Fate/DARK Order   作:えんま

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全3話連続投稿です。
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第七章:絶対魔獣戦線メソポタミアIII(終)

「うっわ何よあれ、えげつな」

 

彼女やマシュに襲い掛かるラフムらを撃墜しながら、イシュタルはそう呟いた。

こちらよりもはるかに大量のラフムたちが襲いかかっているというのに、一向にその進軍速度が衰えないのだ。

火が、雷が、そしてソウルの輝きが迸り霧のように中空を暗く染めるラフムの大群が薙ぎ払われていた。

そして未だに炎に象られた巨人はビーストⅡが前に進もうとしているのを阻んでいた。

体格差をモノともせず大盾と大鉈を振るい、時にはビーストⅡを後退せしめていた。

 

「こ、これでは我々がティアマト神の元に辿り着く前に決着がついてしまいます!」

 

マシュが焦ったように叫ぶ。

彼女も走るスピードを上げるも、その体はすでに疲労困憊、限界である。

すでに、戦い続けてどれだけの時間が経っているのか。

完全な霊体であるサーヴァントと違い、彼女は肉体を持つデミ・サーヴァント。

精神的にも、肉体的にも彼女が疲労から受ける影響は非常に大きい。

その疲労が、否応なく彼女に焦りを生んでいた。

 

「いや、そういうわけにもいかないだろう」

 

そんな彼女をたしなめるように、あるいは甘い見通しを諌めるようにマーリンが言葉を発した。

 

「いかに彼といえど、あれはビースト同士のぶつかり合いだ。そうそう上手くいくものでないよ」

 

彼の言葉を肯定するとように、徐々に、徐々にではあるがティアマト神のラフムたちの排出量が王たちの化身の殲滅速度を上回り始めていた。

いかに強くとも、無尽蔵とも言える数の暴力には抗しがたいということか。

 

「い、急がなきゃ……あっ」

 

そう言って彼女は再び足を前に動かし、そして踏ん張れずにその膝が崩れた。

 

「マスター!?」

 

すぐにマシュが彼女の元に駆け寄る。

汗を流し、浅く呼吸を荒げる彼女は、誰がどう見ても疲労困憊、限界だった。

いかにこれまで6つの特異点を巡ってきたとは言え、元は一般人。

ここに至るまでのマシュへの魔力供給やサポートによる魔術回路の酷使は壊死という形で彼女の肉体を傷つけていた。

 

『……っ』

 

カルデアにて彼女のバイタルデータを確認しているロマンが、顔を歪ませる。

彼個人としては、彼女を休ませてあげたいのだ。

しかし、人理保障機関カルデアの司令として、彼はその選択を口にすることはできなかった。

あと、少しなのだ。

絶望にやっとの事で光明が見え始めた今この瞬間に、彼女を休ませるにはいかなかった。

手袋をしていない方の手を、硬く握りしめ、爪が手のひらに食い込み血がにじんでいた。

彼のモニターの先では、彼女がなんとか立ち上がろうと膝をついたまま身動ぎしている。

 

「くそっ…このっ…動いて…動いてよ……あと、あと少しなのに……王様に後を託されたのに…!!」

 

彼女の慟哭が響く。

エレシュキガルがどうしていいかわからずオロオロとし、イシュタルはそっと目をそらした。

山の翁は黙して語らず、じっと佇み、マーリンはふと彼女から視線を外した。

マシュが、そんな彼女を悲痛そうに見つめ、そしてその瞳に決意を宿らせる。

 

「先輩、行きましょう。私が先輩をおぶって行きます!」

 

彼女に手を差し出し、マシュは言った。

 

「マシュ……でも、それじゃマシュも危なく……」

 

「大丈夫です!私の他にも頼れる方々がマスターにはついています!!……それに、こんなことでしか、助けてもらってばかりいる私には、先輩のお役に立てないから…」

 

優しく微笑んでそういうマシュの瞳を見つめ、彼女は張り詰めた表情をふっと柔らげた。

ゆっくりその指先を黒く壊死させた手をマシュの差し出した手のひらに重ねる。

 

