自動書記の、自動書記による、禁書目録のための。 作:ふらみか
*第一四章*
すっかり日が落ちて、外はもう真っ暗だ。
なんて思ったのは、いつもの病院のベッドの上で目を覚ましたからだ。
気が付けば俺は、いつもの病室で眠っていたらしい。
「起きましたか、上条当麻」
顔だけ向けると、ベッドの横、窓際とは逆の方に神裂が立っていた。
「こんばんは、かな?」
「ええ、そうです。……ではなくて、ですね? あの……」
言葉に詰まる彼女を見ていると、今度は勢いよく頭を下げられた。
「申し訳ありませんでした! 数々の無礼非礼を働いたというのに、その、私の高ぶってしまった感情によって気絶させてしまって……本当に、ほんっとうにっ! 申し訳ありませんでした!!」
「お、おい、いや、なにしてんだって頭上げろよ、な?」
「しかし、私のしたことは」
「アレは俺にも非があったわけだし! つか、無礼とか非礼ってあれだろ? ペンデックスに言われてやった事なんだろ? じゃあいいじゃねえか。こうして俺も案外無事だしさ。一番酷い傷だって、もしかしたら土御門のやつかもしんねえしさ」
神裂はようやく顔を上げ、今度は明らかな怒りの感情をあらわにしていた。
「……土御門は、貴方に何をしたのでしょう? 差支えなければ、教えていただきたいのですが」
「えーっと、人間の頭をボールに見立てたフリーキック、かな? ははは、思いっきり蹴ってきやがったぜアイツ……ちくせう、だんだん腹立ってきたな……」
よく考えてみれば、あの時、よく俺は無事だったものだ。そこらへんも土御門は計算済みだったのか。
「私が後で成敗しておきますので」
な、なんだか今まで感じたことのない殺気を感じるのですが!
ここは一先ず話題転換だ!
「そういえば、ペンデックス……いや、インデックスは大丈夫か?」
「はい。かなり安定しているようです。彼女の……『自動書記』の言い分を信じれば、現在は任意のタイミングで、あの子と入れ替われるようになったみたいです」
「二重人格みたいな感じか? なんつーか、元々インデックスってとんでもなかったけど、またさらに磨きがかかってるな」
「……また、彼女を救ってくれましたね」
「神裂、それは」
「否定はさせません。事実です。うだうだしていると、男らしくありませんよ?」
「……敵わねーな。もうそれでいいよ、うん」
「投げやりも感心しません」
「じゃあどうすりゃいいんだ」
「胸を張っていればいいんですよ。ああそうそう。胸を張るついでに、もう一つ、彼女を救ったという事実を増やしませんか?」
なんのついでだ。いや、ほんと、なんのついでだ。
俺の突っ込みの目線を無視して、神裂はポケットから白い筒の何かを取り出した。
見覚えがある。
ベツレヘムの星で壊したはずの、遠隔制御霊装。
「それって! 俺が壊したはずじゃあ!?」
「二つあったんです。一つは『王室派』、もう一つは私達『清教派』が所持していました。王室派にあったものはフィアンマが奪い、最終的に貴方の手で壊されました。私が持っているこれは、清教派が現在所持しているものです」
うーん……確か、フィアンマがそんなことを言っていたような気がする……。
「そこで、清教派のトップ、最大主教から一つの命が下されました」
神裂はその霊装を両手で掬うように持ち、俺に差し出した。
「貴方の手で、壊していただけませんか?」
「……へ? マジで? いや、確かに壊したいのは山々なんだが……いいのか? あんまり詳しくねえからよく分かんねえけど、それ、いざって時の予防策でもあるんだろ?」
「最大主教がそう命じたんです。どうやらもう必要ではないと判断したのでしょう」
「どういうことだ?」
神裂はその理由を話してくれた。
「遠隔制御霊装は、いざという時に『自動書記』に横槍を入れ、コントロールすることで禁書目録を守る、という役を担っていたようです。……イギリスのクーデター未遂後、女王陛下が仰った『最低限の人権を守る為』という名目がこれですね」
確かに、あの女王様はそう言っていた。インデックスが危険な存在だから始末しろ、という極論の意見を回避するために、保険をいくつか用意していた、と。その一つが、危険な存在だと思われた時に、いつでも好きなようにコントロールできるのだと分からせる、という保険だ。
「しかし、今現在。仮に、あの子に危害が加わろうとしても、『自動書記』が安全に起動するでしょう。それは遠隔制御霊装も例外ではないようです。安全に起動すれば、『自動書記』は禁書目録を防御するために動くはず……それも、『自動書記』の意思で。不安要素は残っていますが……遠隔制御霊装を介しての操作は今まで通り行えなくなると予想されます。意志に阻害されてしまう、などの弊害がでるでしょうね。というのが、清教側、ひいてはイギリスの見解です」
