自動書記の、自動書記による、禁書目録のための。   作:ふらみか

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第一六章 ~ エピローグ

*第一六章*

 

 俺が先に目を覚ましてからしばらくして、もぞもぞとインデックスが動き出した。

 ペンデックスは一体どうやって俺をあの場所に呼んだのだろうか。

 起きてすぐ分かったのは、俺が仰向けで寝てる上に、インデックスがぴったりとくっついて寝息を立てていることだけだった。くっついているというか、しがみ付かれているというか。健全な男子高校生の上条さんには少々辛いのですよ。ホント、ペンデックスのやつ、何やったんだ……。

 つか、このままじゃ噛みつかれんじゃね? あらぬ誤解でも生み出されるんじゃね? 不幸の連鎖じゃね?

「ん……」

 そ、そのような声を出してもぞもぞしないでくれませんかね! しかも眠ってるから下手に声かけられませんしね! 俺詰んだ!

「ふぁ……ん、……んぁ……」

 なぜに色っぽい声を出されてるんでせう? 何が始まるんでせう? 第三次世界大戦? とっくに終わりましたよ?

「………………あれ? とうま?」

 できればそんなに目をぱちぱちしながら状況確認しないで頂きたいのですが。

 とりあえず、話しかけてみよう!

「……えーっと、おかえり?」

「……ただ、いま」

 まぁ、そりゃ起きたらこれって、言葉にならねえよな。あ、勘違いしてほしくないのは、俺はベッドの中に入ってるけど、インデックスはベッドに入ってないってところな! 大事だから! ここ大事だから!

「んと、まず、噛みついておくんだよ」

「そ、そんな『良く分かんないけど噛み付いて置けばいいだろ』的な発想でだなんて……ぎゃーっ!」

 ひと通り噛みつきが満足したのか、インデックスはベッドから下りた。歯型が尋常じゃない……入院これで長引かねえよな?

「……はぁ、不幸だ」

「もう、とうまからの扱いは散々だったかも」

「そりゃすいませんでしたねぇ……」

「誠意が感じられないんだよ」

 話題変えてえな……あ、ちょうどいいし、もう一回言っておくか。

「あーインデックス」

「うん?」

「おかえり」

「……っ!」

 なぜにそっぽを向きやがったんでしょうかね。せっかく言い直してやったというのに。雰囲気も元に戻せたと思ったんだけどなぁ。

「…………………………た、ただい、ま」

 言うならはっきり言えよ……。つかなんだか恥ずかしいな、このやり取り。

 まぁいっか。

 これで全部終わったわけだし。

 一件落着一件落着。

 世の中平和が一番。

 

 

 

 

 

*報告*

 