「そんなことないよ、マシュ……私の方こそ、マシュには助けてもらってばっかり……でも、ありがとう。お願い」

 

そして、マシュが彼女を背負おうとした時だった。

 

彼女の頭上に黄金の波紋が広がり、そこから何かの瓶が落下してきた。

 

「へぶっ!?」

 

ガッシャーン、と綺麗に彼女の頭部に直撃して割れた瓶の中から、液体がぶちまけられた。

 

「いった……くない!?」

 

気づけば、瞬く間に彼女の傷ついた体が癒されてゆき、さらにはそれまで感じていた疲労感すら吹き飛んでいた。

 

「何をしている■■。今こそ一息に決着をつけるべき時であろうに、悠長に座り込んでいる(いとま)はないぞ?」

 

眼前に降り立つ黄金の舟。

恐るべき覇気。

船上に座すは黄金の……

 

「王様…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

炎は今や翳り始めていた。

 

ーやはり複数の敵は辛い

 

かつて下水路にてネズミたちに嬲り殺しにされたことを思い起こしつつ王たちの化身は呟いた。

周りをみれば上下左右全てをラフムの軍勢に覆われている。

炎で薙ぎ払っても薙ぎ払ってもすぐにその亀裂は黒く塗りつぶされてしまう。

ティアマト神まで、あと100メートル前後のその位置に、彼はラフムの軍勢によって縫いとめられていた。

どうやら11体のティアマト神の真の子らは不死隊によって駆逐されたようではあるものの、やはり彼らも万を超える軍勢には手を焼いているようだ。

巨人の王もまた徐々に膂力負けし始めたらしく、少しずつ少しずつ押し込まれている。

王たちの化身と彼の持つ螺旋の剣に宿るかつて世界を照らした火は、このままでは尽きてしまうだろう。

もとより、永劫灯り続けるようではないのだから当然ではあるのだが。

そうなれば、歴代の王たちの顕現は維持できまい。

 

ーふんっ

 

周囲から一斉に襲いかかってきた飛行型のラフムを、王たちの化身は奇跡「神の怒り」によって全て消し炭とした。

彼の体より迸る衝撃波は、襲い来るラフムらに留まらずに、さらにもう少し遠方で飛び交っていたラフムらをも消滅させる。

それでも、おそらく彼を何としてもその場に押しとどめようという意図か、弾丸のように身を丸め尖らせたラフムらが彼に殺到する。

 

ーぬぅ……

 

実のところ、すでに王たちの化身は彼の射程圏内(・・・・)にティアマト神を捉えてはいた。

さらに距離を取っても良いが、周囲への被害をなるべく抑えるギリギリの距離が、彼が今いる場所であった。

 

どうするか

 

ラフムらを迎撃しつつ、彼が思案している最中出会った。

飛来した数多の武具が彼を襲撃していたラフムたちを次々と撃ち落としたのだ。

 

ーこれは……

 

 

「何をのんべんだらりとやっている」

 

その武具が飛来した方向を見やれば、そこには黄金の王が、浮遊する黄金の船に座していた。

その船には他にも、カルデアのマスターや彼女のデミ・サーヴァントであるマシュ、マーリンの姿もあった。

 

「リンカー!」

 

カルデアのマスターが叫んだ。

王たちの化身はそれに、首を横に振って答える。

 

ー否、この身はすでに貴公のサーヴァントたる霊基にあらず

 世界を滅ぼした獣に過ぎない

 貴公のサーヴァントは死んだのだ

 

その言葉に、彼女は面喰らうとともに、すぐさま頬を膨らませた。

胸中にふつふつと湧き起こるのは怒り。

きっとその言葉は、時代は違えど人類悪である存在となった彼に人類の希望たる自身をなるべく関わらせまい、と言う考えのものなのだろう。

だが、彼女はそんなことはどうでもよかった。

それがどうしたというのか。

自分のダメサーヴァントへのお説教の声が、その口より飛び出した。

 

