自動書記の、自動書記による、禁書目録のための。   作:ふらみか

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第一五章 ~ 行間九

*第一五章*

 

 ペンデックスを止めるために走った翌日の午前中に俺は起きた。

 本当は朝に起きたかったのだが、どうやら爆睡していたらしい。

 らしい、というのは、人から聞いた話だからだ。

 誰に聞いたのか、というと。

「何かすることはありませんか、上条当麻」

 どう見てもペンデックスさんです本当にありがとうございました。

「いや、別に何もないけど」

「本当に何もありませんか? 身体を拭く、食事の補助をする等の、身辺での世話でも構いません」

「あー、んじゃ、聞きたいんだけど、何でまだ元に戻ってないの?」

「……何か、することはありませんか?」

「おいそこはきちんと答えろよ!」

 なんというか、これもインデックスなんだろうけど、やっぱり調子狂うな。

 ペンデックスはぐいと身体を乗り出し、俺に顔を近付けてくる。

「わがままを言って、禁書目録には少しだけ引っ込んで貰っています」

「さ、さいですか……あの、少々近くないですか?」

「第一二章第一節。上条当麻と私の距離を計測をします。太陽の位置と影の位置を用いた」

「いやそこまでしなくていいっての! それ明らかに魔道書の無駄遣いだろ!」

「……そうですか」

 えー……なんでこの子残念そうな空気出してる訳? 魔道書って無駄遣いでもバンバン使ってった方がいいのか? 俺、空気読めてなかった?

「では――」

 ペンデックスは一度離れ、ベッドに腰掛ける。

「少し早いですが、話しをしましょう」

「なんだ? 急に改まって」

「私が今もこうしているのは、その為なのです。できれば誰にも聞かれたくないので……少しの間だけ、貴方の精神と接続することになりますが、よろしいですか?」

「別にいいけど、なんでまたそんなことまでして……。あと、それって安全面とか俺の右手とか、大丈夫なのか?」

「大丈夫なように術式を組み上げます。最初の疑問に答えます。そこまでしなければいけないのは、どうしても、誰にも聞かれたくないという理由からです。貴方の精神と私の……禁書目録の精神を接続するというのが、最も有効で最善な判断だと断言します」

「な、なるほど? まぁ俺はなんだっていいよ。お前がそうしたいんなら付き合うさ。お前の安全第一だけどな」

「ありがとうございます。では、少し眠るような感覚に陥りますが、気にしないでください」

「了ー解」

 で、俺はまた眠る。

 

 

 

 

 

*行間 九*

 

 とうまが現れた。

 いや、まぁ私もさっきまでの景色を見てたから分かってたけど。

 とうまは不思議そうな顔で周囲を見渡している。

 まぁ、ね? 気になるのは分かるけどね?

 とうまは、まだこっちを見ない。

 うんうん、そろそろ見てほしいんだよ。っていうかまず私に気付いて欲しいんだよ。

 とうまは、まだ、こっちを見ない。

 とうまは、まだ、まだ、まーだ、こっちを見ない!

「いい加減、気付いて欲しいかも!!」

「おわっ! い、インデックスさんでしたか……いや、俺はてっきりペンデックスさんの方かと、ね? 呼ばれたわけだし?」

「せっかく一週間ぶりに逢えたって言うのにとうまはとうまはとうまは!」

「まぁ久しぶりなのは認めるけど、ぶっちゃけそういう感覚あんまりなかったかなーとか……ほら、今回の上条さん、どっちかって言うと眠ってた方が多いんじゃね? なーんて……はははははは、は? あの、インデックスさん? なぜに犬歯をむき出しにしてらっしゃるんでせう?」

「がるるるるるる……」

「じゃれあうのは、後にして下さい。せっかくですから、早く終わらせましょう」

「それもそうだな」

「軽く流されたんだよ!? せっかくの私のあいでんてぃてぃーだったっていうのに!」

「今更こういっちゃなんだけど、マジでそっくりっていうか、同一人物なんだな、お前ら」

「質問には後で回答します。まずは私の話を聞いてくれると助かります」

「むむむむー、どうして私はするーされちゃうのかな? 今回はきちんとヒロインだったと思うんだけどね?」

「そういや、お前の話ってのはなんだ? 誰にも聞かれたくないっつーくらい大事な話なんだろ?」

「とうままで酷い! 無視しないで欲しいんだよ!!!」

「私が貴方にお話ししたいのは、私の仕組みについてです」

「……もういいもん」

 とうまのばか。もうしらない。

「仕組み? 仕組みって、えっと……『自動書記』だっけ? それの?」

「はい。正式には『首輪』と『自動書記』、並列して『遠隔制御霊装』についてです」

 いじけても無視されるって酷くないかな? もういいんだけね? いいんだけど……いや、全くよくないんだよ!

