自動書記の、自動書記による、禁書目録のための。 作:ふらみか
*後押しするのは誰の言葉か*
柄にもなく泣いていたらしい。
正直、忘れ去りたい。
神裂の目の前で泣いた事実なんて。……誰にも気付かれてねえだろうな?
「かーみやーん! 男泣きは終わったかにゃー?」
気付かれてた。終わった。
「なんでお前がここにいんだよ、土御門! んで、なんでそのこと知ってるんだオイ! せっかく忘れようとしてたのに!!」
「とある気に食わねえクソ野郎の言葉を借りるなら、俺はどこにでも居て、どこにでも居ないんだぜい? ほら、今もかみやんの後ろにいるじゃにゃーか」
「堂々と嘘付くなよ! 目の前にいんじゃねえか!! チクショウ、なんだってあんな姿を友達に見られなくちゃいけねえんだよ!」
よりによって土御門にさっきのことを知られるなんて。クソッ。最悪だ。不幸じゃなくて、最悪だ!
「かみやん」
「なんだよ!!」
「落ち着け落ち着け。誰にも言わねーから安心しろよ。それよりも、なるべく動きは早い方がいいと思うんだぜい?」
「……動き? 早い方がいい? まさかお前も神裂とグルなのか?」
「グルって言い方はないぜよ。俺は多重スパイだぜい? ある時はねーちんと同じ立場に、またある時はかみやんと同じ立場に立つんだにゃー。あっはははははは!!」
土御門は高笑いをする。一体何がおもしろいんだ……。
「んで、本題なんだけどにゃー」
「お、おう」
「俺はかみやんに一つ聞きたいんだぜい」
「なんだ?」
土御門は、不敵な笑みを消さずに、俺をしっかりと見てきた。その目には、ふざけた空気など一切ない。
「なぁ、かみやんは、禁書目録を助けたいと思うか?」
「……なんだ、そのことか。もちろん助けたい。けど、今の俺はアイツにとっての苦痛そのものなんだろ? だったら」
「はっはっはー。――だったら、なんだ?」
「……、」
「おいおい。俺の記憶が正しければ、俺自身が満身創痍だったとはいえ、かみやんは俺に勝ったこともあった気がするんだが……そんなに強い“上条当麻”はどこに行っちまったんだ? 記憶のあるなし“程度”でかみやんは弱くなっちまうのか? 冗談じゃない」
言葉がでない。
「助けたいのか、助けたくないのか。この問答もどっかの誰かがしてると思うんだが、これの答えも“まだ”出てないのか? 『上条当麻』が聞いて呆れるな。そんなに遅いと、何もかも手遅れになるぞ」
土御門の言葉が止まる。おそらく俺の言葉を待ってるんだろう。俺は足りない頭で精一杯の言葉を探し、口に出す。
「……助けたいに、決まってるだろ。けど、俺が今下手に動くより、俺がここでじっとしてた方が」
せっかく出た言葉は、土御門によって遮られる。
「ん? てめえは『誰』だ? 俺は『上条当麻』と話していたんだぞ? こんな時にそんな冗談を言うようなやつと話してるつもりはなかったんだが……」
一体何を言ってんだ、こいつは。
「俺は冗談なんか言ってるわけじゃ――」
突如として、俺は天井を見上げる。仰向けになったようだ。さらに一拍置いて、土御門の蹴りが容赦なく俺の顔面を捉えたんだと分かった。声にならない激痛が顔面を走る。
悶える俺を尻目に、土御門は話し続けた。
「おい“偽物”、いい加減にしろ。どんな理由があろうと、どんな状況だろうと、そこから逆転できる一手をギリギリで手繰り寄せられる“本物”はどこだ? 誰もが笑って誰もが望む最っ高に最っ高な幸福な結末(ハッピーエンド)ってヤツを手繰り寄せられる“本物”はどこなんだ? お前の右手は、絶望の淵から、地獄の底から掬い上げるために付いていたんじゃないのか? 答えろよ、“偽物”!」
偽物……俺は、偽物なのだろうか。
あの日から俺を演じ始めて、約一年。
色々あった。普通の人生だとは言えない位に、色々あった。
けれど、この一年、俺は完璧に演じてきたのか?
色々あった中で、演じながら過ごした時間はどれだけなんだ?
数々の幻想を殺してきたきた俺は、前の俺を演じてやっていたことなのか?
……違う。
絶対に、違う。
確かに演じたこともあった。
確かに記憶がないのをばれないようにして過ごした日々はあった。
だが、違う。
俺が演じようなんて思えないくらいに余裕がない時でだって、俺は『俺』だったはずだ。
そして、今も。
俺は『上条当麻』のはずだ。
「……せえよ」
鼻血が出ていてもおかしくない蹴りだったが、幸い、出ていないようだ。っていうのは俺が上体を起こそうとして気付いたことだ。
身体にムチを打って、俺はさらに立ち上がろうとする。
ふらつく膝を無視して、力の入らない筋肉なんてどうでもよくて、足の裏から伝わる感覚もまばらなのも気にしないで。
『俺』は、ようやく立ち上がる。
「うる、せえよ! 偽物だとか本物だとか。俺は『俺』なんだよ! 例え偽物だろうと、『俺』は行くに決まってんだろ!!!」
「おーおー、ようやく『上条当麻』らしくなったな。でもまだだ。まだ『お前』は『上条当麻』に辿り着けてない」
「ふざけんな!! 『俺』が『上条当麻』かどうかなんてのはどうだっていいっつってんだろ!! 俺は、インデックスを助けたい!! ただそれだけだ!! 教えろ土御門! アイツは今、どこに居て、どんな風に危険なんだ!!」
土御門はふぅ、と息を吐き、にこりと笑った。
「ようやくだな……よく聞けかみやん。禁書目録は今、この近くの公園に居るはずだ。そこで神裂と“お話”してると思う。だが、ただのお話じゃないのは、言うまでもないな? 今の禁書目録は魔神と言える状態だ。もちろん、清教側は、そんな“道具”を必要としていない。つまりだ……お? 全部言わなくても分かってそうな顔だな」
「ふっざっけんなッ! 神裂はなんでそんなのに従ってるんだよ!!」
「そりゃねーちんは必要悪の教会の人間だからな」
ならまずは神裂を止める必要がある。
俺はついさっき立ちあがれた足を、玄関の方に向けた。
直後だった。
近くで爆発が起きたような音がやってきた。
この状況で今の音は、悪いイメージを先行させる。
土御門も同様の心境のようで、さらに真剣な表情を浮かべていた。
「ッ! おいかみやん。なんとしてでも止めろ。絶対に止めろ。いいか?!」
「言われなくても!!」
俺は靴も履かずに、無我夢中で近くの公園へと向かった。
そこには。