめい!」

「『奏丞ちゃーん』『この色男めっ!』『こんな美人達に挟まれて』『見せつけてくれるねぇ!』『でもダメだよー優柔不断は』『そこらへんはハッキリしないと漢らしくないと思うよ!』」

「(すげー!! 球磨川のヤツ、あの修羅場に首突っ込めるのかよ!? 終業式の時もそうだったし、そーいうとこはちょっと尊敬できるかもしれねェ!)」

 

 バチバチとメンチを切り合っているくじらと怒江の間にも平然と入れる球磨川に、思わず善吉は尊敬の念をちょっとだけ抱いてしまった。しかしなるほど、馬に蹴られても死ななそうな球磨川であれば、人の恋路も邪魔し放題なのかもしれない。

 

「なあなあ先輩よぉ! 対戦相手はあたしなんだ。よそ見してるヒマがあんのかァ?」

「……教えてやるよ一年子ちゃん。お前が今心配すべきは! 俺様の勝利をどれだけ盛り上げられるかってことだぜ。せいぜい気張って俺を追い詰めてくれや」

「ずいぶん気持ちよく腹立たせてくれるねェ! ろくでもない先輩め、こんな気持ちは初めてだ! だからこそ、アンタが解体済みの冷凍マグロならぬ冷凍クジラになった姿は最高にオイシイだろうよ!」

「『飛沫ちゃんやる気満々だね~』『いいよいいよ』『これは書記戦に希望が持てるかな!』」

「……球磨川。志布志一年生の力は日之影前会長をも倒せる程だそうだな。それだけの実力があるからこそ、こうして貴様が重用しているということか」

「『おいおい』『僕が人を中身しか見てないみたいな言い方はやめてよね!』『ちゃんと外身も見て重用してるに決まってるじゃないか!』」

「…………(じと~)」

「『……という冗談はさておいて☆』『まー彼女はムラはあるけど』『マイナス十三組の中じゃ唯一勝ちを計算できる過負荷(マイナス)だからね』

 『そもそも僕は飛沫ちゃんには会長戦でめだかちゃんと戦ってもらうつもりだったけど』『会長戦でも書記戦でも一勝は一勝だし』『こーいうマッチも結果的には良かったかもね!』」

「ふん、貴様にしては随分と素直に信頼しているようだな」

「『僕にしてはなんて心外だなあ』」

 

 と、口では冗談の様なことを言いつつも、球磨川にはまだ懸念が残っていた。

 なにしろ先日のくじらの挑発的な行動の理由がまだわかっていないのだ。今ここに至ってもそのスタンスがブレないからには、恐らく隠し玉があると見て良いだろう。

 それならば、ここは保険の一つもかけておきたいところ。故に球磨川は切り出した。

 

「『そうだねえ……』『よし!』『じゃあ飛沫ちゃんへの信頼の証として約束しよう』

 『もしもこの試合で飛沫ちゃんが負けたら』『僕はその時点で箱庭学園から手を引くよ』」

「なんだと!?」

「『飛沫ちゃんが負けたら累計二敗で僕達は王手をかけられたも同然』『テトリスで言えばブロックを半分以上積んでしまった状態だ』『そこからこまめに一列ずつ消していくなんてテンション上がんないしねー』」

 

 原作と同様の撤退宣言。だが、その意図はまったく異なる。

 

「待て球磨川! そんな勝手な約束、私は承知せんぞ!」

「『そうだね』『今(・)の(・)君(・)ならそう言うだろうね!』『でもこれはあくまでこっちのやる気の問題だし』『生徒会長殿の許可なんて関係な~し!』」

「貴っ様ァ!」

 

 めだかは必ず引き止めようとする……それを見越した球磨川の布石は、いざという時に勝ち負けをひっくり返せる余地を残した。間違いなく、賭博部との戦いで余計なことを学んでしまった影響だろう。

 その辺り、奏丞に自覚は薄いが……つまりは回り回ってだいたい奏丞(コイツ)が悪い。

 