「うるさい!!せっかく来てあげたのになんだその言い草は!!霊基とか獣とかそんなの知るか!!お前は私とマシュと、カルデアのみんなとずっと一緒に旅をして、戦ってきたリンカーだ!!異論は受け付けないからね!!!!」

 

ー貴公、それは…

 

「うるさいうるさいうるさーい!そ・れ・に!!」

 

王たちの化身に喋らせることもなく、彼女は駄々をこねるように言葉をかぶせた。

そして、カルデアの制服の胸元のベルトを緩め、襟元を開き中から一つ、あるものを取り出した。

 

ーそれは…

 

彼女が取り出したのは、彼女が自身の首にかけていたなんの変哲も無い古びたペンダントだった。

それは以前、リンカーが彼の夢へとやってきた彼女に手渡した、彼の日常の証。

ペンダントがチャラリ、と揺れた。

 

「これをくれたのに!もう無関係でーす、みたいなのが通ると思うなよ!!私と、私たちとあなたの絆はちょっとやそっとじゃ断ち切れないからな!!」

 

そこまで言い終えると、彼女は王たちの化身を睨みつけながらゼーハーと息を整える。

その背をマシュが心配そうにさする姿は、今世界の存亡を賭けた戦いの場とは思えぬほどに、日常的だった。

 

「ふはははは!道化もここまでくれば天晴れよな!薪の王、この手合いに道理は通用せんぞ?せいぜい大人しく諦めることだ」

 

ギルガメッシュが、ラフムらに向け武具を掃射しながら高笑いを上げそう言い放った。

その傍らには、ニヤニヤとなにやら楽しげなマーリンが彼女を見つめている。

息を整え終わったらしい彼女は、最後にもう一度王たちの化身を、リンカーに指を突きつけて言った。

 

「わかったか!!」

 

ー………

 

その姿をじっと彼は見つめていた。

 

ペンダントを服の外に出した彼女の姿に重なるように、ペンダントを身につけた誰かが……

 

それは、一瞬のことだった。

幻影か、それとも失われた記憶の残滓か。

フッと笑みを溢し、リンカーは彼女を小馬鹿にするようにやれやれ、とジェスチャーをして見せた。

それにムキーッと地団駄を踏む彼女と、それをたしなめる少女。

愉快そうにそれを見つめながら、リンカーは口を開いた。

 

ーでは、共に戦ってもらえるか、マスター(・・・・)

 

その言葉に、ピタッと動きを止めた彼女は、すぐさま満面の笑みを浮かべてサムズアップして言った。

 

「もっちろん!!」

 

 

 

 

「で、どうすればいいの?」

 

ー我が最後の権能を使う

 そのために今顕現させている全ての王を我が元に戻さねばならない

 

「そのための足止めってことか!」

 

(しか)

 

その問答ののち、すぐさまそれぞれは行動を開始した。

リンカーと、彼女を守るためにまずマシュが目に出た。

船とは別に、自ら飛んできたイシュタルとギルガメッシュが四方から迫るくるラフムたちを迎撃する。

マーリンは花の魔術師としての技能を駆使し、皆の傷を癒してゆく。

リンカーは権能の発動のため、冥界の地に降りた。

 

ー王よ

 

その最中、リンカーがギルガメッシュに声を掛けた。

 

「わかっておるわ」

 

ふん、とそれに尊大な笑みで応ずるギルガメッシュ。

それに首を傾げる彼女に、しかしリンカーもギルガメッシュも彼らのやる取りを説明することはなかった。

火の時代最後の薪の王と、人類最古の英雄王の間にのみ通じた何かがあったことに、彼女がムッとする。

その頭にリンカーは手を置き、撫でる。

 

「子、子供扱いしないでよ」

 

頬を赤らめて抗議する彼女に笑って応えると、リンカーは惜しむかのように手を離した。

 

「リンカー?」

 

何か、その仕草に疑問を抱いた彼女の言葉を、リンカーは意図的に流した。

 

ーでは、始める

 