遠隔制御霊装によって『自動書記』を起動させ、コントロールするのが、イギリスが用意した保険だった。
だが、『自動書記』は自らの「意志」で動けるようになった。
遠隔制御霊装が禁書目録に対する脅威だと認定されれば、『自動書記』は禁書目録を守るために動く。
そう。
遠隔制御霊装によって、インデックスをコントロールできなくなってしまったのであれば、その霊装は必要のないものになる。もしかしたら、これはまだ可能性の段階かもしれないが、試しに霊装を使って確認してみようという考えも向こうにはないようだ。下手に試して、インデックスに負担をかけるのも不味いと感じているのだろう。
「ふんふん。つまりアレだな? 『自分の身は自分で守れるだろう』っていう判断と、言い方は悪いけど、『リモコンを使ってるのに動こうとしないラジコンになったようだから、リモコンはいらない』っていう判断をしたってことだな?」
「……まぁ、言い方を選ばなければ、そうなりますね」
神裂はむっとした表情を俺に向ける。当たり前だろうけどな。俺、あんまり頭良くないから、噛み砕かないと分からんのですよ、ええ。
「あと、付け加えるとしたら……」
「加えるとしたら?」
「遠隔制御霊装があるだけで狙いが分散されてしまうから、とか。禁書目録はもう“大丈夫”だろう、とか」
前者は、事前に争いの種を摘もうという考え。後者が、インデックスの成長を認め、信頼するという考え。かな?
「最大主教の個人的な理由も聞かされましたが……」
「お、聞きたいな、それ。なんて言ってたんだ、そいつ」
「……あまりにも多過ぎてうんざりしたので、話の途中で通信を切ってしまいまいた。気になるのでしたら、電話でも掛けてみて下さい。どうせお暇でしょうから、嬉々として話をすると思いますよ」
あんまりな扱いだな、お前らのトップって。
「それに……」
「それに?」
「貴方にも、少なからず、話すべきことが最大主教はあるはずです。いつでも構いませんので、落ち着いたらお話しして頂ければ……」
「そういうのなら、こっちこそ歓迎するよ。つか、俺がお前らのトップと話ししてもいいのか?」
「貴方がダメなら、多くの方がダメということになります」
俺、イギリス清教でどんなイメージ持たれてんだよ……。上条さんは普通の高校生ですのことよ? ただ、そう。命をかけて動くことがちょっと多いだけで。そして私めはそれをこう呼ぶ。『不幸』と。
「あの、で、ですね。これ、壊して頂けますか?」
「……念のために聞くけど、後で莫大な借金背負いました、なんてオチにはならねえよな?」
「既に一つ壊しておいて、まだそんな心配をするんですか?」
「うぐっ! ま、まぁ、それはその、ほら! 上条さん家の家計は火の車ですしね!」
「大丈夫ですよ。……多分」
「多分!? いやいや、そこは保証しろよ! マジで高校生が何億円の借金とか洒落じゃないからな!?」
「最大主教の命が出ていますから、心配はいりません。こうして私は、貴方に口頭で説明していますが、きちんとした文書のやり取りはあるんです。さすがにお見せできませんが……。何か困るようなことがあれば、私に言ってくれればなんでもしますので、ご心配なさらずに」
「お、おう……ならいい、のかな? 本当に壊すぞ?」
「お願いします」
俺は右手の人差し指で遠隔制御霊装を僅かに触る。
それだけでバラバラになっていった。
「……ふふっ、これで物的証拠も手に入れましたね(ボソッ)」
「あのー……なんだか不穏な言葉が聞こえてきたんですが……?」
「こほんっ。いえ、なんでもありません。ご協力、感謝いたします。では、私はこれで」
「あ、ああ……」
一抹の不安をぬぐえぬまま、俺は帰って行く神裂を見つめていた。
と。
「……今回も、多くの迷惑を掛けてしまい、申し訳ありませんでした。お詫びと言ってはなんですが、いつでも私達のところにいらして下さい。皆で盛大にもてなさせていただきますので。では、失礼します。ゆっくり休んで下さい」
なんだ、結構気にしてるのかな、あいつ。別にいいのに。
まぁ、それを抜きにしてもイギリスには遊びに行ってみたいな。結局、所謂「ブリテン・ザ・ハロウィン」以来行ってないしな……。入れんのかな、俺。第二王女殴って不敬罪永久追放とかありえないよな?
……心配になってきた。今度インデックスと調べてみるか。
どうか不幸なことになっていませんように。
なんて祈りをする間もなく。
やはり疲れていたのか、俺は眠りに就いたのだった。