「まま、そう怒んなくてもいいじゃあねーか。それはつまり、俺が負けたっていい理由ができたんだぜ。むしろありがてーこった。おかげで負けた時の言い訳がしやすくなったよ」

「『でしょでしょ?』『僕ってつくづく気遣い上手な男さ!』『惚れるなら今のうちだぜ?』」

「貴様は黙っていろ! お姉さま! そういう問題では!」

「そーゆー問題さ。実際今回は相手が相手だ。事と次第によっちゃ一矢報いることもできないかもしれねー。

 だからよ、もし俺が負けちまっても……笑って許してくれるかい?」

「当たり前です! 勝ち負けなど後でいくらでも挽回してみせます! お姉さまが無事に帰って来てくれるのであれば、私はなんだって構いません!」

「……ったく、そーゆートコは厳しいんだか甘いんだかわからん妹だぜ。

 球磨川! てめえの思惑がどうあれ、男が吐いた言葉には責任持てよ! いざ取り消したくなって土下座することになっても知らねえからな!」

「『もちろんだよ!』『最期の麗しき姉妹愛を魅せてくれたんだ』『お返しに僕も誠心誠意約束を守ろうじゃないか!』

 『ささ!』『気を取り直して飛沫ちゃん』『頑張って勝ってきてちょーだい!』」

「……ひひひ、無茶言うなあ球磨川さん。あたしの弱さを知ってる癖に! 勝つとか! 99%無理に決まってんだろそんなこと――

 だけど! 1%でも可能性がある限りあたしは諦めない!!」

 

 まずは志布志が冷凍庫に足を踏み入れ、

 

「よし、頑張ってこいよ、くじら! なんにせよ死ぬんじゃねーぞ!」

「奏丞、縁起でもないことを言うな! お姉さま……!」

「そう心配そうな顔すんな。コイツみたいに素直に応援しとけ。……奏丞、俺のヌードがなくてもガッカリすんなよお?」

「それは別に求めてねぇ」

「は?」

「ぷっ……カワイソっ」

「あ?」

「く、黒神くじらさま。志布志さまが既に中でお待ちですので……」

「……チッ、まあいい。余裕ぶってるのも今のうちだけだ」

 

 長者原に注意されてようやく、くじらは冷凍庫に入っていく。誰の助けも得られない、極寒の地獄へ威風堂々と。

 

「さーて……目ん玉かっぽじってよーく見てな! 俺様が前人未踏の偉業をお前らに見せつけてやるぜ!」

「言ってる場合かよ! バトルは既に始まってんだ! 抱腹絶倒の醜態を見せてくれや! 喰らいなあたしの致死武器(スカーデッド)!!」

「ぐっ!?」

 

 不意打ち気味に早速使われたのは、他人の古傷を開く志布志の過負荷(マイナス)、致死武器(スカーデッド)! 過去に受けた外傷のみならず、虫歯だろうと成長痛だろうと古傷とみなし、完治した傷さえ強引に開いてしまう恐るべきスキルである。

 入室直後の強力な攻撃に、くじらの全身はほんの一瞬で傷だらけになってしまった。

 

「ひゃはっ! まだまだこんなもんじゃ(ドズドズドズッ)いぃ~っ?!」

「……調子に乗んじゃねーぞ一年子ちゃん! 注射くらい笑顔で受けねーとなーおい!」

 

 しかし入室直後に攻撃していたのは志布志だけではない。

 即、投擲していたくじらの注射器が何本も志布志に突き刺さり、中の薬液が注入される*1。

 慌てて志布志は注射器を抜き取るが、既に中身がほとんど注入されてしまっていた。

 

「テメェ、あたしの身体に何入れやがった!?」

「挿れるだなんてエロいこと言うなよ! ちょーっと試しておきたいおクスリがあったんでな。せっかくなんでそ・う・にゅ・うさせてもらったぞ☆」

「ふざけんなこのヤロウ!?」

 

 志布志は身体に違和感がないか確かめてみるが、特にこれといっておかしなところはない。もっとも寒さのせいで手足も悴(かじか)んでいるので、もとより正常な状態ではないのだが。しかし何にせよ、麻酔などではないようだ。

