自動書記の、自動書記による、禁書目録のための。 作:ふらみか
*行間 二*
目が覚めたと思ったら真っ暗やみの中に放り出されてて。何だろうと思って魔道書から状況と原因を検索しようとして、私の中の魔道書がごっそり抜け落ちてるのに気付いて。
「ど、どうしよう……もしかして、知らないうちに誰かに盗られちゃったとか……」
時間(というのがあるかはわからないけど)が経つにつれて、その現実(?)が私から血の気を奪っていく。
一〇万三〇〇〇冊の魔道書を盗み、完全記憶能力を持つ私を暗闇に閉じ込める。
きちんとした段取りを組まれて、こうしてきたように思えた。
計画的犯行、とでも言えばいいのだろうか。
「どうしよ……」
取り返しのつかないことになっているような気がして、一気に不安に押し潰されそうになって。
「とうま……」
私の声は震えていた。一番頼りになる存在の名前を零しても、安心できない。
いよいよ泣いてしまうと覚悟した瞬間。
「おいお前。何泣きそうな顔してんだよ」
“光”が私に声を掛けてくれた。
*第三章*
学園都市が作る影も長くなり、辺りがオレンジ色の光に包まれていく頃。
昼食も土御門に用意してもらい、事無きを得ると、あいつは色々調査したいからと一人でどこかに行ってしまった。そのまま土御門の部屋に居続けるのも悪い気がしたので、俺とインデックスは冷房や扇風機の動かない自室へと戻ったのである。すっかり補習を忘れていたが、もうこの際仕方ない。明日以降を今日の分も含めて頑張ればよいのだ。人間総合力総合力。
と、一六時を過ぎてすぐ。
イギリス清教第零聖堂区、必要悪の教会所属の魔術師ステイル=マグヌスが俺の部屋に訪れた。
「来訪者を確認しました。懐にある魔術道具から感じる魔力より、来訪者の使用する術式形態の逆算に成功しました。曲解した十字教の教義をルーンより記述したものと判明。姿形や私の経験に基づき、来訪者をステイル=マグヌス本人であると特定します」
そのステイルは、インデックスを見るなりずっとこちらを睨んできている。
「あのー、何かご不満でも……」
愛想笑いを浮かべるような相手ではないのだが、不穏な空気を感じ取った俺は、なるべく刺激しないように様子をうかがった。
「……おい上条当麻」
「何もそんなに低くどすの利いた声で呼ばなくとも聞いておりますのことよ?」
「これは、一体、なんだ?」
「えーっと……?」
「彼女に何をしたのかと聞いているんだ!」
なんもしてねーよ! と返すが聞く耳持たずに、こいつ胸倉を掴んできやがった。
「なぜ『自動書記』が起動している! お前は一体何をした!」
「だから、なんもしてねーっての! 原因とかそういうのはそっちが調べてんじゃねーのかよ!」
「今こうして調べているところだ見て分からないのか!」
「胸倉掴んでこっちの話聞こうとしないで俺に原因があるって押し付けんのが調べてることになるんだったら、世の中不正捜査だらけだアホ! いいから離せ! とりあえず前後を話すから! でないとインデックスに攻撃されるっての!」
「……フンッ」
……本当に何が気に食わないんでせうかこのエセ神父は。
離され、とりあえず今までの経緯を話す。
全て聞き終わってもなお、ステイルは不満そうな表情だった。
「大体、教会側から聞いてるだろ?」
「八割は、この目で見るまで信用しないことにしているのでね」
「ほとんど信用してねえのかよ……」
「これでも信用している方だけど? なんたって僕の職場だから」
「あっそ……」
「ふむ……。それにしても……」
「何か疑問がありますか、ステイル=マグヌス」
「いや、前に君と会った時と比べると人間味があると思ってね。例えば今みたく首を傾げるとか」
「前、というのは、去年の一〇月三〇日のことでしょうか?」
「……覚えているのかい?」
ステイルが若干苦い顔を作る。
一〇月三〇日というのは、あれだろう。
第三次世界大戦の終結日、と言えばいいのだろうか。
正確な終結日を知らない身としては、第三次世界大戦で直接関わっていた最後の日ということになる。
ベツレヘムの星でインデックスの遠隔制御霊装を壊し、北極海に落ちた日。それが、俺にとっての一〇月三〇日。……だと思う。
正直、あの時は日付を気にする余裕などなかった。後から聞いた事で補完しているにすぎない。
話を戻すと、インデックスがステイルに言った一〇月三〇日というのは……。
「はい。もっとも、『自動書記』も不完全な形での覚醒であったため、ところどころに不鮮明な部分はあります。ですが、私の完全記憶能力により、部分的にではありますが、今でも完璧に思い出すことができます」
「あまり思い出したくない出来事だけどね」
「なぁステイル。あの戦争中、お前は何してたんだ? 俺の周りに居る奴とか、話を聞ける奴には聞いてるんだけど、そういやお前の話は聞いてなかったよな」
「……思い出したくないと言ったんだけど、まあいい。あの時、聖ジョージ大聖堂内で、僕はこの子と戦ったんだ」
「え……マジ?」
「大体、この子の身柄を僕に預けたのは君だろう?」
「そうだけど……そんなことになってたのか」
