自動書記の、自動書記による、禁書目録のための。 作:ふらみか
*行間 八*
本達が最初の攻撃をする前に、『とうま』は私の手を掴んでその場から離れた。
直後、とてつもない光と音と衝撃が、その順に私達を追いかけてくる。
なんとか凌いだ。
と、思ったのも束の間、『とうま』は私の手を離す。
そのまま『とうま』は、一人で壁沿いを走って行った。本の攻撃は『とうま』を追い続ける。
なるべく私と距離を置く事で、私に安全地帯を作ろうと思ったのだろう。
が、本達に自我でもあるのか、今度は私を攻撃しようとしてきた。そうすることで『とうま』の動きを止められると知っているかのように。
一斉に、本が展開していた魔法陣を私に向けて光らせる。光量はすさまじかった。
それに気付いた『とうま』は私の元へすぐさま戻り、さらに攻撃を受ける。
私は、残念ながら無傷だった。
一斉に襲ってきた本たちの魔術を、『とうま』は右手一本で全て対処する……ことはできず、対応できなかった魔術は容赦なく『とうま』の身体を叩いた。
それでも『とうま』は倒れない。
最初からそうやって防ぐつもりだったのかと思うほどに、両足でしっかりと立っていた。
『とうま』が私の壁になりながら、私達は本達から逃げようと少しずつ移動していく。本達は余裕すら感じさせながら、私達にすぐに追いつく。
その間にも、本の数は増えていった。
その間にも、魔道図書館内はぼろぼろになっていった。
荘厳に並んでいた本棚もいくつかは倒れ、倒れていない物でも焦げ跡や裂け目があったりしている。
壁面は継ぎ目のない石のようなものだったが、亀裂がいくつも入り、崩壊している部分もあった。
どれくらい追いかけっこをしていただろうか。
いつの間にか『とうま』と私は、入口(すでに扉などは壊されていて、向こうに螺旋階段が見えている)近くに戻っていた。
右手で打ち消し、対応できなかった魔術は彼を傷付け、打ち消し、傷付けられ、打ち消し、傷付けられ。
それでも『とうま』は、私の目の前に立ち続ける。立ち続けてくれる。
「もう、もういいよっ!」
「だめ、だ……俺はお前を……っ、守らなきゃ、いけない」
彼の肩は上下している。途切れ途切れで掠れている彼の声は、聞くに堪えない。
「あなたの体がもたないんだよ!」
「俺は、『自動書記』に作られた、存在だから……。壊れても、大丈夫、だから」
本がさらに増える。
膨大な数の魔法陣が浮かぶ。もしかしたら、一〇万三〇〇〇個の魔法陣が浮かんでいるのかもしれない。
「……インデックス、螺旋階段を下りる前に……木の扉、くぐったろ? くッ!」
彼が喋る間も、攻撃は待ってくれない。
「はぁ、はぁ……そこから、出られる」
「でもっ!」
「ここは、俺たちを閉じ込める『檻』なんだ……ぐぁッ!! 『自動書記』が作った、『檻』なんだ!」
「檻って……きゃあっ!」
魔術攻撃が壁に当たり、破片が降り注いだ。
私の頬を、小さな破片がかすめる。触ると、手に血が付いた。切れたのだろう。
そこで、私は気が付いた。
『とうま』はあんなにも激しい攻撃を受けているのに、血は一滴も流れていない。
「俺は、この『檻』を壊す。この幻想だらけの世界をぶち壊す。その前に、お前は逃げてくれ」
「けどっ!」
「頼むよ、インデックス」
『とうま』は私の目の前に立ち、私の方を振り向かず、それでも言葉を向ける。
「向こうで待ってる『俺』のところに帰ってやってくれ。多分『俺』、お前のこと心配して待ってると思うんだ」
あり得ない量の猛攻を振りかざされているにもかかわらず、『とうま』の口調は聞き分けのない子を優しく諭すように柔らかく暖かかった。
「な? 『俺』、向こうで待ってるからさ。会いに行ってやってくれよ」
「……うん」
私は魔道図書館から脱出して、螺旋階段を登る。
『彼』から逃げるのではなく。
『とうま』に会いに行くために。
登る。
登る。
ひたすらに登る。
がむしゃらに登る。
しばらくして。
感じたことも無い衝撃が伝わってきた。私は振り返らない。
聞いたことのない重低音が聞こえてきた。私は振り返らない。
下の方から、空間に硝子の割れたような亀裂が走ってきた。私は振り返らない。
何があっても、もう、私は振り返らない。
登って、登って、登って。
古めかしい木の扉を思い切り開け放ち、私は暗闇の空間に飛び込んだ。
私が目を覚ました暗闇の空間には変化があった。
空中に巨大な映像が浮いている。
そこに映っていたのは。
真剣な眼差しで、必死に右手を伸ばしている、見覚えのある人だった。