 

「まあネタ晴らしすると、無痛で即効性のある『ノーマライズ・リキッド』って薬さ。異常(アブノーマル)を短時間無効化できる薬だが、過負荷(マイナス)も同じく封じられるか試してみたくてね」

「なんだって!?」

「今の攻撃を見るに……お前の能力はまだ『他人に傷を作れる』ってことしかわからねーが、そういう能力を持ってるってわかってりゃひとまずそれで十分だぜ」

 

 時計台地下では結局日の目を見なかったノーマライズ・リキッドだが、くじらは原作同様にその薬を発明しており、今回それを更に改良している。即効性がある分効果時間が短くなっているが、一試合戦うだけならまったく問題ない。

 

「さあどうだ? 試しに使ってみろよお前の能力(スキル)を。使えないんなら早くも書記戦、決着が見えちまうなあ!」

「……ひひ、ひひひひひ!」

「!」

「致死武器(スカーデッド)!!」

「いっ!?」

 

 だが、志布志の過負荷はまったく無効化されていなかった。高笑いする志布志の攻撃により新たな傷がくじらの全身に刻まれ、たまらず膝をつく。

 

「くじらっ! 大丈夫か!?」

「お姉さまっ!?」

「いっ、てぇ~…………テ、テメーらそんな心配そうな顔すんじゃねーよ……」

「あたしの過負荷は封じも殺しもされやしねえ! そして勘違いすんじゃねえ。致死武器(スカーデッド)は『他人に傷を作れる』なんてカワイらしいもんじゃない。『他人の古傷を開ける』んだよ! たとえハラ痛だろうがこむら返りだろうがな!

 わかるかよセンパァイ! つまり、あたしの過負荷から逃れられる生物なんてどこにもいねーってコトがさァ!」

「チッ……古傷、古傷ねえ。やっぱり異常と過負荷は違うってことか。だがまあ歯ごたえのあるバトルになりそうなのはむしろ安心したぜ」

「強がるねぇ! だが! あたしが親切にも能力のことを教えてやったのは、あたしがとっても優しいからとか、わかったところで意味がないからとかだけじゃねえ! それがなおさら絶望的ってことを自覚させてやるためだ!」

「何が言いてえ……」

 

 志布志は膝をつくくじらの頭に手をかざす。これから見せてくれるであろう、その無様な姿を想像して……今は澄ました顔を、一足先に嘲笑った。

 

「心にだって傷はあるんだぜ!!」

「!!」

「顔色が変わったな!? えぐり出してやるぜテメーの古傷(トラウマ)を! 三度喰らいな! 致死武器(スカーデッド)!!」

「がっ、ああああああああああああああ!!?」

 

 ――くじらァ!?

 

 頭を抱えてうずくまったくじらを、心配そうに呼ぶ声が遠くから聞こえる……………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 ――俺には必要な物が三つあった。

 

 三つだ。理論上は二つあればいいかもしれねーが……なんせ不確実な話だった。

 だから一つじゃダメだ。二つでも足りねえ。確実性のためには三つとも……全て揃えたい。

 だからこーして、慣れねー最前線で血塗れになりながら体張ってる。

 だからこんなに追い詰められていることが……たまらなく喜ばしい。

 

 

 

 ――ねえねえボクぅ?♡ 可愛いお姉ちゃんに君の秘密のこと教えてちょーだい?♡

 ――似合わなっ。

 ――は?

 

 

 

 何より必要なのはまず、『因子』だ。これがないとオハナシにならねえ。

 ソレの使い手はたった二人とサンプルが少なすぎる。だが、逆に言えばそれほど類を見ない事象だってことだ。俺も兄貴もフラスコ計画にかこつけて色んな異常どもを見聞きして来たが……ついに他のサンプルは見つからなかった。

 その上、二人目もあくまで一人目が手を加えた結果発現したにすぎず、決して天然物じゃねえ。

 つまり、アイツこそが唯一無二。オリジナルであり、突然変異体であり……下手すれば人類史上初の人間かもしれないんだ。

 

 しかしだからこそ、二人目の存在のおかげで期待ができる。

 要は理由さえあれば、あの特異な能力を他の人間でも使うことができるということを証明してるわけだ。

 経緯も良い。打って変わってサンプルが多数いる過負荷(スキル)……それを改造することでソレが出来上がったらしい。てことは、少なくとも過負荷に『何か』が起きれば、誰でもソレを使えるようになる可能性があるってことだ。

 

 

 

 ――教えてくれるならあげちゃうぜッ……俺のパンティー! キャー♡ はずかしィィ~!