「フィアンマは遠隔制御霊装で魔道書図書館にある知識を引き出そうとしていたが、その時に防衛機能が働いていたんだよ。『“適切に行われている”知識の引き出しを邪魔する存在を排除する』というね。強引な知識の引き出しに、この子の身体にどれだけの負荷がかかるか分かったもんじゃないから、僕は止めようと思って精神的な拘束を行おうとした。結果、僕は“邪魔をする因子”とみなされ、対峙せざるを得なかったというわけだ。分かった?」
「その、こう言っちゃ変かもしれねえけど、大丈夫だったのか?」
「大丈夫だからこうしてここに」
「そうじゃなくてさ」
ステイルはインデックスを大切に思っている。自らの魔法名にその想いを刻む程に、この男の命にはインデックスが大きく存在している。だからなおさら、
「インデックスと闘うなんて辛かったんじゃ?」
ステイルは溜め息を吐く。煙草でも咥えていれば、煙を吹きつけられただろう。
「僕を誰だと思ってるんだ。確かに、辛かったよ。彼女は一〇万三〇〇〇冊の魔道書を持つ“魔神”だからね。何度も死にそうになった。でも、それだけだ」
「本当か?」
「しつこいな君は。まぁ、僕がなんとかしなければとんでもないことをすると女狐にも脅されていたし。引くわけにはいかなかったから、例え死んでも退却はしなかっただろうね」
ステイルの表情を見ながら話をしていたけれど、ホントに俺と話すことが嫌なんだな。いや、多分きっとそれだけじゃないと思うけど。思いたいけど。
「とにかく、以前、僕はこの子と対峙した。そして、その時よりも『自動書記』は人間味があるように見える。それがどういうことか分かるか?」
「どういうことって……言ったまんまじゃないのか?」
「『自動書記』が自己防衛プログラムだということは聞いているだろう? まさかこの期に及んで何も知らないと言うんじゃないだろうね」
「えっと、要するにAIみたいなものだって土御門は言ってたな。ロボットだとかなんだとか」
「……はぁ。わかった。かいつまんで説明してやる」
ステイルと俺は向かい合って座る。一応、お茶は用意してやった。
「自己防衛プログラムがどういうものかは、君たちの方が詳しいと思うんだが」
「字の通りだろ? 『自己』を『防衛』する『プログラム』……えっと。『自分を守るためのセキュリティー』って言えばいいのか?」
「まぁ言い方はいろいろとあるだろう。認識は間違ってない。で、だ。そのセキュリティーは一体なんのセキュリティーか、君は分かるかい?」
「んーっと……インデックスなら……魔道書か。一〇万三〇〇〇冊を守るための」
「そうだ。だから、その魔道書を……いや、この場合は魔道書の知識、か。それを正当な手段以外で奪おうとする存在が居れば、『自動書記』は起動し、魔道書の保護を前提に行動するはずだよ」
「……あれ、でも前に闇咲が魔道書を覗こうとしてた時は起動してなかったと思うけど?」
「……闇咲っていうのが誰か知らないが、君は一体何にこの子を巻き込んでいるんだ? 申し訳ないが、今のは初耳だったぞ、上条当麻」
「え、あ、えーと、その、俺達何ともなかったし……あはははは……」
今にも殴りかかってきそうな雰囲気のステイルだったが、インデックスの視線を気にしてその怒りを抑えた。あぶないあぶない。
「……まぁいい。詳しくはしらないが、そいつは閲覧しようとしただけなんだと思うよ。無理矢理だろうとなんだろうと、『書庫』そのものを脅かす行為に繋がらなければ起動しないんだと思う。正直憶測でしかないけどね」
「そ、そうか……あれ、じゃあフィアンマの時は? ステイルは別に、その『書庫』に危害を加えようだなんて思ってなかったんだろ?」
「フィアンマは遠隔制御霊装を使って、閲覧者として権限を利用したに過ぎないんじゃないかな。これも現時点ではっきりと言えない。もしかしたら『自分が閲覧してる時は何人たりとも邪魔させるな』っていう命令でもいれていたのかもしれない。『自動書記』の判断する『脅威』というボーダーラインを広くするとかしてね。まったく、今でも腹が立つ」
「なるほどな」
「どれも推察だ。僕はうちのトップたちじゃないから術式も起動条件もさっぱりだよ。ただ、はっきりと言えるのは、『自動書記』は魔道書図書館を守るために動き、脅威を与えるであろう存在を排除しようと動く、ということだな。実際、脅威を与えた君や僕らは迎撃されそうになっているだろう?」
ん? 俺も? 俺は確かに遠隔制御霊装を持つフィアンマに立ち向かったけど……「自動書記」には会ってないというか、俺の相手はフィアンマだけだった記憶だ。少なくともインデックスを相手にした記憶はない。
「俺も? 俺は霊装を持つフィアンマの相手はしたけど、インデックスの相手はしてないぞ? それとも霊装に迎撃システムがあったっていうのか?」
「君は何を言っている」
あれ、なんか噛み合わないな。第三次世界大戦の時の話じゃないのか?
「君がこの子の『首輪』を破壊――ああ、そうか。そういうことか。噂では聞いていたが」
「なんだよ」
「君はこの子からどの程度話を聞いているんだ」
だから何をだ、主語を入れろよ。と言おうとして、ステイルは言葉を容赦なくぶつけて来た。鉛や錫のような、重い言葉を。
「君とこの子の出会いのことをだよ」