自動書記の、自動書記による、禁書目録のための。 作:ふらみか
*第一二章*
俺は走る。たった数分だけだったが、何時間にも感じられた。
ようやく公園がある場所に来れたと思ったら、そこには遥か上空へと伸びる光しかなかった。
眩し過ぎる光だが、それは俺の記憶の中にある嫌な部分にリンクする。フィアンマが呼び出した(?)黄金の天空と同じ雰囲気だ。
「なんだ、これ……」
「……かみやん。こりゃ俺の専門外だが、一目で分かる。模してる伝承は『バベルの塔』だ」
「『バベルの塔』? あの、天国だかなんだかに登るために建てたっていうやつか?」
「まぁそんなもんだ。まるっきり同じもんとは思えんが……簡単に言えば、魔術版宇宙エレベーターってところか。行き先は天界ってな具合だろう」
右手を見つめ、開いたり閉じたりして意を決する。
「俺はどうしたらいい?」
「簡単だ。あの光に右手を触れさせればいい」
「分かった!」
俺は戸惑うことなく右手で光の柱を殴りつける。
幻想殺しが何かを打ち消した感触が伝わってきた。
「これで! ……っておい、ちょっと待て」
消えて行く光を眺めていたが、そこに公園はなく、抉れた地面が見えただけだった。
「本当にここなのか、土御門」
「上を見ろ、かみやん」
上?
「……な、なあ、あの落ちて来てるように見えるあれってまさか」
「ここにあったもんだろうな。離れるぞかみやん!」
「え!? お、おい! インデックスと神裂がいるんだろ!? 大丈夫なのか!?」
「魔神と聖人は、宇宙からパラシュート無しのスカイダイビングをしたって普通に着地できるようなやつらだ! それより巻き込まれるぞ!」
慌てて俺と土御門はその場から離れる。
直後、衛星砲を発射されたような衝撃が訪れ、一呼吸置いてすさまじい破壊音が襲ってきた。いや、衛星砲なんて知らないけど。
轟音と衝撃の後に、これまた大量の粉塵が立ち込める。
だが、粉塵は一瞬で晴れた。
まるで、何かが吹き飛ばしたように。何かが突風を吹かせたように。
その中心に居るのは……!
「インデックス!」
辺り一帯が廃墟と化したような状況の中、俺は公園だった場所に佇むインデックスを見つけ、呼びかける。
「――警告。第三章第二節。『バベルの天頂』と結界の全破壊を確認しました。術式の逆算……失敗。記憶の検索、照合……成功。経験により、『幻想殺し』によるものと断定しました」
あれは……あれは、なんだ。
口調はもちろん知ってる。
イギリスのクーデター未遂直後で、聞いたことがある。ベツレヘムの星でも、聞いたことがある。
けれど、なんだ、これは。
クーデター未遂直後、俺はこれに近いものを感じ取っている。。フィアンマの操作する霊装によって操られたインデックスを見た時に、感じ取っている。
でも、違う。それとはまた、違う。
なんなんだ、この感覚は。
俺はこんなの知らないはずだ。
『俺』は、これを覚えている。
「上条当麻!!」
思考の海に沈んだ直後、俺の名を聞きなれた声が呼んだ。
「ッ! 神裂!!」
神裂は不自然な体制のまま止まっていた。まるで、今まさに切りつけようとしていたのに、そのまま固定されたような。
「今そっちに!」
「必要ありません! それよりも――」
神裂の叫びを遮るように、インデックスの声が聞こえてきた。
「――警告。第三章第三節。環境内にて『上条当麻』の存在を確認しました。一〇万三〇〇〇冊の魔道書を用い、最も有効な攻性魔術を構築……成功。これより、環境内における最も危険な因子、『上条当麻』の排除を最優先とします」
雰囲気が一変した。
鞘に収まっていた日本刀が、瞬時に、抜き身になったような空気だった。
今まで対峙してきた存在のどれよりも、威圧的で。
今まで対峙してきた存在のどれよりも、神秘的で。
今まで対峙してきた存在のどれよりも、絶望的で。
魔神――インデックス――は、その牙を向いた。
「クソッ!」
悠長に話しているほどゆっくりはできそうになかった。
俺はとにかくインデックスの元へ向かう。
たったの三〇メートル強程度の距離。
すぐに辿り着けると思っていた。
甘かった。
「――警告。『上条当麻』の接近速度の上昇を確認しました。下級魔術による牽制を行います。詠唱開始、」
下級魔術については、俺も何度か経験がある。何も、魔術師全てが強大な力ばかりを持っている訳ではない。中には知恵と経験だけで強大な力を補い、誰でも扱えるような魔術で戦うという戦法の奴もいた。
それに、今インデックスが呟いている詠唱は、聞いたことがある。体験している。
だから油断したのかもしれない。
いや、対処の仕方も一つに絞っていたわけではない。つまり、油断なんてしていなかった。
なのに、インデックスの詠唱が終わると同時に、とてつもない衝撃が鳩尾に激突した。
俺は進行方向とは真逆の方向に吹っ飛ばされる。
「――引き続き、神戮を元にした地殻裁断術式の構築を開始します」
魔神のレベルになれば、下級魔術もこの威力、か……。
「……、」
吹き飛ばされた俺は、込み上げてくる吐き気を無理やり飲み込み、ふらふらになりながらも立ち上がる。
俺はあのインデックスの止め方を知らない。
例え、今すぐインデックスのそばに辿り着けたとしても、どうやってアイツを止めるのか。
それが分からない。
分からないのだが。
自然と体は動く。
再び走って近付こうとする。
「――術式の構築に成功しました。完全発動まで残り五、四、」
今度は牽制をしてこなかった。
間に合うと思っているんだろう。
「っざけんな!! 間に合わせてみせる! 絶対にッ!!」
「三、」
「インデックス!!」
「二、」
「俺は、お前を信じてる!!!」
「一、」
間に合え、間に合え、間に合え、間に合え、間に合え!
「間に合えええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!」
インデックスまで数メートル。
歩数にして五歩。いや、そんなにいらないかもしれない。
なのに、届かない。
間に合わない。
どんなに右手を伸ばしても、インデックスに届かない。
『俺』の右手では、こういう現実を打ち消せない。