 ――白々しくて草。

 ――は?

 

 

 

 本人にも確認したところ、どーやらソレは遺伝することもあるらしい。

 じゃあなんで他に使い手がいないんだとか、なんでそんなことわかるんだって問い詰めたら『そういうのがわかる能力があってぇ……』とかごにょごにょ言ってやがったから、まーだ何か秘密があんだろ。

 まー前よりは比較的素直に白状するようになってるから今は勘弁してやる。

 というか兄貴にはほとんど話してやがったし、今になって皆にまで暴露しやがって。

 あんなに俺が聞いても教えてくれなかったくせに……ちょームカつくぜ!

 

 ……だがまあ、ほとんどイチから研究してたおかげで幸い理解は進んでた。兄貴達みたいに予め知って「そういうもんだ」って思っちまうよりは格段に。テレビの使い方聞いたヤツとテレビ分解して使い方調べたヤツじゃあ、わかることがまったく違う。

 よって基礎知識が公になった今! 俺が兄貴より知らないことはまったくないわけだ! つまりこの分野において名実ともに第一人者は俺ってことだ! なんなら本人よりも詳しいだろうぜ!

 

 

 

 ――髪型変えてみたんだけどよー、どーよ? 似合ってる?

 ――ど、どうしたくじら! お前がそんな女の子っぽいこと言うなんて! 風邪か?! 熱はないか!?

 ――は?

 

 

 

 とにかく! 俺はアイツが持つ特有のモノを『因子』と呼ぶことにした。ソレを使うための必要最低限の要素であり、最重要の要素。アイツの『因子』がなければ恐らく誰もソレを使えない。

 故に、長年俺……と、一応兄貴が採取していたアイツの細胞(エロい意味ではない。残念ながら……)を使い『因子』と呼べるモノを作成した。

 そしてその『因子』も一週間前……マイナス十三組の本拠地に呼び出される前に接種(エロい意味ではないけどエロい気分になった)済みだ。

 何が言いたいかって言うと……これでまずは一つ、重要な要素を用意できたってことさ。

 

 

 

 ――はい、バレンタインチョコだよ! お返し楽しみにしてるね~?(ニカッ)

 ――ほらよ、バレンタインチョコだ。たっぷり身体で返してくれよぉ?(ニチャア)

 ――サンキュー古賀先輩! くじらは……うん、まあ…………アリガトウ。

 ――は?

 

 

 

 二つ目に必要なのは『過負荷』だ。材料となる過負荷。案外異常でもいいかもしれねーが、そこは不確定要素を排除したいし、再現性のためにも二人目と同じく過負荷で合わせる。

 ありがてーことに、敵対した球磨川だのこの女だのはその中でも特上の過負荷だ。これについても事前に自分の改造は済ませてあるから、あとはコイツらの過負荷を観察して鮮明にイメージできるよーにして、過酷な環境に自分を放り込めば過負荷の発現は問題なくできるだろ。

 だから正直、一週間前に素直に襲って来てくれなかったのは結構残念だった。過負荷三人に襲われるなんて最高最低の機会、滅多にないからな。是非とも三人がかりで俺を追い詰めてほしかったが……まあ今は今でなかなかの地獄だ。もっともっとって贅沢(?)言ってちゃあ流石にバチが当たるだろうぜ。

 

 

 

――くじらちゃん。これは君にとってかなり受け入れ難い情報だろうけど、今後の作戦のためにも敢えて伝えるよ。奏丞くんはどうやら……マッドサイエンティスト属性の彼女は好みじゃないらしい。

――は?