 土御門元春は、窓の無いビルの一室に通された。

「いやぁ、ようやく終わったぜい。アレイスターもお疲れさん」

 土御門の見つめる先には、弱アルカリ性水溶液で満たされた巨大なビーカーの中に、逆さに浮かぶ人間が居た。

 その者は、男にも女にも、子供にも老人にも、聖人にも囚人にも見える。

 学園都市統括理事長、アレイスター=クロウリー。

 アレイスターは困ったような顔を浮かべた。

「……被害は出すなと言ったはずだが?」

「何を言ってるんだにゃー。公園周囲三キロの被害だけで済んで良かったじゃねーですたい。負傷者もいねーみたいだし? こんなハッピーエンドはないと思うんだぜい?」

「……被害総額は知っているか?」

「さぁ?」

「今の学園都市に予算がないのは君も知っているだろう?」

「知ったこっちゃねぇにゃー。世間はそれを自業自得っつうんだぜい?」

 アレイスターは口を噤んだ。

 と、ビーカーのそばにディスプレイが浮かび上がる。宙に浮いているようだった。

『あら? 必要になりしときは、貸したると申していたはず。こちらを頼らぬの?』

 ディスプレイには黒い背景に「Sound Only」と浮かんでいた。

 鈴を転がしたような声で、粗末な古語口調の日本語が聞こえてくる。

「あまり貸しは作りたくないのでね」

『今更につき』

「ホントそうだと思うけどにゃー。つか、なんでわざわざディスプレイ中継してるんだぜよ……まったくもって意味ないと思うんだにゃー」

『な、なんのことかしら?』

「そこに居るの見えてるぜい」

『え、えっ』

 土御門が指差した先には、得体のしれない巨大な機械があった。しかし彼が指差したのはその機械ではない。その後ろから伸びている金色の綺麗な髪の毛であった。

「頭隠して髪隠さず、だにゃー」

『ちょ、え、嘘っ』

「いいから出てきて話すぜよ。面倒だにゃー」

『い、いいじゃない! してみたき事だったのよ!』

 すごすごと、長すぎる金髪を引きずりながら出てきたのはイギリス清教、最大主教、ローラ=スチュアートだった。

「一応報告しておくにゃー。禁書目録は生存、『自動書記』は安定中ですたい」

「そう……」

「はぁ……もっと素直に喜べばいいのににゃー。もったいないぜい」

「土御門。学園都市の損害についての報告がまだだが」

「公園周辺が空爆受けたみたいになったぜい。これでいいかにゃー?」

「……」

「もっと素直に喜べばいいんだぜい?」

「ふざけてるのか?」

「いんや?」

 しかし土御門はふざけた調子でさらに報告を重ねた。

「あ、うちの遠隔制御霊装ぶっ壊したから」

「え!?」

「だってもういらねえじゃん?」

「いや、確かにそうなりしけれど……え!?」

「つーわけで俺は帰るぜーい」

 ふりふりと手を振って、土御門は帰って行った。

 残された二人は同時に溜め息をつき、

「あのスパイ、そちらで引き取ってくれないか?」

「こちらも要らぬのよ……」

 愚痴に花を咲かせるのであった。

 

 

 

 

 

*エピローグ*

 

 私こと上条当麻は不幸な人間である。

 せっかく退院できたと思ったら、朝から小萌先生に「上条ちゃーん。バカだから補習でーす。この前の分も合わせるので、お昼持ってきて下さいねー」なんて連絡を受け。よし行くかと腰を上げ、外に出た途端に夕立に襲われ。学校に着くと同時に晴れあがり。長い長いながーい補習を終えて帰宅しているとまた雨が降り始め。帰路の途中で金髪グラサンアロハに会い、「カミやーん、これ、カミやんが壊した霊装の代金」ととんでもない代金を請求され。こんなの払えねえよ、っつかお前らが命令で壊させたんじゃないのか、と言おうとしたら「払わなくてもいいから、今後、その金額分はウチで働いてもらうからにゃー」と言われ、去って行った。

「いや、言われなくても働くのは良いんだが……金額分って言われるとあれだな。気を引き締めないとって思うよな」

 まぁ、なんとなく今日も今日とて総合的に不幸だなと思いながら家に着くと、さらに不幸が待っていた。

「――警告。第一四章第五節。家主の帰宅を確認。家主の体温の低下を感知しました。濡れた衣服を目視で認識しました。ただちに脱衣し、下がった体温を暖めることを優先します」

「……へ? ペンデックスさん? なんで出てきちゃったの?」

 昨日は、っていうか今朝までインデックスだったよな? あれ、なんで? どうして? で、なぜ俺の服を脱がそうとしているのでせう?

「続いて体温を効率よく上昇する方法を検索……成功。素肌と素肌を密着させることによる上昇が、最も魔術的要素を含みながら効率よく体温を上昇できると判明しました」

「な、おま、待て待て! なんで自分の服を脱ごうとしてんだ!! やめろ、よせ!!」

 なんつーか、本当は胸がドキドキするんだろうけど、こいつ魔道書の知識でこの行動を導いているしなぁ。あと無表情だし。つかほんとに何で出てんのペンデックスさん!

「やめろおいお前は――お、俺は何も見てない! 見てないからな!! 見ない見てない見えないの三段活用!! 早く服を――」

 ぴとっ。

「密着に成功しました」

「なあああああああああああああああああああっっっ!!! やめっ、上条さんは健全な男子高校生ですからああああああ!!! これ以上、上条さんの上条さんを苦しめないでええええええええええええええええええ!!!」

「逃走を謀ろうとしないでください。密着し辛いです」

 必死に逃げようとしたらテーブルの脚に足の小指をぶつけ。痛みに耐えながら逃げようとしたらティッシュの箱を踏みつけてしまい。バランスを崩して転倒したら頭を打ってしまい。打ちどころが良かったのか悪かったのか、俺はそのまま気絶した。またかよ。結局かよ。そういうオチかよ。

 ああ、なんつーか。

 不幸だ。


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