自動書記の、自動書記による、禁書目録のための。 作:ふらみか
*夏休みの前日の深夜*
変化は少し前から感じ取れていた。
――警告。第一章第一節。
問題視も、してはいた。
――禁書目録の精神に於ける、重大な衰弱を確認しました。
しかし私は、それは危険ではないと、判断していた。
――原因を検索……成功。
それが、甘かった。
――禁書目録内にある一〇万三〇〇〇冊の魔道書を保護するため、
このままでは。
――『自動書記』を“正常”に覚醒・起動します。
彼女は壊れてしまう可能性がある。
*第五章*
既に日は落ち、学園都市は夜に包まれていた。
小萌先生に電話すると、どうやら問題ないらしく。無事に、というかなんというか……。ま、無事じゃないんですけどね。「すけすけみるみる」などはグレードアップしていないものの、上条さんの補習は一〇倍になりましたけどね。もう何も言いませんよ、上条さんは。
今はインデックスと二人で小萌先生のアパートに向かって行く途中だ。
「あの、インデックスさん……?」
「なんでしょうか」
「なぜに私目はインデックスさんをおんぶしてるのでせうか?」
「もっとも効率のいい移動方法だと判断しました」
「上条さんには効率の『こ』の字も感じられないんですが……」
こいつも成長してるんだなとか思ったのは家を出てすぐまで。
俺はそこまで鍛え抜かれた身体を持ってるわけじゃあない。
すぐにばてた。そりゃもうすぐに。最近平和だったし。そこは仕方ない。……今度トレーニングでもしておくか。
「……覚えていますか?」
「あん?」
「禁書目録が話しているかは分かりませんが、貴方は私を救っているのです」
「ああそれか。きちんと聞いてるぞー」
「おそらく、貴方が思っていることではありません」
「ん?」
「貴方は、出血多量によって死の淵に立たされた私を背負い、命を繋いでくれました」
そんなこともあったのか……。マジで今の俺って昔とほとんど変わんねーのな。
「アイツからは聞いてねえな、それ。完全記憶能力も穴があんのかね」
「おそらく、朦朧としていたからでしょう」
ああ、なるほどね。
「貴方はそんな私を背負い、月詠小萌のもとへと連れて行ってくれました」
「……なんで小萌先生のとこに?」
もしかして初めは小萌先生も関わっていたことなのだろうか。関わっていたら分からないでもないけど、何も知らない人のところに血だらけのシスターを連れて行くってだいぶとんでもないことだと思いますのことよ。
「貴方の判断ですから断定はできませんが、回復魔術を使うにあたり、『学園都市で能力開発を受けていない人間』というカテゴリーで、一番初めに浮かんだのが彼女だからではないでしょうか」
ああ、そういうこと。っつか、そんな死に際なのに病院に運ばなかったというのは一体……。
俺が少しそれで考えていると、後ろから再び解説が入った。
「禁書目録がこの街の住人ではないから、ではないでしょうか」
「な、なるほど……」
なんというか、全部の行動に理由があるんだな、やっぱり。
「そこで、貴方に改めて感謝の気持ちを伝えます」
「いいっていいって。大体、命を繋げたのは小萌先生じゃないのか? 俺は……覚えてないけど、知恵を振り絞って、運んだだけだろ?」
「それでも、貴方が居てくれたからこそ、月詠小萌のもとへと辿り着けました。あの時は、ありがとうございました」
唐突にくすぐったくなってきた。おそらく、耳の近くから声が聞こえるからではない。お礼を言われることは慣れていないのだ。お礼を言ってもらうために動いたんではないだろうし。……いや、ここは耳元で声が聞こえるからってことにしとくか。
「あ、そうだ!」
くすぐったさを解消するために話題を転換する。
「お前ってさ、インデックスであってインデックスじゃないだろ?」
「質問の意味を理解することができません」
「なんて言えばいいのかな。別人って言ったらあれかもしれないけど。俺からしたら、いつものインデックスがインデックスなわけでして」
「……理解できるようにお願いします」
「えーっと、お前はお前の個性があるじゃん? 『自動書記』だっけ? だったら、インデックスって呼ぶのも何か変な気がするんだよ」
「私は禁書目録です。魔法名は『献身的な子羊は強者の知識を守る(dedicatus545)』。正式名称は『Inde――」
こいつの言葉を聞いてて思うけど、呼び方あり過ぎだろ、インデックス。まぁホント、今さらだな。
俺はこいつの言葉を無視して、俺の言葉を被せる。
「いやだから、その禁書目録を守るための『自動書記』なんだろ? 違うの? 俺の考え間違ってる?」
「……さきほどの発言は理解できませんが、今の発言は概ね正しいです」
「ってことは呼び方変えた方がいいな」
「疑問を感じます」
「あーいや、インデックスって呼ばれたいならそのままにするけどさ……さっきも言ったけど、インデックスとは別人みたいでさ。見たまんまでいえば、『自動書記』って呼べば正しいのか?」
「……理解しました。そういうことですか。貴方が呼びたい名で呼んで貰って構いません」
「そっか。んじゃ……インデックスの『自動書記』だから……ヨハネデックス? いや、ヨハネックス?」
「――第二しょ」
お気に召さなかったのは分かったけど背中でそれはやめてくれー!
「わーわー! 冗談だよ冗談! 素直に『自動書記』さんかなー?」
「……」
んー、名前を決めるといった手前、元の呼び名でも不満なよう。
「あ、じゃあ『ペンデックス』とかどうだ!? 愛くるしいじゃんか! 『自動書記』っていうより呼びやすいし、インデックスとは別の個性を感じるし!」
「……」
返事がない。ただのしかば……じゃなかった。怒ってらっしゃるようだ。ま、そりゃそうだ。今のも冗談だからな。ここはすぐさま訂正しよう。
「な、なーんちゃってー! あっははははは!」
「……」
「ま、インデックスに変わりはないわけだし、そのままでいっか。あ、ほれ、小萌先生の家が」
「――第八章第二節。上条当麻の考案した命名を承認しました。これより、貴方の考案名での呼称を認めます」
「……へ?」
思わず足を止めてしまった。今なんと?
「ただいまをもって、私の呼び名は『ペンデックス』になります。よろしくお願いします、上条当麻」
うそ……、だろ? な、なんだって? 認めてくれんの? あんな、冗談で思いついたギャグみたいな、アレを? 私めが滑ってたのは認めますよ? ……つか、ペンデックスさんって呼べばいいんでせうか? 俺、もしかして自分で自分の首締めましたかね?
「貴方の考案した名前は愛称であると判断しました」
「い、インデックスさん? それ、本気?」
「今の私の名前はペンデックスです」
「お、おう。んじゃ……ペンデックスさん、でよろしいでせうか……?」
「すでに承認しています。なんでしょうか、上条当麻」
いいのか、いいか、いいんだよな。だって本人がそれでいいって言ってるし、うん。
「あーその、小萌先生ん家が見えてきたぞーって」
「分かっています。既に視界に入っていました。……以前は観察する余裕はありませんでしたが、よく見るとかなりの年月の経過が見受けられますね」
「だよな、あのボロ……じゃなくて、年季の入ったアパート」
一年前から知ってるけれど、小萌先生は引っ越す気はないのでしょうかね。多分、俺が知るもっと前からアレだと思うんだが。まぁ、小萌先生なりの考えがあるんだろ。……多分。