 そもそも、なんでこの状況で真面目な話ができちゃうのかな? とうま、おかしくなっちゃった? あ、もとから?

「そこらへん、俺に言われてもなぁ……正直よく分かんないで終わりそうだけど?」

「構いません」

「んじゃ聞かせてくれ」

 むぅ……。ほんとにもういいもん。私はお利口さんだから黙ってるもん。

「私、『自動書記』は『首輪』とセットで一つの術式でした。『首輪』は安全装置、『自動書記』は知識の引き出しを円滑に行う為の装置といったところでしょう」

「ほうほう。あ、『首輪』ってあれか。クーデター終わった後に女王とかフィアンマが言ってたやつ。結局俺は知らないままなんだけど」

「その『首輪』は破壊されました」

「え」

「破壊したのは、貴方です」

「……」

「再生は不可能です」

「ちょ、ちょっと待てちょっと待て! じゃあなにか? 俺はいつの間にか安全装置をぶっ壊してましたっていうのか?」

 まぁそのおかげで私は救われてるんだけどね。

「正確には、記憶を失う前の貴方です」

「あ……なるほど。俺が覚えてるわけねえのは分かった」

「安心して下さい。安全装置というのは名ばかりです。禁書目録」

「ふぇ? な、なに?」

「彼に『首輪』の説明をお願いします」

 急にこっちにふらないでほしいんだよ! ま、まぁいいけど。今はもうきちんと全部思い出せるようだし。せっかく浴びたスポットライトだもんね!

「え、えっと、『首輪』っていうのは、私にとっての安全装置じゃなくて、私の所属する組織、イギリス清教にとっての安全装置だったんだよ」

「つまりあれか。お前が変なことしようとしたら、その“安全装置”が働くっつうことか?」

「うん。みたいだね」

「……あのー、インデックスさん? 説明を求めてるのに、なぜに“みたい”なんて曖昧なんでせう?」

「それは――」

「それは私が覚醒、起動していたからです」

 せっかくの台詞も横取りされたんだよ……これならスポットライト、浴びる必要なかったかも。

「『首輪』が破壊された時、『自動書記』……つまり私は、迎撃モードで侵入者を排除しようとしました。……もっとも、それも『首輪』による影響があったからですが」

「で、俺は攻撃されたのか」

「結果として、貴方は迎撃モードで起動した私に右手で触れ、私は休眠しました。その際に、貴方の記憶が損傷したようです」

「……そう、だったのか。いや、流れって言えばいいのか分かんねえけど、そういうのはこいつから聞いてたけど、詳しい話しは聞いてなかったから」

「休眠していた私が再び覚醒したのは、遠隔制御霊装を操作したフィアンマの手によってでした」

「……、」

「私は、『首輪』の全破壊から次の覚醒時までの間、禁書目録内である準備をしていました」

「準備?」

「『自動書記』だけでも術式が安定するための準備です。これも、禁書目録を守護するためのプログラムが判断したために起こした行動でしょう」

「そしたら遠隔制御霊装で邪魔されたってわけか」

「いえ」

「?」

「遠隔制御霊装は、あくまで私を外的要因によって操作するための霊装です。操作している間は魔力を供給し続けなければいけません。よって、常人の四六時中の操作は不可能です。結果として、右方のフィアンマには私の準備の邪魔はできませんでした」

「フィアンマは結構常人じゃなかったけどな……」

「ともかく、フィアンマによる操作は必要時以外ありませんでした」

「ふんふん」

「そこで、私は逆に、その霊装を利用させてもらったのです」

「え」

「え」

 初耳だったんだよ。っていうか、え? できるのそんなこと?

「お、お前って術式なんだよな? 術式が霊装を利用するなんてできるのか? それって、火がマッチを着けにいく、みたいなことだろ?」

 とうまも私と同じような考えみたい。

「それまでの下準備をしている最中に、私にも多少の自我が存在することに気が付きましたので。もっとも、私が霊装を利用することによって遠隔制御霊装に僅かかな精神が宿ってしまいましたが」

「そのせいだったのか……」

 そのせいだったんだ……。

「遠隔制御霊装によって、禁書目録に施されていた術式は安定しました。今は『自動書記』のみで防衛・守護・知識の引き出しを行うことができます」

「なるほどな」

 なるほど……とうまも理解したみたいで、良かっ――

「ごめん、さっぱりわからん」

「相槌とか質問とかしながらきちんと納得してたよね!? あれは嘘だったの!?」

「ま、なんつーか、要するにもう大丈夫なんだろ?」

「はい」

「またなの!? また私はするーなのかな!?」

「本人からのお墨付きがあれば余計に大丈夫だろ」

「……ただ、一つだけ懸念があります」

「なんだ?」

 ……私って必要なのかな、この場に。

「禁書目録自体の安全に関してです」

「こいつの?」

「ある程度は私も自衛できるでしょう。しかし、裏を読めば、ある程度までしか自衛できません」

「んー。なら、俺が守ればいいだろ」

 あれ、なんかヒロインっぽい扱いされてる? 今、私、輝いてる?

