自動書記の、自動書記による、禁書目録のための。   作:ふらみか

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『彼』

*『彼』*

 

 インデックスが『彼』の元を離れてからだいぶ時間が過ぎた。本は比例して増えていき、『彼』への攻撃も比例して増えていった。さすがの『彼』も足が震えている。

 『彼』はインデックスの『檻』からの脱出を予想した。もうそろそろ出られる頃だろうか。

 『彼』は息を一つ吐く。

「よかった、バレちまう前に行ってくれて」

 『彼』は確かに『自動書記』が作りだした存在で、血や汗や涙などが流れない。もちろん怪我もしない。

 その代わり、ダメージは「消滅」という形で表れていた。『彼』の胸のあたりが「消滅」し始めている。

 透けて見えるでもなく、核があるわけでもなく、どんどんと消えていく。破片すら零れ落ちない。

「さて、」

 それでも『彼』は、再び両足を踏ん張った。

 まだ、完全には消えていない。

 まだ、動ける。

 『彼』の意思に、浮かぶ本達は応える。頁を一人でに捲り、鋭い輝きを放ち始めた。

 氷の槍や炎の砲弾が出てくるのかと『彼』は身構えたが、攻撃は一向に出て来なかった。

 訝しがっていると。

 『彼』の真正面に浮かぶ一つの本が、二つの巨大な魔法陣を出現させた。それらは接点を二つ設けるように重なる。

「ッ!!」

 『彼』は瞬時に思い出す。

 聖ジョージの聖域。

 魔法陣が重なった部分の空間を裂けさせ、異空間と繋ぐ魔術。裂かれた空間からは異形の存在が『伝説の聖ジョージのドラゴンの放つ一撃と同義』の直径一メートル程の光の柱……「竜王の殺息」を射出してくる。「竜王の殺息」は、光の粒子一つ一つの『質』がバラバラだ。「幻想殺し」の処理も追いつけず、物量で押し勝ってしまうほどの威力がある。

 そして、無数に浮かぶ分厚い本全てが、同じように魔法陣を展開させた。と同時に、空間にいくつもの亀裂が出現する。

「……、」

 異形の存在が見え隠れしている中、全ての亀裂が照準を合わせるように、彼の方を向いた。

「――くっふふふ……あっはははははは!! ああいいぜ、かかってこいよ」

 『彼』は右手を開き、前に出す。

「けどな! その前に終わりにさせて貰うぞ!! いいか、よく聞け! テメェが勝手に作り上げた幻想の世界なんざにアイツを巻き込んでんじゃねえよ! それじゃあ本末転倒だろうがッ! 何を守りたかったんだ、誰を守りたかったんだ、何のために動いていたんだ! 何のために俺を作ったんだ!!」

 誰に向かって『彼』は吠えているのだろうか。

 さらに本は増え、魔法陣も亀裂も増えていく。

 その光景を見てもなお、『彼』は笑ってすらいた。

「俺を、アイツの枷にしようと思って作ったんだったら、悪いな――」

 眩い光が『彼』を囲む。

 しかし、「竜王の殺息」が放たれる前に。

 『彼』は“何か”を掴むように、差し出していた右手を力強く握った。

 その瞬間。

 ガラスが割れるように。

 『彼』がいる世界は壊れていく。

「――『俺』は『上条当麻』なんだ」

 『彼』は幻想世界である『檻』を右手で破壊した。

 おそらく、そこに“何か”があったのだろう。幻想世界を構築する“何か”が。『檻』を形作っている“何か”が。不運なのか幸運なのか、分かっていたのかたまたまなのか。いずれにせよ、『彼』はそれを握り潰した。

 『檻』に入る亀裂は広がり続けている。

 全てが幻想だったというように、彼の見えている範囲でも下から遥か上までに、亀裂が入っていく。空間だろうと、なんだろうとお構いなしに。

 もちろんそこに『彼』も含まれていた。

 『彼』も、この幻想の一部であるのだから。

「アイツを守るためなら、『上条当麻』は迷わない」

 心底満足そうに、にやりと『彼』は笑みを浮かべた。

「インデックスを守るためなら、幻想――俺を殺すのだって厭わないんだ」

 ガラスが砕けるように、幻想世界は崩壊していく。

 『彼』もまた、同じように。

 崩壊していく。

 

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