リンカーはゆっくりと、冥界の地に螺旋の剣を突き立てた。

切っ先が沈み、火の粉が舞う。

ねじれた刀身が赤熱した。

 

突如、放たれていた薪の王たちの顕現が炎へと溶け、螺旋の剣へと収束を始めた。

全ての火が回収されても、その剣身に宿った火は始めの頃の見る影もなく、まるで消えかけのようだった。

攻防を行っていた相手を失ったティアマト神は、その顔をリンカーの方へ向けた。

彼を倒さねば、霧は晴れないゆえにの行動だろう。

 

「…霧?」

 

ふと、カルデアのマスターは空を見上げた。

今や天頂に霧はなく、そこにはいつか夢で見たような深淵をのぞかせる太陽があった。

 

あれを見たのは確か……

 

黒い太陽。突き立てられた螺旋の剣。王たちの化身。

 

「来るわよ!!」

 

彼女の思考が、とある結末に行き着く前に、イシュタルの言葉がその思考を断ち切った。

見れば、ティアマト神がその巨体で以ってこちらへと突進してきていた。

 

「先輩!!」

 

マシュの声に、すぐさま彼女は応じた。

 

「令呪を以って命ずる!マシュ、宝具を使って!!」

 

彼女の手の甲の刻印が、一つ眩く輝いて消える。

令呪の魔力がパスを伝ってマシュの霊基を満たす。

 

「真名、開帳――私は災厄の席に立つ」

 

迫り来る巨躯にを前に、しかしマシュの心は揺るがなかった。

自分の後ろに、彼女の大好きなマスターと、尊敬してやまないリンカーがいるのだ。

揺らぐはずが、なかった。

 

「それは全ての疵、全ての怨恨を癒す我らが故郷ーー顕現せよ、『 いまは遙か理想の城( ロード・キャメロット)』!」

 

現れた白亜の城が、ティアマト神の突進を受け止めた。

その城は彼女の揺らがぬ心のように、小揺るぎもせずにその突進を受け止めている。

大量のラフムたちもまた、その城に阻まれリンカーらの元にたどり着くことができない。

 

そんな中、リンカーは徐ろに螺旋の剣の脇の地面に触れた。

 

ーああ、よもや、再び会うことになろうとは

 

彼の触れた場所が、光り輝く。

 

「あっ……」

 

その光景を、彼女は見たことがあった。

リンカーの、その生涯を、彼女は見たことがあったのだから。

光より現れたのは、仮面で両目を塞いだ美しい女性だった。

その女性は、語らず、リンカーへと腰を折った。

最後の火防女。

本来火が絶えぬよう、その名の通り火を守る務めを負った女性であり、リンカーと共に火を消した張本人でもあった。

 

ー世話をかける

 

リンカーのその言葉に、彼女はゆっくりと首を横に振り、うっすらと微笑んだ。

彼女は踵を返し、螺旋の剣の元にひざまづいた。

それは、まさしく、カルデアのマスターが、リンカーの生涯の最期と全く同じ……

 

「待って、リンカー、もしかしてこれって……」

 

ー原初の母よ、貴様は、己が何から生まれたか覚えているか?

 

リンカーの、朗々とした声が、冥界へと響き渡った。

今から何が行われるか悟ったのか、ティアマト神の攻撃が激しくなる。

しかし、それは白亜の城に阻まれ功を奏すことはない。

 

 

ー刮目せよ

 我が旅の終わり

 この星を始める、人類史の発端

 我が大業成就の再現を!

