自動書記の、自動書記による、禁書目録のための。 作:ふらみか
*行間 三*
懐かしかった。
私の記憶がどうとか、知識がどうとか。
そういうのがどこか遠くへ行ってしまうくらいに。
私の体が、心が、懐かしさだけで溢れる。
「う、そ……」
私の思い出が。
憶えている。
震えている。
「ははっ。ほんと、なんつー顔してんだよ、インデックス」
頬にはガーゼが当てられて。オレンジ色の半そでTシャツの上に、これまた半そでの白いワイシャツを羽織り。しかしその右腕には包帯が巻かれ。穿いている黒い学生ズボンには綻びがいくつもあって。その全てが、あの日のままの『彼』で。
「久しぶり。っつっても、お前はいつも会ってるんだっけか」
「ほんと、なの?」
「見て分かんねーのかよ。完全記憶能力とか言っちゃってたけど、やっぱ使えねーんじゃねーの、それ」
「うそ、だよね。だって……だって、だって……っ!」
「俺が嘘付いてどーすんだよ。言ったじゃねぇか。“久しぶり”ってさ」
「……――っ!」
あまりにも、あまりにも、あまりにも。
懐かしくて、懐かしくて、懐かしくて。
私は。
嬉しくなってしまった。
駆け出してしまった。
抱きついてしまった。
笑顔に、なってしまった。
*第四章*
俺とインデックスはベランダで出会ったらしい。
らしい、というのは、俺が記憶喪失だからだ。
インデックスとどういう経緯で出会ったのか、俺は覚えていない。
そこから一週間。俺はインデックスのために動き、戦い、右手を差し出したのだという。
正直、言われても覚えはなかった。
ただ、一生懸命に説明するインデックスがなんだか愛おしく思えて。
俺は無粋なことも言えず。恥ずかしいのも分かっているのに、照れ隠しも出来ず。
ごめん、と。ありがとう、を。
インデックスに繰り返して告げるしかできなかった。
ま、このことはステイルに言うはずもねぇんだけどな。
「補足します。彼はその話を聞いた後、禁書目録に抱きつき、謝罪と感謝の言葉を繰り返しながら涙を流していました」
「抱きついてねえし泣いてもいねえよ!」
「……そ、そうか。うん、確かに、それくらい暑苦しい反応をしなければ、君らしくないな。まぁ気にするなよ」
「気にするわ! 何で知り合いに、俺の恥ずかしい姿を捏造されなくちゃいけねえんだ!」
「それは、君が不幸だからだろう?」
「台詞を奪うなテメェ!」
ああ不幸だ。せっかく俺が丁寧に説明してたのに。全部ひっくり返すように禁書目録@自動書記さんに「要らぬ補足説明(捏造)」を加えられてしまった。もう何度でも言うよ。不幸だ。
「大体把握した」
ほんとかよおい。捏造部分あんぞ。
「で、これが何かあるのか?」
「………………いや、別にこれと言った理由はないんだけどね」
吟味するように長い間をあけて出てきた言葉は酷いものだった。そりゃあんまりだぜステイル。
「単なる興味で俺の過去を捏造したんかい!」
俺の言葉を無視し、ステイルはベランダへと向かう。しばらく観察していると、どうやら煙草を吸うためらしい。この部屋や俺に気遣った訳じゃないだろう。あくまでアイツはインデックスを気遣ったんだ。まぁ、以前のこいつを考えると、大きな変化なんだろうけどな。そういう意味で言えば、丸くなったんだと思う。ただ、いいことなんだけど、なんか釈然としない……。
ベランダで煙草を吹かす不良神父を尻目に、あれから黙っていたインデックスがゆっくりと口を開いた。
「……さらに補足しますか?」
「もういいわ!」
一体こいつらは俺をどれだけ苦しめるれば気が済むんだ!
「では、」
なんて文句が飛び出る前に、インデックスは言葉をつなげてくる。
「上条当麻。貴方にお願いがあります」
「お願い?」
「連れて行って欲しい場所があります」
「今からか?」
「はい」
「んー、まぁいいけど。どこだ?」
「月詠小萌という人物の家です」
「小萌先生ん家?」
補習をサボった手前、その担当の先生の家に行くっていうのは気が引ける。それならまだいい。小萌先生は担任なのだ。休みが明ければ彼女にいろいろ言われるだろう。明けずとも、次の補習の日に言われるかもしれない。例えば「上条ちゃーん。大切な補習をぶっちしたので『すけすけみるみるマシマシスプーン曲げオオメ』なのですよー」とか。夏休み中の補習も、夏休み明けの授業でも言ってきそうだ。こえー……。
だがここで断るのは上条当麻ではない。
「ま、いいけど。んじゃステイルにはお引き取り願おう」
「言われなくても」
「うわっ! な、なんだよ聞いてたのか、趣味悪ぃな」
ステイルはいつの間にか部屋に戻っていた。いい加減魔術師たちの「いつの間にか」状態は止めて欲しい。心臓に悪いぜ。
「じゃあ僕は一度ここから離れさせてもらうよ。こんな所に長居はごめんだからね」
「だったら今すぐ出てけ不良神父」
俺はベーっと舌を出したが、そんなもの見向きもしないで、ステイルは出て行った。
あいつ何しに来たんだよ。状況把握のためだけか?
「私達も行きましょう」
「あ、ああ……」
っつか、今行って大丈夫なのか、小萌先生ん家。一応電話しとくか。