自動書記の、自動書記による、禁書目録のための。   作:ふらみか

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会議六

*会議 六*

 

 上条当麻が黙ったまま動かなくなった。

 神裂火織はその場に居辛くなったため、外に出た。彼女はそのまま、近くの公園へと向かうようだ。

 公園に着くと、彼女は見知った顔を見つけた。神裂はその人物に近付いて行く。

「いやー、ねーちんの説教、よかったぜよ」

「説教などと高尚なものではありませんが、それよりも……。聞いていたのですか、土御門。趣味が悪いですね」

「たまたま耳に入っちまっただけだにゃー」

 ほらよ、と土御門はペットボトル入りのお茶を神裂に投げて渡した。

「そこで買ったばっかりだからキンキンに冷えてるぜい」

「ありがとうございます」

「んー? 元気なさそうだけど、どうしたんだぜよ? 俺でよければ愚痴の捌け口になるぜい?」

 渡されたペットボトルを見つめながら、彼女は睫毛を伏せた。

「……、私では、ダメでした」

「ダメ?」

「聞いていたのなら分かるはずです」

「いやー、俺ってばバカだからにゃー。言われないと分かんねーんだぜい」

 伏せた睫毛を起こし、

「……彼を、救えませんでした」

 神裂は近くのベンチに腰を下ろした。七天七刀は膝の上に置いている。

 彼女の視線の先には、夏の日差しを平等に、全て受け止める地面があった。

「分かっていました。彼を救えるのは私ではなく、あの子だけなんだということは。ですが……」

 神裂のペットボトルを握る力が強くなり。水滴が彼女の手の甲を伝った。

「私は、私の信条に掛けて、あの場で彼を救おうとしました。無理と分かっていても、手を差し伸ばさねばと思い、行動しました。しかし、彼は私の手を掴まなかった。それどころか、見向きもされなかった。さすがに落ち込みます」

「まぁ、かみやんはあれでいて頑固なとこがあるからにゃー」

「……貴方は彼を救おうとは思わないんですか? 少なからず、貴方も彼の記憶の状況を聞いて、ショックを受けたのではないんですか?」

「それを聞くかにゃー?」

「私は貴方ではありませんから、言われなければ分かりませんよ」

 土御門は溜め息を一つ吐いた。呆れが含まれる溜め息だった。

「……ショックに決まってるだろ。短くても友達として過ごした時間はあったんだ。こう言ってしまえば変だが、俺にとっての『もう一つの癒し』だったんだよ、かみやんは」

「だったら……」

「だからと言って、俺は救おうとは思えない。かみやんはかみやんなりにケリを付けるはずだ。ケリを付けられるはずなんだ。アイツはそんなに弱い奴じゃない。そうだろ?」

「……、」

「仮に、救わなきゃいけなくなったとしてもだ。それはねーちんも分かってる通り、禁書目録の役目だ。俺達の役目じゃない」

 神裂達の役ではない。

「どんなに頑張っても、この問題を解決できるのは禁書目録以外の何者でもないんだ……クソッたれ」

 土御門なりに悔しがっているのだろう。僅かに歪ませた表情は神裂に悟られなかったが。

 その土御門の言葉を聞き、神裂は、ついに心臓まで黙らせたかのと言うほどに、ピクリとも動きもしなくなった。

 土御門はそんな神裂に向かって手を差し伸べた。表情は既に、不敵な笑みに変わっている。

「だから、俺達ができることは他にあるんじゃねーかにゃー?」

 神裂は彼の手を見て、ピクリと動く。そのまま、顔を上げ、土御門を見た。

「かみやんを舞台に上げるお膳立て。これくらいはできるだろ、ねーちん。できねーとは言わせねーぜよ」

「……ええ。しますとも」

 彼女は手を取り、立ち上がる。もはや、それは聖人の所作だった。たったそれだけの動きでさえ、聖人の匂いがある。

「まずは、あの子と話しを付けないといけませんね」

「にゃー。その次は、かみやんと禁書目録を合わせる」

「万が一に備えて、私も同席します」

「それがいいぜよ。例の霊装もあるわけだし」

「これはあくまで、最後の手段です」

「最後の手段は始末じゃねーかにゃー?」

「……それも、最後の手段です」

 僅かに俯いた彼女の表情には決意が表れている。彼女も必要悪の教会の人間なのだから。

「では、」

 神裂火織は、通信用霊装で天草式と連絡を取り始める。

「皆さん、聞こえますか?」

『はい。よく聞こえています、女教皇様』

 五和と呼ばれる少女の声が聞こえた。

「これから一つの命を与えます。あの子を、禁書目録を、私の今いる場所に連れて来て下さい」

『了解しました』

 牛深と呼ばれる頼もしそうな男の声が聞こえた。

「場所は分かりますか?」

『把握しております』

 諫早と呼ばれる初老の男の声が聞こえた。

『あのアパートの近くの公園っすよね? 俺はこっからでも見えてますよ、女教皇様。道順は俺がナビゲートするっす』

 香焼と呼ばれる少年の声が聞こえた。

『こちら、禁書目録同行班。現在、そちらから約五〇〇メートル離れた場所にて……』

 野母崎と呼ばれる若い男の声が聞こえた。が、言葉の途中で途切れる。

「? どうしましたか?」

『対馬、これ、言ってもいいか?』

『別にいいでしょ。えーっと、こちら禁書目録同行班。現在、禁書目録はそちらから約五〇〇メートル離れた場所で、猫に餌を与えています』

 対馬と呼ばれる女性の声が聞こえてきた。

「そう、ですか……あの、連れてくる際に注意事項があります」『なんでしょうか?』

 浦上と呼ばれる少女の声が聞こえた。

「万が一、ですが、あの子が攻撃してくるかもしれません。その時は、」

『お言葉だけどな、女教皇様』

 建宮と呼ばれる元教皇代理の声が、神裂の声を遮った。

『俺たちは与えられた命を途中で投げるようなことは絶対にしないのよな。それは女教皇様も存じ上げていると思うのよ』

「ですが……やはり今のあの子は危険です」

『我ら天草式は……女教皇様が作り上げてきた“我ら天草式”は、それほどまでに弱い組織じゃねえのよな』

「しかし……」

『ま、強がってる訳でもねえのよ。危なくなったらきちんと引くから、女教皇様のご心配には及ばないのよ』

「……では、お願いします」

『『了解!』』

 現在学園都市に居る天草式総勢五二人の声が、勢いよく重なった。

「ねーちんはホント、良い仲間をお持ちだぜよ」

「本当に……まぁ、無茶をしがちですけれどね」

 神裂には先程のような落ち込んだ様子は、もう欠片もなかった。

「んじゃ俺は俺の仕事でもするかにゃー。あ、そうそう。一応、億が一の可能性も心しておいた方がいいかもしれないぜい?」

 神裂はあえて深く聞き込まず、土御門が離れて行くのを黙って見続ける。

 土御門が視界から消えようとした時、神裂は小さく気合を入れた。

 ここからが神裂ら、必要悪の教会の正念場だ。

 

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