 

 権能、発動

 この世(火の時代)の全ての終わり、この世(地球)の全ての始まり

 

 ー原初の深淵に沈め

 

 

 

 『火継ぎの終わり(ダークソウル)

 

 

 

火防女の両手の中で、小さな火種が燃え尽きる。

その傍らに、リンカーは片膝をつく。

その身にも、すでに火はなく。

 

突如、冥界が、否、世界が闇に包まれる。

全ての輪郭が失われ、深淵へと没する。

あるいは誰かが予見した深海の時代。

火継の終わりは、その到来を意味していた。

 

「ぁ……」

 

ふと、彼女は自分が息を止めていたことに気がついた。

それだけではない、自分にはまだしっかりと輪郭があった。

見やれば、マシュも、ギルガメッシュも、イシュタルも無事だった。

 

「曲がりなりにも己が権能、ある程度の制御が可能なのは当然であろう」

 

事も無げにギルガメッシュは言う。

その周囲にすでにラフムはいない。

 

「奴のこの権能は滅ぼすのではない。ティアマトすら生まれる以前、原初の深淵のみが在った時代を再び到来させるものだ。

つまり、この創世以前の世界になかったものは存在を許されん。

ラフムはティアマト神より生まれた者共、当然、存在を許されるはずがなかろう。

まだ奴らは生まれていないのだからな」

 

もし、リンカーがこの権能をコントロールできなければ。

その考えが彼女の脳裏に過ぎり、背筋につめたい物が走った。

 

「でも、これでー」

 

終わった、という彼女の言葉は続かなかった。

 

「A、AAAAAAaaaaaaaaaaaaa!!!!」

 

無の世界の中で、ティアマト神の声が響き渡った。

 

「そ、そんな…っ」

 

マシュが焦った声を上げる。

声が出せなかっただけで、彼女もまた動揺していた。

 

「ティアマトはこの深淵より生まれ出でたのだ。耐えられて当然か」

 

そんな2人に反して、ギルガメッシュはどこまでも余裕を持っていた。

腕を組み、不敵な顔で深淵より再びその姿を表したティアマト神を見つめる。

 

「お、王様!今は慢心してる場合じゃ…」

 

「慢心などするはずがなかろう!!」

 

英雄王のその一喝に、彼女の背筋がピンと伸びる。

不敵な笑みの、その双眸はしかし、確かに油断なくティアマト神を見つめている。

まあ、想定通りだ、とそのまま静かにギルガメッシュは言った。

そして、すぐにその口から愉快げな笑い声が漏れいでる。

 

「クク……薪の王も、なかなかに粋な奴よな…この我にとどめを託すとは」

 

その言葉に、彼女は首を傾げた。

彼女はてっきり、リンカーの権能でティアマト神を打倒するのだと思っていたのだ。

 

「今、ここはかつてティアマトとマルドゥーク神が戦った創世前夜の深淵。で、あれば、我こそこの戦いの決着に相応しいわ!!

カルデアのマスターよ、せっかくウルクへ来たのだ。英雄王の雄姿をとくとその眼に刻むがいい!!」

 

高らかにそう宣言し、ギルガメッシュは、英雄王はその右手を前に翳した。

 

「この一撃を以て訣別の儀としよう!」

 

ギルガメッシュの足元に黄金の波紋が広がる。

波紋より出でるは異形の剣。

あるいは回転する円柱状のそれもまた、螺旋の剣とも言うべきか。

紅い文様を纏ったそれと共にギルガメッシュは宙へと浮かび上がる。

 

「原初を語る。

 

天地は別れ無は開闢と言祝ぐ。

 

世界を裂くは我が乖離剣! 」

 

紅き旋風が王を中心に吹き荒れる。

その本来無銘の剣こそ天地開闢以前、星があらゆる生命の存在を許さなかった原初の姿、地獄そのもの。

創世以前の原初の深淵へと世界が回帰した今、その剣は権能の如き本来の威力を発揮する。

すでに時空断層を産み撒き散らしながら、乖離剣は唸りを上げる。

 

「星々を廻す臼、

 

天上の地獄とは創世前夜の終着よ

 

死を以て鎮まるが良い」

 

その一撃は、かつて地母神ティアマトの身体をマルドゥーク神が両断し、その亡骸を大地と空とした創世神話の再現。

ギルガメッシュがその柄を握る。

ゆっくりと振り上げられる乖離剣。

その切っ先を向けられた天上に、今か今かと原初の地獄が渦巻き、脈動する。

 

