「ただいまー!しろつれてきたよ!」
『こらリク、シノさんだろシノさん。
白衣来てるからって白なんて変なあだ名は良くないぞ・・・・』
『すみませんねぇシノさん、いつもいつも・・・・』
「はっはっは。良いんですよいつもの事じゃないですか。それでこそリクですから」
ちょうど夕飯の準備が出来上がったところで、タイミングよくリクが帰ってきた。
リクの”賢者の声を聞かせる”能力は、基本的に効果範囲は家族だけなのだが、
この”家族”の中にはシノさんも含まれているらしい。
彼も会話に加われるので、リクがシノさんを連れて帰ってくるときは
いつもこんな風に賑やかだ。
「いらっしゃい、シノさん」
「やぁ、悪いね急に。夕飯楽しみにして来たよ」
研究室では白衣。大学を出ても常に上等な白いスーツ。あだ名通りのシノさんだ。
「シノさんって、お父さんお母さんと話せるようになったのって最近なの?」
論文を書き上げたシノさんはお腹が空いていたのだろう、
テーブルにつくなりロールパンを片手に目の前の料理を手当たり次第がっつき始めた。
ようやく人心地ついたところで質問すると、居住まいを正し、
こほんと咳払いをしてから答えた。
おそらく大学教授らしい振る舞い、というのを気にした結果なのだろう。
「去年の年末から、くらいだ。リクに家族と認めてもらったという事なんだと思う。
ありがたい事・・・・なんだろうが」
シノさんが最後の言葉を濁した。こんな時には必ず何か言いにくい話がある。
不意に私が警戒しはじめたのが空気で伝わったのだろう、
シノさんもまた表情を硬くして視線を下のスープ皿に落とした。
「・・・・すまない。今日持ってきた論文は君たちにとって悪い知らせになる・・・・」
「リ、リクの身体になにか?」
『そんな!?』
レイと、賢者二人の声が重なる。
なんとなくこれを予想していた私は料理を下げ、
焼いておいたアップルパイと紅茶の準備をはじめた。
「えー・・・・”魂のエネルギー変換効率と保存性”?」
台所でデザート皿を出していると、
シノさんが鞄から出した論文のタイトルを読み上げるレイの声が聞こえてきた。
レイもリクもぽかんとして、まったく理解できていない顔だ。
賢者二人は分かっているのだろうけれど、黙っている。
「要は、リクに宿っている賢者の石のエネルギー
スズナちゃんの両親の魂の力がいかほどか、という事だ」
シノさんが解説を始めた。
「賢者の石が人間の魂をエネルギー化して凝縮したもの、というのは以前説明したね」
レイが頷く。リクは既に難しい話に飽きてしまったのか、
テーブルの下でひとり、積み木遊びを始めている。
「そして、そのエネルギーは錬金術によって消費される。
スズナちゃんの時は植物を足元に生やす力に、
リクに宿ってからは賢者の魂の声を限定的な者だけに聞こえる、
特殊な音波に変換する力に。
さて、ここで問題だ」
紅茶を淹れ、私が再びテーブルにつくと、
シノさんは身を乗り出して人差し指を私に突き付けた。
「スズナちゃんとリクの力、妙に差があると思わないか?
片や生命を生み出す能力、片やたかだか声を人に聞かせる能力」
ふと、横からレイが手を挙げた。シノさんの指をさえぎるように手を伸ばし、
アップルパイを取りながら慎重に言葉を発した。
「リクとスズナの・・・・錬金術師としての力の差なのでは?」
うむ。大仰に頷くとシノさんは指を引っ込めた。
「もちろんその可能性もある。
だが私はその時点でひっかかるものがあって今回の論文の研究を始めたのだよ。
リクの力が、スズナちゃんと比べ控えめなのは何故か?」
「賢者の石のエネルギーが、残り少なくなっていたからではないか?」