「俺だけじゃ足りないのなら、ステイルとか神裂とか。教会側の人間なら全員助けてくれるはずだ。なんだったら俺の友達にも頼むぜ? 皆絶対……とまではいかないけど、多分手を貸してくれるよ」

 ……。

「つーかさ、ペンデックスもその一人なんだっての。助けてほしかったら言えばいいんだ。危なくなったら誰かに助けを求めればいい。俺だってそうなんだからさ。神様でもなんでもないんだから、一人で解決しようとするなよ」

 ……うん? えっと、とうま……、あのね、

「感謝します」

「いいって、そういうのをペンデックスに求めてる訳じゃないし」

 あの、ね……ちょっと言いにくいんだけど……、

「……さっきから気になってたんだけど、ペンデックスってなんなの?」

「彼からいただいた名前ですが、何か?」

「いや、名前っつーかニックネームっつーか?」

「ださいと思うんだよ。あとなんでさっきまで無視し続けたのかな?」

「センスのことは突っ込むなよ! ってか、無視してたのはだな、なんか長くなりそうだったからで……ってあの、インデックスさん? なぜに俯いて黙ってらっしゃるんでせう? ここは一つ、がるるってくるとこでしょ! その方がお前の雰囲気的に――」

「……私、寂しかったんだから」

「――インデックス……」

「『とうま』に会えなくて、寂しかったもん。一週間ぶりに『とうま』に会ったのに……無視されて寂しかったもん」

「あー……えっと、ごめんな」

「……これからは二人の時間ですね。どうぞ、ごゆっくり。話が終わりましたら声をお掛け下さい」

 『自動書記』は暗闇に消えて行った。

 今はとうまと二人きり。

「……あのね、とうま」

「うん?」

「私、今のとうまがいれば、幸せだよ?」

「……この際だからぶっちゃけて聞くけどさ。前の俺が居なくてもいいのか?」

「どっちだって、『とうま』に変わりはないんだよ」

「……、」

「『とうま』がいなくなったなんて思ったことないもん。帰ってこなかったことはあったけど」

「あん時はしょうがねえだろ……なんか皆には死んでる扱いだったらしいし」

「心配したんだから!」

「……ごめん」

「……でも、帰って来たからもういいよ? あの時も私、言ったけどね、とうま」

 一回深呼吸する。ちょっとどきどきしてる。

「『とうま』が帰って来てくれるなら、私はそれでいいんだよ?」

「……ありがとな、インデックス」

「ううん」

 とうまは居心地が悪そうな表情を浮かべた。私はそれを見れたのがとても嬉しい。

「でも今回はインデックスさんがどっか行った感じじゃないですかね?」

 急に茶化してくるとうまは、すごい意地悪だと思う。雰囲気っていうのを感じてほしいかも。

「それは……私だって気付いたらここにいたし……」

「ははっ、んじゃ今回は俺が言う番だな」

「も、もう! せっかくいい雰囲気になったのにそうやって茶化して!」

「もうそろそろよろしいですか?」

「ん、いいぜ」

「なんで最後の最後で無視するのかな!!」

 すぐにとうまは消えた。元の場所に帰ったのだろう。

 残るは私と『自動書記』だけ。

「……ねぇ。本当に、自由に出て来れるようになったの?」

「はい」

「あんまり勝手に出て来ないでね?」

「……」

「なんで黙るのかな?!」

「善処します」

「ちょ、ちょっとそれどういう意味?」

「冗談です。ご心配なく。どうも、危機が接近しない限りは覚醒、起動できないようです」

「そ、そうなんだ……」

「所詮は術式です。自己防御、禁書目録の守護、知識の適選引き出しだけの役割しか持っていません」

「の、割には冗談とか言ってるけどね」

「進化したのです」

「なにそれ?! 術式の自己進化なんて聞いたことないんだよ!」

「一〇万三〇〇〇冊の魔道書の知識があれば不可能ではありません」

「確かにできそうだけども?! というか、なんか私、ツッコミになってるんだよ! ヒロインなのに!!」

「ほら、そんなことを言っていないでさっさと行って下さい」

「扱い酷っ! もうちょっと丁寧でもいいんじゃないかな?! 仮にもあなたは私を守る役目があるのであって――」

 唐突。私は暗闇から引きずり出されるように、白い光に包まれる。

 私は久しぶりに帰ったのであった。

 

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