 

 

 

 最後の三つ目は……精神力だ。

 科学者にあるまじき超あやふやさだが、そうとしか言いようがない。別に闘志とか負けん気とかって言い換えてもいいけど、あやふやなのは変わりない。

 どうやらソレは精神エネルギーの塊であって、『自分の身を守ろうとする』だとか『あいつをこらしめてやる』とかって強い気持ちで動かす能力らしい。

 こればっかりは実際に使ってみないとわからないが、自分は初心者なのでとりあえず一発目はアクセル全開な感情で動かして、それで動くなら感覚を覚えながら徐々に出力をおさえてきゃいいと思ったわけだ。

 なもんで、マイナス十三組との戦いはまさにうってつけの機会だった。

 自分の身を守りたい! コイツらをぶっ飛ばしたい!

 過負荷の圧力を撥ね退けてそう思えた時こそ、俺の精神力が最高に高まってるに違いないと思ったし、それ以上はないとも思ってたんだが……

 

 

 

――俺のヌードがなくてもガッカリすんなよお?

――それは別に求めてねぇ。

――は?

 

 

 

 ……乙女心の傷(トラウマ)を呼び起こされるのはちょっと予想外。

 

「がっ、ああああああああああああああ!!?」

「くじらァ!?」

「んっん~♪ 良い悲鳴だァ!! それが聞きたかったぜェ!」

 

 頭を抱えてうずくまっちまう。次から次へと過去の記憶が呼び起されて頭がまとまらねえ!

 つーか心の傷なんてあいまいなモン抉り出すなんざ応用利きすぎだろふざけんな!

 だけどそんな文句以上に、口から出ちまう言葉がある……!

 

「自分に厳しいテメーはさぞや色んな不幸(トラウマ)を抱えてんだろ! どーだいそれを一気に掘り起こされた気分は! ぜひとも感想を聞きたいねぇ!」

「絶対に……!」

「あ~ん? 声が小せえなあ?」

「絶対に…………! ブチ犯してやる……!!」

「んなっ……」

 

 顔を上げた。

 目が合った志布志が――うずくまっている俺を見て、なぜか怯えてやがる。

 

「ひいっ……なっ、なんだその、異様にギラついた目は!? 野獣みたいな目ェしやがって!? 強がってんじゃねえぞ! テメーの頭は今、トラウマでいっぱいのはずだろ!?」

「ああその通りだぜ……! クソが、頼みもしねえ走馬灯見せつけてくれやがって……!」

「だ、だよな!? はは、喜べよ! 何度でも反芻させてやる! 不幸大好きなお前が好きで負った傷だもんなあ!」

「好きで負ったんじゃねえ!!」

「!?(ビクッ)」

 

 足に力を入れて立ち上がる。

 俺の胸に闘志の様な、負けん気の様な……だけどどこかが違う、何かが湧き上がってくる。

 口から出る言葉が……理屈じゃなく、心から吐き出される!

 

「好きだから負ったんだ!!」

「テメーさっきから何言ってやがんだぁ?!」

『……………………』

「…………ああ? 誰だ、お前?」

 

┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨……

 

 ――俺の目の前に、知らねえ誰かの背中がありやがる。

 俺の背中じゃねえ。志布志の背中でもねえ。……観戦者どもの背中でもねえ。

 白衣みたいな妙に落ち着いた服を着てやがるわりに、背中の肩甲骨から左右二本ずつ、スーパーカーみたいなぶっといマフラーが暑苦しく突き出て震えてる。髪のない真っ黒な頭部に走る白い線を見ると、なぜだか見慣れた心電図を思い出しちまった。

 誰だコイツは。

 なんでお前はそこにいやがる。なんでお前は浮かんでやがる。なんで――お前の視界が俺にも見えてやがる。

 

「意味わかんねーことをゴチャゴチャと……いや、そうかわかったぜ! トラウマと寒さのダブルパンチでついにイカれちまったみてーだな! 驚かせやがって! やれやれ思いのほか脆い精神だったようだなあ!」

「お前…………見えてねーのか?」

「いいやよーく見えてるぜ! ゾンビより無残にフラついたテメーの姿がな!」

「ホントに見えないのか?」

「おっと悪いな! 会話ももうできなかったみたいだな!」

「見えねェんだな!?」

「!?」

 

 ……動く。動かせる。自分の思い通りに!