英雄王は、金切り声を上げ、身動き一つしないティアマト神を見る。

悲しみ、嘆く自我があったのか、それとも、驚異に対する術がないために機械的に活動を停止したのか。

 

それを知る術はなく、また知る必要もなかった。

そこに在るは英雄王。

誉れ高く偉大な人類最古の王。

ティアマト神によって蹂躙されたウルクの王である。

 

切っ先が、振り落とされた。

 

 

 

 

「――『 天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)』ッ!!」

 

 

 

 

すなはちかつて地母神ティアマトの身体をマルドゥーク神が両断し、その亡骸を大地と空とした創世神話、その名を冠した一撃は、深淵を最大出力で以って世界を両断しながら突き進み、伝承の通りティアマト神の巨躯を上下に断じた。

紅い暴風はまさしく地獄の再現。

深淵に満ちた空間を、断ち切り、歪ませ、かき混ぜる。

 

 

その瞬間、創世が行われた。

 

 

 

 

 

「う、ぁ……」

 

あまりの光、衝撃に、半ば気を失ったような状態だったらしい彼女が目を開けた時、すでにティアマトの両断された肉体は深淵に溶け、リンカーの権能が発動する以前の冥界の姿へと変貌しつつあるところだった。

創世神話を目の当たりにしているという自覚もなく、ぼうっとそれを眺めていたところで、彼女ははたとリンカーの存在を思い出した。

 

「リンカー!?」

 

叫べば、思いの外すぐ近くに、灰のように鎧が色褪せたリンカーが片膝をついて佇んでいた。

 

ーおぉ、貴公

 

その声だけで、彼女はリンカーの状態を理解した。

理解してしまった。

 

「そんな、リンカー、嘘っ」

 

世界(リンカーの内)から、火は絶えたのだ。

なれば、その身は灰となり消えるのみ。

もうこの時代(地球)に存在することはできないのだ。

あの日、火継ぎを終わらせた時、彼は使命を果たし灰となったのと同じように。

彼の最後の権能は、ある種の自爆行為に近しいものだった。

 

徐々に深淵が消え、世界が地球となり始めていた。

消えゆく深淵は、どうやらギルガメッシュが不死の霊薬を求めて降った原初の海、深淵とつながっているようだった。

ティアマト神の肉体によって元の世界に戻る深淵と、波が引くように冥界よりもさらに下に飲まれる深淵があった。

 

ー貴公、マスター、ここで別れだ

 

灰のようになった彼は、ゆっくりと立ち上がり、冥界の下に飲まれてゆく深淵と共に歩み始める。

 

「そんなっ!!」

 

追い縋ろうとした彼女を、マーリンが腕を掴んで止めた。

 

「リンカーさん!」

 

マシュもまた、賢王の姿に戻ったギルガメッシュにより止められていた。

2人とも、涙が溢れていた。

 

「何度も助けてもらったのに、私たち何も返せてないよっ!!記憶を取り戻すって願いも、まだっ!!」

 

彼女の叫びに、彼は背を向けたまま言った。

 

ー否、もう、多くのものを貰ったとも

 記憶も、新たな思い出ができた

 それで、良い

 

彼の歩みは止まらない。

徐々にその姿は闇に飲まれていっている。

リンカーは右手を横に伸ばし、親指を上に突き立てた。

 

ー幸運を祈る

 

そう言って、ついにその全身が闇に飲まれた。

もはや、誰の目にもその姿は映らない。

 

まだまだ言いたいことがあったのに、勝手に言いたいだけ言って

 

多くの言葉が胸の内でごちゃ混ぜになり、涙で前もうまく見えない中、跳ねるように彼女は上半身を突き出して叫んだ。

 

「ねえ!私の声が聞こえる!?」

 

地下深くに飲まれ、消えゆく深淵に、彼女の声が反響した。

 

 

 

「ありがとうっ」

 

 

 

深淵の奥底で、火の粉が舞った気がした。

 

 

 

 

 




必ず第六章の続きも書きます。
この度はご期待を裏切る形になり申し訳ありませんでした。
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