自動書記の、自動書記による、禁書目録のための。 作:ふらみか
*会議 四*
「すみません。恩人である貴方にこんなことをしてしまって。もう聞こえていないでしょうけど、謝らせて下さい。本当に、申し訳ありませんでした」
神裂火織は、足元に横たわる上条当麻を優しく動かした。
彼は今、深い眠りに就いている。
粉薬の入った小さなビニール袋をポケットにしまって、今度は上条当麻を抱きかかえる。いわゆる、お姫様だっこの状態だ。
一般人では男と女で逆になるべき光景だが、聖人の彼女には、上条の身体は軽すぎるくらいであった。
「ねーちん、演技する気あったのかにゃー?」
その後ろ姿に彼女の同僚が声をかけた。
「まったく。無理矢理にも程がある。そいつを殺したら悲しむのはあの子だよ」
それも、二名。
神裂は答えることも振り返りこともせず、一年前と同様、ボロアパートへと歩みを進めようとした。
と。
「――確認させて下さい。彼は眠っているのですよね?」
同僚二人とは違う、鈴転がしたような、それでいて機械音声のように平坦な口調で声をかける者が居た。
「……来ていたのですか、インデックス」
神裂はようやく歩みを止めた。そこにインデックスがゆっくりとした歩きで近付く。いや、この場合はペンデックスと言うべきなのだろうか。
「――警告、第七章第三節。重要因子、上条当麻の生命活動、及び、健康状態を検証……成功。因子は現在、睡眠状態にあることが判明。左頬に打撲痕が見受けられますが、生命活動を脅かすことには繋がり得ないことが分かりました。頭内部の損傷具合を確認……成功。先の件にて増えた損傷は見受けられず――」
まだまだ続きそうだった彼女の言葉に、神裂は食い込み気味に言葉を挟んだ。
「当たり前です。きちんと加減しました」
「……しかし、やり過ぎとも捉えられる行為でした」
「……反省は、してます」
神裂はインデックスの指摘にしゅんとする。
聖人のこういう姿を作れるものは少ない。
「ま、無事に眠ったんだからいいんじゃねーかにゃー」
「一応は『計画』通り、だしね。手段については大目にみてやっていいんじゃないかな」
インデックスは小さな声で、そうですね、と呟いた。
「このまま彼が四日間眠り続ければ、『計画』は成功です」
今日から四日目は七月二八日だ。
去年のその日、インデックスは運命のサイクルから外れることができた。
去年のその日、インデックスの放った竜王の殺息によって樹形図の設計者が破壊された。それに伴って、物語は加速した。
去年のその日、上条当麻は一度目の死を迎えた。
「……ええ。今、私が飲ませた薬は四日間昏睡する程度の麻酔効果があるのでしょう? どうなのです、土御門」
土御門はにやにやしながら。
「その通りだぜい。ま、本当は、それだけ飲ませればかみやんは眠れたんだけどにゃー。蹴っちまったからにゃー。もしかしたら、五日、あるいは一週間は目を覚まさないかもにゃー」
腕を組み、いつもの調子で話す。
「僕としては一生起きないで欲しいところだけどね」
と、ステイルもいつもの調子で続ける。
二人の言葉には、ピリピリとした空気は無かった。
人よりも何十倍も何百倍も神経が立つ神裂には、その言葉はどう聞こえたのだろうか。
「……だそうです。安心して下さい、インデックス」
「五日以上眠り続けられるというのであれば、こちらとしても安心できます。皆さんのご協力に感謝します」
インデックスはぺこりと頭を下げる。
ステイルはむず痒そうにそっぽを向き、土御門はにゃーにゃー言いながら適当にあしらい、神裂は軽く会釈して返す。
三者とも、それぞれの反応で彼女に応えた。
そして神裂は、再びボロアパートへ向かう。
これで、『計画』は終わりだ。
後は時間だけが過ぎればいい。
仕事を終えた必要悪の教会のメンバー達は、それぞれの向かうべき方向へと散って行った。