 

「これがお前の見てる世界か!!」

「どーいうテンションなんだよテメーは!?」

 

 志布志が俺を蹴り倒そうと足を伸ばしてくるのが見える。

 ……おせェ。笑っちまうくらいおせェ! コイツの前じゃあ銃弾ですらトロくせェ!

 志布志の足をコイツの手で受け止める!

 

「なんだっ!? なんかに止められっ……はあっ?!」

 

 受け止められた志布志の足が凍っていく。コイツの手で触れた場所が凍っていく!

 そーいや手で触れて発動する能力が多いって奏丞が言ってたな。つまりこーゆーことか!

 しかもなるほど、能力についてもなんとなくわかったぜ! 『能力はシンプルな方が強い』!! 初心者にもわかりやすい、良い能力だ!

 

「足が凍ったぁ?! なんだってんだよ?! いったい何のトリックだ!?」

「それだけじゃねえ。俺の怪我もこうしてやりゃあ……」

 

 ソイツの手で俺の傷口に触れると、傷が一瞬で凍りついて止血することができた。だがそれだけじゃねえ。俺の身体に触ってみれば……傷口は凍ったままなのに、体はポカポカと温かくなってきた! イイね、こりゃあなかなかの精密動作性だぜ!

 

「き、傷口が凍って出血が止まった!? いや……環境のせいだ! マイナス四十八度にもなりゃそれくらいは……うっ、いてっ!」

「そう慌てなさんなよお嬢ちゃん」

 

 片足が凍っちまって体勢を崩した志布志が尻もちをついた。

 おいおいそこまで怖がらなくてもいいじゃあねーか。

 そんなに怯えた目で見上げられると…………興奮しちゃうじゃねーか♡

 

「『素晴らしいものは地獄からしか生まれない』って考えはやはり間違いだったな! なんせ俺の精神力が地獄を吹き飛ばしたからこそ! コイツは生まれて来たんだからなあ!

 氷点下(マイナス)の脅威に立ち向かうために制作したこの能力を、過負荷(マイナス)の恐怖に立ち上がるために成立したこの能力を! 俺は『凍る火柱(アイスファイア)』と…………い(・)や(・)」

 

 過負荷が変質したことで失ったモノがあるのだろう。できなくなったこともあるのだろう。

 だが! 俺はその変化を歓迎する!

 これは『進化』だ!

 十三年間の努力と!

 大親友の献身と!

 0.0000……1%くらいの兄貴の愛が!

 世界中の誰もが知らなかった景色を『開拓』したんだ!!

 

「今の俺は最高にロックな気分だ! 故に! 俺はこのスタンドを『ファイアー&アイス』と命名するッ!!」

 

 だから、覚悟しろよ奏丞!

 顎が外れそうなほど馬鹿面さらして驚いてるヒマなんか、お前にはもうねーんだからな!!

 

 

*1:
くじらの注射器は投げ刺して注入できる特別な注射器となっております






スタンド名 ― 『ファイアー&アイス』
本体 ― 黒神くじら

破壊力 ― C  スピード ― B  射程距離 ― D
持続力 ― B  精密動作性 ― A  成長性 ― B

 黒神くじらの過負荷『凍る火柱』が改造されて生み出されたスタンド。体温を操る過負荷は、触れた物の温度を操るスタンドとなった。スイッチを入れる様に一瞬で物を高温にも低温にもすることができ、『凍る火柱』ほど大規模な能力ではなくなったものの、その気になれば結構広範囲の温度も操作することができるようだ。もちろん近距離パワー型スタンドとして運用できる強みもあるため、結果としては強くなったとも弱くなったとも言えるだろう。

 そして真面目にオリジナルスタンドの説明を書いている作者も顔から火が出ているようだ。

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